2010/4/7

ドーナッツ  










エイト・ビートを告げるカウントの
ワンとツーの間に落ちたものを探す
飯を抜かれた犬のように
鼻先をヒクヒクさせながら


裏通りで寝そべった時に見上げた釈迦の掌は
光化学スモッグのスクリーンの上で涼しい顔をしていた
ジェラートを舐めたいと思った
その時は12月で
普段そんなもの欲しいとも思わなかったけれど
ジェラートを舐めたいと強く思った
なにかひどく甘く喉を潤してくれるものを


潰れたパーキング・ビルの
封鎖された入口の有刺鉄線の前に立っていた
ちょうどデスマッチな気分だった
いらだっていて
赤子のようだった
鉄線を結んだ杭を蹴りつけると
嘲笑うみたいにバッタが短く飛んだ


ショッピング・モールの片隅のあばた面の娘が揚げたドーナッツは全然好みじゃなくって
ぐちゃぐちゃと砕きながら祈りの言葉を捧げた
コーヒーで流し込んでしかめっ面をすると
娘がほんの少しだけこちらを見ながら悲しい顔を浮かべているのが見えた
だけどそんなことどうしようもないことだ
料金を払って店を出ると
駐車場で三台の車が玉突き事故を起こしていた


広い公園の楠の下のベンチにだらりと身体を任せて
風にそよぐ木々の葉の音をずっと聞いていた
近所のハイスクールのバスケット・ボールのクラブの一団が汚い声で叫びながらそばを通り過ぎて
その場で構成された様々なプロセスがすべて駄目になった
獣が唸るような声に振り返ると
きれいに着飾った女が銀杏の根本にゲロを吐いていた
その女に時間を尋ねようと思った
そうすれば彼女は自分がいまやっていることがどれだけ恥ずかしいことかということに気づくかもしれないから


書店によってスティーブン・キングの小説を立ち読みした
立ち読みしたときにこれほど買いたくなる作家を他に知らない
そのくせいざ買った後ではまるで読もうという気にならないのだ
もちろんそれが彼のせいである訳はないが
近頃じゃ立ち読みするたびになにか軽い怒りすら覚えてしまう


部屋の窓枠にはまだ
去年の落ち葉が山ほど積もっている
処理する術のない戦争被害者みたいに見える
コンバット・マーチを口笛で吹くと
一時間ばかり偏頭痛に悩まされた
アスピリンを飲んでベッドに横たわると酷くジメついた夢を見た
それがどんな夢だったかはいまでは思い出せない
夜中に目覚めて最初にしたことは
落ち葉をひとつ残らず下にはたき落とすことだった
さようなら過ぎ去った日々よ
上書き更新程度の明日のためにお前に別れを告げよう


それから朝までは少しも眠れなかった
白んでゆく空を見てると人生は終わるのだという気分になる
どこかの屋根の上で二羽の小鳥が朝の喜びをさえずりあっていて
それは下手なラブソングみたいに心を煩わせた
エア・ガンを探したけれど
二年前に誰かを撃ってから処分したことをすっかり忘れていた
そういやあいつの名前はいったいどんなものだったか
いろいろなアルバムやアドレスを引っ掻き回して探したけれど
二時間を費やしてもまるで思い出せなかった
そこだけくり抜かれたみたいな忘却だった
それは数分とても嫌な気分を漂わせたけれど
朝飯の時間になって腹が鳴り始めるとどこかへ行ってしまった


昨日と同じドーナツ・ショップで昨日と同じドーナッツをオーダーした
上書き更新に相応しい一日を
誇りを持って始めるべきだというのがこの朝の指針だった
うまいことにカウンターには昨日と同じあばたの娘が居て
俺の顔を見ると眉だけで不雑な心境を雄弁に語った
店には俺とその娘の二人しか居なかった
非常に厳粛な空気の中二つのオールドファッションが揚げられた
今日のそれはちょっと記憶にないほど美味いドーナッツだった
一口ずつゆっくりと味わいながら食べた
コーヒーはすべて食べ終わるまで口をつけなかった
レジで金を払うときに娘はフフンという顔をしてみせた
俺はヒンドゥーの祈りのポーズで答えた
妙なシンパシーに戸惑いながら店を出ると
昨日公園でモドしていた女が若い男を連れて颯爽と歩いていた
シックな薄いピンクのスーツを着ていた
タイト・スカートに包まれた尻は
ハルク・ホーガンの力こぶみたいにキュッとしていた
彼女の歩調に合わせてコンバット・マーチを吹いた
一日は確かに少しずつ変化をしているのだ










