2009/4/27

真夜中はエンド(リプレイズ)  









最後の雪のように
ねじまき時計の稼働音が降り積もる夜中
俺の右目は殴り書きのように
充血して僅かに傷んだ
水面下の憤怒を何度滅ぼそうとしても
胃袋がこむら返るばかりで
手のひらで押さえつけて
無様な今日が終わるのをただ待っていた
音楽を止めたらそこには何も無かった
音楽を止めたらそこには何も無かったので、俺は腐った眼球を掻いた
瞬きをすると睫毛が
まぶたの裏側に潜り込んで
果てしなく涙が流れた、制御出来ないものが
そんなふうに流れつづけるのだ
目薬をさしたら酒のように染みた
今夜訪れたどんなものにも
俺は言い訳することが出来ない
ある意味で今夜の眠りが保証されないことにはとっくに気がついていた
無記名の喪失の
上に
構築された休日、ぶるぶると震えながら
笑顔を浮かべている痴れ者の
ギシギシに硬直した毛細血管の、振動から生まれる
リズム
リズム
リズム
リズム
お終いの音はよく鳴る
お終いの音はよく鳴るよ
反復が途切れるだけで、何かが裏切られた気がする、黒い波が打ち寄せる砂浜で
想い人の亡骸を抱いた
気の触れた女のような緊張の末路、冷えの戻る4月に
蝋のような思念が凝縮して出来た
壁の上のスクリーンに映るものを見ている
エンド、夢を見ていたんだ
血を吐くような長い傷みが続く夢を
エンド、ミルク色のコールタールの、中で
諦めないということについて考えることを忘れた
諦め続ければ
それは継続と言われはしないのか
エンド
ねえ、エンド
お前というお終いがスクリーンに描く経度
昨日と今日の感情を行ったり来たりしながら、ゆっくりとお前が踊るのをずっと見ていた
金属がこすれ続けるような
ファンファーレと歓声が聞こえて
それは毛細血管の音だ
それは毛細血管の音だよ
無記名の喪失がそれの後で嬉々として奏でるどうしようもない複合だ
リズム
リズム
リズム
リズム
寝床の底に沈むたびに
ああ
想い人の亡骸のような手、手を取って、早く早く
異相の寝床に溺れてしまわないうちに、お前の海にすべてを塞がれてしまわないうちに
ああ
恐れることが出来ない
長いことそれにつきあい過ぎたから
友達のように見とめてしまう
生と死の間の
わけの無い沈澱、そいつが落ち着く、そいつのところに居ることが一番
しっかりと手を取ったら、微笑んでくれ
なにも保証なんて
しなくても
かまわないから










