2008/11/30

定置漂流  









すべてが優しい歌のようで
すべてが明るいあこがれで
おまえらはまるで夢のようだ
洗おうともしない穢れに蓋をして白く塗り潰す


街中の繁華街の
何か余計なものを建て増ししている中央公園の前で
アコースティック・ギターを抱えた男が
取るに足らない何かを叫んでいる
チラシのように無償で差し出される魂に
すすんで耳を貸してくれるやつなんてそんなにはいないものさ


触れ合いたいのか
暖め合いたいのか
優しい思いを知り
疲れた心を癒したいのか?


どうして疲れた
どうして壊れた
どうして許せなかった
堆積して潰れてひとつになりかけたいくつもの「どうして」を
昨日見た怖い夢のように過去に押しやって暖かい居場所を求め続けるのか
足の無い雄犬が女のように座す
二度と開かないシャッターがちらほら目立ち始めたアーケイドの終わり


思春期から出て行けないやつらは14歳で終わるだろう


俺は
老いが欲しかった
いつのころからか
きっと
若さを恥ずべきものだと
認識したときから
きっと


路面電車が億劫そうに加速する交差点には
昔数年間働いていた
とある名の知れたデパートがあった
今は更地になって
そこにはなにか洒落たものが建つはずだったんだけど
話は立ち消えてただただがらんとしている
あの頃店内放送から聞こえていたいくつもの流行歌
あの頃売れていたシンガーがひとり
何か漠然とした状況で落下して死んだ


どうにもこのところ午後から曇ってばかりいる


すべてが優しい歌のようで
すべてが明るいあこがれで
おまえらはまるで夢のようだ
洗おうともしない穢れに蓋をして白く塗り潰す


釈然としない雲の色合い
そうしとけば
降ろうが渇こうが
許されると思ってんのさ
受け止める為だけの地平が
覚悟を決められなくて焦れている
そのさまを眺めてもしかしたら楽しんでんのさ
電車通りを渡ったら河のほとりに出る
昔変わり者のサムライがそこで泳いでたらしい
今じゃ酔っ払いの便所以外に
存在価値が大して見いだせないその河で
さようなら偉人さん
あんたが嘆いていたころと同じ理由で
この土地は停滞をし続けているんだぜ
洒落た身なりの老婆が落葉を拾っている
入口の閉ざされた古い木造家屋の前で
門に絡まったいくつかの蔦が
「もうここには過去以外住んでいるものはありません」
そんな独り言を呟いているみたいに見えた


