2009/6/21

今日が天気かどうかなんて本当はどうでもいいんだ  











赤い血が時々生命を忘れて凝固して俺の血管はサビついたプラントみたい、尖った先端が劣化したチューブを内側から削いでいくんだ、砂浜をサンダルであてもなく歩いているみたいな…摩擦を奏でながら
優しい歌や楽しい歌を紡ぎながら白痴のように笑って生きる、そんな暮らしを羨んだりすることもなくはなかった、だけど、痛みに触れようともしない暮らしは結局のところおままごとだから、いつかそれを歌うために痛みを遡ろうと決めたのさ、白痴のように淀んだ目つきをそこらにばら撒きながら
おかしなものだ、続ければ続けるほど、そこには終わりがなく、果てしない虚ろの中でうろついているような気分になる、空気の密度が変わるところを、色合いで描こうとしてるみたいなそんな気分になる
よく光る空だね、よく光る空だ、ねえ君、うんざりするくらいよく光る空だよな
一直線に伸びた後風にぶれてゆく飛行機雲は、死際を間違えたロック・シンガーを連想させる、俺のライブラリにいくつも並んでる、もう二度と口をあけることが出来ないやつらの名前…五十音順に並べてみたけど、俺、そんなものにどんな意味も持たせるつもりはなかった…アーティスティックななりふりなんか上等なファンタジーで結構満足できるものさ、ベイビー、ダイスを転がせ、数秒後にどんな結果が待ってるかなんて考える必要はない
アイスクリームを連れてきておくれようんざりするような犬死にのサマー、浮浪者どもが徘徊するさびれた海水浴場のいくつもの廃屋、死んだ産業の窓に映る立ち小便を垂れる死んだ社会性、汚れた首輪をつけた柴犬がそれよりは幾分誇らしい調子で後ろ足を片方上げて存在意義を壁に飛ばしている、メロンソーダのようなそれぞれの在り方の―シンボル
派手なバンでホット・ドッグを売っている長身の女の頬に青い痣、殴られたのかと尋ねたら顔をしかめて「あなたには関係のないことでしょ、ほら、おつり、どうもありがとう」ときたもんだ、もう親切なんかを受け入れてくれるほど適度な不幸を抱えたやつなどどこにも居ないのだ、どいつもこいつもおのれの地獄を誇ろうとし始めた、そうさ、俺たちは貧しいんだ、ホット・ドッグを買うことが出来ても…明日やってくる支払いをうまく捌けるかどうかはまるで自信がない
この海水浴場に隣接する空地には昔遊園地があったんだ、到底自慢出来るような立派なもんじゃなかったけれどさ、「派手な公園」って言ってもなんだか見劣りするくらいの遊園地が確かに昔ここにはあったんだ、砂浜からいつも見えていた観覧車、何人もの友だちがそこでロマンティックを少しだけ卒業したバカでかい観覧車…あのゴンドラから見下ろす世界は哀しいくらい青くて…「海ってもしかしたら死んでしまった人たちのものかもしれないね」と呟いた十七の時のガールフレンド、あの娘もすぐに無口な魚に還ってしまった、本当はどんなふうに泳ぐ気だったんだい、本当はどんなふうに掻き分けていくつもりだったんだいって葬式の時に俺、尋ねたけれど、彼女の心はもう海水のように、溶けてどこかへ流れてしまっていた、不思議なくらい静かな顔をしていたなぁ…業火のような夕暮れが水平線を染める、数時間前のことだった
あの娘はきっとロマンティックを神様のように崇めていたんだ、十字架からまだ下りられない神様を見ているみたいに
海をまたぐ大きな橋から昨日、一人の男が飛び降りて砕けた、飛び降り防止用の、徹底的なフェンスを全て乗り越えて、きっとあいつは気がつかなかったのだ、まだ何かを乗り越えようとしている自分のことを、だけど、死んじまう男は好きだよ、死んじまう男は好きだ、どうしたって俺はそいつらを嫌うことが出来ない、愛しているよ、愛しているよ、愛してやるよ、DEATH、DEATH、DEATH、DEATH、遠く届かない世界で、よく似た俺が愛してあげるよ、飛行機雲にぶら下がろうとしたお前たちのロマンティックを…投げ捨てた世界に風は吹くかい、熱くなりすぎた頭を覚ましてくれるかい、よく光る空に書いて教えておくれ、エターナルな羽ペンで、余すところなく記しておくれ、俺がこちらの言葉に変換してばら撒いてあげる
未来なんか信じたりする子供じゃなかった、一度だってね、家族を闇雲に愛したりする子供じゃなかった、一度だってね、与えられたものをそのまま飲み込むような子供じゃなかった、一度だって、とても大きな憎しみやいらだちの中に放り込まれて、そのたびに頭の中でいろいろな武器を振りかざした、ある女は俺の頭の中で二千回は切り刻まれたよ
犬死にのサマー、暗色の誘い水、ロマンティックが打ち捨てられた観覧車、海は確かに死んでしまった奴らの揺りかごだよ、さようならと言う時にはいつでも頭の中でとりとめのない旋律が流れていた、知ってる旋律だったり、多分どこにもない旋律だったりした、さようなら、さようなら、何度口にしたって本当は別れることなど出来やしないんだ、飛行機雲、居なくなった、速い風が津波のように空を塗り替えて…俺はその先に続けようとした言葉を忘れてしまう



