喰らう(葬送)  













影法師が長く長く伸びるさまを忘却と相乗しながら
幾通りも脆く深く残る痛み放熱と疼く不手際
誰か誰かこの掌に必ず刻まれる言葉を耳打ちしてはくれまいか
遠く遠く見た幻は震える灼熱の嘆きにのた打ち回り消えてゆく



在る、なんて言ってもらえればそれで満足するのか半端者よ?
在るなんて無いと同じくらいくだらない浅はかさなのに



野良犬がほじくり返した密かに土葬された赤子の不完全な骨格のひび割れ
幾つもの蛆虫が這い出してきて路面を覆う、白い白い葬列が報われぬ死を彩ろうとしているのだ、見ろ
あれはこの土地に生まれてきた人間どもとまったく同じ数なのだ



累累と上がり下がり唸り笑い嘆き哀しみ
ひょうひょうと倒れ悶え震え障り勤しみ
今生と来世と脳漿と忘却と憎悪が混濁と逸脱と
蛆が湧く蛆が湧く蛆が湧く同じ数同じ数同じ数だけ
白く緩やかな波を打つ路面、輪廻の在り方が最も簡単な言葉で語られてゆく



「お前も屠った、お前も屠った、お前も屠った、屠った、屠った、いつぞやにいつの間にやら」
「血肉体液に塗れて美しいものを悟っただろう脳漿に蠢いた光その深遠のことを覚えているだろう」
「解脱などと!奇麗事だけの夢物語を!」
「身体のある命は身体とともに悟るのだ、肉欲を穢して何を魂(たま)と言う」
「すえた臭いを啜れ、生まれたときをまた覚えるみたいに」



夏を捨てるように早く日が暮れた、怯えた御霊を見ようともしない速度で
幌を被すようにもろともに居なくなった、猥らな物の怪どもが舌なめずりをする時間
裂けた口腔から漏れた涎が白い路面を洗い流す、のろのろとけれど確かに
赤子の骨は紅色の舌に巻き取られて砕けた、おお、形ある限りあいつは生きていたのだろう、夜気に紛れてか細い悲鳴が確かに木霊した
記憶の在り方はなにひとつ失うことなく…むしろ忘却という虚偽を頑なに構築して
赤子はまるで生まれたもののように




喰えぬもののようにひとつ吐き出されたのは内側に隠れていた腐らぬままの目玉だった



夜の鳥が過呼吸のように啼きながら黒雲の混じる空を石の樹木に向かって飛ぶとき
閉じ込められていた腐臭がひとつした、鳥は顔をしかめ鼻を鳴らし
さらに高い高い声で境目を切り裂いた、見事なまでに深く避けたそれに鳥は飲み込まれ…ぼりぼりと骨の砕ける音
出来た傍観者はやつの為に己の眼球をひとつくり抜いた、それは裂け目に飲み込まれるように浮かび…細筆の失態のような点を現れたばかりの路面に残した、零れた赤子の目玉が確かにそれを知っていたというように飛び上がり―腐臭とともにぽかんとした眼窩にぴったりと収まった…なんという死の香!出来た傍観者は悲鳴を上げるが、新しく見えた光景にその咽は押し潰される




唯一の子宮の持ち主にそいつは殺されたのだ




粒子の粗い影のような「語るもの」が現れ何か聞きたいことがあるんだろうとでも言うように傍観者の新しい瞳をじっと覗き込む「これはたちの悪い夢か」傍観者は問う―気も遠くなるような死の香に視界をぐらつかせながら「いいや」語るものは言う―心なしかその役目を大儀だと見せたがっているような目つきをして
「真実だよ、そして真理だ」
真実だ真実だシンジツだしんりだ…軸を忘れた回転遊具のように揺らぎ回り揺らぎ回り揺らぎ回り
語るものは飽いたと言わんばかりに二の腕を掻いて消えた



そして新しい唯一の子宮の幻…おお、こいつは思いのほか長く生きていたに違いない、すべて聞いていた、すべて見ていたのだ!!真実だ真理だ真実だ真理だ、日すら重ねぬものはあらゆるものを知ったのだ!!怨むべくか?それは怨むべくか…?
傍観者は首を掻き毟った、咽笛が焼けるように熱い…!
伸びすぎた爪が最初の肉を齧る頃それが肥え太るを待っていたやつらが混乱に乗じて口腔を裂き、それはどこかで見た、それはどこかで見た、それはどこかで見た、それはつい今しがたふたつの目のあるときに…





傍観者は
喰らう













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