竹の箸memoir-4 木炭自動車  竹の箸Memoir

第2次世界大戦・太平洋戦争の戦況が深刻となり、大規模空襲の危険が迫っていた。東京都は、地方に縁故のある家庭の学童の疎開=避難をすすめた。しかしイナカのないわが一家は、東京下町にとどまらざるをえない。

1944年6月30日、ついに『学童疎開促進要綱』が閣議決定、10日後には防空総本部が『帝都学童集団疎開実施要項』を発表した。国民学校=小学校生徒を区、学校単位で地方に集団移住させる計画だ。

浅草区(現在の台東区の半分)柳北国民学校生徒の疎開先は、蔵王山のふもとの宮城県遠刈田温泉であった。1944年8月中旬2グループ、合計735人の生徒が上野駅から東北本線で白石に向かった。白石からは、5台の木炭バスで約17km離れた遠刈田温泉に向かったと記録に残っている。複数の旅館を住まいと教室にした。

すでにガソリンは軍用以外に使用が禁止されていた。それも航空燃料が優先した。木炭と薪を原料とし、炉でガスを発生し、これを内燃機関で燃焼する仕掛けだ。奇妙なことだが、木炭は酸素含有分が少ないのに、軍政府は木炭自動車を推進したことだ。いずれもガス発生に要する準備時間のかかるのは同じようなもの。始動の前に、手回しのブロワーで空気を送り込み、蒸し焼きにしてガスを発生させる。

戦場に送り出されて兵士に比べれば生き残る機会を与えられただけ幸運であったが、親元を離れた都会育ちの子供にとって東北の生活は楽ではなかった。これは地元の人たちにとっても、たいへんな物心両面の負担であった。物質面もさることながら、精神面での軋轢摩擦も生じた。東京側、そして受け入れた地方側の記録を読むと、お互いのカルチュアショックが判る。後者は、いきなり数千人の子供と付き添いの教師たちが移住してきたので、食料の調達には苦労したとのことだ。

あの絶え間ない空腹感は、いまでも胃袋に残っている。食べるスピードが速いのは、その後遺症らしい。同級生たちと畑のとうもろこしをもぎり、生のまま食べた。その夜、ふたりが猛烈な腹痛に襲われた。そのひとりが私だった。宿舎の旅館の方が木炭トラックを手配してくれ、でこぼこの夜道をゆられながら白石の病院に向かったのを覚えている。翌朝、即手術。急性盲腸炎であった。蔵王町の記録は、疎開先で6人が病死したが、大半が盲腸炎であったと記す。木炭トラックに命を救われた。
だが、意地のきたなさからでた痛い目で、退院するや東京に戻された。

2005年7月、60年ぶりに遠刈田温泉を訪れた。インターネットで検索した大忠旅館に宿泊したのだが、きびきびした若者が食事をサービスしてくれる好感度満点の旅館であった。若女将に疎開の思い出を告げると、大忠は柳北国民学校を受け入れてくれた旅館の一軒であることが判った。先々代女将の時代であったそうだ。

写真は、戦時中から戦後にかけ薪ガス発生装置に改造されたトヨタ・トラックである。(提供トヨタ自動車・トヨタ博物館)


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2011/12/9  18:03

投稿者:山口京一

深谷様
コメントありがとうございます。このところ、老骨鞭打ってもの書き商売やってまして、ブログがすっかりお留守になりました。遅くなって申し訳ありません。
当時は、向柳原に住んでいました。東日本大震災でつくづく感じたのは、戦時内閣ですら、あれほど機敏に20数万人の児童を疎開させたのです。ちょっと情けなくなりました。アメリカの大学で教えています娘が来日の際、オヤジの昔をたどとうとワイフともども出かけました。帰途、学者のリサーチ本能を発揮し、市役所で調べましたが疎開した側、受け入れた地元ともに食料調達をはじめ、文化の差に苦労したようです。リサーチ資料がどこかに埋まっているはずですので探してみます(時間がかかるかもしれません)。
山口京一

2011/12/3  11:52

投稿者:深谷 栄子(旧姓 藤田)

始めまして。突然のご連絡失礼いたします。
大忠旅館の事を調べていて、こちらの文を発見し、驚き、感動し思わずメールさせていただきました。
自己紹介させていだきますと、私は
昭和9年生まれで 柳北小学校から昭和19年夏に、遠刈田温泉の大忠旅館に
集団疎開していた者です。現在は栃木県宇都宮市に在住しておりますが、
疎開以来 一度も行ったことがなく、娘に話したところ
「一度行ってみよう!」と言われ 調べておりました。
お伺いしたいのですが、現在の「旬菜湯宿旅館 大忠」が 当時の「大忠旅館」
でよろしいのでしょうか?
そちら様も柳北小学校とのこと、当時何年生だったのですか、もしかしたら
ご近所だったかもしれませんね。
文章にもありましたが、当時の寂しさやひもじさが 甦りました。
私はよく 歯磨き粉をなめたりしていました。 (笑)
お返事いただけたら うれしいです。
   深谷 栄子

 

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