2007/11/28

本物のパントマイムはよく出来た嘘に過ぎない  














飲み干したカップの中、いつのまにか
紛れ込んだ蟻のリングワンデルング
嗅ぎ回り、手を伸ばし、無機質だけどリアルに
生を体現していたその稚拙さ
単純になりたいと思った、刹那だけ
求めるだけでいい単純なものに
でも、それはちょっとした気まぐれみたいなもんなのさ、偏屈でナーヴァスなこの入物を愛してる
割りに暖かい日で、厚く着ていた俺は臍を曲げて
日が暮れて寒くなっても薄着で過ごしたのさ、半時間ほど前からかすかに咳き込んでるけど
別にだからって風邪を引いたって結論には至らない
それはちょっとした気まぐれみたいなもんなのさ
ふと思いついて、ティートリー・オイルをカップの底に垂らしてみた
よく判らないがちょっとした洒落になるんじゃないかと思って
オイルの量が多過ぎて蟻は溺れた、ああ可哀相に、俺はそれを自分の罪だと認めることはしなかった、もとはと言えばコーヒー・カップなんぞに
のこのこ落ち込んでくるこいつが悪いのだ、いくら、いい匂いがするからって
いくら上等の豆を使って入れたコーヒーだからって
さて、蟻は溺れた、俺は手持ち無沙汰になって
水を張ったオイルランプに死体を移した、オイルを足してスイッチを入れると
それはそれは上等なムードの密葬に見えたぜ
間抜けな蟻の魂はかくして香しい天国へと導かれ
そして新たな覚醒とともにやつは叫ぶだろう、「熱い!熱いよ!!」と
そこから下ろしてやるのは別に俺のやるべきことじゃない
それはちょっとした気まぐれみたいなもんが知らずの内に済ませてくれるさ
夢を見たかいカップの中の小さな蟻、俺とお前の交わりはこれで御終いだ、そういや名前も聞けないままだったなぁ、と考えながら寝床の支度、きちんと鳴ることを知っている目覚ましのアラームやっぱりチェックしてしまう
こいつばかりは気まぐれにかっさらわれるわけにはいかないからね
さて
俺は寝床に胡坐を書いて思案する、週末に見た天気予報じゃ明日から下り坂
でも、近頃の天気はころころ変わりやがるからな、かと言って
天気予報なんて連日目を凝らして見つめるようなイカシたエンタメって訳でも別に無いだろ
エディ・マーフィーがいつもの調子でやってくれるなら見るかもしれないが
本題に入るまでに莫大な時間をロスしそうだ
俺はカップに落ち込んだ間抜けな蟻の事を思い
やつがやっていた無様な動作の真似をしてみた、腕だけで
習い始めのパントマイムみたいな、どうにも下手糞な動作で、そいつはどうにもついさっきの蟻と同じものには見えなかったけれど
あんまり何度もやっていいもんじゃないなってのは程なく判ったね、すべすべの焼物みたいな行き止まりなんて確かに何度も見てきたはずさ
灯りを消したら少し趣向を凝らした夢が見られそうな気もするが
平日に潔く眠ろうとすることはまことに難儀で、ちょっと待って
やり残したことが何かある、すぐにこれとは答えられないんだけど、ものすごく胸の奥に引っかかっているものが、でも








