すでにわたしは化石を探している  






遅咲きの
シダレエンジュの側を抜けて

イヌゴシュユの先の
人口の小川に掛けられた橋を渡り

さまざまな低木が両脇に植えられた
凝った石畳の遊歩道を


さっきから
もう
交わす言葉もなく

あなたは
私の手を取って歩くべきかと悩んで
わたしは

こちらからその手を握るべきかと
幾度も
考えあぐねて


その分だけ
二人の歩幅はいつもより乱れる



蝉がみんな役目を終えてしまうと
夏は、もう

恐竜の時代ほども遠くて


高い
つっけんどんな太陽に顔をしかめながら

そのころわたしはアンモナイトで
あなたが
その側で眠ったシーラカンスだったら

どんなに
ロマンティックなことだろうかと



古代の海に未来を投げ捨てた



互いに
傷つくのを恐れて
心に
重たい鎧を着せてしまって
そのせいで


何をするにも
ぎこちなくしか出来なくて



いつも
往ってしまったものは
いやになるほど遠いけれど



この夏の余韻は
きっと
散々なまでに
鈍く疼くだろう





いつかと同じ石畳
いつかは
お伽の国のようだった背中

すべて





木っ端微塵になって


落ち葉に埋もれて
声もなく


死んでしまうのだ



ああ、陽射しが眩しい
思わず

言葉が漏れたけれど




あなたは
もう




それが聞こえないところまで
歩いて行ってしまっていた





0

きっとある日、刑は執行されるだろう  










72度の瞬きの後で海の砂の混じる爪を見つめ
日没の後で2度変化した気温に無意識下でわずかに反応しながら
オン・デマンドの欲望をJ-POPのシングルのように入手して
手洗い場でいびつな残り香にはっとする
光の反射を利用した鏡像を眺めて
そこには何も映っていないことを充分なほど確認した
それが真理かどうかはまた別問題で
悟りを日常に差し込む枝折のように扱えるようになれば
毎日を生き抜くぐらいのことは何とかなる
終始詩を読み違えている宗教家が弾圧をしている
言葉はひとつでありながら
無数のアティチュードを組み込めるカプセルであることが彼らには判らない
まずいことに
絵本のような判り易さはいとも簡単に主流になってしまうのだ
友達の詩人はつい先日朝日の当たる海のそばの公園で
詩とは鼻で笑い飛ばすべき代物だと認識している連中に公開されながら死刑に処された
彼の生首はすごく虫が沸くまで放置されたが
そこに住んでいるホームレスによって規定の期間前に魚の餌になった
それを見送るべきか見送らざるべきかあれこれと思案してる間に
きっとティッシュペーパーのように溶けながら何も聞こえない水床を目指したんだろうな
きっと
役に立たない組織がいくつか涙のように離れて浮かんだのだろう
インスタントのコーヒーを飲み干して時計を見たところで
なんとなく身の回りの整理をしておいたほうがいいような気になって
夜明け近くまで部屋を整頓し続けた
詩集の名前にはいつもどこか暗がりを匂わせるイメージがあって
そこで目を凝らすことこそが真剣さだと俺はずっと言い続けてきたんだ
朝日の天辺が見えるころ数人の足音がして
高圧的なノックとドアベルが静寂をひとつ下の階まで追いやった
せめてシャワーを浴びてもう一杯
コーヒーを飲むまで待って欲しかったのに
汗まみれの身体を軽く拭いて
普通の客を迎えるみたいにドアを開けた
前時代的な黒いマントをすっぽりと被った小柄な白い仮面の女と
オセロの駒を眼窩にはめ込んだような眼の警官が俺の名前を確かめた
「その男は災いです、生かしておいて良いことはひとつもありません。」
本当は神すらそんなことは決めたりしないのだが
警官はよく光る鎖でしっかりと腰につながれた銃を抜いて俺の心臓に狙いをつける
「ご同行願いたい。」
俺は両手を挙げて降参の意を示し(そういうことは別に初めてではないから)
彼らに挟まれてパトカーに乗り込んだ
「詩人狩りだわ」何事かと集まった近所の住人が呟くのが聞こえた
俺は女に咎められるまで小さく笑っていた
決して虚勢を張りたいわけではなかったし恥ずかしかったわけでもなかった
ただ、どういうわけか可笑しくって笑っちまったのさ
「あなたは死刑になる。」
女が脅すときにありがちな低い声で俺に囁いた
知ってるよ、と俺は答えて鼻の下を擦った
「あなたのやってることには何の意味も無い…あなたの綴る言葉は何も生み出さない。」
「そしてあんたの真実は傲慢だというわけだ。」
仮面の下で女が眼を剥いた、怒るなよ
神様にそっぽを向かれちまうぜ


