1973年(昭和48年)26才の時、初めて銀座での本格的な個展を開催でき
る幸運なできごとがありました。4年前に新書館の書籍でお世話になった
フランス文学者の竹内健さんの紹介で「芸術生活」誌のトビラページのよう
な目次絵を油彩で「胎動」F25号や「私の小悪魔」P10号等1ヶ月に1点ずつ
12枚のシリーズで制作いたしました。芸術誌のイラストレーションなので
アートなタブロー的作品になり、後に幻想派画家の大島哲以さんにお目に
かかった機会があり、当時の拙作に影響されたと大島さんから打ち明けら
れて大変に光栄で感激しました。
この2年前にグループ展をした銀座ギャラリー・デコールの画廊主も掲載さ
れた絵を見てくれていて、その油彩原画とその他に保存していた原画等で
個展「藤本蒼 展」が開かれる事になりました。私にとっては事実上2回め
の個展になりますが、本格的な画廊での個展は初めての事で、ほとんどの
額装も画廊側が特注してくれて窓のように左右に開く額もあり驚きました。
当時の私はまだ存じ上げていなかったのですが、この時の芳名帳に著名な
美術品コレクターの林 滋さんの署名もありました。そして、キャバレー経営
と絵画コレクターとして有名な福富太郎さんとも、この個展とは別に拙作の
イラストレーション原画を買っていただく機会がありこの頃に知り合いました。
この年にはその他に、池袋の西武デパートから依頼されて写真家の沢渡朔
さんの「アリス展」に絵を出品したり、竹内健さんの紹介でギャラリー・銀座三
番街にてグループ展「神々の饗宴」に二紀会画家の山本貞さんらとともに招
待出品されて、アートとしてのタブロー作品を描きました。
1974年(昭和49年)27才の時には光文社刊の週刊誌「女性自身」の「今
週の星占い」やPRのページの女性向けの軽いタッチのイラストレーションを
毎週ごとに描き続け’76年まで連載されました。
1975年(昭和50年)28才、東京都世田谷区のアパートから郊外の昭島市
の米軍ハウスへ転居し、それまで住んでいた空間から比べ20畳以上の大き
さの居間等の借家に新鮮さを感じて、犬・猫・鳥・熱帯魚など多数飼い、アメ
リカ人の隣人達とも付き合い、アメリカンハウスの生活を楽しんでいました。
第3回めの個展「藤本蒼 展」を銀座ギャラリー・デコールにて開催された。
画廊主が木彫家に特注した直径30cm位の円形板額を数点作ってくれてい
たので「花魔女」「孤独の法悦」「秘戯」「妖炎」などの作品を額に直接描いて
展示したところ、「花魔女」に買い手が2件付いたので画廊の依頼で同じ
ような別バージョンの「花魔女」も描き作品が売れて個展は成功しました。
その時、画廊主は展覧会前にコレクターに既に売買交渉していて、開催時
にはほとんどの作品の名札は売約済みの赤丸が付いていたので驚きました
が、買い手がどなたなのかは画廊主は私には教えてくれなかったのでした。
フランクフルトで開催されたブックフェアに「年鑑日本のイラストレーション」が
出品され、それを見た西ドイツの「Pardon」誌の編集長が航空郵便で掲載
依頼をしてきました。それで西ドイツ・フランクフルトの「Pardon」誌の3月号
と4月号と8月号に作品掲載され、外国の雑誌にも初めて紹介されました。
そんなある日、美術出版社「みずゑ」誌編集長の宮澤 壯佳さんが運転され
るスポーツカーで美術評論家の日向あき子さんが我アメリカンハウスへ訪ね
てこられ取材されました。そして、「みずゑ」誌12月号に日向あき子さんの文
により「ポップ・マニエリスムの絵師たち-連載9 メルヘン絵日記のなかの創
世記」として作者紹介と作品掲載されました。「みずゑ」誌は美術界で伝統と
権威のある専門誌なので益々私の中のアート心は励まされ、このまま画家
になりたいという夢を抱きそうになりました。
私のアートな部分の作品が取り上げられるごとにイラストとアートの狭間で
進路に迷い苦悩しました。そんな私の心情を打ち消すように新たなイラスト
レーションの依頼もあり、イラストレーターを続ける事ができました。そして、
集英社の月刊PLAYBOY誌のイラストの仕事が始まり、昼と夜が逆転した
多忙な生活になり毎号連載のように描かせていただきました。
イラストレーションの注文依頼の際に依頼主は稿画料で原画も買い取った
と勘違いされている場合が広告や出版の業界で時々あり注意すべきです。
アートの場合は作品の所有権を売りますが、イラストレーションの場合は
原画の印刷掲載等の使用権を依頼主に売るという点が大きく異なります。
イラストレーションの原画の所有権および著作権は作者に帰属します。
原画の使用完了後は、紛失したりしないように一回の使用ごとに担当者に
すみやかに原画の返却をお願いしています。再版の場合は再び原画を
貸し出して再使用料をいただいています。原画の使用確認事項以外の
媒体に使用する場合は必ず作者の了解を得るようにしていただき、作者に
無断で原画に手を加える事を禁じ、原画を紛失したり汚されたりした場合
は補償していただきます。そして、原画を使用した掲載誌などの制作物は
必ず作者に渡していただくようにしています。
イラストレーションを略してイラストといいますが、最近ではイラストというと
簡単なマンガ的な絵を意味するようになり、誤解されていると思います。
イラストレーションには簡単なマンガ的な絵から手の込んだアート的な絵ま
で色々あります。どのような作風のイラストレーションでも原画の所有権と
著作権は作者にあるので、返却され作者の手元に残る原画は再使用でき
れば更に良いと思います。作者が納得できる絵を描きたいものですが、
仕事の基本は相手を喜ばせる事だと思います。仕事ごとに注文内容を
検証し、依頼主の満足するような絵に仕上げるように私は心がけています。

西ドイツ・フランクフルトの「Pardon」誌に掲載されたページ