それはちょっとした気まぐれに過ぎないとしたものなんだよ












 
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2007/11/25

さよなら世界  














僕らは冬の森を行くあてなく歩いた
朝露の名残に靴が濡れ、靴下まで滲んでいた
つきまとう鳥がずっと上の方の枝で試すみたいに鳴いていた
その鳥のくちばしは長い鎌の様なシルエットだった
時刻はだいたい午前が終わるころで
枝々の間から洩れてくる光はまだ憂いてはいなかった
草が鳴る、リズム楽器の様にたった一度だけのタイミングで
それきり彼等は少しひしゃげてしまうのだ
たった一度だけの音楽、そんなものが
永遠と思える景色の中に連綿と存在していた
僕らは冬の森を行くあてなく歩いた
理由など判らず、だいたい何時からそのあたりに歩をついたのかさえも
まるで同時に同じ夢を見ているかの様な現実感の欠落具合で
かといってずっと繋いでいる指先には確かな感触があった
そんな成り立ちの中で押し黙って
僕らは冬の森を行くあてなく歩いていた
僕は初めから天涯孤独で、君は早いうちに母親を失くしていた
だから執着というものがお互いよく判っていなかった
ある意味で僕らは誰も知らない森に似ていた
先に進むのに相当な努力が必要なくらい地面のでこぼこは激しかったので
僕らはとっくにへとへとになっていてよさそうなものなのに
足は自然に前方へと踏み出されてゆく、なので
僕らはそれに任せるより仕方がなかった
彼等にはどこか行くあての見当がついているのかもしれなかったから
朝露の名残が靴を濡らして、靴下にまで滲んでいたけれど
僕らはそうして歩いているよりほかに思いつくことは何もなかった
選択肢が無いという選択肢、つまり成り行き
何故か声を出してはいけない気がして
この世界にはこの世界だけの
しんとした調和があるようなそんな気がして
疲れたか、と目だけで君に尋ね
いいえ、とやはり目だけで君は答え
それから僕らはどちらからともなくわずかに口角を緩めるのだ
いつも、話さなくても構わないような事まで言語化している自分達を可笑しく感じて
そのあと僕らはあれこれと考えながら歩く事を止めて
濡れた靴で濡れた地面をぴちゃぴちゃ鳴らしながら歩いた、たった一度だけの音楽をぬかるんだ足跡に変えながら
森の空気は豊かで、肌寒いけれどまろやかだった
どれほどの時間歩いていたのか、光はほんの少し憂いていたけれど
街の中で感じるそれよりはずっと穏やかだった
地面は次第に緩やかな乾いた平地へと変わり
ずっと先木々の途切れるところに
まっさらなセロファンを広げたみたいな青色があった
僕らは冬の森を行くあてなく歩いていた
けれど理由にはなんとなく気がつき始めていて
あのまっさらな青いセロファンの下には
きっとそれよりも少し重たい印象の青色をした凪いだ海があって








そして
さよなら世界

僕らはそこから別のものになる














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2007/11/23

グッドナイト  















眠りが浅くて
何度も同じ夢を見る
形にならない世界
言葉にならない世界の夢



破れたシャツばかり身にまとって
午前零時には目を覚ます
冷たさに曇った窓を見て
カーテンの透間を直す



一番小さなあかりにした電灯は
知らず知らずを裸にし
もう一度もう一度と
幻灯機のように稼動音を鳴らす
ぼくが見つめているのは
いまの光なのか



衝動的な憔悴
もはや存在など
まなこに紛れ込んだ塵のようなもので
見つめようとしたって見ていられるものではなく
ほら、隅っこへ逃げていくぜ
舞台はとっくに暗転しているんだ
出番も無いのにどうして突っ立っている?



やって来るところも出て行くところも
心許無いのにどうして
隙間風だけはきちんと入り込む
老獪な押し売りのように
どうして貧相な胸ぐらをつかみにわざわざやって来る?
ぼくは自問したが、それは冬のせいではなかった



適当な手ごたえを見つけるまで放っておいてください
それは一度開き損ねたつぼみのようなものです
適当な手ごたえを見つけるまでどうか放っておいてやってください
あなたは指先でつまめばいいと考えているようだけれど
損ねるにはきっとそれだけの理由があったのです



陽のあるうちから比べるととても長い流れのようだ
文字盤を行き来する針は
気づかれないように胡坐をかいているに違いない
いつでも、いつの瞬間でも
わかることはわずかなのだ、枕の感触が
いつまでもしっくりこないそういうときには特に



ぼくは時間割をつけたのだ
寝物語の変わりになるかもしれないと思って
この先命をしくじるまでの長い長い時間割を
途中で馬鹿馬鹿しくなって止めようとしたが
それはそれでふんぎりがつかなかった
ようやく死因を決めたとき
そもそもの成り立ちを忘れていた



一番小さなあかりにした電灯は
知らず知らずを裸にする
破れたシャツばかり身にまとって






カーテンの
透間を直している
うちに



















 
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