2006/1/30

化身  





一日中、憤りを隠した様な曇り空の後の夜の雨、窓の外で舌打ちを続けてる―壁の染みの中から
真実を見つけ出そうと目論んでる様なフィンガー・ピッキング、いつか目覚めの様に来る春の事を勇み足気味に求めて止まない…死にそうな冬の凍てついた呼吸にようやく俺は慣れ始めてきている
願望と欲望と失望と羨望が肩ぶつけながらすれ違い街路は破裂を隠した水脹れの様な思念を残して
ぼやぼやと滴りにくすぶりを上げている―アストラッド・ジルベルトの寝物語の様なビートの上のヴォイス、それを情熱と呼べないのなら他になにを選ぶべきだと…?ああ、一度だけでいい、彼女
クールなシンセサイザーのリズムで遊んでくれないかなぁ
窓の外、どうしても止められないといった調子で、寒過ぎる春が舌打ちを続けてる
「繋ぎとめて、繋ぎとめて、繋ぎとめて欲しい」
無理だよ―無理だ、零下の女神、俺たちは運命のもとに生きているのだから―溺死を覚悟しつつ汚れた海の中で不恰好な息継ぎを繰り返しているのだから…企みに嬉々としていた少年はもうここには居ないよ
昨日、「すべてを失くした」といった表情で、もがきもせずに漆黒の真夜中の向こうへ沈んでいった―止められない―止められるわけがない…あいつの眼はもう何も見てはいなかったんだ
俺は声を上げて、失いかけた右腕を波にしのばせる、ああ、重い
誰かを失くす度に指先にまといつくものは重くなる、まるで
途中で消えた蝋燭の火を、引き受けてしまったみたいに
―ああ、と俺はもう一度思う

独りで先に行く、それは


ますます独りでは居られなくなる―と、



そういうことなのだ



0

2006/1/29

最後の詩篇  





夜という刀が俺の鼻面を切り裂いて
吹き上がる血液はだんだんと溜まり、いつかの夏の記憶の辺りまで
この心を
埋め尽くしていった
失ったものに名前なんか付けちゃいけない
存在してしまう
愛してしまう
忘れられなくなる

指折りながら
大切な日までを数えた、あんなたちまちは
どんな水溜りの中で
いまを跳ね返しているのだろう、それしかないと思った
それしかないと思えた、あの、ささやかなこもごも
全て数えた後の指の陰の中で、さら砂に変わっていた
誰かの面影を刻んだ宝物

懐かしい縁側に横たわる陰影に、描こうとしている言葉の全てがあったのだ

幼さや、純粋さや、浅はかさ
目を覆うような愚かさも時にはあったせいで
多少汚れてしまったことも哀しいとは思えないが
いまあの時ならなにをしただろうと、傷つけた人の最後の視線を思う
大人になど成れやしない
傷口をつくろうことも無く、言葉を物色している
詫びたいだけで名づけた篇も
確かに
幾つか在ったよ
俺は大人になんか成れやしない

