Solitude Standing  














そこは永遠に暮方とも明方とも言い難い世界
乾涸びた紙粘土みたいな体毛の無い子供達が
跳ね過ぎて陸に落ちる魚の様な足音を立てて未来の無い校舎の
消灯されたままの廊下を駆けてゆく
嬌声は聞こえるがまるで質の落ちたカセットテープの様な出力だ
女が居る
やはり乾涸びた紙粘土みたいな
子供等より窓の側に居るせいで顔の造作がはっきりと分かる
楕円の球体にふたつの楕円を
後から貼り付けた様な目
なんとなくそこにあるという程度に盛り上げられた鼻
ポカンと開いた形で
縁取りをつけられた口
だが不思議な事に
そいつがどことなく優しさを持っていることは
直感に近い形で理解出来る
薄暗い廊下の向こうで酔った様に跳ねている子供達(多分戯れているのだ)を見て
幸せを感じている様に思える
校舎は鉄筋だが
途方も無い年月が経ったみたいに劣化している
窓ガラスはほとんど割れていて
子供等が跳ねるたびに詰った鈴の様な微かな音が聞こえる
彼等は靴を履いていないようなのに
それは彼等を指すことは無いのだろうか?
(もしもそれが危ないのなら女が咎めているだろう)
しばらくの間そんな光景が続くが
やがて喧嘩が始まる
普通の子供等がするのと同じ様な理由で
誰かが誰かを殴ると
ありえないくらいに頬がへこむ
殴られた方はしなるように倒れ
床に触れた部分がまた形を失う
女はそれを見ると彼等に向かって歩き(まるで急いでないのに速い)
殴った方の子供をもの凄いオーバーハンドで殴る
女に殴られた子供は壁まで飛び
壁に激突して完璧に形を失う
二人減る
女はどうやら彼等の引率者らしい
彼女が手を叩くと
子供等は彼女のあとについて教室に入る
彼女は教卓に着き
子供等はそれぞれの席に座る
数はぴたりと合う…まるで初めからあの二人は居なかったというように
女は一度教室を見回し全員が揃った事を確認する
(どうやら30人ほどそこには居る)
女は黒いバインダーを手に取り
出席を取るみたいに小さく頷いてゆく
呼ばれたらしい子供の頭が同じ様に頷く
(そこに声は無いのだ)
そうして全員の出席を終えると
女は全員の頭を叩き潰す―順番に
茸に手足が生えたみたいな
子供であったものを見回し
女は腰に手を当てて何事か考えている
予定外だったのか予定内だったのか
その表情からは読み取る事が出来ない
やがて彼女は二、三度頭を掻くと
ゆったりとした足取りで教室を出る
子供達はぴくりともせず
群生する茸の様に月の光に照らされている
月は教室の窓から見ることが出来る―脂身の様に白い輝きの月だ
寒い冬に指の関節に生まれるひび割れの様な形をしている
微動だにしない時が流れる




やがて女が返ってくる
プラスティック製の大きな
ヘラの様な物を二つ下げて(一つは幅が広く短い、一つは幅が狭く長い)
そうして出席番号一番の子供から
頭の形を器用に整えてゆく
まるで急いでないのにとても速い
もう一度子供の形に変えるまで三分も掛からない
再生された子供は順番に廊下に出て
教室の方を向いて行儀よく整列していく
全員が廊下に出て綺麗に並び終えると
女もヘラを置いて廊下に出て行く
女が彼等の方を向いて廊下の真ん中に立つと
彼等は二列に分かれて彼女の前に並ぶ
彼女は彼等を引き連れて
白い月に照らされた何もないグランドに出る
彼等は手を繋いで円を作る
女の首が歌うようにリズミカルに揺れる
輪は広がったり縮まったりする
一番小さな円の時に子供等は首を傾げる
それは真剣さすら漂う程に見事な一致を見せる
いったいそれがいつまで続いたのか…途方も無い時が流れたように感じる頃
女の右隣の子供から順繰りに消えてゆく
(それでも彼等の動きは少しも乱れる事は無い)
一番小さな円の時に首を傾げる動きで
ひとりまたひとりとそこから消える
女も子供達も
そのことはすべて理解しているといった様子で踊り続けている
そうしてすべての子供が消えた
女はまた腰に手をあててしばらくの間何事か思案していたが
やがて広い広い何も無いグランドを歩いて
さびれた校舎の中へと戻っていった
月は変わることなく校舎の側にあった
脂身の様に白い
寒い冬に指の関節に生まれるひび割れの様な形をした月
どこかの引戸が閉じられる音が聞こえた








あれはきっと彼女だけの職員室の扉
















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