2008/4/22

それにそれはあっという間に思い出したというだけのものになってしまう  














それに名前をつけるほど俺は暇じゃない、そんなものは勝手口から外に放り出してなかったことにしてしまえよ、そんなもののことをいつまで気にしているんだ、トウヘンボクめ
気にしなくちゃいけないものの名前をスケッチブックに書き出して壁の空いてるところへ貼っておけ、そら、そこの
ジャニス・ジョップリンとジム・モリスンのあいだに…そこなら万が一やり遂げることが出来なくったってなんとなく嫌な気はしないから、俺の言ってること判る?やることもやり遂げることもある線上を越えてしまえば大して違いは無いんだってことだよ


朝からなんにも食べずにふらふらしていたせいで腹ペコだったので、郵便局から二つ目の角のパン屋で焼きたてのパンをいくつか買った、店の中にそこそこのスペースがあって、テーブルと、イームズもどきの椅子が何脚か並べられていて――そこでのんびりと食べることも出来たのだけど、「誰がなんと言おうとあたしたちはオシャレなの」と言わんばかりのOL三人組が下品な鳥のように騒いでいたので持ち帰ることにした、そのOLたちは確かにパシッとしたスーツを着こなしていたが――三人が三人とも、それが少し似合わないと感じるくらいにふくらはぎが太かった
まあ、俺が誰かのファッションを批判するなんておふざけもいいとこだけれど
パン屋を出たところで缶コーヒーを買った、プルタブを開けて――一気に飲み干して捨てる、ほんの数百メートルを歩くのにガソリンが要るのさ、これと言って目的の無い移動は決まって燃費を悪くするとしたものだ――このパン屋は昔もう少し橋に近いところにあった…その頃は販売もやってる工場で
もちろん店内で飲食が出来るようなスペースなんてなかった、そのせいかどうか判らないけれど
あの時のパン工場がいまここでこんなこじゃれた店になっているのだと気づくまでに凄い時間が掛かった、正確には…30数年
思い出を探りすぎると現実が上手く把握出来ない、俺は帰り道を辿る、思い出の中ではない、現実への帰り道
あの頃住んでいた家はもう駐車場になっていた
鶏や犬やジュウシマツを飼ったり、何処かから拾ってきた板に裏庭で火をつけようとした記憶の上に誰かが停車している、ひと月八千円とか、そんなくらいの契約で…トムとジェリー、みたいに幼い俺の残像はそこでぺちゃんこになっている、あの頃住処の隣には小さな旅館があって
旅館と俺の家とのあいだにある壁と壁の隙間にもぐりこんで、裏側の民家の壁を伝って…その先の通りへ出るのが好きだった、厨房から漏れてくる蒸気なんかを嗅ぎながら、カニのように横歩きで…あるとき俺は泥棒と間違われたらしくて、家に帰ると母親にえらく叱られた、あのときは何があったんだかてんで理解出来なかったけど
見知らぬ子供が自分ちの壁の上を這ってたら誰だって泥棒だと思うよなぁ
でも歳をとって泥棒になったのは俺じゃなかった、まあそれはまた別の話だけど


そんなこと今まで一度も思い出したことはなかった、どうして今まで思い出さずにいたのか、またなぜ、パンを買ったとたんに思い出したのか――イースト菌に含まれている古代エジプトからのノスタルジアの作用なのか――?近頃クドくなりすぎた缶コーヒーの後味に顔をしかめながら小さな信号を適当に渡って、現在の住処に戻る、もちろん隣に旅館はないし、俺を泥棒と勘違いするやつも居ない、俺は電波状態が悪い場所にあるテレビの室内アンテナみたいに、いろいろなものを取りこぼしながら受信し続けていて、そのせいでインスタント・コーヒーを入れるための湯を沸かしっぱなしにしてしまう、ミルクパンに残った湯はカップの半分にも満たなかった、やり直しだ
ミルクパンの中で弾ける沸騰した僅かな湯は何故だかまるで軽薄に思える
記憶を見ていた、パンを食べながら…
記憶を見ていた、コーヒーの湯気の向こうに
俺であってもう俺でない俺が
やはり俺であってもう俺でない俺の成り立ちを
それが記憶だと言われても遠すぎて釈然としない、思い出すのに適さない時間というものが必ずある、なにもかもはっきりと思い浮かぶのに――生身に返ってくる感覚が何もない、それを進化と呼ぶか成長と呼ぶか、はたまた退化と呼ぶかは気分によって違うところだけど――


たとえば明日は雨になるらしいから、俺はこれを多少疎ましく感じるんだろうね

パンの味は確かだった、だけど





記憶とはそれはまったくひとかけらも

リンクせずに
胃袋に収まったのだ















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2008/4/19

青白い空(悟ったからって別に)  












青白い空に僕が飛ぶ
青白い空に僕が飛ぶのだ
明け方の淡い夢の様に
暮れ方のカゲロウの羽ばたきみたいに
青白い空に
青白い空に



息をし始めてからこれまで
確かに吐いたことなどなかった
古い
水の様によどんだ
いつかしらの息が
確かな線を殺していた
確かな線を
ぶつ切りにしていた
青白い空
もっと青くなっても
犯されたものは
二度と
綺麗になることはない
青白い空に流れる風は
そんな
瞬間を
ターン・テーブルのEP盤の様に
ぎこちなく
ぎこちなく繰り返す
その時に乱雑に混じる
ちぎれるみたいなノイズの
ことを
確かに
この僕はむかし飲み込んでいた


