2006/6/30

俺、息の切れた金曜の午前さま過ぎに  散文




俺、息の切れた金曜の午前さま過ぎに、とてつもないのっぺりとした感情に襲われてしばらく膝を突いていたんだ。仕事を終わらせて、部屋に戻って、シャワーを浴びた後のことだった、山奥のカーテンの様なもやの中を潜り抜けるときみたいに空気が変わるのを感じてさ、あっ、あっと妙な声が口をついて出た、どこかからふいに落ちるときみたいな軽い調子でだよ。あれはなんと言えばいいんだろうね、塩と酒と味の素で調えた錦糸玉子の一切れになったような気持ち…重さが無くて、細くて、見るからに脆い…試しに指で摘み上げてみるときには細心の注意を払わなくちゃぷつりと切れてしまう、そうなると寿司に添えるときだって切れっ端は無視されてしまう…そういう懸念をいつも含んでいる感じ、判る?俺、息の切れた金曜の午前さま過ぎにそういう気持ちで膝を突いていたんだよね、そういうときってもうなんていうかどうだっていいんだなぁなんてことをいろいろ考えちまうんだ、今日彼女に送った写メールの表情の出来とか、帰りに口の中で溶かすことが出来ずに噛み砕いて飲み込んでしまったカンロ飴の儚さとかそういったことってよ、こだわってみると意外と面白いことだったりするんだけど、何もこだわらないやつにとっちゃどれもこれもどうでもいいことじゃん?いわば俺そういう人種にシフトしたみたいになってたんだよね…そんでまあなんだかそれは良くないことのような気がしたんでね、とりあえずそこから回復するのをじっと待った、そこから回復するのを待ってそういう状態がちょっとした気の迷いみたいなもんだってことを確信するためにこうしてどうでもいいことをあえてこだわりながら息の続く限り文章を連ねてみようという試みをしてるわけ…まあ自慰行為っちゃ自慰行為だね、だけどさ、そういう行為が売り物になったりする世界ってあるじゃん、巷のビデオ屋とか行けばいくらでも値札つきで並んでるじゃん…まあもうビデオなんか置いてないかもだけどね…俺はさ、こういうことはいくらでも好きにやっちゃっていいと思うんだよね。読みやすい文章って何。面白い文章って何。結局のところ主観でしか書かれないものでしょ、そんなの出来てると思って書いてるやつのほうがよっぽど始末に負えないだろうな〜要はさ、オナニーだって金になるってことなんだから。好みのコがアレしてたらみんなやっぱりナニでしょうよ…まてまて、安易に下ネタとか持ち出してアバンギャルド気分とか止めといたほうがいい。特に今は息の切れた金曜の午前さま過ぎ。そんなときにそんなことしたって別に何の救いにもなりゃしないよ。午前さまって不思議なんだよな、針が少し進むたびに何かを宣告されているような気がする。多分、他にあまり気にするものがないからそんな気分になっちまうんだろうね、今日はちょっと太陽を浴びすぎたしな。日射病なんてぶっ倒れるだけじゃないんだろうなきっと、太陽の幻影は意外なほど人間を蝕むものだよ、考えてみりゃそりゃそうだよな、何億光年とかいうふざけた距離から光を放って、それでこんだけ俺に汗を掻かせてんだもの…俺たちみんな炙られて過ごしているんだよな。そういう一体感の持ち方ってどうよ、興味ない?まあそれもそうでしょう。俺にも自分がどういう形で誰かと連帯を得ようとしているのかまったくピンときやしないんだ。そんなこんなでばたばたとキーボードを叩いているうちにだんだん眠気が訪れたりするんだけど人間って不思議なものだね首がすでに舟を漕ぎ始めていても惰性でなんだか指先は動き続けているんだ、このまま動かしていたらとんでもないことになるかもね。閉ざしておいたほうがいいようなことまでつらつらと引っ張り出して大恥を掻いてしまうかも。汗の次は恥かよ。まったく忙しないな。まあそんなわけだからもうそろそろ筆を置いてしまおうかと思う、こんなのよほど興味のあるやつしか目を通したりしないだろうしね…先に自慰とか言っちゃったからなんだか隠したい気すらするんだ、ほら、隠したほうがイカしてるって側面も確かにあるじゃないか?長い長いおやすみの挨拶だと思って読んでくれるとありがたいな。実際この文章には誇るべきものは何もない、ぎこちない自動書記みたいなもんでさ…なんかそういう風に続いちゃうときってあるじゃん……無い?








