ハイウェイの彼方に砂漠がある  








ハイウェイの彼方に砂漠がある、その砂漠の彼方にはきっと世界の終わりがあって
キリストが壊れた天秤を抱いてぼんやりと考えごとをしているんだ―君はキリストに近づいてはならない、後ろから覗き込んで、「何をぼんやりしているのですか?」などと、尋ねたりしてはならない―ぼんやりしているキリストはきっと何か、途方も無い気分を抱えているに違いないから
おんぼろのプリマスに乗って、ハイウェイの彼方の砂漠を見に行こう、そこには何も無いからきっとすべての事を見ることが出来る
世界の終わりがどうなっているかなんて今まで知りたいとも思わなかったけど
いまはアラク・ヴァグラミアンのようにそこに辿り着きたい―そこにはきっと「そこから夜」のような進めないラインがあって―ヒルコ(神様の捨子)たちが向こうからこちらを眺めている、彼らは人間になりたがっていて
世界の終わりのあちこちにほころびを作るものだから、ガンジーがそれをいちいち修正しながら歩いている
いつかはそこにいたアリストテレスは今日は衣の着心地が悪いらしくて
とある雲の上で引きこもっている…いつぞや秤を探していた女のことを思い出しながら
不思議なもんで
時々その女の安否が気になるらしい
ところで世界の終わりまで走るには相当量のガソリンが必要になる見込みだけれど、砂漠の近くにはガソリンスタンドが一軒も無い―舗装された道があるのかどうかも不明―終わりに向かうのに舗装される道はたいていは無いものさ
ハイウェイの彼方に砂漠がある
ハイウェイの彼方に砂漠がある
プリマスに乗ってさ、この世の限界を見に行こう、そしたらきっと何かすっきりするさ
帰って来れない、なんて




意外と
素敵なことなのかもな










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真実で狂ってる  







すごく長い時間、苦しむみたいに啼く鳥が
不吉な予言の訪れを告げるリズムで啼き続けていた
巷で評判のアイスクリーム・パーラーで銃を乱射した男が
10歳の女の子を人質にして逃亡してるって?それも、酷い話にゃ違いないけど
俺にしてみれば到底
俺の痛みに取って代わるようなことではない
遅かれ早かれ、犯人は撃たれるだろうし―人質が無事かどうかは別にしてもさ
どちらにしても
それはトリガーで決着がつけられる話
そんな個人的な感想の後、街をぶらついていると聞いたこともないような宗派の男に
『神は私たちのおそばにおられます』
と話しかけられた、だったら
いますぐ連れて来て繰れって俺答えたんだ『そういう話ではないんです』そいつはそう言った、『そういう話ではない』俺がプリントを提出するみたいにそう反復すると
『いいですか、大切なのはそう信じることなんです』とまるで自分が精神的に上の位に居るかのように、解きほぐすようにそう答えた
『悪いけど俺には興味がないね』俺はそう答えた、男の言葉は本気で信じてるものの力で満ち満ちていたが
オリジナリティが皆無でまったくお粗末だった、だから俺はこいつの言葉は信じるに値しないと思った
男は天変地異を見るような目で俺を見た、まるで自分の意見以外はすべて邪道だといわんばかり
『いいですか、私は真実を話しているのですよ?』
俺はため息をついて急いでもいないのに腕時計を見た、そして
この男を10歳の女の子を連れて逃げている殺人犯の前に連れて行ったらどうなるだろうと考えた
どうせ、きっと、撃たれるまで話し続けるんだろう…浅はかな言葉は正論でも間違いを犯す
あいつの弾は後何発残っているんだろう?
男はまだ話し続けていたが俺はもう無視をすることに決めて
男に背を向けてさっさと歩き始めた、男が少し声のトーンを高くするのが判った、次の瞬間
背中の左側に極端な衝撃が走り、俺は上手く息が出来なくなって地面にくず折れた『人が大事な話をしている途中で…!!』男はぶつぶつとそう呟いていた
俺は尺取虫のようになりながら背中に手をやった、ゴムシートがずれるような感触があって
見たことない赤さの血が手のひらを染めた、(真実で狂ってる…)喘ぎながら俺はそんなことを思った、男はなおも俺の肩を掴んで引き寄せようとしたが駆けつけた幾人かの善人に引き剥がされた、さっきまでのクールな姿勢とは正反対の
獣のような叫び声をあげていた
あー、くだらねえ…俺はそう思いながら目玉を裏返した


すごく長い時間、苦しむみたいに啼く鳥が、『酷く憂鬱な目覚めの朝』への考察のように鳴き続けている
寝返りを打とうとして強烈な痛みに悲鳴を上げた
通りがかった看護士がドクターを呼んでくれて
『危ないところでしたよ』優しく声をかけてくれた
俺はこの後ピーター・フォークが入ってくるのではないかと密かに期待したが
謎が絡まった事件ではないし俺は生きていたので興味を示さなかったようだ
『あなたを刺した男はその場で逮捕されました』意味は自分で考えてください、とでも言うようにドクターは言った
大丈夫だよ、ドクター
俺は伝わらないことに癇癪を起こしたりするような歳じゃない、生きていたんだし―やつは裁かれたんならもう済んだことだ
傷口が塞がるまでは入院していただくことになります、無難な真実を簡潔に告げて彼は出て行った
『痛みますか?』
看護士がそう尋ねた、うん、と俺は答えた
身体が目覚めたのか、話の途中から疼いて仕方なかった、看護士は痛み止めを打ってくれた、後で胃にきたけれどよく効く薬だった
(まあ…良かったのかな)


