瀕死のプロテスト・ソング  














薄皮を剥ぐような傷みの朝に噛みしめた唇の脇から色褪せた血を流す
窓を覆い隠す厚布がし烈な日差しに焼かれて燃え上がる単純な幻想
上体を起こすその瞬間に確かにどこかが死んだみたいな幻がチラつくのは
眠る前に忘れた、眠る前に忘れた、眠る前の虚ろな欠落を埋め尽くした
空白の並外れた密度のせい、いくつかの機能がまだ通電を始めないまま
呆然と小分けされた宿命にそそのかされて時計は回り始める
文字盤が血を吹くほどの致命傷を与えられる一撃のやり方を誰か教えて欲しい
新しい恐怖を被る覚悟ならいつだってあったはずなのに
サイフォンが珈琲を落とすあいだに日常的な狂気を封じ込めなければ、日常的な狂気
日常的な狂気なんて言葉にどれほどの信憑性が含まれているというのだろう
それは狂気なのか日常なのか―それを定義出来るのは果たして誰なのか、そして
それが定義されたところで俺の根本に刻まれるものは果してどれほどのまともさをどれほどのまともさを維持しているというのだろうか―俺という生き物のライン
サイフォンが静かに泡を吐く音が脳味噌に奇妙な沸騰を呼び起こさせる、それは
クレイアニメのように俺の額が盛り上がり、へこみ、伸び縮む…コミカルは
コミカルなそんなシステムがシケた笑い以上のものをこの食卓に産み落とす事はなく
とどのつまりすべてのことは何の結論にも結びつかないまま、回り始めた時計は
モノトーンの古いムービーみたいに俺を巻き込んで切り刻んでいく
一番速い動きの針に次第にこびりついていく赤黒いものが俺の肉片である事が判るだろう
食事は終ったのか―?有塩バターの油分がいつまでも唇にこびりついているみたい
汚れた食器を洗い流す事を最優先事項にしなければきっとなにもかもが先送りになる
洗面台に着く前に様々なものがまたフロアーに落ちては割れ破片になる
踏みつけてもっと砕いて、いくつかの小さな傷を心の生身に刻み付けて放置する
傷みに気をやってはいけない、傷みに気をやってしまっては
どこに向かって歩く事もおぼつかない自分を殴打のように知ることになる
洗面台の鏡に映った自分を見つめる視線に殺意が隠れている、しんとしたリアルな殺意だ
悲鳴が聞こえたのはきっと気のせいだ、よしんば本当だったとしても
そんなことは大して気にするべき事項じゃないのさ―日常的な狂気というやつだ
歯磨き粉が自分の顎を濡らしていくのを拭いもせずにただ眺めていた(拭ってどうなる?)
集めのシャワーをただ浴びているうちにいくつかの正常さが目を覚まし
俺はまたやれそうな気分にほんの少し浮かれ始める、この乱雑な世界に潜り込んで
くだらない息を吐きながら生き延びんとする自分を肯定出来そうな気がしてくる
身体を拭いている間に荒れた息が次第に落ち着いてくる、大丈夫、まだいけるはず
今以上これ以上誰に話しかけることもなければ、今以上これ以上歩み寄る事もなければ
なにを約束してきた、なにを見落としてきたんだ?もう一度初めからなんて
あらゆる傷みや苦しみをもう一度初めからリピートするつもりなんかない
そんなものはもう一通りこの胸に刻まれたはずだろう、身体はもうすべてを知っている
同じ事だともう一度知ること以上に残酷な事など果たしてこの世にあるだろうか?
誇るような事ではありはしないが俺はそのすべてをこの胸にきちんと感じてきたのだ
裂傷の記憶のような思いに安堵しながら新しいシャツをまとう、まともに見えるか?
新しいシャツを身にまとうこの俺はまともに見えるか?向かい合う目の殺意は消えたか?
日常的な狂気、日常的な狂気、日常的な狂気は誰に刃物を向けることはないが
慢性的な病気のように確実に蝕んでいくのだ、ねじ伏せるためだけの毎日が過ぎていく
俺はスーツを着る、袖を腕が通る音に新しい傷を思う、ネクタイで息を少し殺し
どうだ、どうだ、どうだ…俺にはなにも識別することは出来ない






文字盤が血を吹くほどの致命傷を与えられる一撃のやり方を誰か教えて欲しい
新しく色の無い同じ日が鉄製の扉を開ける












0




AutoPage最新お知らせ