さようなら、今日が天気かどうかなんて本当はどうでもいいんだ












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2009/6/5

神の詩、片端に記された聖書、ただ落下しては流れてゆく雨の行先  













狂ったのは数秒、破綻した能書きを淡いグリーンのタンブラーに短く吐いて、眼の中を覗きこまれる前に正気の振りをした、恐怖が心臓を肥大させて鼓動の破裂で肉体を破壊させようと目論んでるみたいで、やり過ごせたと感じたらその瞬間、意識を支えるものがなくなった、ねえ、俺には昔神様がいたんだ、だけどなんと言って拝んでいたのか、いまではもう忘れてしまった、荒れ果てた祭壇には白骨化した何かの骸が静かに眠っているのみさ、血の味を覚えているか、いつか嬉々として啜った血の味、それは今でもお前の胸の内で脈を打っているか、罪だ、罪だ、生を烈しく望めばそれはすなわち罪だ、灯りを消した部屋の白い壁に死神のような外界からの影、俺は見ていた、ただ何もせず、見ていた、黒い影を、小さく揺れていた、部屋が、あるいはこの俺が、呼吸のための動きとほとんど判別がつかないくらいの、かすかな振れ幅で、振動、俺は見ていたんだ、そのわずかな、そのわずかなぶれの中にある、殴り書きされた筆跡、呪詛のような言葉を、長く長く、長く長く、長く長く連ねた、いくつかの黒い塊、そんなものに意味を求めては駄目だ、そんなものに意味を求めてはきっと駄目なんだ、遠い夜に落としてきた幸せが内臓を壊したような泣声をあげている、聞かせないで、聞かせないで、そんな声を、咎めるように静かに、俺は正気の振りをして、リズム・トラックがうるさ過ぎる何とか言うバンドのアルバムに耳を澄ませていた、ロックンロールがリズムキープで語られる時代だ、ボーカルのピッチで評価される時代だ、そんなイズムに救いなどあるわけがない、そんなイズムに、スクラップ・アンド・ビルドなんて望むべくもないよ、マニュアルを求め過ぎてみんなが同じ面になる、同じような運びになる、俺はそんなもののためにここに生まれてきたんじゃない、破壊と創造、の本意とは、本来、どのように壊せたか、それを見つめるためにあるんだ、作り上げることなんか誰にだって出来るだろう、だけど、壊すことが出来るやつは限られているんだ、破片、破片、破片、破片、墓標に耳を寄せて鼓動を聞け、全ての爪に番号を打ち、一日に一枚ずつ剥ぎ取っていけ、二〇日目から最高にうんざりして涙を流しながら待ちわびる再生の風景を、お前の好きな芸術の名前で呼べばいい、傷みが、ともなう、痛みがともなう、そこには必ず、傷みを覚えることを恐れてはならない、逃げ道を探すぐらいなら口など開くな、言葉など発するな、希望など持つべきではない、我知らず口をついて出る愚痴のような長雨、道路を叩いて、道路を叩いて、道路を叩いて、どこにも行きつかないリズム、どこにも行きつけないビート、ただ叩きだされるだけの、ワンツゥ、カウントを取れ、それが何のためかなんて、少しも考える必要はない、動機を整理しようとすれば衝動は意味を失ってしまうぜ、だけど、だけど、道路に落下しては流れてゆく雨粒、叩きつけられてはいなくなってゆく雨粒、それと、それと、どれだけの?求めてはいけない、理由など、動機など、意味など、ある意味で俺は罪人と同じだけど、きっと動機を語るような真似をしてはならない、浮き彫りになどしないまま、周辺を削ぎ落したりしないまま、まるでないみたいに、まるでないみたいに振舞わなければならない、あとからやってくる物事のために、いま連ねるべきことを無駄にしてはならない、ああ、夜だ!夜が来るたびに俺は、この身が供物になったみたいな感覚にとらわれる、身動きが取れず、身動きが取れずに、ただ宿命的にそこに縛られた者たち、俺は供物か、俺は供物か?ヘッドフォーンを外して鼓膜を殴れ、お前のやるべきことはいつだって内なる声を聞くことだったはずだろう?ねえ、俺には昔神様がいたんだ、だけど忘れてしまった、祈りの言葉も、信じた理由も、だけどそれは死んでいない、神という概念ではなくなっただけさ、俺たちが手にしているものは所詮万物の息吹の片端に過ぎないんだ、俺は観念的な祭壇を破壊する、居ない神は祟ったりなどしない、終わった神の呪詛に俺を破壊することなんて出来ない、散乱、散乱、散乱、散乱、砕け飛び散るものたちの形の哀しみを見ろ、それらが荒れた床の上に描き出す無意味な堆積を、だけどこうは思わないか、完結する祈りはある意味幸せだと、そんな風に終わりを迎えることの出来る祈りはある意味でとても幸せなものだと?神は死んだ、神は死んだ、神は死んだ、俺に障りなどありはしない、俺がそれを信じていたのは遠い昔の話だ、信仰の死体が飛び散っている、俺はまた始めなければならない、それが行き先を見定める前に動きださなければならない、確かめながら進む必要などない、どうせその先に何があるのかなんて、万にひとつも理解出来ることなどないのだから。













