2006/5/3

血に、眩む  







小さく丸めたレシートがポケットの中で酸化して指先に嫌な臭いを付けた
膨張してゆく押し隠した誤差が肺を圧迫しながら古い臓器のような色に変わり始める
五月の午後には色が無い、騙されているような気さえする雑踏のディレィ
車道のホイールが陽射しを反射させて黒目の真ん中から中枢の向こうまで射抜く
穴の開いた後頭部からポロポロと零れ落ちる未整理のままの何かを惜しいとも思えずに
点滅を始めるシグナルに急かされながら大して重要でもない向こう側の歩道に
ズーッ、ズーッ、さまざまなエンジンの稼動音がいつしか肥大した世界の余りものを引き受けて引き摺っているように聞こえて
無表情のまま息が苦しくなるほど笑った、傍目には少し肩が震えただけだったさ
左腕をわずかにかすめた宅配ピザのバイクを想像上の鈍器で撲殺し尽くした、冗談みたいに返り血が跳ねて、俺は結構なメイクを手に入れた
様子見を続けているような太陽にリンクした、妙に熱の無いその温度、おかげで恍惚感はまるで無かったぜ
周辺を行き過ぎるやつらの上着の柄が少し残像を残すように見えるのは浅い眠りのせいなのか
タワー・レコードの浮ついたでかいロゴの前をなぞるように歩いているうちに
何のためにここまで歩いてきたのかどれだけ考えてもどうしても思い出せなくなった
きっとさっきのスクランブルで開いた穴から幾つかのものと一緒に落としてきてしまったんだな
ちょっと前可愛い娘が飛び降りたことがある12階建てのビルの佇まいはそりゃもう見事なもんだったぜ
押し黙った小奇麗な建造物の中でそこだけが極端な自己主張をしているように見えた
さっきよりもずっとずっと派手な血飛沫が屋上近くまで吹き上がっていたんだ、胸がムカつくような臭いすら感じられた
潰され植えつけられ染み込んだ空虚な死が乾いた埃を喰ってほら鮮やかに芽吹いた
あの娘の呪いはここで似たような誰かを誘って生きてたその時よりも確かに生き永らえてゆく
出来ることならあの娘と肩を組んでプリクラを撮りたいぜ、何枚も何枚もさ
死んでしまう娘となら上手くやれるような気がするなんて与太話に過ぎないかね
そうだよ、俺は本屋に行こうとしていたんだ、何か読みたい本があるわけでもないけどさ
方向を変えたいな、方向を変えたい…本屋に行くにはこの道じゃ遠すぎる
小さな店に潜り込んで珈琲を被ろう、どうにも血の臭いが、どうにも血の臭いが染み込みすぎた気がしてならない
大型連休なんだって?ちっとも、ちっとも気がつきゃしなかったよ
切れかけた蛍光灯のような目覚めに、新しい浅い眠りがまた産声を上げて
揺らいでいく、揺らいでいくね、膝をつきそうな虚脱がどうにも元気で
版画展の呼び込みをしてる過剰な笑顔のお姉さん、少し見ていくから
奥の高そうなソファーで座らせて貰っても構わないか?







0

2006/5/2

暮れ方に欲望が見えた(Soul survivor)  







息を吹き返す混沌の夕暮れに
ただならぬほど白い画面に
観念上の血の色を塗りつけながら
折れた虫歯が歯茎を噛む音を聞く、あまりに肉感的なエコー
汚れた河川敷にのめり込む秘密のようだ
瞬間の痛みが
刻もうとしていた何かを忘れさせてしまう
おおお、と俺は吠えて、けれど
叩き壊すほどに気高くも居られず
弾き飛ばされた一行の運命に悪態をついてしまう
窓には夕日
溶岩のように
煌々と燃える夕日
俺の人知れぬ停滞を炙りながら暮れるのを恐れる誰かを脅かしていた
ふと目に留まる風景の中にもの言わぬ運命がある
歯茎に滲んだ血の味をどこかフィクションのように噛み締めながら
キーボードという名の味気無いペンシルをもう一度確かめる
あー、何にも通い合うものなどありはしないよ
だからこそ俺は奔放であろうと
懸命に爪を磨り減らすのさ
これが終わらなきゃ眠れない
最後の一行以外に
幕引きを買って出るやつが居ない
夜が来る前に
あの耐え難い怖れがこの身に寄り付く前に
数度、指を躍らせたが
意味の無いアルファベットの羅列が
液晶画面に踊っただけだった
いつか書けなくなるときが来るとしたら
迷わず誇りを持たなければならない
もっとずっと先に
もっとずっと暗い夜の手前に
誇り高く振り返ることが出来るだろうか?
すでに書かれてしまったものに血が通っている景色なんか見たことが無い
それはきっと俺がひとりで騒いでいるだけだから
燃え盛る業火とはもしかしたら
あそこに沈みかける夕日のような色をしているのだ
ふと目に止まる風景の中にもの言わぬ運命がある
もしもそれがまぼろしのようなものだったとしても
もしもそれがひとときのものだったとしても
焼きついて離れない永遠が在るのだ
求めるとは哀しいもんだね、だけど
一度浮かれてしまったものは取り消すことなんか出来ないんだぜ
キーボードは何度かもどかしげに軋んだ
あらゆる影の後ろに業火が消えてしまった後
一度死んだように最後の言葉を捜していた
途切れていても
くたばっていても
ピリオドをつけなきゃいけないものは確かにある
喉が酷く渇いていた
どうにかして
生き返る術を見つけなきゃならない