次の日、診察室へ向かう途中で
右腕をギプスで固めた女の子とすれ違った、彼女は俺を見ると青ざめてしりもちをついた『この人は違うのよ』彼女についていた看護士がそんなことを言いながら彼女を立ち上がらせ病室のほうへ向かった
女の子は何度かこちらを振り返った―何かされるのではないかというような顔をしながら
『殺人犯に拉致されていたの』俺が尋ねる前に看護士は答えた―おそらくはもっと酷い事態を目にしたのだろう、軽い痛みを覚えたような顔をしながら
『アイスクリーム・パーラーの…?』俺がそう聞くと彼女は頷いた
そうか、と俺は呟きながら女の子の背中を見送った、小さな、あまりにも小さな背中


すごく長い時間苦しむみたいに啼く鳥はいっそう高く長く




薄曇の空へ啼声をエコーさせていた








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こころになんかなんの意味もない  







こころになんかなんの意味もない
君が幾日かふさぎこんだ後で、キラキラした口紅でグラステーブルに
時代錯誤とも取れる、笑えるくらいロマンティックな
置手紙を残したのは昨日のことだった
俺がどこかで派手に酔っ払って帰ったその朝のことで
感傷的になるには少し―かなり、気分が悪くて
こともあろうに夕暮れあたりまで気付かなかったんだ
安い…多分ジャックダニエルとかの
臭いが染みついたシャツに顔をしかめて、シャワーを浴びようとソファーから起きた瞬間だった
君が意図したタイミングにははるかに及ばなかったせいで
何もかも渇いてかすれてしまっていた
最後の夕日が閉めそこねたカーテンから紛れ込んで懸命に反射していなければ
もしか朝まで気づけなかったかもしれない
あぁん、懐かしい歌を聴いているみたいな気分だよ、考えたいことはいろいろあるけど、今はとりあえずシャワーを浴びなくちゃ
そのうちこんな目にあうことは判っては居たんだ、なんと言うか、その…
修復作業ってやつが苦手な性分でさ
もとは、そう、相当キラキラしていたのだろう口紅の字体を
おぼつかない指先でゆっくりとたどった、最後の…そう、握手かなんかのつもりで
隣りの奥さんの連れたまだ子供の
ウイリッシュ・コーギーの鳴声がうるさかったけど
不思議なことに幸せなときよりは幾分マシだった
シャワーを浴びよう、シャワーを浴びてすっきりしたら
部屋を少し片付けなくっちゃいけないな
痕跡には容赦なく対処しないときっと痛い目に合うから
こころになんかなんの意味もない、そうだね、きっと、君の言うとおりなんだろう
君は今頃もっと深くその言葉の意味を知っている、諸刃の剣しか―
そんなものしか振りかざせないようなお人よしだから、今頃はどこかの
駅かバス停で静かに耐えているんだろう
俺はシャツを脱いだ、それから
あたりに散乱した、落葉のような抜け殻をひとつずつ拾って洗濯機に投げ込み
洗剤と柔軟材を放り込んでボタンを押した、そんなものを押すのは本当に久しぶりのことだった
そのうねりを聞きながらシャワーを浴びていると、水に殴られる繊維のように
自分の何かがこたえてゆくのが判った
こころになんかなんの意味もない、うすうす感づいちゃいたけど
その気になるにはいろいろなものが足りなさ過ぎる呪文だな
切味の悪い刃物みたいで、多分あとあとまで
傷口は傷み続けるのだろう…多分君も同じようにね
痛みの数は同じだ、過ごした日々の数が一緒だから
フェアにしないと泥仕合になる―もうそんなこと気にする必要もないのかもしれないけど
気がつけば
ふやけそうなほど湯を浴びていた
やれやれ、飲みなおしたいけど
それはやっぱり止めといたほうがいいんだろうな
こころになんかなんの意味もないよ、湯を止めたらシャワーヘッドが
訳知り顔でそう呟いた、うるせえよプラスティック
あぁんと…
洗濯物を干す場所がねえな、それにいまからじゃなかなか乾きゃしない
恨み言を言おうとして止めた、そんなもの絶対自分に返ってくるから
目覚ましの電池を入れ替えないといけない、でないと明日絶対起きられないから
朝は少し早めに起きて、何か作るかどこかで食べるかしなくちゃいけない
こころになんかなんの意味もない
次の休日までに
いろんなことを塗り替えてしまおう…いやに湿度が高くてもう汗がにじむ
こころになんかなんの意味もない
シーツを取替え、テーブルを片付け、ゴミをまとめ、雑誌を縛った
珈琲を沸かし、2杯飲み、ピザを頼み、また沸かし
TVを見ながらああだこうだと
AC/DCの半ズボンや
アクセル・ローズの髪型にひととおりいちゃもんをつけながら腹を膨らませた
それが済むと食卓を片付け
汗を流すためにもう一度シャワーを浴びた、それから
明かりを消してベッドにもぐりこんだ、清潔なシーツからはいい匂いがした
こころになんかなんの意味もない
おやすみ、さよなら




今夜からはよく眠れるといいね










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