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2010/4/7

ブラインドの角度を適当に変化させ続ける、言うなればそういった程度の意味しかない午前の覚え書き  












無造作に投げ出されたそのものの形状それこそを俺は真実と呼びたい、お前に何が言えるのかね、ただ闇雲に研磨する事ぐらいにしか真摯さを見つけられないお前に?無菌室で育てた命が外界でいきられるか少し考えてみるといいよ、サヴァイブ出来ないものにはどれほどの美しさがあっても見いだす価値などないとしたものだ…言うまでもないが、ただの物質的な感覚について語っているわけではないぜ、ただの物質的な…そんな次元の想像力しか持ち合わせていないのならここで読むのをやめるんだな、所詮お前は頭の中だけのイスト、所詮それは頭の中だけのイズム、血でもって掴んだものじゃないイズムでは…そこに血の手形が刻まれたイズムでなければ…本能をなだめることは出来ないぜ、スマートなプロセスの追求こそが俺に言わせりゃマスターベーションってヤツなんだ…シャネルやなんかの服を着て鏡の前に立ってる女のようなものさ、ブランド・マークを見せびらかさなきゃ服を着た気になれないみたいな、そんな薄っぺらいのよくいるだろう?

さて俺は冴えない服を纏ってそんな自己満足だけのオナニストどもが集う場所で一日の半分ほどを費やす、まったくここの連中と来たら男だろうと女だろうと放出した精液に満足してるみたいな、そんなプライドで溢れてるぜ…署名のない、幽霊からいただいたみたいな価値基準にどっぷり浸かっている阿呆ばかりさ、顔を合わせるとこっちの面の皮にまで嗅ぐに耐えない臭いが移ってきちまいそうだ…判るかな、公衆便所で他人の大便の臭いが服にこびりつくことあるだろう…あんな感じがするんだ、こいつらのイデオロギーに耳を傾けていると…

てめえの動きのないものって凄く愚かしいんだってことが判るぜ、どんなに補強しても脆い柱は強くはならないものさ、それが言わばイズムというものの真理なんだ、血肉に刻まれているものをそのまま取り出して眺める、そんな認識がなければいけないんだ、その赤さを、あるいは黒さを、自分の血液として知らなければ…そこからリズムというものが産まれてくるんだ、鼓動というのはそこからでしか在り得ないのさ、戸惑うのはそれが自分の奥底から築き上げたものではないからさ、知識によって真理など築かれることはない、それをするのはいつだって本能の役目さ…体温、って言った方がお前の領域には伝わりやすいのかな?息をすると温度が少し上がるみたいにお前の中にあるものは語られなければならない、適当に簡略化して言っちまえば俺の言いたいことってだいたいそんなようなものさ

それがどういうものなのかっていうことをお前はそこから広げていかなくっちゃ駄目だぜ、それが本当はどういうことについて語られているのかっていうようなことを…適当に簡略化されなかった場合、そいつはどんなような姿でお前の前に現れるのかってことを…どれぐらいの物量で、どれぐらいの要領で、どれくらいの密度でお前の中に潜り込もうとしているのかということを…ウンザリするぐらい考えなくっちゃ駄目だ、どんなことだって最初の最初はみんな、ウンザリして頭がズキズキ疼くくらいに考え込まなくっちゃ駄目なのさ…それを考え込まずに出来るようになるまでね…新しい土地を、すべての道を記憶するまで果てしなく歩き続けるみたいなもんだ、携帯のキィを見つめながらでも…迷わずにどこへでも辿り着けるまでは歩かなくっちゃ…それを覚えるまでにはたくさんの時間がかかるぜ、それが確かなものになるまでには途方もない時間がかかる…自分がなにかを知っているなんて考えはそれがコチコチに固まる前に捨ててしまう方が賢明だ、たかだか八十年のヒトの人生などに、悟りなんか存在するはずがないって…そう信じておいた方が健康的だぜ、ヘルシーっても
んさ…菜食主義みたいなもんだ、葉っぱは食べ疲れるってことがないだろう?身体を重たくしないものでなけりゃ、食べ続けることは出来ないさ、いやもちろん俺は肉だって存分に食らうけども…話がややこしくなるから余計なところを突っつかないでくれよ…ただでさえややこしい話をしているんだから…物量や容量が必要な話をさ…

無造作に投げ出されたそのものの形状それこそを俺は真実と呼びたい、それは無意識ってこととは違うぜ、だけど意識してどうこうっていうようなことでもないぜ…その極とその極を行ったり来たりしながら…その都度のポイントをどこに置くかというような問題なんだ、緯度も経緯も固定されてはならない、それは名称や定義で…自分の足首を縛りつけるようなもんなんだ…









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2010/4/7

冷たい血が俺を生かしている  











そいつはこの上なく獰猛で
このうえなく強い顎の中に
鉄をも貫きそうな頑丈な牙を備えている
だけど死体だ、死体だ、死体だ


建築計画が頓挫した
コンクリが剥き出しのビルディングで
ヤク漬けのコールガールと6時間ヤリ続けた
キャンディと名乗ったその女は
最後には泡を吹いて痙攣を始めていたけど
半時間休んだらムクリと起き上がって
分相応なだけの金を受け取ると
ポーラ・アブドゥルを口ずさみながら大通りの方へ消えて行った
俺はガムを飲み込みながら
失くしたものが戻ってくるまでそこでじっとしていた


