2009/3/29

俺のアッパー・カットはすごく下から  










車体を軋ませながら
ショッピングモールの駐車場の出口をかすめてゆくキャデラック
ハウリン・ウルフが辺りを
ビリビリと揺らすほどに吠えてた
けたたましく鳴きながら
あとを追っていくポメラニアン、誰かの手を離れて
寄生虫みたいに長く首から垂れ下がった赤いリード
末端の小さなリングに
過保護な飼い主の孤独がこびりついてた
昨日生まれた街のあたりで起きたスクーターに乗った男二人組のひったくりのニュース
ぶっちゃけた話俺の兄弟の仕業じゃないかって本気で疑ったぜ
ハング・ファイヤーを口ずさみながら空がクローズする時間帯を眺めている
携帯電話の中の見覚えのない番号に回したら
「神様があなたに清く正しく生きる為のヒントをお与えになります」という自動音声ガイダンスが流れた、特に悪い気はしなかったので俺はそのまま聞いてみた
「ハルマゲドンはご存知でしょうか」と
聖堂で聞かなければいまいち効果がなさそうな物静かな語り、清く正しく生きる為のヒントをお与えになる神の言葉を俺たちにお与えになる年老いた(らしい)男は
「とりあえず神の名において我々は裁かれます、生きとし生けるものみんな死にます」と言った、ふうん
ドラマツルギーが間違いばかりを引き起こすのはストイックな宗教のお家芸だ、何故だろう?
「我々はイエスの子でありノアの子であります、聖書により
学びを得たものたちは神の声を耳にし、災害を逃れ
新天地に向かうことが出来るのです」
ふうん、するとあんたたちは
聖書を開かない者達はみんな裁きによって滅びるとこういうわけかい?
先着百名様のバーゲンセールみたいだ、あるいは
優秀な学生に微笑みかける教授みたいだ、なるほど、神は陶芸家のようなものか
出来の悪いものは完成を待たずにすべて壊しちまうんだな?俺は音声ガイダンスにそう話しかけた「そんなことはありません」自動音声ガイダンスは俺の言葉に呼応した、驚くべきことだ
「神はその学びを得るためのチャンスを万人にお与えになります」彼の声は示唆と啓示に満ちていた、らしい、俺はそうは思わないけれども
俺は口の中に溜まった唾を吐いて彼に話しかけた
「学びを得ることが出来なかったやつは切り離すんだろう?出来の悪いものは完成を待たずに壊しちまうんだろう?「そんなことはありません」
「学ぼうとしさえすればそれでいいのです、それだけで」
「我々は箱船に乗ることができます」
俺は電話を切った、判った、判ったよ
あんたの神様とやらは他人の話を聞くことを教えてはくれなかったんだな
携帯のフリップを閉じてポケットに滑り込ませた時
一台のジャガーがタイヤを激しく鳴らしながら俺の立っている歩道に突っ込んだ、俺は街灯の後ろに逃げ込んで事無きを得た、どうだい、学びがなくても人は生き抜くことが出来る
横断歩道の向こうにこちらを見てにやりと笑う―携帯電話を耳にあてた男
とても神とつながりがあるような人間には見えなかった、胸の内にある腐敗が
そのまま臭ってきそうなそんな面をしていた、信号はちょうど青になるところだった
俺は飛び出してその男のもとへ走った、男は身をひるがえして俺の視界から消えようとした
一度振り向いた時の薄笑いが俺の神経を逆なでした、あいつにひとつ俺の教えとやらを学ばせてやろう
薄暗い通りを男の背中を見ながら走った、男は背中に「ストリート・リーガル」とロゴの入ったシャツを着ていた
男の足はあまり速くなかった、追いかけるうち
俺の頭の中にはほんの少し嫌な予感がした
―仲間の待ってるところへ行くんじゃないのかな、一人の落第者を切り捨てる為に?
すっかり改心したマイク・タイソンなんかがどこかの角に身を潜めていて
飛び込んできた俺に向かってハリケーンみたいなパンチの雨を降らせるかもしれない、まあ、タイソンなら
負けてもそんなに恥ずかしいこたぁないってことだよな
ヤツは勇敢だった、郵便局の横の
街のどんづまりの空地で足をとめて振り向いた
「不信心なおっさんには罰を与えないとな」にやりと笑いながらファイティング・ポーズ「神の名において」息を整えながら俺はやり返した
「二百年も戦争したりするのはお前みたいなヤツらなんだろうな」男の小鼻が膨らむ
「清く正しく生きる為に異教徒を殺すんだ」
「神を冒涜するやつはただじゃおかない」
「俺も今ちょうどそんな気分だよ」
俺が喋り終わらないうちにやつはジャブを打ってきた「おい!」
「ルール違反だ!」
「長くなりそうだったからな」
男はタイソンではなかったがそこそこのボクサーだった、俺のパンチは一発も当たらず、ヤツのパンチはすべて俺のどこかを捕えた、俺はほどなくノックアウトされて地面に倒れ込んだ
火がついたみたいに顔が熱かった「どうだおっさん」男は息も切らさずに言った
「神の裁きは抜群に痛いだろう」
「ぼうや、お前の名前を教えてくれよ、教会に請求書を送るから」
男は鼻で笑って周囲をちょっと確かめた後、もときた暗がりの中へ走って消えていった
俺は起き上がれないほどのダメージを楽しむことにした、冷えた土の感触が頬に気持ち良かった、しばらくそうしていたが突然額に濡れたタオルが当てられた、俺は間抜けな声を出した髪を短く刈りあげた痩せぎすの女が俺の顔をごしごしと拭きだした「あんた誰だい?」「いいから静かにして」
彼女は俺の上半身を難なく持ち上げ、服の砂を払った
「立てる?手を貸すわ」
「手際がいいな、看護婦か?」
「そんなようなものよ」
そんなようなものか
彼女の言葉はまがいものについて話してるみたいに聞こえた「ちゃんと手当てするから私のうちに行きましょう」「でも俺歩きたくないんだけど」「下心でも掻きまわしてるうちにつくぐらいの距離よ」そういうわけで俺は彼女の家に行った
シャワーを借りて痛む体をほぐしてから俺はようやく下心を掻きまわした、手当のあいだ中俺はギンギンだった
手当てが終わると当たり前のことみたいに彼女は俺をベッドに誘い、そして俺達は十五回戦じゃ済まないくらいに激しく打ちつけあった
「ところであんた誰なんだい?」
ひとしきりうとうとしたあと、俺は彼女の髪をがしがし撫でながら尋ねた
「当ててみて」「…判んないよ」
「ヒントがない」「そうね―」女は何か考えていたが結局なにも思いつかなかった
「さっきあんたをボコボコにした男の―配偶者よ」俺は笑いだした
俺のアッパー・カットはすごく下から、生臭い息を吐いてヤツの顎から脳髄まで粉々に打ち砕くだろう―テン・カウントだ


