ここ数日の妻の落ち込みようといったら息の詰まるほどだった。
と言うのは、どういうわけか夜更かしの妻が二階の部屋の窓を開け、
愛猫の一匹がバルコニーから転落し失踪してしまったからなのだ。
寝入っていた私も起こされてバジャマ姿のまま、
寒空に懐中電灯で周囲を照らしながら愛猫を探しまわったが、
あたりは静寂の闇だけで見つけることはできなかった。
翌朝、餌を持って愛猫の名前を呼ぶがどこにもその姿はなく、
前庭の植栽の上に落ちたらしく枝葉が散乱していた。
その夜に妻が隣家のガレージから愛猫の声が微かにすると言うので、
隣家のクルマの下を懐中電灯で照らすと隅の方に愛猫がうずくまり、
名前を呼んでも何かに怯えるように固まり身じろぎもしない。
家の中にいた時はうるさいくらいに擦り寄って来ていたのに、
家の外では無視される飼い主になり少し憤慨する妻、
たいしたケガをしているようでもないので、
餌と飲み水を庭に置いてそのまま待つしかなかった。
三日後愛猫が帰ってくるかもとカーテンを開けたまま一仕事の区切りに
居間で夜DVD鑑賞していると居間続きのデッキにドスンという音が、
窓を開けるとデッキの闇に愛猫の姿が見えたようだが名前を呼んでも反応なし。
窓の外をヘッドライトのクルマや懐中電灯を照らしながら犬の散歩をする娘が通り、
しばらくして忽然とガラス窓に愛猫が現れたので慌てて窓を開けてやると、
つかの間のアバンチュールを楽しんだかのように悠然と帰還した。
愛猫の顔を見ると左目の下に他の猫と闘った爪の傷あとがあったが、
二階から転落した程度は猫にとっては平気、それよりも
窓から外を見る猫は人間がテレビを見ているような暇つぶしと考え、
窓を開けて猫を外へ出す危険行為が思わぬ不幸な出来事の始まりだった。
帰ってきた愛猫は餌をがつがつと食べ
居心地の良い自分のベッドで何事も無かったかのように寝ている。
そろそろ中断されていた次の絵の仕事に取り掛からなくては・・・
Mさんから依頼絵の進行状況

2014.1.30,Copyright(C)2014 AoiFujimoto. All Rights Reserved.

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