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2009/4/20

それから俺は3分ほど何も考えなかった  











病むように降る春の時雨を、腑抜けた心で受けながら急ぐ繁華街の―喧噪の迷路、大きなドラッグストアと、年寄り向けのミュージックショップからの音楽が混ざり合って不快感を計測する実験を実行中、のような、そんなリズムがアーケードに生れ、聞かないようにと携帯電話に格納してあるアンダー・マイ・サムを内耳まで突っ込んだ、弾け過ぎないビート、こそが俺の日常を調律する武器となる
薄汚れた、だけど素敵な小さなペットショップの店先でしおれ変色したレタスをついばんでいる麦芽パンみたいな毛色のミニウサギ、俺はもはや媚を売ることに疲れた、気まぐれに優しくしてもらうことに疲れた、そんな気分を、コロコロとした糞の中に練り込んで押し出しながら、ただただ閉店の時間を待っているみたいに見えた―いつか人待ちの余興にUFOキャッチャーで手に入れた腕時計をプレゼントしてやろうか、ポケットに入ったままになっていたんだ、俺には用の無い代物だから―お前がもしもそれを欲しいと思うのなら無料で譲ってあげてもいい、そう話しかけようとしたけれど、細長い店の奥で椅子に腰かけてにこにことこちらを眺めている店主の婆さんの前ではちょっと難しかった…なので時計はまたの機会に必要な誰かに譲ることに決めた、もっともそんなふうに先延ばしにしてるうちに動かなくなってしまうとしたものだけど
アーケードの出口には無料配布の情報誌が入ったポストが集合住宅の様に並べてある、俺はそれをひとつずつ手に取って確かめていく、出来れば明日にでももうひとつ仕事にあり付けたい、それなりに納得づくで自尊心をどぶに捨てることが出来るような仕事、俺に出来ることなんてそんなにはない、贅沢は言えないが闇雲には動きたくない…歳をとればそういったことはもう少しうまく出来るものだと長いこと考えていたけれど、俺はいつの間にかそれが希望的観測に過ぎないものだったということに気づかざるを得ないほどに長く深く年輪を増やしていたのだ、何処にも根付けないまま古木になってしまった、末端の細い枝はいつも軋むような音を立てている、仕事のある場所を探して移動しているうちに、いつの間にか昔暮らしていたエリアに住みつくようになって…いつかの通学路を逆に、自転車を転がして毎朝仕事に向かう
棟割の木造が並んでいた川沿いの通りが少しずつ、コーポやハイツが立ち並ぶ真新しい通りに姿を変えてゆく、変わるのだと人は言う、だけど俺に言わせればそんな景色はいつも死を連想させるだけの代物だ、いくつもの店がシャッターを下ろし、いつしか更地になる―それもまるで気づくこともないうちに―がらんどうの、明るい砂が敷き詰められた更地から20年ほど昔のことが淡い煙のように立ち上る、俺が無垢な子供だったころの時代は、そろそろ神話ほどの距離になりつつある
おまえの神話は時を食いつぶしながら何を学んだのだ、とチャーリー・ワッツのハイハットが何を奏でるでもない俺の両手に問いかける、ツツタン、ツツタン、と、俺は彼のリズムを口ずさんで何も聞こえない振りをする、生真面目なイギリス人とややこしい話なんてする気はないね…俺の通っていた小学校は校舎が新しくなり、面影をほんの少ししのばせるだけになってしまった、校舎の死、と俺は口ずさむ、もう19回は繰り返されたアンダーマイサム、神話についてはもう誰も話しかけては来なかった、把握出来ないところまで行ってしまったからこそそれは神話と呼ばれるものなのだから
不自然なくらいスタイリッシュに再構成された駅の、高架に切り込むように夕日が沈んでいこうとしている、開発地域のがらんどうのスペースを熱の無い火が赤く染めて…二番線、ドア閉まります、とアナウンスがそこらにこだまする、発射のベルを聞くと次の列車に飛び込んでみたい衝動が生まれる、いまの俺にはどこかに出かけるような持ち合わせなど無い、駅の西側に出来た新古書店に入る、店員の挨拶が大声過ぎて気が滅入る…まるで何かもっと値の張るものを売りつけようと目論んでいるみたいに思える…エドガー・アラン・ポーをペラペラとめくって、ギャグ漫画を読んでるみたいに笑ってみた、となりで何とかいう映画の原作本を読んでた若い女が自分を疑ったことのない目で俺のことを睨んだ、ねえ、おじょうちゃん…俺は少しチャンネルを切り替えればこの場でお前を殺すことだって出来るんだぜ―目を細めてそう囁いたら本を床に叩きつけて店を出て行った…俺はそれから30分ほど店の中をうろついていた
駅の側の自動販売機の前で、アンダーマイサムを再び格納した、携帯電話はどんな高揚も持たないただの便利な塊に戻った、缶コーヒーを買って、プルタブを引いた