冷たいだけの風が吹く季節には傷みが少しラクになる
目を覚ましていればどこにも行けないなんてことはまずない



忘我の時に時計を眺める癖がついたのは
仕事を始めて数ヶ月が過ぎたころだった










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2008/11/18

いくつもの種類の赤  











頸動脈に錆びたナイフ、生を絞めつける死の模倣、こそげとった表層の肉片を、友人たちよ、おまえに分けてやろうか、早い睡魔、求める者の先端すら叶わぬほどに、細胞を覆い隠す睡魔、指先は重く、もうどんな言葉もそこから出てくることはなく…これだけはおまえに届けたかった、これだけはそうしたかったと心から思えるような、そんな何かがここに生まれればどんなにか良かったことだろう…痛みに耐えかねて外した刃は、色褪せたカーペットの隅を形骸化した示唆のように刺した、俺が見ようとしていつも、眼を逸らしていたものに似ていた
17日目の月が執事のような佇まいで空に居て世界を窺っている、蟻のような蠢きを見つめることを止められなくなっているのだ、首筋の血を抑えながら窓を開けて確かに眺めたムーンパレス、はるかはるか離れた場所からの時を超越した輝きに俺は嫉妬する、この世で一番無駄な種類の感情のプロセス、失われ続ける生温かさが首筋にある限りはそんな無意味も仕方の無いことさ、タオル代わりのシャツはみるみる血に染まり、手の中で重くなる、やりすぎたのか?そんなことは無いよ、俺はやり過ぎたりすることなんかない、友人たちよ、おまえにだってそれは想像がつくだろう、どうしたって留まってしまうんだ、そうすることがいちばんの美徳だってどこかで信じてしまっているせいなんだろうな
体内を吐き出すようなむっとする血の匂い、それは甘い匂いに似ていると誰かが言った、誰だったのか、それとも誰でもなかったのだろうか?覚えてしまったのはいつのころからだったろう?甘い匂いに似ている、らしい、体内を吐き出すようなむっとする血の匂い…求めているのか?果たして求めているのだろうか?答えになりそうもない、間に合わせでも何でもいい、答えが成立するものは実行されたりしない、それがあれば満足するからさ、それがあればみんな満足してしまうんだ、気休めに過ぎない、そんなもの、ただの気休めに過ぎないというのに…諦めに近い享受が当り前に進行し続けている、友人たちよ、まさかおまえはそんなところに顔を突っ込んだりしてはいないだろうね?おまえがそんなところでまごまごしていないことを俺は祈らずにはいられないよ、たとえそれが気休めに過ぎなかったりしてもさ
放り出されたチョコレートが毅然と形状を保ったままでいることが出来る刺激的な季節、俺は赤く染まったシャツをカーペットの上に広げ、薄いアルミの包みを解き、ひとかけら取ってシャツの真中にトッピングする、赤と黒…赤と黒だよ、なんて絶対的なコントラスト、友人たち、俺の言ってること判るかい?俺は別におかしくなったりしてはいないぜ、確かな感覚を持って…なにがしかを構成しようとしている途中なんだ、見たことも無い服を縫う針子のように、赤と黒、俺の血の熱はチョコレートを溶かすことは出来ない、俺自身の血液の根本的な欠陥なのか、それともそれは囚われた挙句の血液だからだろうか?俺はそんなことを不思議だと感じる、その血と俺との間にさほど距離を感じないのは、首筋の傷がまだ新しい傷みを放ち続けているせいなのだろう
アナログ時計は時間という概念を心得ている、刻むというセンテンスを抑えることがどれほど大事なのか…音もなく表示されるデジタルがいくつものドラマツルギーを時代遅れにしてしまったのは確かさ、もっとも俺にはそんなドラマツルギーは何の関係もないことだけど…俺は文字盤を読もうとする、首だけで振り返ると傷が動き、いっそうの痛みが走る、俺は思わず小さな悲鳴を上げる、判っていたことなのにそれは生まれてしまう、俺はそのままの体勢を維持して痛みに耐えながら少しずつ時計の方を振り返る、刻むもののリアリティ、そいつが俺にそんな無様な意地を遂行させるのだ、刺激された傷口から新しい血液が流れる、新たな体温が俺の外郭を伝う、俺にはもうそいつを抑える意思はない、俺は文字盤を読もうとしている、一度血を流してから、そうだ、だいたい一時間が経過しているようだ…俺は首を元に戻す、さっきとは違う種類の痛みが傷口から耳を経由して斜めから脳天を突き上げる、そうだ、肩口から脳天を貫かれるみたいな感じだ、俺はしばらくの間涙を流すかのように俯いたままで傷みを抑え込んでいる
痛みが引き、顔をあげると、時計の音がやたら遠くで聞こえているみたいに薄らいで、俺は時間の概念を半分忘れる、意識しない景色を見ていながら忘れているみたいに、表通りを過ぎる車ももう随分と少なくなっていた、数分おきに走りぬける何台かの車はまるで億劫な風が吹きながら漏らすぼやきのようだった、俺は少しの間目を閉じていて、幾度めかのその風の後で目を開けた、その目に見えたものは何ひとつ特別なものではなかった、俺自身の意識の構築に問題があるのだ、何もなかった、なんて、まるでデジタル時計のような虚しさだ、「そのあとで目を開けた時に見えたものは何ひとつ特別なものではなかった」そこにはどんな認識もない、紙芝居を見ている子どもが最後の一枚の絵柄をたまたま鮮明に覚えていた、ということと同じくらいに認識としてはまるで意味がない…俺にはもう時計を眺めるつもりは無かった、時計が必要な時間じゃない、「時計が必要な時間じゃない」頭の中でゆっくりとその言葉を繰り返すと、ああ俺は少し頭がおかしくなっているのだろうと感じてほんの少し哀しい思いをした
カーペットに刺した錆びたナイフを引き抜き、頭上に光る澄ました月にかざした、月よ、俺はおまえのことを殺したいと思っているかもしれない―だけどそれにはどうすればいいのかまるで判らない―おまえが死ねばこの地球上のあらゆるバランスは崩れてしまうのだろう?俺は腕をまっすぐに伸ばして、刃先が月の真中へ入るように懸命になった、ちょうどライフルの銃身で照準を合わせるように…俺はそれが月を落とすことを想像しながら何度か突いてみた、もちろん月は微動だにしなかった、そもそもこんな小さな刃のことなどやつには少しも見えていないのだろう…俺は首の傷を強く叩いた、収まり始めていたやつらがまたざわざわと騒ぎ出す―俺はもうそんなことに注意を払わなかった










