2006/7/31

記号は無駄に意味を話したがる  









犬歯で断ち切った
狂気が胃袋で
慢性的な疾患を啜ってまた蘇生する
ああ、こすれ合う
ガラス片の様な不快な
泣声を内臓があげている
暗く蒸し暑い路地、喉元から這い出す欲望の種類は
あまり人には
見せられない様なものばかりだった
カタツムリの様に
跡を残すそれは
いつかありあまる頃に、オールナイトムービーで見た
もの言わぬ誰かの視線の様に
閉じ込めたものに封じられた不具を暗示していた
ガガ、ガガと
どこかのバスルームの換気扇が何かを絡ませて
リズムを約束しないループを真夜中に投げ出している
そのループに乗せて、千切れた羽根持つ妖精たちが
退屈と呟く代わりみたいに身体を揺らせていた
虹色のネオンが照らし出すのは
天秤の壊れた天国へ生きたがる男たち
意地汚い通りを抜けて、古い橋をゆっくり渡って
後悔の集まる溜まりへ行こう
酒樽の上に、正体を無くした神があぐらをかいて
運命のパズルをいいかげんにあつかっていた
俺は札を出し、そいつに向けてチラつかせ
ちょっとした交渉を持ち掛けた
天国が手に入る目算はちゃんとあったんだ
純度になんか期待はしてなかったんだけど
お前はツイテるって神様は囁いた
「こんなのそうそう入ってこないぜ」
とてもいいシチュエーションだと思ったので
ダメもとで奮発してみることにした
かくして
天国行きの切符がたくさん切られ、身体が甘く夜気に解け始めると
喉に詰まりそうな天国が始まる
夜が明ける頃には
プラスとマイナスが釣り合う、痩せた猫が
寝息をたてる側を抜けて部屋に帰ろう
どんな報いにせよ
何も数えられないよりはきっと幸せなことなんだろうな













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2006/7/30

行方  









碧の彼方の、永遠の境界のほとりで
百万の言葉を閉じ込めて死んでいた旅人
唇は濡れていて、いまにも喋りだしそうなくらいに
瞳は多くの無念に倣い
研磨された宝石(いし)のように見開かれていた
哀しみだと悟ったところで蘇りはしない抵抗の無い肉体
その
ほどよく味わえそうなところは
名前の分からない鳥たちが生きるために使用していた
碧の彼方、巨大な雲のゲートの下で
彼らは奇妙な言語を吐いてばかりいる
聞くともなく
ずっとそれを聞いていると
不思議なことに
それは旅人の濡れた唇から
発せられているように思えてきてならないのだ
行きたいという思いは諦めることがない
滅びた旅人は
我が身を差し出し
転生して、碧の彼方を目指した
羽ばたきが彼を乗せて
無限を謳歌している、その独特のリズムで
地面に映る鋭角な影は
カレイドスコープのような残像を描く
新たな旅の形が、彼を震わせているのだ
紺碧のグラフィックス、観念的なヘブンの下で
似合わないほどに亡骸は崩壊し始めるが
鳥はいっそう激しく
空気を振り回していた
彼は見ているのだ、ここに至るまでの
おそらくは長い長い苦しみの軌跡を
弔いのように自己顕示的に
茜混じりの茶色い羽根がひとひら落ちた
それは
多分墓標と呼んで差し支えがないものだ
いま
彼は唄っている
その唄の題名を知る機会は多分この先もきっとないけれど
メロディは記録されるだろう
何時しか
最後まで濡れていた彼だったものの唇は
渇いて
砂漠のような模様を作っていた
それは
ごくごく自然な現象の一部に過ぎない
碧の彼方、永遠の境界のほとりで
彼は滅び、魂は
噴水のように空に舞い上がり
そして


もう
手の届かない



遠い何かに
くちばしを突き付けようとしていた










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2006/7/29

口ずさむのは昔の歌ばかり  







梅雨明けの、叩きつける光の中
入道雲を切り裂くようにジェット機が飛ぶ
蝉の抜け殻を手に、ソーダバーを不思議そうに舐める
小さな子供の手を引く疲労した若い母親
夏休み、昼の日中から
子供たちが道にあふれかえると
昔ながらの駄菓子屋が活気を取り戻す
男の子たちがラッキーカードを欲しがるのは
宇宙旅行の時代になってもきっと変わらない
二時間に一度、急行が通るだけの河を跨ぐ高架は
やんちゃ坊主たちの格好の度胸試し
ぼしゃーん、ばしゃーん
おあつらえむきにそこだけ深くなっていて
水柱がいちいち太陽を弾く
嬌声が聞こえる、私のブラウスは
そんなに遠いはずではない過去にあたふたする
幾つかの電話番号を不意に思い出したり
今は無い校舎の面影を必死に辿ったりしながら
街に帰るバスを待っている
私を待つ人がみんな居なくなってから
初めてここを故郷と呼べるようになった
挨拶を交わすのは
昔とちっとも変わらない駄菓子屋のおばちゃんとだけ
鼻息の荒い木々たち
古いタービンが煙を上げるみたいに
蝉の声が空へ飛んでゆく
ひとつしかない宿を早く出過ぎて
暇潰しに思いつくことはみんな済ませてしまった
古い水彩画のような
河べりの景色を眺めていると
ここに居て居ないような
夢のような現実の中で
太陽だけが本当のように思える
ハウリングの酷過ぎるスピーカーが
今夜の祭りのお知らせをしている
あのアナウンスをしているおじさんは
きっと誰よりも長く生き続けるのだ
口ずさむのは昔の歌ばかり
距離ではない距離を私は噛み締めて、尚且つだからこそ嬉しいと感じるのだ
帰る場所は嘘でなければならない
冷たい住処に帰ったら日記にそう綴ろう



型遅れのバスの天辺が見え始め、私は一度目を閉じる

次に目を開けたら
この世界は夢なのだ









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