2011/9/26

I CAN'T TAKE IT NO MORE  








「君は自分の脳漿をデザインするんだ」と68歳のミック・ジャガーが新しいチームと共にずっと俺に話しかけている。月曜日の覚醒は雨。追悼の様なぽつぽつとした雨だ。午後に一度上がると思ったのにまた降ってきた。レインコートの中にいると自分がすばしこいだけの虫になったみたいな気がする。日常なんてものに幸せを探すのは愚の骨頂だ。そんな理屈に屈していたらこの世で一番幸せなのは牧場の牛や豚ということになりかねない。脳味噌が石膏で固められてる気がする。秋は凍えさせたかと思ったら汗をかかせる。俺は一般的な人間ではない。別にこれは自惚れではないし、かと言って不必要な自虐でもない。俺は一般的な人間ではない。だけどそれをシンドロームと呼ぶ気もない。それは割り当てられた配色の様なものだ。朝から何杯も偽物のコーヒーを胃袋に注ぎ込む。化合物的なカフェインは頭痛とプラスティックな夢を脳内で再生する。「君は君の脳漿をデザインするんだ」26度目の幻聴の後左目に近い毛細血管がひとつ死滅した音を聞いた。言葉面をなぞることしか能のない勤勉だが無能なヤツが俺のことを改竄している。ハロー・スペースボーイ、君には君の星があるだろう。9月の午後の太陽の揺らぎ、強いけど冷たい世界で波紋のように広がったビジョン。上手く繋がらない音符は片っ端から地に落ちて灰になる。風は構築されない旋律を無にする。あれは誰かもっとましな可能性の中で小奇麗なものに形を変えるのだろう。切り立った崖の上の様なマインド、繰り返す光と雨のコントラストの中で摩耗した装置になる。オクターブ上のキーが第3の目を貫くとき俺の魂はほんの少し風通しが良くなるだろう。雨の止み時には誤差がある。人の病み時に誤差があるみたいに。保証されたベッドの寝心地はどうだ?ひとりでに剥がれ落ちる日捲りの様な塩梅だ、ボーダーラインはいったいどこに引かれている、安いカフェインの頭痛、訳のない睡魔と一番長生きのロック・シンガーのブレスのタイミング。アクリルで出来たボックスの中でサルガッソ海を漂っているような気分。水底の藻なんかのせいじゃない、存在を正でも負でもないゼロの地点へ押しやってしまうのは。淀んだ海原の向うで俺は見るだろう、消失したものたちで出来たこの世のものならざるモニュメントを。最後の最後まで記された航海日誌の訳の判らない模様を。気化しない存在の在り方、気化しない記憶の残され方、安いカフェインが植え付けたままの頭痛。俺の叫び声はいつも頭蓋の内側だけで木霊する。認めさせるための狂気なんかひとつも持ち合わせちゃいない。控え目な黒雲の向うになにがあるか見えるだろう、あれは適当に光源を抑えた太陽だ。部屋の片隅で生命の交換を目論んでいる蜘蛛、白い糸は呼吸のように撓む、揺れているのは俺か、お前か?赤い火を見たんだ、あの時一度、腐敗した視界の中で…それがなんのサインだったのか思い出せない。俺もある種の生命の交換を求められているのかもしれない、保証されたベッドの寝心地はどうだい、清潔に過ぎるシーツになんか俺は一生横たわるつもりはないぜ、調整されることは死にうんと近づくことだ。俺は自分の配列を変えない。それはそのまま俺の命題なのだから。窓の外を横切る黒い鴉のなお黒い目玉。あいつはきっとなにもかもを見たくてそんな目玉を植え込んだのだ。あいつの羽はまるで行程を必要としない絵具のようだ、一羽で僅かな空を塗りたくりながら何処かの止まり木へと吸い込まれてゆく。「君の脳漿をデザインするんだ」路面電車のうねりと水溜りが告げる時刻。高揚するミュージックと硬直したふたつの目。





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2011/9/23

篝火を燃やせ、本当の言葉はメラメラと燃えているものだ  









まわりに俺を気にかけてくれる人間が誰ひとりいなかったとしても
孤独だなんて思ったことなんかないぜ
俺はスペシャルな感覚を手にしていて
そしてもっと欲しいといつでも喉を鳴らしている


ルーム・サービスの味気なさにチェック・アウトして
満員電車のムサ苦しさに我慢できず飛び降りて
上司の口の聞き方に我慢が出来ずブン殴って
ただただ求道的なだけの
本格派となんかひと言も口を聞いたりしないぜ


俺はスペシャルな感覚を手にしていて
そしてもっと欲しいといつでも喉を鳴らしている


メイン・ストリートでやりきれなくなった女がストリップ・ショウを始めて
顎が斜めに開閉する若者たちがそれに群がる
口笛と歓声と拍手が暴発花火のように入り乱れる路上
その音の中でもう女は生きることに対する最後の望みを捨てた目つきをしている
その瞬間のことが俺には判った
その瞬間のことが俺には…


下水管が詰まって喉まで来てるような気分がしてるとき
俺は誰かの気まぐれに期待したりなんかしない
自分でそれを飲み込む方法を考えるか
あるいはいっそ上から吐き出すかしてみようと思案する
吐き出すのなんてあんまり素敵なことじゃないけれど
吐き出せずにいるなんてそれよりもっと最悪なことなのさ