友人たちよ、俺の首筋に食い込んだ錆びた刃に、何か気の利いた名前をつけてやってくれるかい…








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2008/11/8

11月、やつれた馬とはぐれた鳥、初めからそこに居る魚と外側から内側へ帰還する俺  












やつれた馬が夕陽の逆光の中、死に場所を探す幻覚、テトラポッドの上に鎮座した唇の歪んだ神は俺の安物の上着に唾を吐いた、あての無い上昇の様な冬の始まりの晴天、粒子である彼らが照らす世界はあまりにも死に絶えていた

轢死体のような自分の感情を抱え込むことを苦しみと思うことももう少なくなって、それを誇ればいいのか恥じればいいのかあとは決めるだけだった、例によって、それを聞かせる相手などどこにも居なかったのだけれど―まあでも、誰が居ようが居るまいが、聞かせるための決意なんかすべて嘘だぜ
海風に乗り損ねて一羽の鳥が大きく群れを外れる、そいつに向かって愛していると叫んだのは決して気まぐれなんかじゃない、気まぐれなんかじゃない、生体の編隊の中、たった一羽だけはぐれたあいつの気持ち―それがどんな理由であろうが俺はあいつを愛しているよ、知りあえなければ満足出来ないか、見返りを多分に求めることを純粋と名付けるやつら…どいつもこいつもかけがえのない君ばかり歌ってああ気持ちが悪いぜ
海風!俺は海風を浴びた、上着を脱いで、凍えながら…内側まで殴りつけてくれる誰かを欲しがっていた、あらゆるものを抱え込むことに慣れてしまうとまだ自分の身体が傷つくのかどうか知りたくなる、大いなる神よ無数の弾を打て、ブリキの身体が錆びついてしまう前に―うんざりするほど70'S、生身の感触しかこの身は求めたことがない―足元をすくい、俺をさらおうとする砂の構成、呼吸を奪え、呼吸を奪ってくれ…俺は死にたがっているわけじゃない、錆びた身体を輝かせてくれる一撃を待っているだけ、凍えるだけではどうしようもない