やったぜ!











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2009/3/28

夜歩く死体と色眼鏡(そしてやがて来るクライマックス)  










甘ったるい香りが行き惑う
薄暗い通りで路上にしがみついて
行き合わせた奴らに悪態を吐いていたんだろう
すれ違うだけの相手なら溜め込むようなことはないから
少なくとも、仕掛けた方の胸の内には
後ろ足で逃げながら神にも負けない口調の数々さ
誰にも勝てないくせに負けることがない
毒団子で死んだ鼠の死体を腸が出るまで踏みつけること
お前の狂気や勇気なんて所詮その程度のものさ、お前の中じゃきっと極上なんだろう
まるでコンピューター・ゲームの
ゾンビみたいな無難で陳腐な逸脱さ、臭い息を吐いてみろ
絵空事じゃそいつは不可能に近いだろう
百ワットの光だけしか明るく感じられないような
そんなこだわりでなにを手にしてきたんだい、完全な勝利以外は
裏庭に掘った穴の中に隠してきたんだろ、お前は素敵だ、お前の美学とやらは
流行りの話に涙する女子高生とそんなに違いはないのさ
甘ったるい香りにしがみついて
受け入れてくれる女にだけ強がってきたんだろう、路上に撒き散らしたコニーアイランドジェリーフィッシュの
総数をプラカードにして頭上に掲げてきたんだろう?
プライドってだいたいは滑稽な代物さ
胸を張ってるのはそれに気付けない連中だけさ
自分を馬鹿にすることから始めなくちゃ
徹底的に馬鹿にすることからじゃないと
その先に見えるものがみんな間違いになっちまうよ
自分に王冠なんかかぶせない
王国の概念はすべてを壊死させてしまうものだ、紫色の肉体じゃ
歩くたびに組織をどっかに無くしてしまう
いつでも入れ替え出来るイズムを所持しなよ
遠近両用眼鏡と同じ位、真理はこの世に溢れているぜ
お前の視力がどんぐらいかで
もう数えられないくらいに
どんなフレームを選ぶかってとこでも
それはもう数えきれないぐらいに
闇雲に追っかけたって手に入るもんじゃない、自由なプロセスを構築することが一番大事なんだ
自分に痛快な色眼鏡かけて、うんざりするような台詞を吐いたりしちゃいないかい
誤解すんなよ、心配してるんだぜ
誤解すんなよ、なんとかしてやりたいと思っているんだ、安っぽい台本に乗って浮かれている大根に
ほんとのドラマは静かに
クライマックスを迎えたがるものなんだってことを
夜明けのように静かに
鍾乳洞の様に複雑に
判るかい
判りあえない隙間に舌を這わすのはもう止めて
これからは、ひとつずつなにかを選んでみようぜ
ひとつずつ、手のひらにとって…形状は言葉だ




