あおい蝶がまた産声を上げる夜中(そして執拗に水は流れ続ける)  










あおい蝶だった、たったひとつの
あおいあおい蝶が飛んでいた…暗い、まばたきを忘れた夜に




さむけに痺れる歯茎の中で、とまどう悔恨のこびと、だらしなく口を開けて、だらしない哀を泣いていた
(そんなことはどうでもいい)


あるとき、そばへ引き寄せた孤独は甘い香のかおりがして俺にそれを求めることを恥だと思わせた、俺は初心な少年のように身を引いて見えないところですべてを処理したのさ…まったくあれは取るに足らない出来事だった…あのとき俺を狂わせたものがなんであったのか、俺以外にそれを理解出来る奴が果たしているだろうか?俺とてそれは記号のようななりでしか知ることは出来ないというのに…?波は突然訪れる、俺は自分が自分であることに嫌気を感じることなんてもう無いが(といって、愛せるようになったというようなことではない)、旅に出るときに持てるものがこれだけしかないと確信し、認めるようなものだと例えれば理解してもらえるだろうか?



あのこはてくびにかみそりをあてながらほんきのたいどでおれをおじけづかせようとしている



受け入れることは容易ではない、君にとって自由とはその剃刀の滑りであり…俺にとってはそれをこともなげに許すということなのだろう
(かならずひとすじの血によってすべてが肯定されている)


ごらん、あおい蝶だ、俺たちの上を飛んでいる…まるでファンファーレのようなさまじゃないか…俺は認めざるを得なかった、そうだよな?サビの味のする君の四肢…ぬぐえるものならぬぐってやりたいと思った、そんな思いを上手く届ける言葉すら見つけることは出来ないと知りながら…君はなにかのために痛みを経由するだけ、だけど俺にとっては痛みでしかありえないのだ
(痛みを思うがままに従えたつもりなのか、奇形の欲望に翻弄されるあたたかい骸)


君が受けつけないもののために俺はなにをしたらいい、すべてをくつがえすことの出来る呪文など俺は知らない―おろかな母親のように笑い、そして絶望をするだけだ―あおいあおい、あおい蝶が飛んでいる、俺たちの身勝手な文章の上を、俺たちのばらばらな交錯の上を…くるくると―くるくると巻きついたくちびるをあらわにして(それで俺たちを笑っているつもりなのか?)生温かい、生温かい海の中に俺は果てしなく溺れ、君に悟られないように窒息する、君はそんな俺のありようを見てくすくすと笑う…君の行為の理由はもしかしたらそれだけのものなのかもしれない…
(他人の傷をも自分の血でもって悟らせるとはなんという傲慢だろう?)


オーブンレンジがゆるやかな音域でなにかの終わりを知らせる、あそこに誰がなにをセットしたのかなんてもう思い出すことが出来ない―君の血は尽きることが無い…けれどそれは決して成就するたぐいのものではない…「俺の傷が見えるか?」「なに?なんのこと…?」君は夢を見ているみたいだ、俺がなにを問いかけているかなんて、きっと少しも理解することは出来ていないだろう




あおい蝶だ、あおい蝶が飛んでいる
オーブンレンジはキッチンでまた冷えていくのだろうなにかを慰めている




なにを捧げる、それ以上なにを捧げる?君が落としているものは降り過ぎた雨のようなものだ、受け入れられず、どこにも還らない…ただ、ただ、渇くのを待つだけの―サビの味がする君の四肢、ぬぐえるものならぬぐってやりたい、本当の君のやわらかさを俺は確かに知っているのに

あおい蝶だよ
あおい蝶が飛んでいるよぅ




君は立ち上がり、洗面へ向かう、俺はテレビを見ながら右の耳の上にいたそれを握りつぶす






叶わなかった赤子の顔が
手の中でいびつに歪んでいた












水が
流れ続けている










0




AutoPage最新お知らせ