「中村修二氏をめぐる思い込みと、不遇なアメリカの技術者たち」
教育
「皆、アメリカに行け」「日本の司法は腐ってる」「これで子供たちに夢を与えられる」
これらの台詞は誰のものでしょう?
ご存知、中村修二氏のものです。
青色LEDとか言うものの大量生産の方法を発明した方だそうです。
第一審で200億円だか会社からせしめられることになったのですが、第二審では和解を要求され、それでも8億円会社からせしめました。中村氏は怒っていましたが、会社の方はゴネ代として払ったつもりらしくやっぱり不愉快そうでした。
世間では青色LEDと言う「世紀の大発明」に対する報酬金額に目が行ってしまい、かなり感情的なぶつかりあいがあちこちで見られました。
私は、青色LEDが何だとしてもどうだって構わないんですが、世間の人が凄いと言えば「ふうん、すごいんだぁ」と言うことにしています。
ただ、中村修二氏やそのシンパの方々がアメリカの姿についてかなり誤ったイメージを持っていることが分かってしまったので、それを書きます。
一連のゴタゴタを通して、どうも中村氏はアメリカの大学にいるにも関わらず、アメリカの技術者たちがどのような条件で雇われているか知らないらしいことが分かってきました。
アメリカでは、技術者と言えども一労働者に過ぎません。その雇用条件は協約によって事前に細かく規定されています。
だから大きな発明をしたからと言って特別報奨金が払われるようなことはないのです。
どうも多くの日本人はアメリカが「実力主義」の社会であり、「自由な個人」の社会だと誤解していますが、アメリカは日本よりも労働組合の力が強く、多くの大企業がユニオンショップの形体を取っています。
労働者は会社に就職するのではなく、先ず労働組合に加入するのであり、彼らの生活を守っているのは会社ではなく労働組合なのです。(だからこそアメリカの大企業は良心の呵責を感じずに大量解雇を実行できます。)解雇されたとしても労働組合の力が強いので、労働者は解雇は一時的なものだと感じています。会社の業績が良くなれば組合加入年数の長いものから順に呼び戻されるからです。(逆に言えば新米ほど首を切られやすい。アメリカ企業でも古参従業員は大事にされます。ちょっとだけ終身雇用に近いかもしれません。)
政府が用意している失業保険は十分ではありませんが、労働組合の組織率が高いため、労働組合が有力な資産形成の担い手になっています。日本の労働者は資産運用率が1桁の下の方ですが、ブッシュ以前のアメリカは二桁でした。だから日本と比べて失業が恐ろしくないのです。(5年で貯金が倍になる生活をイメージしてみましょう。)
繰り返しになりますが、アメリカではどんなに優秀な技術者でも会社に雇われている限り労働者です。その労働者に経営者が高い報奨金を払おうとする訳がありません。
アメリカの特許弁護士服部健一氏のサイトに、アメリカの技術者の一般的な開発報酬の額が紹介されていますが、いくらだと思いますか?
一般的には1ドルです。1ドル。
技術重視のハイテク系の会社でもせいぜい1000ドルだそうです。
http://dndi.jp/08-hattori/hattori_2.php
そもそも協約にないボーナスが払われること自体がないんですから、中村修二氏のように仕事で発明したものの権利を(退職後に)主張して8億円を獲得するなんて、アメリカ企業の研究者たちには夢のような話なわけです。
中村修二氏は第一審の200億円と言う判決を見て「これで欧米なみ」と思った方が多かったようですが、その思い込みは正しくありません。
更に!
アメリカの技術者たちの不遇はこれに留まりません。
現在アメリカ企業はグローバル化を積極的に推し進め、海外に「開発拠点」を移しています。
「製造拠点」ではありません。「開発拠点」です。
アメリカのソフトウェア技術者の時給は平均で訳120ドルです。それがインドなら18ドルですみます。開発者はアメリカが60ドルなのに対してインドは6ドルです。この賃金差に経営者が飛びつかないはずがありません。
今年の1月に回覧されてきた日本政策投資銀行の調査によれば、アメリカの大手企業は続々と研究機関や本社機能の一部を海外に移しています。アメリカの調査会社フォレスターリサーチ社によれば、海外移転によってアメリカ国内で失われた雇用は2002年に40万人分でした。2015年には330万人分になると予想されています。それに対してUSベーカリー社は1400万人分と予想しています。
更に問題なのは、失われる職種です。
フォレスターリサーチ社の調査では、今後アメリカ企業が海外移転の対象としている職種は第一にIT関連産業、第二にオペレーター業務、第三に金融関連業務でした。中村氏と関わるIT分野は、2015年までに47万人が海外移転されると予想されています。
日本政策投資銀行の資料によれば、CFOマガジン社の調査で今後海外移転される分野は年収50000ドル以上の賃金を得ていた知的労働/研究開発分野だとのことです。
つまりこれからのアメリカは、修士以上の能力をもった知的エリートが没落し、大資本家と超低賃金サービス業労働者に二極分解する傾向を強めていくわけです。
さて、このような現実を知らず、中村氏やそのシンパの言うことを真に受けてアメリカを目指した日本人技術者がどうなってしまうか想像してみましょう。
アメリカ企業に就職したは良いが、研究開発の対価は1ドルしかもらえず、常に失業の不安におびえ、ついには上司に呼ばれて「きみ、インドの研究所に転勤してくれないか? 給料は月10万円を切るけど物価が安いから大丈夫だよ。」と言われることになるわけです。
さて、みなさん。
これでも中村氏が「子供たちに夢を与えた」と思いますか?

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