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2009/6/1

Fish  散文















早い朝の淡い光線に君は濡れながらそれでも整然とした様子でそこに生きていた、俺は喉に突っかかるような痛みを覚えながら君の名前を呼ぼうとしたが、記憶に栓をされているみたいにそれはままならなかった。伸びすぎた前髪が警告のように風に揺れて目の前に垂れさがる、それは君の姿をキャベツのように細かく刻んでしまう、初夏の草のにおいがうるさいくらい俺たちの周辺で騒いで、それだけで俺はなにかこの場にそぐわない己の魂のことをこの上なく恥じてしまうのだ。夜っぴて降り続いた雨の後の朝に遠くからやってくる風にはすうすうという音が似合う、悪夢に浸食されない寝息のようなノイズ。もうなにも咲かない枝のそばで君は遊んでいた。俺は傀儡みたいなものなんだ、と呟くと、枝の先を指先で転がしながらふふ、と短く笑った。俺は慰めてもらいたいわけではなかった、ただ、そんな感情がここにあるということを、認めてもらいたいと思っていただけなのだ。だけど、そんなささやかなすれ違いはいまに始まったことではないし、特別苛立たせるような何かがそこにあったわけではなかったから、俺は口をつぐんで笑い返した。それはまるで笑うという行為とはかけ離れたものに思えて、神経が二、三本断線しているのではないのかと勘繰らなければならなかった。低木は嫌いだ、いつでも予期せぬものを下から覗かれているような気がするから。見せるまい、と躍起になって睨みつけてしまう。だけど、どれだけそんなことに心血を注いだところで、結局のところそれは予期せぬものを覆い隠すことにはならないのだ。ああ、と俺は声を吐いた。君は少しだけこちらを振り向こうとしたが、いつものため息だと悟ったのだろう、黙って消えない程度に先に進んでいた。君はそういう歩き方がとても上手だった。もう少し上手に感謝できる人間であればよかったな、と今更ながら俺は考えるのだ。そしてそのせいでため息の理由を足元の草むらに落としてしまう。落とされた理由は妙に腹のでかい蟻にさらわれて運ばれていく。蟻よ、やめておけよ、そんなものを献上したって、女王は喜ぶことなんかないよ。蟻と意思の疎通を図るすべを自分が持っていないことに俺はうんざりする。なにか伝えるべきことを持っているのに、伝達する手段がない。本当に無力と呼ばれるのはそういう類の事柄であるべきだ。俺は止めていた歩みを再び始める。君がそれとなくこちらを気遣いながら歩くにも限界があるのだ。君のさりげなさだけは壊したくないと思う、君が薄い氷の上を歩くみたいにさりげなくこちらを気遣って歩いてくれていることだけは、このまま俺が俺に戻ることが出来なくっても壊したくないと思う。ねえ俺、不安なんだ、すごくすごく。だけど、子供のころから怖いって叫べない子供だったんだよ。いつでも一人になるまで、泣くことも出来ない子供だったんだ。どうしてかなんて説明出来ない、だから今でもそんなままなのさ。平気な顔ばかりしているとどんな心を抱えていても普通に暮らしてるみたいに見せることが出来る。そんな風にして少しずつ狂っていったんだ。普通の顔をしたままなにかが狂い続けているのさ。表向きの平静に感化されちまったのか、音もさせずにパズルのピースを取りかえるように狂っているんだ。そういうのってボーダーラインを越えることが出来ないんだよ、心が狂気に順応していくからさ、ボーダーラインであるべき位置にたどりつくころには、ボーダーラインは数歩先の辺りでにやにやしながらこちらのことを眺めている。ほら、なんでもない。順応してしまった感情はそんな認識を当り前のように受け入れてしまう、そうしてひとつひとつが少しずつずれていく。ゴールテープが移動し続けるマラソンみたいなものさ。ゴールテープが見えていると、ランナーは諦めないだろう。ばたりと倒れるまでは。そんなこと、どうでもいい話かもな。俺だけが理解していれば済む話だ。なにもかも理解してみたところでどうすることも出来はしない、予期せぬものを下から覗かれているみたいにさ。見失わない距離に居てくれる君の背中を俺は眺める。俺は感動して泣いてしまうのだ。母親のような遠慮のない愛とは違う、背中の在り方。君はいつでも俺のことを待ってくれている。ありがとう、ありがとう、君が道標になってくれる間だけは、俺は正気でいることが出来るような気がするよ。鳥たちの声が高くなり、気温が上がり始める。ねえ君、太陽が昇るよ。君、明るくなる。俺は君の背中を追う。君の気遣いを無駄にしてしまうような速度で。君は振り返って涙の乾いた俺の頬を見る。そして笑うのだ。ちゃんと見ていたいのに君の後ろから太陽が昇り始める。











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