失明原因の第一位
日本では現在600万人の糖尿病患者がいると推定されています。これは実に40歳以上の成人10人に1人が糖尿病患者であることになります。その原因は、高度経済成長を遂げた日本で、食生活を含めたライフスタイルが欧米化され、また一方でストレスがたまりやすい社会環境が作られて、糖尿病にかかりやすくなっていることにあるようです。
ところで糖尿病がなぜ問題かというと、糖尿病が原因で起こってくる合併症のうち、糖尿病網膜症が失明原因の第一位になるからです。欧米では既に20年ほど前に糖尿病網膜症が失明原因の第一位になって、失明者の保護のための様々な社会保障や援助が必要で、社会復帰のためのリハビリテーションに膨大な予算が必要となり、社会問題となりました。
日本でも年々この傾向は上昇し、ついに1989年の調査では、視覚障害認定(身体障害者認定「視覚」)患者が、なんの病気で失明したかを比較したところ、糖尿病網膜症が第一位となり、全体の約18%、ほぼ5分の1に相当することが判りました。
糖尿病網膜症による失明は、専門用語で「中途失明」といいます。本来は正常の視力があった人が、人生の途中で、ことに成・壮年期に失明するという意味です。生まれつき目が見えない人たちは、小さい頃から見えないことを補う様々な手段を身につけています。しかし、40〜50歳を過ぎていままで見えていた目が急に見えなくなると、状況の変化についていけなくなります。しかも働き盛りや、社会の中心的重要地位を占める年代です。このような人々を失明させる糖尿病網膜症は、本当に忌まわしい病気です。
糖尿病になったら全員失明するか?
糖尿病網膜症が出てくるには、糖尿病になってから数年から10年くらいかかることが判っています。糖尿病にかかってすぐに目にくるわけではありませんし、血糖コントロールをしっかりとすれば糖尿病網膜症が出てくるのを予防することもできます。重症な糖尿病網膜症になって失明したり、失明の危機に迫っている患者は全糖尿病患者のうちの20%くらいと推定されます。
こうした事態を避けるために糖尿病の患者さんは定期的に眼科を受診し、眼底検査を受けることが必要です。
重要な眼底検査
糖尿病に限らず眼底検査は目の状態を把握するのに重要な検査の一つです。体の中で血管や神経の状態を直接見る事ができるのは目だけです。糖尿病網膜症の場合には小さな眼底出血から始まりますが、この時点では自覚症状が全くなく、どのくらい進んでいるかは自分では判りません。
ところが散瞳(目薬をつけて瞳を開くこと)して精密眼底検査をすると、小さな出血でもつぶさに判ります。腎臓や手足を動かすための神経などではこれはできません。自覚症状がない段階で病気の重症度を判定できるという意味で、精密眼底検査は大事な検査です。
糖尿病網膜症は大きく分けて三段階で進行する
精密眼底検査をすると糖尿病網膜症はその進みぐあいにより大きく三段階に分けられます。
単純糖尿病網膜症
針の先で突いたような小さな点状出血、それよりやや大きめの斑状出血、毛細血管が膨らんでできる毛細血管瘤、脂肪が沈着してできたシミ(硬性白斑)、血管が詰まってできた軟性白斑などが眼底所見として見えます。視力には全く影響がなく、血糖コントロールをよくしていると自然に消えていきます。
前増殖網膜症
軟性白斑というシミが多数出てきたり、血管が詰まって酸素欠乏になった部分があちこちに出てくると、新生血管が出てくる前段階になります。静脈が異常に腫れ上がったり、毛細血管の形が不規則になります。正確な状況をつかむために蛍光眼底造影(血管造影)をすることがあります。この段階でも視力に影響がありませんが、危険な状態に一歩踏み込んでいます。この時期にレーザー光凝固をすると最も良い効果が得られます。
増殖網膜症
新生血管(正常ではないはずの新しい血管が硝子体にのびてくる)、新生血管が破れて起こる硝子体出血、増殖膜、網膜剥離という重症な段階です。新生血管が出てもまだ自覚症状はありません。この段階でレーザー光凝固をすればまだ間に合うことも多いのですが、硝子体出血や網膜剥離を起こすと、なかなか自然に治ることは少なくなります。この段階になって目の中に煙のススがたくさんでたり、赤いカーテンがかかるなどの自覚症状が出てきますが、相当に進んでしまって手遅れに近いのです。
これらの三段階がどのくらいのスピードで進むかは、人によって違います。血糖コントロールがきちんと行われている人は進むのが遅く、また最終末期の網膜剥離にまで至らずに、途中で進行が止まり安定することも多くあります。概して比較的若い人(40〜50歳以下)は進行が速いので注意を要します。

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