三拍子が変拍子(耐えがたい悪臭のワルツ)  
















生温い血を流しながら踊ろう
取れそうな手首を取りあって踊ろう
すでにくすみかけた
白目を見つめあいながら
次々と
奇妙なうめきをこぼす
唇をふるわせながら


おまえの恐怖の中におれがいる
おれの失意の中におまえがいる
それぞれの膿んだ傷口を生爪でほじくりながら
時計の針がこの世の終わりを指す頃までふたりで踊ろう


友達の首がふたつみっつ飛んで舞踏会は始まった
小編成のオーケストラはこぞって梅毒持ちだった
そこだけ存在が抜け落ちたような灰色の痣を顔面に浮かべながら
身の毛もよだつようなプロコフィエフのワルツを演奏していた
ウェイターが運んでるワイングラスには搾りたての
犬と猫と狸とフェレットの血がなみなみと注がれていた
処置をしない骨折がおかしな具合に完治した女が
次々と空にしてやがてぶっ倒れた


もみの木からぶら下げた
骸骨のアクセサリーが一番きれいなものだった
バイオリンは同じ旋律で必ず音を外した
ラバーマスクを被った男がマルクスを朗読していたが
ろくに歯が残ってないらしくてふにゃふにゃとしか聞こえなかった
ありがとうございます、と何度も繰り返してる黒目が変な方を向いた女の子がいた
誰も彼女に感謝を受けるような真似はしていなかった
カラスの首にリードを結んでお座りを教えている貴婦人がいた
真紅のイブニングドレスはバキュームカーから引っぱり出してきたような臭いがした
カラスは頑として彼女の言うことを聞かなかった
糞の臭いにうんざりしているように見えた
「団結などもう幻想なんだ」と
額の山脈を叩きながらジョン・メリックが言った


生温い血を流しながら踊ろう
仕組まれた予言を信じて髪を逆立てるアナキストの間抜けを笑おう
質の悪いシェイクスピアの猿真似ばかりの詩人を笑おう
未来の無い世界ほど毅然と胸を張るものだ
エンディングに向かってひとりふたりと突っ伏してゆく演者たち
投げ出されたストラディバリウスに誰かの鼻が乗っかっていた
黒目が変な方を向いた女の子が小便を漏らした
もみの木のアクセサリーがカタカタと揺れた


おまえの恐怖の中におれがいる
鼻汁の貼り付いた赤子のような顔をしながら
おれの失意の中におまえがいる
すくすくと育った無脳症の女みたいな顔をしながら
何かの拍子にいきり立った坊さんが鼻血を吹き上げながら
死体になった奴から順番に犯っていく
もはや何のためか判らない経が
すっきりしない暗色の夜空へ飛んでゆく
そこだけ存在が抜け落ちたような灰色の痣に
仏の道から引き戻されたそれがとめどもなくぶちまけられる
カラスはとうとう我慢が出来なくなって
貴婦人の目を貫いてもみの木へ飛びあがる
「おまえらはみんな狂っているんだ」
そう叫びながら水晶体の破片を吐き出して
くちばしの先で器用にリードを外した


踊ろう、踊ろうじゃないか、時計の針はまだ少しも進んでいない
誰かがネジを巻き忘れたのかもしれない、だけどそんなこともうどうだっていいじゃないか
大事なことになんか関わったりしない
気にしないことばかり並べて
音の薄くなったワルツに身を任せていればよいのだ
踊ろうじゃないか!夜はまだ始まったばかりだ
「ありがとうございます!」黒目が変な方を向いた女の子が一声叫んで絶命した
きっと小便で体が冷えてしまったのだ
片目を失った貴婦人はバランスがとれずにくるくると回っている
ああおい、音楽が無くなってしまうぜ!
ラバーマスクの男は息が出来なくなって死んだ



時計の針は


とけいの

はり




















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