2009/11/8

悪夢(reserve)  








叫び続けるお前は公園の水飲み場で
雑菌がたらふく含まれた水を喉を鳴らして飲む
もしもお前が子供のころを覚えているなら
その水からはアメンボウの味がするだろう


はしゃぎ続けるお前はシャッターの下りた酒場の前で
財布の中身をぶちまけて残り金の勘定をしている
もちろんはしゃいだことを後悔しているわけではなくて
あと幾晩をそうして過ごせるかを知ろうとしているのだ


歌い続けるお前はある夜とうとう喉が悲鳴を上げて
古木戸が軋むみたいな声しか出せなくなってしまった
バックステージの洗面でうがいをして蜂蜜を舐めている
そこからもう少し続くことをお前は知っているのだ


演じ続けるお前はまずい脚本家を殴り飛ばし
台詞の入らない共演者に強烈な毒を吐く
お前の名声を傷つけようとしている人間がまわりにはごまんといるから
お前は看板を守ることに全力を注がなければならない


彫り続けるお前はある日怪我をした指先から
肉のように赤い血液が流れおちるのを見た
不思議な快感が背筋を通り抜けるのを覚えて
すっかり乾いてしまうまで長いことそのまま見つめていた


描き続けるお前はある時カンバスの中にどんな線も見つけられなくなり
眼球を赤い色に塗った
それで何が見えたというわけではなかったけれど
些細な狂気は本物の狂気を抑えることが出来るのだということを知った


歩き続けるお前はいつか伸ばしたままにしていた靱帯が
ふくらはぎの筋肉を紅潮させながら痛み始めるのを感じる
歩くことを辞めることなど考えないが
お前の痛みを残念に思う連中のことを疎ましく思う


歪み続けるお前は光を拒否した部屋で
毛布にくるまって悪い夢を見ている
悪い夢の中に安住しているのだ
目覚めたと気づいた時にはどんなものが見えるのか知っているから


殺し続けるお前はもう喋らないものに話しかけ
面白いジョークを聞いたみたいに声を上げて笑う
だんだんとよどんでいく白目のことを愛しいとさえ思う
たくさんの罪を裏庭に埋めてまるで恋の成就を感じているように見える


奇異なるものだとお前は言う、だけどそれはどいつのことを指しているのか俺には全く見当がつかない
こんなことをだらだらと書き出している自分をとても滑稽だと感じたりもするけれど
眠りの色が少し変わることを知っているからもう少し続けなければならないのだ
奇異なるものだってお前は言う、だけどお前もこの中のどこかに属しているんじゃないのかい
叫びたがるお前のことだって知ってるぜ、はしゃぎたがるお前のことだって、歌いたがるお前のことも演じたがるお前のことも、もちろん
彫りたがり描きたがり歩きだがるお前のことも
歪みたがり
殺したがるお前のことも


そしてお前はどこへ行くんだい
今夜はぐっすり眠れそうかい
自己のせめぎ合う声を聞きながら
長い眠りの中でどんな夢を見るんだい
目覚めたら、満足したって言えよ




どれひとつとして欠けてはならない
まどろみの中で手に入れたものたちだけは









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2009/11/4

Winter Blue  









歩道の舗装のひび割れたところの饒舌
くすんだ向かいのレコードショップのイエローのテント
縁石に座りこんで俯いて泣いてる10代と思しき女
交差点の電柱の下で乾いた血液みたいに色を変えた花、ああ、ああ、もうじきほんとに冬が来る
シグナルが青になるころに鳴り響く
高音質の携帯電話の薄っぺらい音楽、なにやってるの、何時だと思ってるの、さっさと来なさい、いつまで待たせるつもりなの
一方的な約束に付随する、義務を果たす気なんかないよ
薬に溺れた清純派代表の元アイドル、カメラの前で完璧に泣いて見せた、ブラボー
目に見えるものだけを信じさせるのがアンタの仕事だよ
あそこにピアスがあろうとなかろうと


駅の近くで人が塊になってた、隙間から覗いてみると道の上におびただしい血痕
「女子大生が若い男に刺されたらしい」俺が興味を持ってるように見えたのか、通りすがりのおやじがそう教えてくれた「出来ればお前がやりたかったか?」
まさか、と答えてそこを離れる、唐突な詩情は失笑を買うだけだぜ、ヘルマン・ヘッセでも読んで勉強しなよ
現場から少し離れたところで、人の流れを止めないように頑張ってる警官と目が合う、やつは無意味に俺を憎んでいるみたいに見えた
深呼吸をするとナマ温かい、行き場所をなくした血液の匂いがした、ああ、ああ、もうじきほんとの冬が来る
彼女はさっき救急車の中で天に召されたよ、薄いブルーを隠し過ぎる雲がかすかに揺れながらそう告げた


やることがなにも思いつけない、そんなとき人はゲーム・センターに入るものだ、小銭を並べて時間を買う、いま出来ることは多分それしかない
古いゲームを選んで数百円分プレーした、昔流行ってた歌が頭の中でいくつか流れた
長く生きれば生きるほど、過去に閉じ込められてるみたいな気分になることがある、そんな時人はどうやって今と折り合いをつけるんだろう、まだ生きている自分のことをどうやって慰めるのか
もとより答えを求める気はなかった、気紛れにこだわり過ぎると人間は駄目になる
だけど気紛れを見過ごしたらきっともっと駄目になっていくのだ
ハイスコアーが出たけどそれは、このゲームをプレイした人間があんまりいないせいなのさ
缶コーヒーを買って飲んだら内臓がベトついた気がした


歩道橋に昇ってメイン通りの果てを眺める
甲虫のような機能美の長い列、舌打ちみたいなクラクションがそこいらで短く飛び交う
イラつくのはよしなよ、お前ら全員が
それに乗っかってるせいだってことにそろそろ気づけないのかい
そういや昨日このへんで飛び降りがあったらしいね、高校生の二人組がそんなことを言いながら通り過ぎていく
まったく毎日人が死んでるところなのかな
俺は死んだのは若い女だと思った、何故だか判らないけれどそんな気がした
確かめる気もなかったけれどそうだと思うことにした
だってそれが風景としちゃ一番綺麗に見えるから
街に慣れたカラスが二羽、初々しいカップルみたいに戯れながらビルを越えてゆく
そのままそこに居たら次にニュースになるのは自分のような気がして
あまり急いでるみたいに見えないように気をつけて速足で降りた


人間というやつは群衆になるとどうしてこうもきちがいみたいに見えるんだろう
そんなことを思いながら線路沿いを一駅分
未成仏な気分を抱きしめながら歩いた
ひとりの若い男が目を伏せて急ぎ気味に、俺の横を駆け抜けていった
すれちがった瞬間脇腹に鈍い痛みがあった
俺は倒れながら男の足を掴んだ
逃げようとしていた男はバランスを崩して顔から地面に突っ込んだ
なにかが割れたような乾いた音がした
俺は起き上がろうとしたけれど激痛に力をなくして
駅に入ろうとしてる電車の音を聞きながら仰向けに倒れた、どうしたんですか、大丈夫ですかと誰かが話しかけていた、声が綺麗な女だった、そのうちその声は悲鳴に変わった
空を覆っていた雲は、いつの間にかどこかへ流れていて
テレビ画面のブルー・バックによく似た青が広がっていた
俺を刺した若い男はぴくりとも動かなかった





ああ、ああ、もうじきほんとの冬が来る








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2009/11/2

グッバイ・ブラック・ライダー(動画)  


2009,10/11
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