駄目だ
自分にノーと言ったことのない
人間のやることは









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2009/4/12

ひとつずつ死滅する暮れ方からのアルペジオの残響  








浅黒い空に陰鬱な虫が踊る、太陽の時間に間に合わなかった雨上がり、そこの破れた靴の中はもうすでに踏みつけた水たまりの記憶で一杯で…アスファルトの上で腐葉土を踏みしめているような違和感を構成していた
ひとつ、ふたつ、夜の始まりが道に降るたびにばらけるその日一日というフォルダ、展開しても展開しても増してゆく闇の中に逃げて行くばかりで、ただヘッドライトに、ただヘッドライトに浮かんでは溶けてゆく輪郭があるばかりで…文字でなぞらえぬものをすべて虚ろと呼んでしまうのか、何かを握りしめるさまを装った空っぽの手のひら
喧噪のわずかな隙間に、細胞が次々と死滅するその音を聞いた気がするんだ
身体の澄んだ蜻蛉が目の脇をかすめる、あれはなんだ、あの虫はなんだ、そいつの成立ちを知らない、知らないものを知るたびにこれまでは何だったのかと自問する、そんなことにいったいどんな意味を探し出せば満足出来る?知らないでいることの方が必ず過半数なのだ―俺は確信を持たない生物、武器も鎧も持たぬまま、戦場を徘徊する戦士の亡霊だ―その闘争心が描き出すものはもはや戦いなどと呼べるようなものではない
渦中にいて傍観する、向こう一面に散乱する死、散らばった死体の目つきを、折れた首の不安な角度を、手首から離れた手のひらを、真っ二つに裂かれた体躯を…海月のようにかぶった血液の温度と、感触を、傍観する、渦中にいて…死が存在しない時間など無いのだ、どんな世界を生きていても…俺は確信を持たない
確信はあらゆる関節を錆びつかせてしまう
夜、道端のわずかな草むらを騒がせる姿の見えぬものたちの蠢きを聞きながら、飛散した円環が冷たい床を鳴らしつづけるような、生命のざわめきを聞いている、生かせてくれるか、俺を生かせてくれるのか、僅かに冷却の余地を残した、まだ僅かに冷却の寄りを残した時の幕間…細かく爪弾かれる弦楽器のように積み重なる―確かに調子を強くしながら
俺の唇はいつでも水を求めていて、死ぬことを怖れている、満たしてくれ、満たしておくれよ、俺の営みに手を貸してくれる者たちよ、俺はいつでもその音を聞いていたい、俺の腹腔を満たしつづけるものたちのさざめきを…水をくれ、水を飲ませてくれ、少しでいいから、ほんの少しで構わないから
濡れそぼった野良犬がすべてを諦めて丸く眠る潰れた酒場の軒先、張り付いた体毛の艶めきにイラついて、錆びたナイフの刃先で少し切り取った、濡れそぼった野良犬はおまけに年老いていて…(もっと哀しい気分になることはこれまでにいくらでもあった)という目つきでほんの数秒俺を見ただけだった―お前の毛玉はこの上なく憎らしい、お前の目につくところに捨ててここから去るよ
ランプ、を模したライト、火のような灯りの下にずっと、入口のドアのところまで引っ張られたいけすかないコード(だけどさすがにそれを切り取るわけにはいかない)、俺はしばらく見つめていた、炎の様に明かりが揺れたりしないかと思って…ゴミを出しにきた店の娘が怪訝な顔で俺のことを見たので、ここに燃えるという概念が果たして存在するのかということについて少し考えていたのだと俺は説明した、そんなことどうでもいいわ、という調子で娘は頷き、それであなたをお客様として扱う必要はあるのかしらと娘は呟いた―その必要はないよと俺が言うと娘はいいとこの出みたいな会釈をして偽のランプの向こうへと消えていった
あの娘はきっと偽の灯りというものについてよく理解しているのだろう
昔は美しかった、というどぶ川のそばに辿り着く―この街の終わりの風景だ―そしておそらく時刻は真夜中に近いのだろう、潜む者の数が増えてずっとざわめいている…昔はそれを恐怖だと感じたこともあった、だけど、いまは俺もどちらかと言えばそんなふうにして暗がり降り注ぐ灯りの数を数えているのだ、偽の炎は闇を揺らすことが出来るかい、模倣された揺らめきは同じだけの温もりをそこに捧げることが出来るかい、渦中にいて傍観する在り方が感じ取るものは細かく爪弾かれる弦楽器の音に何らかの意義を感じることが出来るかい、そしてそれを何らかのやりかたで強く記すことが出来るかい、腹腔は満たされるのかい、アスファルトを踏みしめる腐葉土の感触はいつか渇く時が来るのかな…その靴底でどこへ行こうとする、その靴底でどこへ行こうとするんだ、渦中にいて傍観する、それは、渦中にいて傍観しないものとどちらがより学ばないのか、偽の灯りは、偽の灯りは……


真新しい鍵を取り出すのだ、どちらにしても
すべての物事は必ず降りかかるのだから






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タグ:  アルペジオ 残響



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