2006/6/26

夏のぬけがら  






乱雑な感触で結ばれた
俺とお前の違えた手首
眩暈の寸断に隠れた
太陽を睨みつけていた
飢えと渇きに
喉を涸らしながら
光に焼けてゆく虫を見て
綺麗だとお前は笑っていた
俺たちはまっとうじゃない
くず折れる日向に漏れる
影のコントラストのように明白だった
今年最初の蝉が鳴き始めた、その瞬間に
夏の心臓には風穴が空くんだ
そこから漏れる血を
そこから零れる血を
さも重要な意味のように俺たちは受け止めて
苦行は真実だと小者のように嘯こう
妄想上の初恋の女の子が
この上なく淫猥な言葉を吐いた、ひどく壊れた声帯で
それだけで
俺は少し救われることが出来たんだ
お前の息遣いが聞こえる
乱雑な感触で結ばれた
俺とお前の違えた手首
鬱血した色彩がこっそり呟く声が聞きたかった
蝉が増えてゆく、ばら撒かれるみたいに
奴らの羽は疎ましいくらい太陽を反射して
視界はまるでヴェネティアン・グラスだ
網膜で跳ねる夢
近すぎて
それが何なのかは判らない
突風の中で
愛を唄うような六月、俺たちは渇いて
ちっともまっとうじゃなかったけれど
焼けてゆく虫を綺麗だと
黒い塵になる、昨日までの羽虫の
名残を綺麗だと感じて笑っていた
最後の汗の後、お前はハミングをした




そして








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2006/6/20

お前の顔をした何かが物陰から這い出してくるんだ  









お前の顔をした何かが物陰から這い出してくるんだ
この世の負をすべて請け負ったような暗い眼をして
夜があたりを隠すみたいに覗き込んでくる
俺は静かに死ぬ象のような心境でその陰鬱な視線の中をじっと見つめ返す
もしかしたら視線をそらすことが出来ないだけなのかもしれない
それについてどうこう考えるような気分にもなれない
お前の顔をした何かが物陰から這い出してくるんだ
どうしても伝えることが出来ない
思いが胸の中で膿んだようなそんな瞳で
あれは何年前のことだっただろう
俺たちは支配権を求めて最初の目的を見失っていた
それは
何もかも取り返しがつかなくなって初めて気付いたことだ
お前は亡霊になったのか、けれど
唇はこんなに艶かしいままで
少し乱れたくらいの髪が素敵だって話をしたのを覚えているかい
今頃になってそんなことが鮮やかに蘇るなんて
お前の顔をした何かが物陰から這い出してくるんだ、それが本当にお前なのかどうか俺には判別することは出来ないが、その視線…その陰鬱な視線は確かに以前に見たことがある
それは間違いなく俺たちの感覚の交換の不手際から生まれたものだった
あの春のように穏やかな空気が流れた冬の日、俺たちは何も間違えちゃいなかったはずじゃないか
お前の顔をした何かが物陰から這い出してくるんだ、見つめ合えば
何らかの答えが今この場所に浮かぶのか?
だがそこには何一つ描かれてはいなかった
俺は死ぬまでそれを見つけることが出来ないのかもしれない
いつかには
いつでも見ることの出来たそれが
幻のようなお前の姿によって今は不完全に語られている、はずだ、そうでなければ―この状況には本当に何の意味も無いことになってしまう
どうして、なんてもう何の効果も無いのかもしれない、問いかけるにはもうすべてが遅すぎる―そのことだけは確実に俺は把握しているのだ
お前の顔をした何か、お前の顔をして、物陰から這い出してきた何か
これがもしも必然とかいう現象であったのなら
解答の空欄など気にせずに
もう少しこの暗闇を見つめていることにしよう










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2006/6/18

生きたものの匂いを滅びたものの集合の中で嗅いだ  








生きたものの匂いを滅びたものの集合の中で嗅いだ
それは現実とも幻想とも表現のしようが無いもので
しいて言うなら本能的に僕らが備えている大事なことを見落とさないための神経のようなものが
気紛れに感度のつまみを一杯まで回したようなそんな感じ
ふとした拍子に宇宙の果てまで行ってしまうそんなことが
当たり前の循環の中にはたびたび訪れるものだ
僕らはどんな顔をしてそれを受け止めているのだろう
きっとどことなくみっともない顔をしているに違いない、だって
重みをもった真実というものは必ずどこか妙に気持ちいいものだから
そんなときに上手いことが言えたらと思ってずっと考えていた、みんながそこに興味を引くような何かが自分の中から生まれてこないかってずっと考えていたんだ
そこで僕はこんな言葉を書くことにした、「僕らはみんな真実に一杯喰わされている」
僕らはみんな真実に一杯喰わされている、これはなかなかにいい言葉だと思った、特に真実だの心理だのといったものの結構曖昧模糊とした領域を
わりかし上手く表現出来ていると正直言って悦に入ったものだ
そこで僕は喜び勇んでそれを様々な人に読ませた
僕の意気揚々とした顔を見て彼らはちょっと興味を持ってその言葉の周りに集まってきた
なにせ僕がそんなに弾んだ調子を出しているのは滅多に無いことだったから
しかし彼らは僕のその言葉を読んで妙に後味の悪い調子で眉間にちょっと皺を寄せ
もごもごと今ひとつ聞き取れないことを呟きながらてんでバラバラにどこかに散ってしまった
あまりにも釈然としない状況だったので僕は自分が何か間違えてしまったのかと思ったものだった、しかし
吟味してみるにそれはやはりそんなに悪いことだとは思わなかったので、僕は今までどおりそれを大事にとっておくことにした
次にどんなことをすればいいか?椅子に座ってつらつら考えてみるに―要するにここにはこういう問題が付きまとうのだ―言葉は感情ほどに自在な方がいいのか?それとも、あくまで頑固にある程度しか―動かさないほうがいいのかと?
そんなことについて考えたところで決して答えなんか出やしないのだけど
「人間を製造するにはどうすればいいのだろう?」なんて考え込むのとそれは同じようなものだから
どんな病気でも感知出来るような薬剤を製造するのと同じようなものだから
命に関わるようなこと、僕らに何が言えるというのか?
仮にもしそれがあったとしてもそんなもの真実っぽい何かに誤魔化されてるだけなんだ、これは僕が言おうとしてる真実についての定義とはあくまで別の意味でだよ
生きたものの匂いを滅びたものの集合の中で嗅いだ、よく考えてみなよ、ポンペイの灰の中で生きてる人間が見つかるようなものだぜ
肉体じゃない、肉体じゃない…少なくともこれは肉体に大きく関わるような話ではない―そりゃまあ、少しは絡ませないと逆に不自然になるとしたもんだけどさ
つまりさ、魂だけならどこにでも行けるんだ、感覚として様々なものを知ることが出来るんだよな
でも、触れることは出来ない、そんなものは自由だなんて言わない
仮にそれが言葉だとすれば誰かに見せても微妙に皺を寄せる程度だ
言葉なんか自分と同じ重さだなんて思っちゃいけないんだけど
けれどどうでもいいっていうわけにもいかないんだよなぁ
生きたものの匂いを滅びたものの集合の中で嗅いだ、それはつまるところみんなで囲む鍋のようなもので―つまりそこにはいろいろなものが詰め込まれていてさ、僕らは銘々好きなものをそこから選択していく
ゆっくり食べたり、早く食べたりして…すごく水を飲んだり、まったく飲まなかったりして
同じものを食べても同じものが身体に宿るかというとそんなことは無い
要するにさ
僕らはいつもちょっとした定義で遊びたがっているだけなんだということが僕は言いたいわけさ









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