2013/6/25

能動的な夜に反射するものたち  




人は死にます
みんな死にます
老いたり病んだり疲れたりして
どこかへ
行ってしまいます
君だって
僕だって
あそこに居る人だって
テレビの中に居る人だって
穴のあいた船が沈むように
強く引かれた紐が千切れるように


がらんどうの空洞のなかで
歌っている人が居ます
たくさんの音を歌っているのに
なんと歌っているのかは分からない
がらんどうの空洞のなかで
音が響きすぎているからです
もしかしたらそれは
誰かに聞かせるつもりの歌ではないからかもしれません


暮れ時の空に
あちこちに散らばる雲
過ぎて行った台風が
むんとする空気を残して
週末の鎮魂歌
週明けの讃美歌
見送って切った人の名前も
そろそろ
古いものから忘れてしまいそうなこのところ
鈍い天気の下で
新しい落し物を探していました


それはまだ書かれるべきではないというタイトルの詩篇であったり
まだ塗られるべきではないというタイトルの絵であったり
ともかくすべてそういった風に
時期を外したものばかりであるのです
それは路の上に落ちているのではなく
かと言って部屋のどこかに落ちているのでもなく
だからって鞄の中なんかにあるはずがなく
そんなに必要なものなのかと尋ねられたら
正直言って半信半疑で
首を軽くひねってしまうようなものであったりして


奇妙な便所で小便をする夢をよく見ます
和式便所が立てておいてあったり
ひどい高所にあるのに足元の板がぼろぼろであったりというような便所です
なぜか洋式であることはめったにありません
そんな不安定な便所でばかり小便をするのです
もちろんきれいに済んだりなんかしやしません
あちこちに飛び散って汚れたりするのです
昔はそんな夢を見るたび寝小便をしてしまっていたものですが
近頃はさすがにそれぐらいの分別はつくようになったみたいです


高所で足元が不安定という夢もよく見ます
高速エレベーターの床が上れば上るほど床が剥げ落ちて
立てる場所を探さねばならないほどになったり
ひどい岩山を装備も無くただ登っていたり
まるで誰かが夢の中で僕のことを落下させようと目論んでいるみたいな
そんな夢をよく見ます
幸いにしていままでそこから落ちたことはまだありませんが
いつかそこから落ちることがあるのではないかと気が気でなりません
夢はなぜ僕を高いところへ連れていこうとするのか
その夢は嬉しいようでもありまた哀しいようでもあるのです


一匹の弱り切った小さな甲虫を安全靴の爪先でからかっていたら
よろめいて踏み潰してしまった
ぽちり、と小さな音がして
甲虫は僕の体重を受け止めてしまいました
そいつの周りの土だけがすこしだけじくじくとした感じになっていて
ああ、やってしまったと僕は
軽い損失程度の認識でそう呟きました
そこに失われていたのは間違いなく一個の命だったというのに
もうすぐ死ぬところだったんだ
あなたはそう言うかもしれない
取るに足らないことだよというふうに
冷静に
だけど、聞いてください
もうすぐは、いつのことですか
もうすぐは
いつのことですか?


僕の住んでる街からスクーターに乗って一時間余り走ったところに
もう誰も立ち寄ることの無い死に絶えた公園があります
錆びが絡みついて毒虫のような模様になったブランコや
梯子が腐り落ちてもう誰も登れなくなったやぐらなんかがある公園です
展望台だけはまだ生きていて
辺りの山々や谷底の川を眺めることが出来ますが
それが営みであればあるほど
そこに立っていることが怖くなってくるのです
夏には
スズメバチが我が物顔で飛び交うので立ち寄ることが出来ません
一度彼らがチンピラのように飛び回っている姿を
遠くから眺めたことがあります
腐ることの無い死体が
きっと彼らは大好きなんだろうな、と


眠れない夜には喉が渇き
何度も水を飲みに台所へ出向いては
小便を漏らすのではないかと神経質になり
睡魔を中断させて便所へと籠る
悪い流れだろ、と頭の中で誰かが言う
悪い流れだけどいまのところどうしようもないよね、と僕は答える
水を飲むのを止めればいいじゃないかと思うかもしれないけれど
そんなことをしたら結局
朝まで喉が渇いていらいらしてることになってしまう


