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口ずさむのは昔の歌ばかり  







梅雨明けの、叩きつける光の中
入道雲を切り裂くようにジェット機が飛ぶ
蝉の抜け殻を手に、ソーダバーを不思議そうに舐める
小さな子供の手を引く疲労した若い母親
夏休み、昼の日中から
子供たちが道にあふれかえると
昔ながらの駄菓子屋が活気を取り戻す
男の子たちがラッキーカードを欲しがるのは
宇宙旅行の時代になってもきっと変わらない
二時間に一度、急行が通るだけの河を跨ぐ高架は
やんちゃ坊主たちの格好の度胸試し
ぼしゃーん、ばしゃーん
おあつらえむきにそこだけ深くなっていて
水柱がいちいち太陽を弾く
嬌声が聞こえる、私のブラウスは
そんなに遠いはずではない過去にあたふたする
幾つかの電話番号を不意に思い出したり
今は無い校舎の面影を必死に辿ったりしながら
街に帰るバスを待っている
私を待つ人がみんな居なくなってから
初めてここを故郷と呼べるようになった
挨拶を交わすのは
昔とちっとも変わらない駄菓子屋のおばちゃんとだけ
鼻息の荒い木々たち
古いタービンが煙を上げるみたいに
蝉の声が空へ飛んでゆく
ひとつしかない宿を早く出過ぎて
暇潰しに思いつくことはみんな済ませてしまった
古い水彩画のような
河べりの景色を眺めていると
ここに居て居ないような
夢のような現実の中で
太陽だけが本当のように思える
ハウリングの酷過ぎるスピーカーが
今夜の祭りのお知らせをしている
あのアナウンスをしているおじさんは
きっと誰よりも長く生き続けるのだ
口ずさむのは昔の歌ばかり
距離ではない距離を私は噛み締めて、尚且つだからこそ嬉しいと感じるのだ
帰る場所は嘘でなければならない
冷たい住処に帰ったら日記にそう綴ろう



型遅れのバスの天辺が見え始め、私は一度目を閉じる

次に目を開けたら
この世界は夢なのだ









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