0

2006/5/1

遺書に韻なんかたぶん踏まない  






跳ね飛ばされ轢き潰された野良猫の屍骸に
群がる強欲な虫どもの羽音の交響曲
排ガスの匂いが絶えず風に舞う産業道路で
どこかが断線した水晶体をぼんやりと開いていた
街路樹は管理され刈り込まれる
道路に一番近い
緑は枯れ始めていた
いつかは息吹に溢れながらあいつも種子だった
哀しみを共有するために保存料の入ったコーヒーを飲む
栄養は錠剤で摂取され
欲望はフライチャイズへ向かう
長い長い旅路の果てに辿り着いた景色は
何処にでも建ってる店ばかりだった
プラスチックの軋みが無けりゃ
ご飯を買った気がしない
後ろめたさを隠すようにカテキンと綴ったペットボトルの重みは
こっそり人生をカウントしているような気さえする
真実を塗り潰したような女子高生のメイク
短すぎるスカートにこらえきれなくなった誰かが公衆トイレで静かに歓喜する
所々塗装の剥げたドアには
誰でもOKらしいなおみの携帯番号が書き殴られている
ちょっとした好奇心で
電話ボックスから接続を試みてみると
クタクタに疲れた声の女が出てもしもしと言った
俺が何にも言わないでいると
もう一度もしもしと勘繰った後電話は切られた
名前だけでも聞いてみれば何かの証明にはなったかなと思いつつも
もう一度番号を押してみるには興味が薄過ぎた
あの女の着メロはきっとパターン8とかだ
犬を散歩させてる神経質なまでに日焼け対策を施したスポーツウェアの女が
電話もしないで腰掛けている俺を怪訝な目で見たので
ドアを蹴っ飛ばしてBOXを後にした
あの女のBOXはきっと真っ白なんだろう
午後の公園に集まる奴らの顔は
説得の果てに幸せだと納得したような眉間をしていて
長く眺めているとペースメーカーをつけたプロレスラーの体力を測定しているような複雑な気分になる
きっとそんな比喩を考えるのを面倒臭いと考えた誰かが
違和感なんて単語をこの世に産み落としたのだろう
お値打ち価格で感性がお手討ちになるから
詩人は皆廃工場で首をくくるぐらいしか能が無い
遺書には特別気持ちを込めた韻を踏んで
夕日が一番綺麗に当たる窓のある事務室で
そうして構築された詩的なディテールにも
何処からともなく現れる虫どもの強欲な交響曲
カラーコントラストの故障みたいに白い蛆がうろちょろと無数に這って
綺麗に負けようとした詩人は関節のところから解体される
強欲な虫どもは百万の生体組織の味を記憶していて
それって結構凄いことなんじゃないかって思うんだよな
おまけに奴らはきっと好き嫌いなんかしない
出されたものはスカスカになるまで綺麗にたいらげるぜ
だってあいつら
生きることしか考えてないんだもの
わけも分からず
喰らって産み増やし
生命を繋ぎ続けることしか考えちゃいない
羽音を立てる螺旋
なあ
詩人なんか


出る幕もありゃしないよ


今日のスペシャルスタミナ弁当
ウィンナーの焼き加減が…



いま
ひとつ







0



teacup.ブログ “AutoPage”
AutoPage最新お知らせ