2011/6/28

邪魔にならないところに放っておいてくれ  







自動世界の歪みに落ち窪んで漏電
浮遊する未浄化のたましいたちが天井に残す曲線は
首吊り縄の正確な模写のようだ
水面の波紋のようないのちの明滅
電気仕掛けとおなじくらいに
電気仕掛けとおなじくらいに
年老いた老犬がまっすぐ歩けずに
溝に落ちて溺れ死ぬ音が聞こえる夏の始まり
湿度の中には不慮の死が潜んで涙を流している
六月の雨は
なにかを洗い流そうと躍起になっているみたいに思えるんだ
眠りを忘れた真夜中に落下するように目を開けていると
確かに誰かを殴りつけたような気がする、それが
本当に束の間の夢の中のことであったならいいのだけど
手をあげたという恥は簡単に消えたりはしないものだ
エアコンが静かに回転している
効果のない子守唄に聞こえる
寝床も風もなにもかもまとわりつくようで
時計だけがきちんと役割を果たしている
いつか少しの間していた仕事の中で
同じ相手に「出来ません」と説明し続けなければならないときがあった
たとえるならそんな光景によく似た今夜だ
居ない虫が身体を這い続ける感触が始まる
感覚的な存在にばかり脅かされている
上手く歩けなくなって溝に落ちた犬には子供がいた
長生きして痴呆になって死んだ
「あれはいつのことだった」と
言葉を付け足すことが多くなったのは
それだけ記憶が積もるまで生きてきてしまったということ
「きてしまった」なんて
べつだん深い意味を込めて口にしたわけでもないけれど
たとえば「死んでしまった」というような調子で
そんな言葉を使ってしまうときなんかそんなに珍しいことじゃないだろう
新しいものにしがみつきたくてどんどん古くなっていく
覚えたものが何度も練り上げられてゆく
難しいと感じてしまうのは
簡単に片付けられるようなことでは困るからさ
「きてしまった」と、「死んでしまった」と
それは同じことさ
それは同じこと
ほんとうの眠りだけが抜かれた睡魔が頭を次第に重くする
眠りたい理由なんて特別あるわけじゃなかった
一匹の子蜘蛛を殺さずに逃がした
夜は殺した方がいいらしいけれど
ジンクスで殺される命なんて雑にもほどがある
打ちたくないから打たなかっただけさ
そいつは首筋を掻くように這っていた
口をすぼめて吹くと部屋の隅へ飛んで行ってしまった
どこまで飛んでいったのかなんてどんなに目を凝らしてもきっと判らないだろう
すぐに殺せそうなものほど殺せないものさ
確かにそんな風に感じるものが他にもひとつあるだろう?
ゆるやかに痺れる脳髄は電気仕掛けの夢を見る
それはすなわち臨終の様な景色かもしれない
ああ電気で命を計測される生物に生まれて来ちまった
嘆いて見せてもなにが変わるわけでもない
この身体はどこにも埋葬しないでほしい
勝手に灰になって消えてしまうまで邪魔にならないところに放っておいてくれ
たましいが自由になれるのなら
肉体もそうして欲しいと思うからさ
ガソリンの風が西側車線を走りぬけてゆく
きっとそのまま港から海へダイブするのだ
午前一時半の懸命なアクセルはそんな説得力を持っている
なのに誰もそれにただしい色をつけようとはしない
ヘッドライトが明るく進行方向だけを照らすから
それ以外の場所に潜んでいるもののことはなにも見えることはない






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2011/6/20

たどたどしい進法の季節、かさばる目覚めに血を掻いたなにか  






おれの存在は
ナシにした話みたいなもの
壊れたオートロック
煙を上げたラジオ
真夜中にズレこんで
サイクルをゆがませる
うまく流れたはずの流れ
わずかに残留して
腐敗を始めてゆく


嘘みたいなことしか書けない
嘘みたいなことしか書けないぜ
どんなに繰り返したって
本当のことはどこかの浅瀬に姿を隠してる
石みたいな小さな貝のようにさ
黙って満ち引きに耳をすませているだけなんだ


雨が続いて
あたりはまるで上手く出来なかった夜明けみたいに暗い
ただ雨が窓を叩いて
逝く宛のない協奏曲のようにとっちらかったアンサンブルを繰り返してる
フーキーウーキー、俺は唸るみたいにメロディーを探して
不精な眠りはそれなりに供養されて時に消化される