それだけで
真理の数は増える











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2009/3/19

鮮やかな薔薇が浄化する姿を  









しおれ落ちかけたまま凍てついた薔薇の花弁にお前の名前を書いて跡形もなくなるまで深く愛そう、それは留まった生でもあり早まった死のようにも見える、街灯の様に頭をもたげて…リノリュームに視線を落としている花弁、窓からの弱い月灯りが壁に映した影は声もなく泣いているみたいに見えた…すでに死んだ愛、お前の零度の側のぬくもりを愛そう、俺はアルコールに脳をやられながらソファーの上で深海を見る、花弁を垂れて凍てついたお前を連れてゆく…光の当たらない暗い暗い海の底へ…イソギンチャクがお前の懐から落ちた最初の夜の想い出を不味そうに啜っている、深海の圧力は頭蓋骨を軋ませる、哀しみに化けることがないならそれが一番良い、最も素敵な終りは記憶を撃ち抜かれることだ……海底に横たわると無垢な砂がほんの少し舞い上がって、気をなくしたみたいに少し漂って落ちる、聖堂のステンドグラスから静かに降りてくる天上の埃の様に…いびつな形の深海魚たちが懸命に唇を動かしている、讃美歌だ…ハレルヤ、ハレルヤ…グロゥリィー……俺の耳には確かにそう聞こえた、光の当たらぬ場所で光を讃える馬鹿ったれども、ルシフェルの小便でも沸かして飲むがいいさ…妄信が築き上げる世界などこの世にはない…俺の胸もとから解かれた花弁が、お前の名を記した花弁が、ゆっくりと離れてゆく…暗闇の中それはささやかな点となってそして消える…まるで救いのない浄化みたいだ、暗闇に浮かびあがっていく薔薇の花弁…!それは哀しい転生を思わせる、刃の突き出た分娩台へと産まれおちてくる赤ん坊のすぐさまの未来を思わせる…産声なんか聞こえるわけがない、そいつはすでに背中に大穴を開けられている、何の為に産まれてきた、何の為に…ブランケットの重みほどもない、小さく、穏やかな生命……海の中に居るのだ、お前の海の中に…運命は静かに海底を目指すようなものだと、産まれる前からお前は感づいていたのか…?アンコウが小魚を含むみたいにひとつの命が消える、俺の塞がれた耳にはその時の音がはっきりと聞こえるよ…ああ、ああ、泣けないものが本当は一番哀しいのさ、海草の様に届かない手をゆらゆらと頭上へ伸ばしているんだ、ハレルヤ、ハレルヤ、グロゥリィ…どんなことの為に神を信じればいい、どんなことの為に俺は信仰を掲げればいい?赤ん坊の背中に開いた大穴の為に…?馬鹿なことだ、俺の背中に、それがないなんて、俺は一度でも口にしたのか?俺が泣けないものでないなんて、いつ口にしたというんだ…?性急な、蛇のような…おぞましい唇の魚が海底を突いている、あいつは何を食っているんだろう…俺にはその口もとまでは見とめることは出来ない…ただそいつが砂に一撃をくらわせるたびに、何かの痛みが、そう…何かの痛みが右腕あたりを駆け上ってくるのが感じられるだけなのだ……見えないところで何を見ている?見えないところで何を見ている、見えないところで…深海魚たち、深海魚たち!退化した目で俺の網膜を見つめろ!俺の網膜にどんなものが焼き付いているが、そうと判るまで眺めるがいい、燃えるような薔薇の紅をお前たちは知らないだろう、俺がついさっきまで抱いていた、記憶!それが散るさまを見たやつはいるのか?下衆な唇で突いたりしなかっただろうな?もしもそんなことしたやつがいるんなら一匹残らず唇を剥いでやる…殺してやるぞ、侮辱にも等しいやり方で……水圧のノイズの中で俺は花弁の哀しみを忘れた、他に気にしなければならないことがたくさん出来たから……死、以外の罰など果たして有効なのか?慈悲があるから神は間違えてきたんじゃないのか…ああ、届かないもののことを考えていても仕方がない、俺の頭蓋骨は軋み続けている、ああ、あいつらの下衆な唇を…俺は泡を吐く、産卵の様に……浮かんでいるのか…?確かに産まれているのか……水底の闇は濃度を増した、俺にはもうなにも見えるものはない…









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