俺は街角の第三の眼(サタディ・ナイト)  














瓦礫の山を越えてくる乾いた風
口腔に溜まる血の渋みと、まとわりついた砂の匂い
新しくなるビルの予定地の側
僅かに残った壁に下着を隠そうともせず
だらしなくうずくまるセーラー服の腕に注射針の痕―彼女の股間の匂いを嗅ぐ瘠せた野良犬
音の定まらない
ハモニカの音色
ベンド出来ないままスコアだけが先に流れ…やめちまいなよ、おまえ
バーガーショップの裏口で万引き少年が店員と揉めている
足取りのおぼつかない男が電柱に抱きついてゲロを吐く…洒落たコンバースの爪先を汚しながら
蛍光ピンクのソフトスーツの女がその側を
「別にどうってことないわ」という顔で通り過ぎる、それが彼女にとっちゃ最高にヒップなことらしいが
蛍光ピンクの尻は少し肉が余りすぎている
タクシーが学生の自転車を引きそうになる―クラクションが深夜二時をまだ動けるみたいな空気に変える
安い飲み屋から出てきた連中が聞くに堪えないメロディを合唱しながらカラオケに雪崩れ込んでいく
公衆トイレの物陰で
せわしなく動く唇が二つと腕が四つ―見えてないつもりなのか見えていても構わないのか
そんなものじっくり眺めようとも思わない
そこへ入るときの二人の顔を見てしまっていたから
乱れたスーツのサラリーマン二人組みがサプリドリンクを何本も買ってホテルにたどり着く(ペットボトルで自堕落が帳消しに出来るなんてほんとに信じているんだろうか?)
ホテルの前では中国辺りの訛りを持った
セクシーなマッサージの客引きの女
引きずり込みそうなほど強引に
アソンデイカナイと繰り返す
あのホテルで俺は昔働いていた事がある―客引きの娘達はホテルのロビーのトイレを使い
使用済みの生理用品をそのまま床へ捨てていく、まさにブラッディ・ヴァレンタイン
ほんの数年くらい前のことなのにやけに懐かしく思い出す―夜通し働いた後は
いつも流れない汗が顔に張り付いていた
飲み屋帰りのやつらを待つタクシーが大通りにずらりと並んで
テールライトの帯がありもしない幸せへの道に見える
誰かあそこを渡っていったやつは居るのかい…メーターいくらの楽園は
おまえのふところを暖かくしてくれたかい?一台のタクシーに客が乗り込む、数年前
あのタクシー会社の運転手が強盗に殺された
後部座席から押さえつけられて首を切られたとか―盗まれた金は一万と少しだった
もう誰もそんなことなんか思い出しはしない、覚えているのは
さっき客を乗せた運転手だけかもしれない
べろべろに酔ったおやじが上から下までノレンを身につけたようなファッションの若造に絡んでる、ものすごい剣幕だが―
若造はなんでもないみたいににやにやとしている、なんでもないやつらほどそんな表情を浮かべたがるものなのだろう
逆さにして振っても
コンビニのレシートぐらいしか落ちてこないような連中に摂理を説くのは愚考というものだ
ああいう風に歳は取りたくないなと思う
ああいう風な若さも欲しいとは思わないけれども
若いときを思い返しても浮かぶのはこっぱずかしいことばかりだ
修正していける人間でよかったと思う、修正作業は穴ぼこだらけだけれども―
少なくとも、そこに欠陥を見つけられる自分でよかったと思うよ
携帯のフラップを弾いて時間を見た
今頃の季節じゃもう少し歩いても
明るくなる空を見ることは出来ない、うちに帰ろうか
いろいろなことが先送りにされた部屋に
いろいろな約束が西日で色褪せ始めたあの部屋に
確かさっきなにか飲んだばかりだったのにひどく喉が渇いて
俺はジョークのつもりでサプリドリンクを買った
飲み干すとひどく憂鬱な気分になって、公園のゴミ箱に叩きつけるように捨てた
洒落っ気で飲みたいものなんか選んじゃいけない
そんなもの喉の渇きとはまったく何の関係もない―帰路に着く前にコンビニに潜ろう
不自然な照度の蛍光灯の下で
暇つぶしにはもってこいかもしれない雑誌を二冊買った
明日自分がそのことを覚えているかどうかなんて
いまの俺には保証なんてひとつもありはしないのさ…レモンのタブレットを口に放り込む
それだけで片隅で震えていた純粋がひとつ死んだような気がした
シャワーを浴びるんだ、眠る前に




垢を洗い落とせばもう少し自分を騙せるかもしれない













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