そのビルから地下鉄で二駅ほど南にある
「さかさまのヘブン」という名のバー
カウンターの中でシェイカーを揺さぶっている女は
子供のころに母親を撃ち殺したらしい
めずらしくもない話かもしれないけれど
確かに彼女の瞳の中には過去と呼べそうな光がひとつもない
俺は数年前からこの店の常連だけれど
彼女と会話らしい会話をしたことは一度もない
ポップスをレイプしてた頃の
パブリック・イメージ・リミテッドがいつも流れている


昼間がどんな天気でも
この街の夜は蒼褪めた曇り
乱暴なタクシーがホーンを鳴らすたびに
歩道で転がってる野郎どもが犬みたいに吠え返す
なあ街の外れの墓地まで乗せて行ってくれよ
親族の死体を掘り返して未来と名付けたいんだ
ドライバーは一言も言わずに鼻を鳴らすと
一度閉めたドアをまた大きく開いた
夜に向かって
この街の真夜中に向かって


そいつはこの上なく獰猛で
このうえなく強い顎の中に
鉄をも貫きそうな頑丈な牙を備えている
だけど死体だ、死体だ、死体だ、死体なんだぜ


部屋に戻った俺は壁に日記を書く
十数年前に見たモノクロ映画の物真似さ
いつぐらいから
日付のあとにエンプティって書き添えるだけで
読み返しても面白くもなんともないけれど
思うに日記なんて自己催眠みたいなものだ
その日の中に記すべき何かがあったと
信じたくて仕方のない誰かがダイアリーの売り上げに貢献してる


夢の中で俺はターバンを巻いてひとこぶのラクダにまたがり
世界の終わりみたいな砂漠の上を彷徨っていた
最高温度に設定したハロゲンヒーターを
周囲に百個並べたみたいな太陽が照りつけていて
ラクダがひとつ歩を進めるたびに
俺は呪詛の文句をカラカラのくちびるから吐き捨てていた
夢の中で何を探しているのかよく判らなかった
夢の中の俺はどうしても
何かを欲しがっているようには見えなかったのだ


明方にいつも小便がしたくなって目が覚める
そしてそのあとは決まって
一時間近く眠り方を忘れるのだ
そこから一時間以上眠れなかった時は
その日の仕事は休むことにしている
そうでなければ崩れてしまうのだ
生体としてのこの俺のバランスというものが


シャワーは適当に濡らすだけ
清められるなんて幻想だって判ったから
朝食は取らない
別に面倒くさいとかいうわけじゃなくて
いつからか朝食の取り方というものをすっかり忘れてしまっただけのこと
インスタントコーヒーだけ飲んで着替える
物足りないという気分じゃなければそれが朝だという気がしないのだ
骨董なみのラジオから流れる
ヒット・チャートを数曲聞き流したらお出かけの時間だ


仕事場までの地下鉄の中じゃ毎日誰かがおかしなことでもめ事を起こしてる
財布をスッたとかスラれたとか
たいしてイカしてもいない尻を触ったとか触ってないとか
どいつもこいつも何がしたくてこんなところに乗りこんでくるんだか
誇るべきほどの金も持ってない俺にはスリなど怖くもなんともない


そいつはこの上なく獰猛で
このうえなく強い顎の中に
鉄をも貫きそうな頑丈な牙を備えている
だけど死体だ、死体だ、死体だ、死体なんだぜ…


俺は毎日六時間から八時間
プレス機の中に鉄板を突っ込んでる
二枚重ねて入れないように注意しさえすれば
あとは何も考えずに手だけ動かしていればいい
昨夜のコールガールの
意外と具合のいいアレのことを考えながら仕事を続けていたが
時々隣に立つ年寄りには心底うんざりさせられる


そいつはどうにも否定しがたいほど俺そっくりな顔をしていて
しかも見るからにいい暮らしなんかしていない
痩せこけていて
目には力がない
ふっと俺が自分のことを考える時
そいつは必ず俺の隣に立つ
そして俺のように鉄板をプレス機に突っ込んでいる
畜生、と俺はプレス機のリズムに合わせて声を上げる
腹を立てないとそいつは絶対に消えてくれないのだ


今夜は誰かが俺に抱かれてくれるだろうか
「さかさまのヘブン」のカウンターの
暗色のオーロラのような目をした女は
一度くらいなら俺とやってみてもいいなんて思っていないだろうか
財布の中の金はあと何日俺を楽しませてくれるだろうか
明日の明方にも俺は尿意で目が覚めるだろうか


そいつはこの上なく獰猛で
このうえなく強い顎の中に
鉄をも貫きそうな頑丈な牙を備えている
だけど死体だ、死体だ、死体だ、死体なんだぜ!


もう叫び声が許される歳じゃない
もう恐怖に任せてぶちかましていい歳じゃない
俺はなにもかも判ってるつもりだ
だけど死体であることが何よりも恐ろしいんだ
俺は自分のことを血の通った人間だと考えているだろうか
時々それすらどうでもいいことだと考えてしまうんだ












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