生きている、それだけで人間は狂うんだ

俺は波打ち際からずっと、死に場所を探しているやつれた馬のように大いなるたまりの中に足を踏み入れる、氷がまとわりつくかのような足…誰も俺を止める者はいない、そういうところだからここに来た、俺はそういう場所をうんざりするほど知っている、知らないぜ、知らないぜ、そんなものを記憶してる理由なんてこれっぽっちも…おお、俺は冬に感電している、はるかな刺激が中枢まで届く…恍惚をどこかに届けたがるみたいに仰ぎ見た空では、いつかの鳥が帰るべき群れを目指して再び羽ばたき始めていた、それでいい―向かうところがあるうちは懸命に羽ばたくんだよ―誰も認めてくれない理由こそが本当さ、飛び込めと暗示が聞こえた、倒れこむように水の中に潜ると、とたんに身体が重くなるのが判る…奪われるのは一瞬だ、奪われるのは一瞬なんだ、奪われることを怖れているうちにいつでもその瞬間を見落としてしまう―それはちょっとした恍惚なのに…それについてはもう話したのか?単語の重複だ、単語の重複だ、ただの、ただの…単語の重複ってだけのことさ―単語には何も語ることは出来ない、そこには便宜的な意味があるだけ、ただの肉体のようなもの、そこが血の熱さかそれとも死体の冷たさかはそれを用いるやつら次第さ…絶え間ない海の蠢きをその身に感じたことがあるか?いや違う、俺が語りたいのはそんなことじゃない
呼吸が奪われることへの不安は実はそんなに大したことではない、恐怖をどこかにやることが出来ればその瞬間は何度でも帰ってくる、でも、でも生きるか死ぬかって話じゃないのさ…分かるかな、生きるか死ぬかなんて話は誰もしてないんだ…海の、冬の、電圧はますます強くなる…激しい強さは、激しい優しさと同じになる、轟音が次第にひとつの静けさを生むように…俺の眼前をいくつかの魚が通り過ぎる、彼らには何も目的がないように見える…こんな季節にこんな水面に居ても、彼らは電流を感じることは無いのだ―なぜなら、初めからこいつらはその中で生きているのだから…俺の四肢はもう自由にはならない、だけどそれは動かそうとしなければ重要な問題ではないのだ、投げ出せば奪われることは無い…俺の命は丸腰、俺の命は運命の外側に居るのさ…そこにあるのが本当の運命だ、判るか、俺は感電しながらそれを当たり前のものと感じ始めた…俺は砂浜を探す、どこまで来た、どこまで来た…いつしかひとつの流れに乗ったらしい、少しも水を掻いてはいないのに砂浜からは随分と離れていた、恐怖は無かった、恐怖は無かった…日はいつしか暮れていた、どれぐらい長い間、俺はそうして遊ばれていたのだろう―時間の概念などあやふやなものだ、生まれて、死ぬ…そのAからBまでの間をただ時と呼んで何が悪い?11月の砂浜よ、俺は果てしなく麻痺している、果てしなく麻痺していて、果てしなく麻痺していながら11月のお前を目指している―向かうところがあるうちは懸命に羽ばたくんだ―聞き覚えのある誰かの声がふざけてるみたいに囁いた、俺はずっしりと重りを巻きつけた身体を動かして―乱れる呼吸をその耳に感じた時に自分の知りたかったことを知った、砂浜はあそこだ、きちがい、聞こえているか?お前の目指すところはあそこだ、判るか、聞こえているか…その時海が激しく…大いなるたまりが激しく盛り上がり、俺に「続け」と言った、俺は長いことそうしたタイミングの聴き方を忘れていたのだ…俺は矢のように砂浜を目指した、愉快になって笑える限り笑いながら、それでも不思議に身体は砂浜を座すのだった、少しも衰えることなく…俺は死に場所を探すやつれた馬とは大きくかけ離れた場所に居た、

それが砂浜だった

砂浜に立ちあがった俺は新しい感電を始め…力尽きて朝になるまで砂の上で眠った


目覚めると、誰かが俺を見下ろしていた、何の変哲もない年よりだった―「どうした、溺れたのか」俺は眠い目をこすりながらゆっくりと上体を起こした、言葉を思い出すまでにしばらくの時間がかかった「違うよ」







「違うよ、勝ったんだ。」














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