上書きされてく虚ろなデータ


路面電車が今日何度めかの
むずがりのようか揺らぎを落として
また誰かが車輪の運動によっていずこかへ運ばれてゆく
良いも悪いもない
役割だけが日捲りを捲るいずこか
汚れた身を誇りにして
飲み込んだ言葉を勲章にして
いくつかの世代と
いくつかの世帯と
ふるいの中の
いくつかの欲望のために
本当に手にしたことなんて
きっと一度だってなかった
生身の身体にしがみつく理由なんて
きっとそんなとこにしかないはずだから


雨の歌を聴かせて
雨の歌を聴かせて
この季節は
そんな進法によって刻まれている
流れていって
ナシになる朝と夜、そう
水抜きの穴から
誰にも見えない地下の通路を抜けて



俺は浄水場の
すぐ近くに住んでいた
いつだったか
巨大なコンクリの水路に
潜り込んだことがあった
地下3メートルほどの縦穴から
世界を見上げたことがあった
細長い穴が無数に開いた鉄の蓋によって
午後の太陽が出来たてのパスタみたいに降り注ぐ穴
水が来たらお終いだと思った
息が出来なくなって死んで
膨れるまで見つからないのだろうなと


あのときなら受け入れることが出来たかもしれない


その
忘れられた城のような深い穴は
いつしか入口を塞がれて
本当に忘れられてしまった
雨が降り続く季節には思い出す
あの時
俺の身体を飲み込んだ音のない水のことを


上手く出来なかった夜明けに
水抜きの穴を探している
何もよどんだりしないための
乾いたなにかを取り戻すための
この季節のたどたどしい進法を
浅い眠りとともに地下へ流してしまうための





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2011/6/18

路地裏のはげしい雨にまぎれて  





灰に帰したポエトリーと
そのそばでかすれた
老い始めたおとこの歌声
ほぼ消えた足跡を記憶の片隅で
なぞるように
歌って
なぞるように


雨が降り続けるだけのこの街かどじゃ
かれの歌声はどこにも届かない
だからこそかれは歌い続ける
その
ひとりぼっちにこそ安らぎがあったような気がして
偽ることのないこころがあるような気がして


ね、ベイビー
いつかしらみみもとで囁いたおんなの甘いハート
捨てられたレザージャケットみたいに雨に濡れて行く
すでに冷えたものがそうして濡れているのを
すでに消えたものがそうして冷えているのを
生きているように口にしたくなるからブルースが生まれる


夕暮れとともに激しさを増して行く
微かにかがやいた割れた街灯の下で
くちびるを震わせているかれが見える
やさしい影は
かれの表情を闇の中に消してしまう
激しいけどか細い人知れぬブルース
かれのこころの中だけでいつまでも反響している
やわらかいゲージを張った
ふるいギターの音が雨の中に混じる気がする


幾千の言葉が生まれては消えて行った
路面を流れる雨のせいで
瞬時に過去に流れ去って行った
思い出しても思い出しても記憶出来ない名前のように
頭の隅の排水溝の中で
忘れられたそいつらは悲鳴を上げていた


野良犬はうなだれて
ポリバケツのあたりをうろつき
蓋を外すための長い指を欲しがる
その中からはたしかに
まだ食べられるもののにおいがしているのに


灰に帰したポエトリー
忘れられてから、そう
すべてのものは色づいてゆく
あまいおんなの囁きや
たしかな雨の冷たさや…
おとこの記憶はあしもとの泥にまみれ
なにもはっきりとは思い出せない
割れた街灯が必死ではじき出す明かりはブルー
そのあたりだけ雨粒が
すぐに死ぬ虫みたいにかがやいて見える


短針と長針が雨に流れてゆく
ランドセルやカラフルな小さい靴
アタッシュケースや契約の書類
エンゲージ・リングとウェディング・ブーケ
最初の夜と最後の夜の
寝入りばなに見たいくつもの
断片的な夢の残像
いつまでもいつまでも
激しい雨がつくりだす流れに飲み込まれてゆく
野良犬の遠吠えが聞こえる
「きみはひとりじゃない」
「きみはひとりじゃない」


おとこは
笑ったみたいに口をゆがめて
それから




動かなくなる










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