2007/6/13

草臥れた髪飾りのエミリー  










草臥れた髪飾りのエミリー、幼い頃に熱病にやられて
言葉をまったく解さなくなった
草臥れた髪飾りのエミリー、仕事は羊の世話、老犬のアルマと一緒に
草原で草を食わせる
草臥れた髪飾りのエミリー、言葉が使えなかったけれどたいていのことはゼスチュアで伝えることが出来た
言葉が使えなかったけれど彼女はとても頭のいい娘だったのだ
草臥れた髪飾りのエミリー、羊が草を食う間、アイルランドで作られているらしい
小さな横笛をいつも吹いていた、その横笛は祖父の形見で
草臥れた髪飾りは母親の形見だった
父親は誰も殴れない優しさだけはまだ無くさないでいて
仕事に出掛けない日にはずっと酒を飲んでいた、暴れたりすることはないが
終始、切り刻まれているのだった
草臥れた髪飾りのエミリーが吹く笛の音は
はしゃぐ子供の矯声のようなのに
旋律はいつもどこかもの悲しかった
草臥れた髪飾りのエミリー、雲を読み違えて夕立のさなか雷に打たれた
それで彼女は左の膝から下を無くした
義足を買う金などあろうはずもなかった
父親はわりのいい仕事に変えたが
誰とも上手くやることが出来なかった
エミリーは幾日もしないうちに外に出て
アルマと共に羊に草を食わせた、髪飾りはやはり草臥れていて
横笛の音はあてもなく響いた
その年の冬にアルマが死んだ
羊と一緒に
帰ることは出来なかった
草臥れた髪飾りのエミリーが
近所の農夫にそのことを伝えるのには一時間がかかった
父親は羊を手放して酒樽に変えた
父親はもう一人で歩くことすら出来なくなっていた
エミリーの知らないうちに仕事は無くしていた
家には
もう
金になるようなものはない、もう羊の居なくなった草原で
草臥れた髪飾りのエミリーは横笛を吹いている、その横笛はアイルランドで作られていて、音色は子供の矯声のようで、なのに







旋律はいつもどこかもの悲しかった












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2007/6/6

振動しないが揺れている  








君は手紙を書き忘れて
僕は苺を潰し忘れて
僅かなミルクは期限切れ
昨日の遊びの捨て忘れ
ローリング
ローリング
すべてが転がったまま
得るも失くすも無い
点在するパーツ
組み上げられることは
多分
もうしばらく無いままに
未完成って素敵だって言ったら
完成することが怖くなった
登りつめたら落ちるのみなんて
登り出してから怖がりゃいいのに
君は下着を外し忘れて
僕は帽子を被り忘れて
余計なものが宿るかもしれない
そのときになって
迷うのはやめにしようね
三年前の今日の日付で終ったままの日記
それは果たして未来か過去か
注釈ばっかつけたってしょうがないじゃん
詩について語ってることのほうが
数えるまでも無い詩人
インスタントコーヒーみたいに
パッと出る言葉でどうでもいい
責任なんて持ちたくない
ここには何にも無い
何にも無いというものの見せ方
的を見ないマシンガン
僕はここには居ない
君は
鍵を持って出てしまう
合鍵を作ればよかった
合鍵を作ればよかった
鍵穴が制限されて
縄の後もつかぬまま完璧に縛られた手足
ハロー、ハロー、聞こえますか
応答なんて期待しては居ません
そんなものバラエティショーのキャプションみたいなものです
ハローハロー聞こえますか
気の利いた遊びを入れてください
〆るつもりで用意したフレーズを忘れました
僕はここには居ない
互いに向かい合って
眼の中覗きこんで
完璧なエンプティを二人で笑おうか?
いつかはそこに居たりしたんだろ
Eメールのように迅速に
そこに存在していたりしたんだろ
爪にこびりついたものを顕微鏡で見てみな
忘れたはずの








〆のフレーズが
すごい眼で睨んでるかもしれないよ








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2007/6/1

ベイビー・ブービーの憂鬱(有能な爆弾処理班)  










なんとなく返り見た国道の終わりに
羊歯のように垂れ下がっていた死神の笑い
今夜もブービーだった
ケツについてるのは
今日までに死んだ誰かの残滓さ
伝えるべき事があったはずなのに
途切れた昨日に手を伸ばしているうちに忘れてしまった
ウー・ラ・ラと
誰かが歌っていたんだ
狩猟犬みたいなしわがれた声で
今にもペッと痰でも飛ばしそうな
ザラザラでガラガラのしわがれ声さ
なのになんで
こんなに美しく聞こえるんだろう


点滅信号、点滅信号の下に、俺は立ち尽くしていた
「押してください」と赤いランプが控えめな女のように脅していて
押したはいいがいっこうに青色になろうとしない
渡ってしまってもよかった、馬鹿正直に待ちつくしてから
向こう岸に立ったときに初めてそんなことを思う
追いつけるものが数えるほどしかない、偉大なる内奥はいまだに遥かな地平を目指している
ヘイヨー、舵を未来に目指せ
自分のことを笑ってくれる人間のカウントをこの世で最高値にするために
ベイビー・ブービー、かろうじて呼吸をしている人間の
お前はまごうことなき最後尾さ
なんとなく返り見た国道の終わりで
羊歯のように立ち尽くしていた死神の
三日月のような鎌の切っ先のエロス、それは確かに誰かの存在を
暗い沼の中へ放り込んだのだろう


国道沿いのレストランの窓際に腰をかけて
(おそらくは)大々的に宣伝しているレディースグラタンセットを食べている着飾った週末のOLと視線が合った
俺は出来る限り切迫した表情を作って
「爆弾が仕掛けられてる、逃げろ」
と、昨日マンガで読んだ台詞を口パクで言って
後ろを気にしながら全速力で逃げた
しばらく走った後でネスカフェのコーヒーを買って飲みながら
あのあとレストランが大騒ぎになって
ローカルニュースで報道されたらそりゃあ…なんとも虚しいことだろうなと考えたんだ
一息つきたくなって
ツタヤに入って週間プロレスを立ち読みしていたら人差し指でチョンチョンと肩をつつかれた
きょうび知り合いに出会うことなんてもう無いと思っていたなと思いながら振り返ると
そこに居たのはついさっき爆弾の告知をしてやった着飾ったOLだった「作戦は失敗したわ、グリフォン」とそいつは肩をすくめながら言った
「爆弾は私が処理しました」
俺はしばらくぼんやりと立ち尽くしていたが、「そうか」と一言口にして
週プロを置いてツタヤを出た
女は黙ってついてきて
俺が赤信号で立ち尽くすと距離を詰めて腕を取った
俺は空を見た
雲が少し多いけれど
星がちらついて見えた





そうか
爆弾は処理されたのか。








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