弾かれた夢はもう見ない
怖いと、思えなくなったから
最後の距離を詰める虎のような明日の前で
畏怖するものなどもう何も無い

立ったまま果てた死骸になりたい
風に隠れるまでそのままにして欲しい

白紙の画用紙を泣声のような風にばら撒いて全てに名前をつける
そうすると
それらは
もう


半ば愛に変わってしまうのだ

最後の詩篇となると
卑怯なくらいに
見苦しいくらいに




0

2006/1/27

ある種の理解は手段を選ぶもの  散文



そこにしなだれかかるのは嘘のノスタルジーだ、君はそのずいぶんと確かな感触に決して心を許してはならない…雲の中に潜り込み、水の粒の冷たさと傷みを確かめながらおぼろげに感じるようなものでなければ君は君自身の狂気に折り合いをつけることなど決して出来ないだろうよ
例えば今は真夜中だが、窓の外に何か見えるかい?いいからカーテンを開いて、光を反射する邪魔な硝子をスライドさせるんだ…そうしなければ僕の言っていることは半分以上取りこぼされてしまう…開けたかい?よろしい、今夜はなかなかいい風が吹いているね、冷たいがある種の覚醒にはもってこいの温度だ、そう思わないか…僕たちは少々温度に対して麻痺しすぎた、それは疑いようのない事実だ―寒いと感じる前にヒーターのスイッチを入れてしまうだろ?それが全ての答えだよ
窓を開けたら少し身を乗り出してごらん…ああ、そんなに邪魔になるんならカーテンは本棚の本にでも噛ませときゃいいじゃないか―脱線するのはあんまり好みじゃない―ひとつ迅速にお願いする
さて、どうだろう、君が今身を乗り出しているそこはいったい何処だ?住んでる場所を答えろなんて誰も言っていない、もうひとつ断っておくけれど―君のイマジネーションのレベルを計測しようとしてるわけでもないぜ…そんなのは白髪のポップな芸術家にでも任せておけばいいことだろう?しいて言えば視力だ―僕は君の視力を試そうとしているのさ、さぁ、君が今いるそこは何処だ?中空、なるほど、中空か、まあいいだろう!なにが見えた?その中空から、君はなにを見ることが出来た―はじめは闇だった、そうだね、そんなにすぐに夜目なんか利くもんじゃない―はじめに闇が見えたね、それから君はどうした?かなり長い間見つめていたじゃないか―?もっとよく見つめようとした、そうだね?僕が暗に視力という表現で見ることを匂わせたからだ、それから質問があった―何処だ!?とね―だから君は無意識に答えになるものを探したというわけだ
続けよう!君は目を凝らした―闇の中にあるものを見つめようとしてね、それはもうしっかりと見ようと勤めたはずだ、そうでなければ答えを導き出せないことは本能として理解していたはずだからね!本能として理解している―これがどういう意味合いか判るかい?暗闇の中でなにかを見つけ出そうとすれば、きちんと目を凝らして辺りを懸命に見つめなければならない―僕たちは本能でそのことを理解しているのさ!…なんだよ、不服そうな顔をしているね…今の説明にどこかおかしなところがあったかい?これでも僕はあますところなく君に全てを話したつもりなんだけど?―僕は昔からそういうことが上手なんだ、自分の中にあるあらゆる事柄をちょっとした比喩とジョークできちんと説明することが出来る―ああ、もちろん、自分で確認出来る程度のあらゆる事柄という意味なんだけどね、さっきのは―脱線だって!?冗談言うなよ、僕は少しも話をそらしたりなんてしていないよ―むしろ君が僕の話をきちんと聞いていないのではあるまいね…?怖い顔をするなよ、僕は議題を他人に押し付けるのみで話を進めようとするクラス委員じゃない―クラス委員って何かって―?ものの例えだよ…言葉のアヤってやつさ
それで君はなにが判らないんだって…?答え?答えって何の!?さっきの、なんて言い方は駄目だよ、それは問いかけとして適当じゃない…僕の中ではきちんと段階を踏んだ結果のすれ違いなんだから、今君に渋い顔をさせてることの原因となっているものは―質問!?僕が君に何か質問をしたかい…ああ、あれか、あれのことか―「さて、どうだろう、君が今身を乗り出しているそこはいったい何処だ?」―我ながら良い台詞だよね、簡潔で、なおかつ謎を含んでいて、深く読み込もうと思えば、なんらかの衝動を促しているようにも見える―衝動!!ふるえるね、ゾクゾクする…君はこのセクションをクイズか何かだと感じたのか!ふふ…はははは……可笑しいよ、可笑しいね、君―僕はそんなつもりでこの言葉を発したわけじゃないんだ、これくらいは君にも理解出来ると思ったんだけどな―怒るな、怒るなよ…今の言い方は良くなかった、まるで僕が君を見下しているみたいに聞こえてしまったね、今の発言は少しの間君の心に憮然とした感情をくすぶらせるだろう…怒るなよ、僕はそんなつもりで言ったわけじゃない、そうだ、君の疑問に答える前に場所を変えようか?美味い珈琲を落とす店をこないだ見つけたんだ、君だってたぶん気に入ると思うな…金のことなんか!!今のは僕の落ち度だ、お詫びのつもりでご馳走させておくれよ、このことでこれ以上議論はしないよ…さあ、行こう!心配は要らない!あの店は真夜中すぎまで開いている!!おっと、窓を施錠しておけよ…君の隣人にもしも物をくすねるような手癖の持ち主がいたらどうするよ?…失ったものの幾つかは簡単には取り戻せないよ…おや、いい外套じゃないか、何処で買ったのか教えてくれよ―準備は出来たかい?じゃあ、出発だ!!玄関を開けて、廊下に身を乗り出せ…「さて、どうだろう、君が今身を乗り出しているそこはいったい何処だ?」
おっと、冗談だよ、怒るな、怒るなって…




0



teacup.ブログ “AutoPage”
AutoPage最新お知らせ