俺はスペシャルな感覚を手にしていて
そしてもっと欲しいといつでも喉を鳴らしている
週末の夜明けはとんでもなくギラついていて
存分に怠慢な欲望を俺は消化するのさ
ストイックなシーンが
メラメラと燃えあがってくるのはいつでもそのあとなのさ


篝火を燃やせよ、間接照明ばかりで気取っていちゃ
目を焼くような痛みこそが光だってことをいつか忘れてしまうぜ
裏通りを歩くときだって信念を持たなくちゃ
人の道を外れてしまったって自分の道だけは忘れないようにしなくちゃ
俺はどうしようもないごくつぶしで
小銭を稼ぐこともままならない甲斐性なしだけど
だからこそそんなものにたいした意味はないって知ることが出来た
生物的に無能な奴らはは一番楽な妄想に乗っかって踊っているだけだって


篝火を燃やせよ、本物の炎はたまらなくデンジャラスで
そしてセクシーなヴァイブレーションを披露してくれるぜ
間接照明の中で気取ってるだけじゃ
じりじりとした感覚はこぞってどっかへ行っちまうぜ
篝火を燃やせ、炎を飲み込め、お前の心の中で形を変える火を
お前の言葉としてもう一度吐き出せ
本当の言葉はメラメラと燃えているものだ
その熱さをお前も感じてくれたらいいのだけれど


俺はスペシャルな感覚を手にして
そしてもっと欲しいといつでも喉を鳴らしている
もっとスペシャルなことがこの世界にはきっとあるはずだから
お宝に獲り憑かれた冒険家のように求め続けるのさ
炭鉱夫の様に潜り続けるんだ







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2011/9/5

そして君はもしかしたら鳥になるつもりなんだ  






苔生した石の階段を滑らないように注意しながら、八月の名残にべっとりと濡れた九月初旬の山道を僕らは登り続けていた。装着して三ヶ月になる義足の感触にも君はずいぶん慣れてきたみたいで、隙を見つけては僕を追い越そうとしてにやりと笑った。ようやく本気で夏を見送ろうと決めたツクツクボーシがアブラゼミやミンミンゼミを隅へ追いやって、背の高い木々に囲まれた小さな遊歩道は秋を迎える心得を煩く喋り続けてるみたいなシンフォニーに満ち満ちていた。「呼吸器が綺麗になる」と言って君は笑う。「変な感想」と僕は答える。そんな穏やかな弾丸を撃ち合って僕らは互いの心の命中率を確かめる。なにも変わっていない。君の脚が一本減ったくらいのことでは。

義足になってから歩くのが楽になったとこの三ヶ月の間に君は何度も口にした。「もちろんちょっとした技術とか必要で、それはすごく面倒くさいんだけどさ」と前置きしながら。「いろいろなバランスがうまく取れるようになった気がするんだ」「もしかしたら私の右足は初めから要らないものだったのかもしれないな、なんてさ」ふうん、という顔をして僕は聞く。そういう話は判るような気もするし判らないような気もする、と思いながら。「もちろん元に戻してくれるって言われたら戻してくださいって言うかもしれないけれどね(笑)だけどどうなんだろう、もしそんなことが出来たとしてももう私は一生ぎくしゃく歩いちゃいそうな気がするよ」「まあ、戻らないから言えるのかもね、こんなことは」

山頂を目指して僕たちはもう一時間以上歩いている。「疲れないよ」と僕の気遣いも待たずに君は言う。そして、平坦なところで立ち止まって右足に体重をあずけてみせる。「こうすると休めるんだ、結構」僕は吹きだす。笑った僕を見て君もにっこりする。「涼しいね」「そうだね、汗が気にならない」林の中ってこんなに涼しいんだね」なにかが草の中を駆け抜ける音が遠くでする。僕はさっきからそいつが何なのかを確かめようとしているのだけれどどんなに音のする方を探してもその姿は見つけられない。なにをキョロキョロしてるの、と君が尋ねる。僕は説明する。ああ、と君は手をひとつ叩く。「天狗なんだって、それ」僕は難しい顔をしてみせる。「天狗」「お婆ちゃんがまだ生きてた頃に言ってた、山の中で人についてくる音は天狗の足跡だって」「天狗」「そう、天狗」天狗か、と僕はなぜか納得する。そうすると草の中を走る足音は気にならなくなる。頂上まであとどのくらい?と君が聞く。よく判らないけどもう半時間もかからないんじゃないかな、登った人の話じゃ。「よし」君はソリ犬を元気づけるみたいに義足をポンポンと叩く。不思議とその音はアフリカンパーカッションの様に響く。何羽かの鳥がコンサートのようにその音にレスポンスする。「20分で制覇してやろう」「無理をするなよ」「無理じゃないよ(ターン)」「実は私はサイボーグなのだよ」「へいへい、じゃあ頑張りますか」「疲れたらおぶってあげるよ」「へいへいよろしくね」僕たちは一目散に頂上を目指す。一面に張り巡らされた枝々の間をくぐり抜けて、冷たい霧を撒き散らしながら降り注ぐ太陽の光は、何故だか僕に巨大な教会の聖堂を連想させる。近いうちきっと君は僕を追い越して歩くようになるだろう。






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