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2006/6/29

モルモット  








濡れていて執拗な、壁際にうずくまる逡巡だ、伏せたはずの目蓋を
強固な力で軋むほどにこじ開けて認識を促すどさりと鳴る影
拒んでいるだけで頚椎は致命的なまでに鬱血してしまった
頭の中の最も脆い部分に亀裂が入る音が聞こえた、極限、なんてやたらに吹聴する気もないが
手ぶらで生きていくにはどうも限界みたいだよ、一度網膜に刷り込まれたある種の示唆は例え眼球をくり貫こうとて消去出来るものではない
梅雨が息を切らせた釈然としない気候の夜に見えないものに犯されていると
いつの間にか抜け出した自身のエクトプラズムが激しく窓を叩くのを感じるんだ、あいつはきっとこんな故障を望んでなどいない、だけど
催眠術から抜け出すには合図が遅過ぎたよ、たぶん最後の一線って
意外とあっけなく踏み越えてしまっているものなんだろうな
いつかはこんなじゃなかった、いつの間にか手にしているものがあったし
いつの間にか出来上がっているデッサンがあった
本当の白紙は決して破り捨てることが出来ないものだ
破るために汚すなんて卑怯者のすることだし
俺の霊体はすでに浮遊していた、きっとこのまんまじゃ誰にも浄化してもらえやしないなぁ…あれを取り戻すには
あれを取り戻すには…呆然と口を空けたまままるで悪い薬でもやったみたいに
取り戻すことばかり考えていた、ああ、そう言えば、近頃は取り戻すことばかりを考えているような気がする
手にするものの事を考えなくなったのはいったい何時から?夕日のような太陽の朱ばかりが気になる
おー、と俺は鳴いた、それは泣声だったかもしれない
どちらにせよ何かを講じないと
丸めて捨てられる遺言みたいなもんになっちまうな
何時だったか、突然飛び出して遠い遠い海岸で見た夜明け、あそこからどれだけ離れたのだろう―今からあそこを目指しても
きっと同じ朝日には見えない
慣れと強さの線上をよろめきながら歩くうちにそれはきっと
両方のポケットからポロポロと零れてしまう
欲しいものは真理なんかじゃなくって
欲しいものは霊体なんかじゃなくって
多分それらすべてのものを少しずつ含む釈然としないグミのような塊
明確な答えになんて何の意味も無い、そんなものをリアルに感じるのは
産まれてすぐに死なざるを得ない胎児ぐらいさ、一秒でも生き延びてしまったら
そこはもうただのグレイ・ゾーンだ
どうしてあの時選んでしまったのかな、痺れたような感覚が全身を駆け巡り
さながら廃棄物に遣られた魚のようだ
キッチンにもう少し生物の匂いがしていれば最高だったろう
少し可笑しくなった瞬間、ひゅっと息を吸い込んで
もう戻れそうになかったエクトプラズムが身体に戻ってきた、そんなことばかり感じて真夜中を生きていると
悲壮感のない涙を音もなく流せるようになる、こじ開けられた目蓋で、鬱血した頚椎で
ああ、俺まだ多分、俺まだ多分
明日を迎える理由があるのかもしれないななんて、それを喜びと呼ぶには
あまりにも不手際が多過ぎるかもしれないけれど
時計の針が動くことに意味なんか求めちゃいけないんだ、だってそれには証明書程度の中身しかないんだもの
本当に必要なのは影の向きを読むことなのかもしれない、そう思うと
不思議と太陽を待てるかもしれないと思うようになった
手ぶらで生きていくにはどうも限界みたいだから、誤魔化せるような何かを握らなければならない
それが例えば
午前一時を少し回ったあたりに首を傾げながら綴る詩でも構わないんじゃないか
見えない傷ほど痛むものだね、もう何もない窓の向うに俺は話しかけた




再び声帯を震わせられることが嬉しくて仕方がなかったんだ








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2006/6/28

凍えた夏の一人芝居  






凍えた夏の一人芝居、時に無力は便利
不平不満の果てに、すがる止まり木にも似て
ああ、空が青いなぁとか
ああ、雲が白いなぁとか
自他公認の唐変木
梅雨明け間近の空はいつも何かを考え込んでいて
灰色の雲の隙間から時折
子栗鼠の様にちらちらと太陽が覗く
何もしないでいる時間の蓄積
身体は癒えたが精神は萎えた
まったく調和が図れない、窓には昨日死んだ虫
DDTをぶっかけてやったら
五分あまり狂った様に暴れて
それから二度
殴られた様に蠢いて果てた
凍えた夏の一人芝居、汗だくになりながら
虫の死に様に拍手して少し眠った
殺虫剤というのは
虫の呼吸器系統を駄目にして殺す薬だ
つまり窒息
まだ飛べる羽が昨日も今日も
誰かの不快感で窒息してくたばる
それを集めて河原で燃やすと
花火の様な音を立てて一瞬だけ燃えた
凍えた夏の一人芝居、俺が見ているのは
決して何かを示唆しているような奥深い景色などではなく
黒く丸まった
透明度の高い羽を持つアブの死骸に過ぎなかった
死を求めれば死を求められる
さっき林檎の皮を剥いた
ペティーナイフがこちらを向いてにやりと笑った
俺は知らない、そんな道理は…
もう少し理知的な誰かに捧げてあげればよいだろう
冷蔵庫には炭酸飲料
飲み干すほどに枯れてゆく
まったく不条理だが
慣れというのは少なからず必要とされる
接続出来ないトランスミッションを嘆いたりなんかしない
気に留める方向がそもそも間違っている
凍えた夏の一人芝居、キーボードに浮いてゆく汗を
足跡のようだと思いながら見ていた
跡を残していくものたちはみんな寂しがりや
電柱に匂いをつけていく犬、ナワバリなんて
関わることを前提とした絶対的領域
昨夜からそよとも風が吹かない、腐葉土の様な大気
こんな日に詩を好む理由などそもそもありはしないのだ
ペットボトルに八つ当たりすると
残っていたまがいものの珈琲がカーペットに染みを付けた、窓の外では蜻蛉が飛んでいる、コアカトンボだと教えられたがそれは果たして本当だろうか
あいつらはすぐに気を失う
いつも少し罪を背負った気分にさせられる
やたらと動くものに突っ込んでくるのだ、まるで何がしかの覚悟を持っているみたいに
だから思い切り窓を開いたことがない
打ち捨てられた水田が沢山あるこの辺りじゃ
一缶の殺虫剤が一月も持たないことだってある
窓からの眺めは最高だったけれど
ふって沸いたようなマンションに遮られた
だから今ではいつごろ日没なのかはっきりそれと知ることがない
いつの間にか暗転した
世界のカーテンを引く
カーテンの向うは闇だが
窓の内側にはそれを塗り潰して余りある感情がある
凍えた夏の一人芝居
街路で野良犬が縄張りを争っている
ああ

あいつらは
きっと楽しいんだろう









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