さて、愛執と不快と快楽という悪魔の娘たちが、悪魔に近づいた。近づいてから、悪魔に語りかけた。
「お父様!なぜ、あなたは憂えておられるのですか?
いかなる人のことを悲しんでおられるのですか?
私たちは、その人を愛欲の綱で縛って連れてきて、あなたの支配のもとに置きましょう。森の象を縛って連れてくるように」
悪魔が言った。
「世に尊敬される人、幸せな人ブッダを、愛欲で誘うのは容易ではない。
彼は、悪魔の領域を脱している。だから、私は大いに憂えているのだ。」
そこで、愛執と不快と快楽という悪魔の娘たちは、尊師に近づいた。近づいてから、尊師に次のように言った。
「修行者様。私たちは、あなた様の御足に仕えましょう。」
ところが、尊師は、無上のうちにあって解脱されていたから、気にもとめられなかった。
さて、愛執と不快と快楽という悪魔の娘たちは傍らに退いて、このように考えた。
「人の好むところは、いろいろある。
さあ、私たちは百人ずつの少女の姿を作り出そう。」
そこで、愛執と不快と快楽という悪魔の娘たちは、それぞれ百人の少女の姿を作り出して、尊師に近づいた。近づいてから尊師に次のような言った。
「修行者様。私たちは、あなた様の御足に仕えましょう。」
ところが、尊師は、無上のうちにあって解脱されていたから、気にもとめられなかった。
そこで、愛執と不快と快楽という悪魔の娘たちは傍らに退いて、このように考えた。
「人の好むところは、いろいろある。
さあ、私たちは百人ずつの未だ子を産んだことのない女の姿を作り出そう。」
そこで、愛執と不快と快楽という悪魔の娘たちは、それぞれ百人の未だ子を産んだことのない女の姿を作り出して、尊師に近づいた。近づいてから尊師に次のような言った。
「修行者様。私たちは、あなた様の御足に仕えましょう。」
ところが、尊師は、無上のうちにあって解脱されていたから、気にもとめられなかった。
そこで、愛執と不快と快楽という悪魔の娘たちは、それぞれ一度子を産んだことのある女を百人ずつ作り出して、尊師に近づいた。近づいてから尊師に次のような言った。
「修行者様。私たちは、あなた様の御足に仕えましょう。」
ところが、尊師は、無上のうちにあって解脱されていたから、気にもとめられなかった。
そこで、愛執と不快と快楽という悪魔の娘たちは、それぞれ二度子を産んだことのある女を百人ずつ作り出して、尊師に近づいた。近づいてから尊師に次のような言った。
「修行者様。私たちは、あなた様の御足に仕えましょう。」
ところが、尊師は、無上のうちにあって解脱されていたから、気にもとめられなかった。
そこで、愛執と不快と快楽という悪魔の娘たちは次のように考えた。
「人の好むところは、いろいろある。
さあ、私たちは百人ずつの中年の女の姿を作り出そう。」
さて、愛執と不快と快楽という悪魔の娘たちは、それぞれ百人の中年の女の姿を作り出して、尊師に近づいた。近づいてから尊師に次のような言った。
「修行者様。私たちは、あなた様の御足に仕えましょう。」
ところが、尊師は、無上のうちにあって解脱されていたから、気にもとめられなかった。
そこで、愛執と不快と快楽という悪魔の娘たちは次のように考えた。
「人の好むところは、いろいろある。
さあ、私たちは百人ずつの熟年の女の姿を作り出そう。」
さて、愛執と不快と快楽という悪魔の娘たちは、それぞれ百人の熟年の女の姿を作り出して、尊師に近づいた。近づいてから尊師に次のような言った。
「修行者様。私たちは、あなた様の御足に仕えましょう。」
ところが、尊師は、無上のうちにあって解脱されていたから、気にもとめられなかった。
そこで、愛執と不快と快楽という悪魔の娘たちは傍らに退いて、このように言った。
「実に私たちの父の言われたことは、真実である。
私たちは、未だ欲情を離れていないいかなるバラモンも道の人でも、この攻撃を持って攻めたならば、彼の心臓を破り、口から血を吐かせ、狂気ならしめ、心を散乱せしめるであろう。
たとえば、刈られた青い葉が、乾き、萎れ、枯れるように、彼は、乾き、萎れ、枯れるであろう。」
そこで、愛執と不快と快楽という悪魔の娘たちは尊師に近づいた。近づいてから、傍らに立った。
傍らに立った悪魔の娘愛執は、尊師に話し掛けた。
「あなたは悲しみに沈んで、森の中で瞑想しているのですか?
それとも、なくした財を取り戻そうとしているのですか?
あなたは村のなかで、なにか罪を犯したのですか?
なぜに人々と付き合わないのですか?
あなたは、誰とも友にならないのですか?」
尊師が言った。
「愛しい快い姿の軍勢に打ち勝って、
目的の達成と心の安らぎ、楽しい悟りを、私は独りで思っている。
それゆえに私は人々とつき合わないのです。
私は誰とも友にならないのです。」
そのとき悪魔の娘不快は、尊師に語りかけた。
「修行僧はこの世で、どのように身を処すること多くして、
五つの激流を渡り、ここに第六の激流をも渡ったのですか?
どのように多く瞑想するならば、
外界の欲望の想いがその人を虜にしないのですか?」
尊師が言った。
「身は軽やかで、心がよく解脱し、
迷いの生存を作り出すことなく、しっかりと気を落ち着けていて、執着することなく、
真理を熟知して、思考することなく瞑想し、
怒りもせずに、悪を思い出すこともなく、ものういこともない。
このように身を処することの多い修行僧は、
この世で五つの激流を渡り、ここに第六の激流までも渡った。
このように多く瞑想するならば、外界の欲望の想いがその人を虜にすることがない。」
次いで悪魔の娘快楽は、尊師のもとで、こう唱えた。
「妄執を断って、仲間の群れとともに歩む。
実に多くの人々は歩むであろう。
執著なきこの人は、多くの人々を、
死王の束縛から断ち、死王の彼岸に導くであろう。
偉大なる健き人である諸々の如来は、正しき理法によって導き給う。
理法によって導かれている智者たちが、どうして嫉まれるであろうか。」
そこで悪魔の娘たちである愛執と不快と快楽とは、悪魔のところに赴いた。
悪魔は、彼の娘たちが遠くからやってくるのを見た。見てから、語りかけた。
「愚かな者どもよ。
おまえたちは蓮の茎で山を砕き、爪で岩山を掘ろうとしている。
歯で鉄を噛み、大きな岩石に頭をぶちつけ、底のない淵に足場を探そうとしている。
胸に杭を打ちつけて、ゴウタマを厭い嫌え。」
愛執と不快と快楽とは、光り輝いてやってきたが、風神が柔毛と落ち葉とを吹き払うように、師はそこで彼女らを追い払われた。