今年は何故かタイスの瞑想曲を演奏する機会が多いのですが
ヴァイオリンだけでなくフルートや様々な楽器で演奏される人気の作品。
原曲はジュール・マスネのオペラ作品
「タイス」
の中で奏でられるオーケストラの音楽。
このオペラの題材、原作はフランス文学界の重鎮
アナトール・フランスの「舞姫タイス」
劇場上演は時間が限られるので登場人物なども絞られ、
プロット上、視点を変えて書きかえられる事もよくあります。
オペラとは人物名も若干異なりますが
とても興味深い内容ですので
オリジナルのあらすじを少しご紹介したいと思います。
「舞姫タイス」1890作
アナトール・フランス(1844-1924)
舞台は4世紀のナイル川の辺り。
(コンスタンティヌスによってキリスト教が認められる前と後という歴史的な背景が重要になっています。)
徳の高いキリスト教僧侶パフニュスが修行中、脳裏にふと舞姫タイスの姿が浮かびます。
タイスは歌、ダンス、お芝居、そして抜群の容姿で人々を魅了する郷里のアイドル。今や禁欲生活を送るパフニュスにとっては非道の存在。
彼女をキリスト教へ改心させ救済すべく故郷へ向かう決意をします。
一方、タイスは恵まれない家庭環境で育った幼少期、家の奴隷アーメースから子守唄がわりに賛美歌や説法をきいて育ち、ひっそり洗礼をも授かっていたのでした。しかし当時キリスト教徒が迫害されていたためアーメースは磔の刑に課されてしまいました。心の支えを亡くし不条理をつきつけられたタイスは次第にその信仰心を失ってゆきます。
時は流れ、厳しい訓練を経て舞姫トップスターの座を獲得し御殿での豪奢な暮らしを送るタイス。若さと美貌に執着する所以、将来への不安を感じ始めます。
ある日偶然訪れた教会で殉教死したアーメースが聖人テオドールとして祀られている事を知り愕然とします。生前虐げられていた奴隷が崇拝されている現実に。
老いや死への恐怖に苛まれていたところへパフニュスが現れます。
パフニュスの説法に信仰心が蘇り、救いを懇願するタイス。
彼女が洗礼を受けていたことを知り一条の光を垣間見、タイスの出家の決意に感極まるパフニュス。
(オペラではこのシーンで瞑想曲が演奏されます)
パフニュスの指示通り財産を焼き払い街を去ります。厳しい道のりを歩き続けタイスを女人修道院へと送り届けたパフニュス。
善行に自賛し、再び修行に勤しむもタイスへの念が頭から離れません。
ようやくタイスを女性として愛していたことに気づいたのです。
女人修道院へ急ぎますが、時すでに遅し。
言葉を交わす事なくタイスは法悦のうちに召されてしまうのでした...
無生物までも雄弁に語らせてしまうアナトールの卓越した修辞技法に想像力が刺激され、
また饗宴のシーンで繰り広げられる会話は時代を超えた哲学者達の討論をLiveで見ているようでハラハラさせられます。
批判的且つ肯定的に考察された哲学と宗教観、
ギリシャ神話、西洋史、服飾や建築、食文化など多岐に渡る深い知識と情報が盛り込まれ、何度読んでも面白い作品です。
特に興味深いのは化身-転生
フランスのアラン・カルデックが1857年「霊の書」でRéincarnation (転生)が発表されフランスを中心に広まった思想が随所に見られます。
悟りを得るため世俗の煩悩から逸脱するため隠遁修行するも無に帰すパフニュス。
「ヴィーナスでもあり聖母でもある女性の神格化」
自身の欲望に忠実に生きたタイスこそ純粋に法悦を見るという残酷な物語。
原作を知って、より一層マスネの音楽が心に響きます。


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