2006/11/18

ピースタイム・ポーレットシンドローム  








壊れた小動物の死骸、数えると六と半分あった
もう半分をどうしても見つけることが出来なくて…あれはいったいどこへやってしまったのだろう?さっきまで一緒に遊んでいた名前も知らない子に聞けば分かるだろうか、だけどあの子はもう母さんと手をつないで帰ってしまった
半分だけのすずめ
半分だけのすずめは、片付けるのを忘れたブロックによく似ている
次にどれと合わせればいいかまるで判らなくなってしまうのだ…確かにその中にあるはずなのに
半分だけのすずめの半分のところをずっと指でなぞる…短い毛が指先を茶化して気持ちいい
他にも何かに似ていると考えていたら
落花生の割れた殻によく似ていると思った―手触りはそっちのほうが近いみたい
なぞるのに飽きるとそれを脇へ置いて
となりにいた子猫を抱えた
とてもよく出来た紙の人形みたいな軽さで固まっている、きっとこの子は自動車にやられたのだ…自分が生きるかどうか激しく知りたがったみたいに大きく目を開いている
あたたかさがないものは抱き上げても少しも通じ合えない、でもわたしはそうしているのが好きだった
足のないものや
腕のないものや
目をなくしたもの
舌を抜かれたもの
それらはとてもよくわたしに似ていると思った
だいすきだから埋葬はしない、砂に変わる前になると
彼らはひどい臭いを立てたりしないのだ、だから隠していたって感づかれることはない
ズック袋に入れてたからものと名前をつけたがらくたを上にかぶせておけばママはそれをきちんと調べたりしない…子猫の次は子ネズミ、死んでからだととても仲がいい
まだやわらかだったときに尻尾を蝶結びにしておいた―それははっきり言ってとても苦労した
生きていても死んでいても
ネズミの心は分かったことがない、彼らとはどうも見つめあっている感じがしない
それはどちらにしても私の勝手な感じ方だけど…この子に関して言えばもう死んでからだいぶになるし…それにしても
死んでからじっとしているネズミはびっくりするほどかしこい生き物に見える―だから生きているときははっきり姿を見せないのかもしれない
相対性とか量子とかよく分からないけど、そんなことを話させたら朝まで話してそう
すずめ、さっきよりひとまわり大きな
すずめは大きくなればなるほどおばさんに似ている、市場で買物をしているおばさんの後姿、このすずめを見ているとわたしはいつもそれを思い出す
このすずめはどういうわけだかくちばしが少し欠けていて―それはまるで古いカップのように―それがわたしはとても気に入っている
くちばしの欠けたところをなでてはとがりぐあいにうっとりとする
子犬、この子は生きているときから知っている
最初に自動車にやられたときに右のうしろ足をなくした
ひょこひょこはねてくる姿がかわいいのでいつもパンを分けてあげていた…わたしはあまりパンが好きではないので
あるときこの子が道でわたしを見つけて近づいてこようとしたときに、角の向こうから自動車の音がするのが分かった
わたしはなるだけ角に近いほうにパンを投げて、この子が近づくのをじっと見ていた、うまく逃げられなかったこの子の首のところを自動車は引いた、そして悪いことだとは知らないみたいに道の向こうへと走り去っていった―すごく早い車だった!
だからこの子はいまでは足が片方なくて首がほとんど真後ろを向いている…だからこの子と目を合わせるにはこの子を後ろ向きにしなければならない、わたしはそれがとても気に入っている
さっきのは白い猫…こんどは黒い猫
この子はとてもほそながくて…誰かのうでみたいに伸びている、この子になにがあったのかは少しも知らない
そんな格好で死ぬ猫はいないって友達は言ってた…つまり道でこの子を一緒に見つけたときに
ママが帰ってくるような気がする、のでわたしは彼らを集めてズック袋に詰め込んだ―紹介出来なかったのは友達が殺したハムスター



ママ、お帰り
今日のごはんはなに!?



今日のごはんはシチューだった、とうもろこしで出来ているの、とママは言った、なので、とてもおいしかった






手を洗っていなくて…指先から動物達のかすかな臭い






いい臭い









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2006/11/17

僕は準備運動をしたことが無い  








邪険な23時が身を切るほどの
硬質な糸のように絡みつく
停止ランプが灯りっぱなしの思考の透間
出しそびれた手紙のことは決着がついた
後は願ってもない嘘をまたつくだけ



電話の向こうに居る人は
いつも何かを決めあぐねているように思える
僕の話し方が不味いのか、はたまた
そいつとは一生折り合えないとしたものなのか
いつでも離れてゆく人は
前に居なくなった誰かに似ている



うまく取れなかった耳垢が
大事な言葉を遮断する
聞こえなかった唇の動きは
良くも悪くも意図以上の
たくさんの項目を脳裏に流し込む
上手に別れることが出来ても
たぶん無傷でなど終わるはずがない



青い電灯の下、またしても
約束が嘘に変わることを知る
真っ当で、懸命だからこそ
結末はいつも始末に終えない
人気の無い非常階段でしか
自分の心を晒すことが出来ない
ごきげんよう、時々は僕のことを思い出してください
昨日のテレビのことを思い出すみたいにでいいから



