孫たちから手作りのバレンタイン・チョコをプレゼントされ温かい気分だったのに、午後クルマで妻と近くのスーパーマーケットで買い物をした帰り、自宅のすぐ近くの十字路にさしかかり、いつものように左右確認すると、右5メーターくらい離れた道路の真ん中で数人がうずくまっているように見えた。不可解に思い右窓を下ろすと男が誰かの上におおいかぶさり叫んでいる。
どうしたのかとクルマから出て近寄ると、近所の農家の30代後半の男同士の喧嘩のように見えた。押さえている被害者らしい男が「包丁で刺されたから警察へ電話してくれ」と加害者を押さえつけながら言う。押さえつけられた加害者の母親らしい人がしゃがんで二人の喧嘩を止めようとすがりつきながら「長年の怒りが爆発した」と言うような事をつぶやき、その傍らに近所の別の男一人もどうしたものかと思案顔で見守るように立っていた。よく見ると押さえつけられている加害者も近所の人で、先月の地区の総会で挨拶をかわした顔見知りだった。あたりにそれらしい包丁や被害者の出血なども見当たらなかったので事件だとはその時は思えなかった。
十字路にクルマを停めたままで左から別の車が来たので助手席の妻が私を呼んだ。そのクルマの運転者の女性も降りてきたので私は一旦クルマに戻りすぐ近くの家に帰ったが、気になったので近所の派出所へ連絡したほうがよいだろうと妻に派出所の電話番号を知らせた。そして歩いて現場へ戻ると軽トラックで来た近所の農家の人に仲裁されて皆が立って何か話しあっているようだった。私は「大丈夫ですか」と声をかけたが、当事者たちは怒鳴りあっているふうでもなかったので私は大丈夫だろうと勝手に納得して自宅へ戻ると、妻が警察に電話している最中で気が付くと家の前にパトカーが来て停まっていた。
たちまち10台くらいの警察車両が現場でなく、私の家の前に集まり、警察官や刑事があわただしく現場付近を動きまわり、通報者の私たち夫婦も自宅前に出て警察官に事情聴取された。異様な様子に近所の主婦がどうしたのかと聞きに来て、妻がその主婦に説明していたが、やはり傷害事件に遭遇してしまったようで加害者がおとなしくパトカーに乗せられ連行されて行った。後日おだやかな顔で被害者が挨拶にこられ、傷も大したことがなかったようで安堵したが、時々収穫したニンジンなどいただく拙宅前の畑の農家の人だったので驚愕し、我ながら人の顔の認識不足に愕然とした。この騒動に身も心にも寒風が吹き、とんでもないバレンタイン・デイーだった。

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