次の日には俺は処刑されることになった、裁判なんて対して真剣に行われなかった
詩人が気に入らない、奴らのスローガンはいたってシンプルなものなのだから
堤防のようなごつごつしたベッドで数時間眠って
次の朝には例の公園に大仰に引き摺り出された―杭に縛り付けられ、無数の銃口が俺に突きつけられる
まったくもって陳腐に芝居がかっているとしか言いようが無い「何か言い残しておくことはあるか?」黒いマントに眼のところだけを隠した初老の男が聞いてきた(彼はたぶん神父のような役回りなのだろう)―俺は数度頷いて息を吸い込んだ
潮の匂いが鼻をくすぐる、(おい、早くしなよ、先日死んだ友達の声が聞こえたような気がした)
諸君!と俺は声を張り上げた、公園にはたくさんのギャラリーが今日も集まっている、俺はなるべく後ろのほうまで聞こえるようにと声を張り上げて―


俺たちの言葉は、お前たちの使っている言葉と同じじゃない、意味なんてそんなものは限定されたりはしないんだ
詩篇に意味を求めたりするようなやつは阿呆だ
それはただのイメージの羅列なんだ、詩篇は、工場のよく見えるところに張られるスローガンなんかじゃない
それは意味を限定されるものであってはいけないんだ、あらゆる人間が本当は限定されてはいけないのと同じで
辞書を引けば理解出来るようなものであってはならない!―イメージを漠然と捕らえる訓練をするんだ、その水がどこへ流れていこうとしているのか―
流れに寄り添うような感覚を感じなければ人間はどこにも行けやしない
言葉はひとつでありながら無数の顔を持つ
お前たちが今見つめているものの側面について考えたことがあるか?一目見たときの印象のみで全てを判断しようとしてはいないか?
早く出る答えこそが真実だと思ってはいないか?


よく聞け、この街から詩篇が消えようとしている
言葉のために生きて、言葉のために血眼になってきた…
俺はそのことを少しも悔いてはいない、どのみち
それが無ければここまで生きてはこれなかった!
そこに居る阿呆どもが全ての意味を取り違えて
人間のしきたりは簡単なものになった
よく聞け、意味を限定してはならない
くっきりと見える輪郭こそを疑え!
鮮明な意思をこそ疑え!
俺たちは不透明だ、だから生きようと思えるんだ
答えなど一生巡り合えないものだということを……


誰かの合図が俺の言葉を遮った
無数の引金が引かれ俺の肉体は陥没し
火薬によって全てが焼け焦げてゆくのが判った、悔しくは無かった―むしろ、まあよくやったかなと
即興の割には上手くやったかななんてそんなことを考えたくらいだ―最後まで聞きたいと思った誰かが後は何とかしてくれるさ



そして

魚よ、喰らうがいいや―不透明な脳味噌は格別な味がするぜ…










 
0

とるに、たらない  











黙って
虫の様に


時々
震えて



瞬きの度に
何かを見落としたような気がする
呼吸の度に


理由を忘れた気がする
2時間前から降り出した雨は



大人しいが意固地な女の様に

街に張り付いて



パソコンのプレイヤーでは
鈴木祥子が流れてる

本当にいいものはこっそりと生まれて



いつはたと気づいても
必ず生き残っている


サヴァイバルや
ポエジーを

大上段から振りかざすのは辞めようや
もっと呼吸の様でいい
もっと


無意識に呟く言葉みたいに



革命なんか起こらない
魂なんか伝わらない
倒れた人は起こせない




言葉をいったいなんだと思っているの?




俺はそこまで行かないよ
だけどこれに嘘は無いよ

間奏の弦楽はスキャットを拒否する


チッ、チッ…と、舌で湿ったカウントを取って

次のメロディーの頭を掴んだ、そんなことをしながら書いているからいつもより行間を多用する



行間だの韻だのって

ひとつの
思わせぶりみたいなもんだよな
言いたいことがあるのに黙ってみせる



本当の旋律は隠してみせる
俺は何もしていない




駆け引きの無いものが本当だって
昔から

教えられてきたもんでね



だいたいのもんは勝手に作られる
俺のこの身体だってそう




言葉が
そうであっていけない理由は無い
もちろん
これも




ひとつの与太話みたいなもんさ











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