見送っても居ないはずの後姿、どうしてこんなに胸を絞めつける
気持ちが交錯することなど在り得ない、すでに分かっているはずじゃないか
そこには誰も居なかった、そこには誰も居なかった
そこには初めから誰かが居たことなど無かったんだよ
軋む椅子に腰を下ろしたら窓の外で猫が鳴いた
毛並みの悪いあいつはいつでも食べ物を恵んでくれる誰かを探している
自動販売機に飲物を買いにいこう、別に喉など渇いてもいないけど
ここにこうしているよりははるかに何かをした気にはなる
暖房を消して温かい缶コーヒーを飲もう
窓を少し開けて風に震えながら
充満する過去に潜むものを換気しよう
財布から小銭だけ出して
子供のころのように目的地まで走ろう
馬鹿みたいに息を切らせて
あたたか〜いと書いてある欄の小さなボタンを押そう
大事なのはきっと実質的に何かをしでかして見せることなのだ
もっと早くもっと何度もそうして見せるべきだったのだけれど
生憎そういうことを積極的にやるのは誰よりも苦手なんだ



部屋に鍵をかけて僕は走った、そこから数百メートルの二台の自動販売機まで
一台のミニバイク、二台の乗用車、一台のパトカーと途中ですれ違う
僕を僕と知らないままみんなすれ違ってゆく、信じられないほどに息が苦しい
ちっとも身体など温まりはしない、季節はもうしっかりと冬なのだ
遠い、見たことも無いようなところまでこのまま走って行けたらなぁと思う
だけど道の先には自動販売機の明りが見え始めている、僕はスピードを上げる、どうしてこんなに簡単に目標など定めてしまったのだろうと後悔しながら、あらん限りの力を使って街角の自動販売機に向かって疾走した
激しく息が切れて眩暈がした、ぜえぜえと鳴きながら販売機にもたれていると
水商売の女が二人不躾な視線を投げかけながらだらだらと通り過ぎた
きっとあいつらは息など切らしたことは無いのだ、チープな恋愛のシナリオの上でしか
長い息を吐いて小銭を取り出した
「ありがとうございました、おやすみなさい!」と可愛い声で自動販売機は言った
今日聞いた中で一番好意的な感触だった
でもここいらの何軒かにはきっと嫌われているのだろうな、とそいつの大きすぎるボリュームに苦笑しながら帰りは歩いた
左足のふくらはぎが少し強張っていた




僕は






準備運動をしたことが無い











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2006/11/13

虚勢の旗はみすぼらしいけれど  











ろくな気分じゃない
ろくな気分じゃない
いつでも
この時間には
浮わついた調子がどこかへ消えてしまって
夜気の冷たさに心が沈殿を始める
閉め切っているのに揺れるブラインド
何を流し込んでも
すぐに渇いてしまう貪欲な喉
思い通りになることなんて
意外と多いものだとたるんだ錯覚に踊らされていた
欠落の優雅なディスコビート
4Wのスピーカーでも
過ちを笑うには充分すぎる響き具合さ
人生は割とマガジン
面倒なところを読み飛ばしてしまって
だけど
そこには結構大切なことが記されていたみたい
あのページはどこだ
あのぺーじは
めくってみるけど辿り着けない
行き過ぎてからいつも間違いに気がつく
卓上の小さな時計
電池が切れ始めて
過去と未来を行ったり来たり
最小規模のタイムトラベラー、時間軸を外れたら
たいてい歩みを止めてしまうだけさ
もう駄目だと思う前に何を落とした
もう駄目だと思う前に
あんたはいったい懐から何を捨てたんだい
拾いあげてみたら
それは何かを書き込む予定だった
小さな白いノートだった
それは
生まれる前に死んだポエジー
生まれる前に死んだポエジー生まれる前に死んだポエジーは
書かれてしまうことよりずっと悲しい
言葉の前に閉じられた唇
幽閉された
文字にも音にもなれない気持ち
メランコリックだと思うかい
そいつらのことをメランコリックだと
生まれてからならそれも妥当なんだけどね
受け止めるために
綴られた旋律であったなら
だけど白紙
だけど
それは白紙に過ぎない
負けると知る前に死ぬ10代みたいで
悲しいけれどとても滑稽でもある
哀れになるまで生きなくちゃ
なにがあろうと
老いぼれて哀れになるまで
歩けなくなっても
長椅子にしがみついて
悪足掻きの何がいけない
俺はそこまでもがくつもりだよ
叶わなかったノートなんか捨てて
文字で塗り潰したノートを
色の無い
感情の絵画を
そんな戯れに
ずっと奪われながら
誇れなくとも
儚かろうと
それがもっともだという顔をして
ろくな気分じゃない夜を
呑気なクロールで
長く息継ぎをして
そんな海で会えたらいいね
そんな海で会えたら
まんざらじゃないねって笑いながら
誇れない蓄積を辿って
せいぜい塗り潰していこうじゃないか













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