青白い空
青白い空
青白い空
青白い空で
ミルク色の
満月が迷子になってる
今日のすべてが沈むまで
あいつは
心もと無いのだ


いつか死んだうさぎ
いつか死んだ犬
いつか死んだ猫
いつか死んだ金魚、みんな
青白さの向こう側に
居たんだね
僕は再会する
再び
出会うべきなんかじゃ
きっと


なかったんだろうけど


みんなの鳴き声
みんなの鳴き声が
合唱団となって
架空の地平で長く尾を引いてゆく、その流れに乗る、その流れに乗れば


僕は
思っていたなにかを知る


青白い空
青白い空
青白い空
青白い空

ああ、だけれど確かに高い
確かに
手には届かない


欲しがっていた
欲しがっていたのだ
確かに
欲しがっていないふりをして
喉から手が出るほど
確かに求めながら

果てしない
感情が零れていく
僕は
鳴き声に参加した、だけど
僕のものだけが



激しく
落下して行ったのだ


青白い空
あ、あ、青白い空
なにも
哀しいことなんか
なかったよ


求めることにだって
僕は





ずっと
距離を置きすぎていたんだ










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2008/4/19

ブラッドなんて感覚を決め台詞にするのはよしなよ  











何かが転げ落ちて紛失
俺の
向こう側の感覚、鮮やかに喪失
失われた概念的な胎内そのがらんどうに
途方もなく哀しい灰色の風が吹く
灰色の風がどこか
忌々しい地域から巻き上げてきた
来世のような匂いのする砂が
銃撃の後の血飛沫のように、張りつく、張りつく、張りつく…そこに傷みはないが
俺の身体は潜在的な感覚でそれを拒絶し
水銀のように排除しようとするも
根を生やしたかのように砂は、
砂は、ぽつぽつぽつと
がらんどうに色を添えてゆく、良くないことだと感じてはいるが
愛しいものでは別にないから
悪戦の前に結論を投げる
投げられた結論は、ガラステーブルの端っこの
処理の甘いところでこめかみの辺りを切り大げさに血を流す
でもやつは痛いとも痒いとも口にすることはないから
俺はやつがそのまま死んでしまうのではないかと余計な気を揉んでしまうのだ
砂が張りついてからの数時間、俺の気分はほんの少し
ざらざらしたままで過ぎる
落ちて失ってしまったもののことはもう思い出せない、きっとそうなって初めて失くしたと胸を張れるのだ
それを人は誇りというのだ、そうだ
誇るたびに愚行が増えてゆく
日記帳に糞色のペンで出来事を綴るみたいさ、聖者に憧れたわけじゃないが
もうすでに断罪されたみたいな
幻覚が目のはしでチラつくのは何故だろう
ベートーベンのピアノソナタの中に
金属工場のプレス機の響きを見つけることがある、きっと俺は武器になるほどに気の毒な
診察券をひとつ持つべきなのだ
誰もがそれ以上一言も口を挟むことが出来なくなる
最高に気の毒な詳細が記してある診察券を
俺は狂っちゃいないよ
俺は狂っちゃいないよ
俺は狂っちゃいないよ
俺は狂っちゃいない
幻覚の中から蝶がはみ出して、現実の中の電灯をよぎる、ほほ、ははは、と軌道に書いてある
ほほ
ははは
俺はそれを指でなぞった、余計な鱗粉をたくさん吸い込んだに過ぎなかった
口の中で蝶の命が舞う、それはやがて唾液で墜落してゆく、ああ
それは生きていられない場所なんだ
幻覚の蝶の鱗粉は
生きていられない場所を選択してしまった
幻覚なのに墜落した、幻覚なのに
なすすべもなく死んでしまった
センチメンタルに過ぎて俺は腹を立ててしまう
手当たり次第に破壊したくなる衝動に駆られるが
何かを破壊しながら詩を書くことなど到底出来やしない
破壊し、破壊し、破壊し、墓石
埋葬の手順を間違えないように黙読している
友達が言っていたんだ、埋葬を省かれるととても哀しい気持ちになるって
だから俺は埋葬の手順を間違えないように黙読している
そうしている間にも概念的な胎内で砂はザラつき
口腔で鱗粉は墜落してゆく
墜落には墓石は立てられないよね、ああそれはそうだよね
どうすることも出来なくなって手を合わせた
何に向かって、誰に向かって祈るつもりなのか俺には判らなかった、いや
祈りということがここに何をもたらすのかということも理解してはいなかった、だとしたらそれは
ショーウィンドウをきれいに磨きすぎることとまったく少しの違いもない
誤差を愛せないなら詩を綴る必要もない
俺は言葉を使って誰かを殺したのか
俺は言葉を使って誰かに殺されたのか?
疑問符が乱立する森に足を踏み入れて
わざと哀しい思いをしようとしてるんだろう
上手に痛がるやつを愛してくれるやつは思ってるよりも大勢居るもんだぜ、みんな、
深刻な傷みのそばに居たいのさ
痛い思いをするよりも実際ドラマティックだからね
時には
そこで血を流してるやつよりも痛そうな顔をしてるやつだって居る、いいかい、それはずっと余裕があるからさ
痛み止めはないかい、痛み止めはないのかい、安いやつでいいからあるんならおくれよ
駄目なやつでもいいから譲っておくれ、傷みが無くなるんなら他のどこが駄目になったってかまわないから
どうせそうやってひとつずつ壊れてゆくんだから
無くしたものの数を数えてくれ、壊れた物の数を数えておくれよ
誰かが涙を流せるように余裕を持ってドラマティックに
余裕を持ってドラマティックに見えるところに並べておいてくれ
俺はそれに頼ったりなんかしないから
俺はそれに頼ったりなんか絶対にしないから
いつか砂が胎内に生やした根が
心臓の弁にきつく巻きついて壊してしまうけど
そこまでいったらもう傷みたなんてきっと呼べやしないから
だから俺そこに居るんだ
だから俺そこに居て
こぼれた血を
血を――












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