灯りを落とした部屋の中で
遮光カーテンのわずかな隙間を
流れてゆく能動的な夜を見ていたんだ
生まれて死ぬことを誰かに教えてもらいたくて
そしてそれは時計のように知ることが出来るものなのだろうかって
能動的な夜を見ながら考えていたんだ
能動的な夜はとてもとてもとてもささやかなもので
誰かの誕生日に灯されて消される小さなキャンドルの炎みたいだったよ
そんなとき僕は思うんだ
こんなふうに僕は昼間を生きているのかもしれないって
能動的な夜のように昼間を生きているのかもしれないなって
そう、思うんだ
人は死にます
みんな死にます
老いたり病んだり疲れたりして
どこかへ
行ってしまいます
君だって
僕だって
あそこに居る人だって
テレビの中に居る人だって
穴のあいた船が沈むように
強く引かれた紐が千切れるように


能動的な夜の足音の残響に向かって僕は話しかける
もうすぐは、いつのこと
もうすぐは




いつのことですか






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2013/6/15

遠い空、あしもとの街、懐かしい歌、半睡の日  







「昨日」という
ダストシュートに
投げ込まれた
ままの時間


グラスの底で
震えながら
死を
待っている羽虫


声も出さないシンガーが
テレビで歌っている
「勇気」とか「未来」
そんな言葉ばかり


窓は汚れっぱなし


世界が世界として
ひとつずつ時を殺して行く
腐敗するそれに埋もれる
溶けた氷が崩れるように


朝からの雨に濡れ続けた街
空を泳いできた水の匂いがする
日は落ちて
タイヤが水溜りを撥ね飛ばす音がこだまする


ロックンロールミュージックとインスタントコーヒー
未来におけるノスタルジアを愛している


長い昼寝のせいで
首を痛めている
進めたいことがあるけど
当分手を出す気もない


じっとしているのに
汗が滲んでいる
火で炙られたナイフを
突き付けられているみたいに


夜明けまでの膨大な時間に
刻めるものを探すのかい
塗り潰された昼間を
弁解するためのなにか


埃が溜まり始めたカーペット
拾うのはもどかしい
掃除をしようと思いながら
今日も間を外してしまった


表通りで汚い歌声を上げる酔っ払い


夜が切りつける
夜が切りつける
夜が切りつける
夜が切りつける


裂傷をさらそうか
そんなものがなにを語るのか
甘い甘いパウンドケーキと
対極に居ながら同じようなそんなものが


流れる血を舐めると
摂り過ぎた砂糖の味がするさ


胃袋には
もう覚えていない晩飯があり
手のひらには
いつ出来たのか判らない打撲のあと


ポエット?
ハローポエット?
今日も上等な詭弁かい?
今日の分の傘を明日の晴れた空の下でさすのかい?


お前の真理などどうだっていい
それは俺には必要の無いものだ
お前の歌声など無くたって構わない
心の底まで染み込んだものがあるんだ


グラビアのページをめくると
気がふれるような吐気に襲われた
洋式の便器は抱きやすい
だから容易い嘔吐が増える


ロックンロールミュージックとインスタントコーヒー


秒針の無い時計が増えて
時間を気にすることが無くなった
たとえ表示が見やすくなっていたって
それは関心とはまるで別の話だ


遠い空
あしもとの街
懐かしい歌
半睡の日


いつか呼びとめられた時の声の調子を
今頃になって思いだしたり
いつか言えなかった大事な一言を
今頃になって口にしてみたり


センテンスはほころびる
そこに確信があったとしても
千切れて
道端のコミックみたいに


あんたの叫びはそこまで
安全圏に居るからさ
弾の届かないところに居れば
叫んだって届くわけないのさ


暑い夏だ
眼球すら悲鳴を上げている
人を殺すダニがやってきて
突然の審判を下そうとしてる


それが出来るのは
やつらが単純だからだ
考え込むこともなしに
それを続けられるからだ


俺はキーボードに手を張り付けて
毎日自分をほじくっている
思いもよらない羅列ほど
激しく自分だと感じている


世界のいくつかは繋ぎとめられ
あとのいくつかはこぼれ落ちて行くだろう
残ったものと失くしたものの狭間で
また人生はひとつ死に向かうだろう


明日目覚めた時に
枕に染みついた涎
そのウンザリするような形状について
出来ることなら俺は綴りたいと思う








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