2013/8/28

どこで、なにが、なにを、すべての疑問は泳がせておけばいい  










動機の無い目覚めと、衝動の無い日常、心肺停止を示すグラフのようなループが、カレンダーを塗り潰して、ぼろきれのように疲労困憊だ、魂が不要な循環、埃のように自分自身は内奥のすみに追いやられる、神風を信じる兵隊のようなイデーに支配された連中の蠢きを見ながら、鼻先をかすめていくものをカウントしている、ダウンバインド・トレインのイントロがどこかから聞こえてくる、そんなことをしている時間にはいつも、きっとそれがあの男のリアリティというものなのだろう、汗は糊のように肌の上に居残り、シャツを重くしていく、今日は何日だったか、今日は何曜だったか、そんなことが途方も無い難問のように思えてくる、眠っても眠っても寝不足だ、いつまでも満たされることの無いダムのように、低くなる水準を眺めては憂いている、そんな時間にはいつでも、先に訪れる時間のことを考えていた、数時間後のこと、数十時間後のこと、そして、いざその時間になった時、ああ、あの時考えていた時間がやってきた、とひとしきり満足して、また次の数時間後のことを思うのだ、子供のころからそうだった、まだろくにものを知らぬ子供のころから、先の時間のことを考えていた、何時間かあとには算数をやっているのだろうなとか、何時間かあとには校庭で遊んでいるんだろうなとか、昼休みは何をしようかとか、それが終わると家に帰って夕飯を食べている時間のことなんかを考えていた、そして家に帰る頃にはそんなことはもう忘れていて、眠る前なんかに突然はっと思いだしたりするのだ、ああ、あの時間を飛び越えてしまったと、自分が今いる時間はどこなのだろうかと、先の時間を思うことでリアルタイムを認識していた、いや、あるいは、まるで認識出来ていなかったのだろうか?とにかく、時間というものはそういうものだった、そんなことは長いこと忘れていた、今にになって急にそんなものが蘇ってくるなんて、とぼんやりと考えながら、鼻先をかすめていくものをカウントしていた、そして、今朝見た夢のことを突然思い出したりする、その夢は、もういつかも覚えていないくらい前に見たある夢とリンクしている、その夢のことも当然思い出す、今まで思いださずにいたことが不思議なくらいに、細部までありありと、思いだすことが出来る、そんなことを思い出しながら、先の時間のことを考える、現在はおかげで混沌としている、単純過ぎるものたちの中で、なんとか込み入ったものを作ろうとしているのかもしれない、混沌が想像されなければ、阿呆のように身体を動かすだけだ、先の時間や、過去の夢の事柄のブレンドで、混沌は想像される、そんな混沌の緩やかな渦の中で、確立された存在である自分自身を認識しようとするのだ、複雑化されないのなら人間には何の意味も無い、複雑化出来ないなら猿で構わないのだ、時々、秋を思わせる温度を連れた風が吹き込んでくる、それはその時間で最もリアルな現在かもしれない、確かに動いているものはリアルな現在だ、それはうんざりするくらいシンプルな言い草だ、だけど他にどんな風に言える?そうとしか言えないことだってこの世の中にはある、動かせない宿命を持った石のように、確立されている、そんなものは無関係な周辺のものにしかない、だからシンプルにならざるを得ないのかもしれない、本当のところは判らない、だってそれは無関係な周辺にしか存在しないからだろう、ほら、いつの間にか時間を飛び越えてディスプレイを睨みながらキーボードを叩いている、時間を飛び越えていることを思い出すのだ、そして現在を疑うのだ、そしてこんなものにはどんな意味も存在しない、風の似顔絵を書いているようなものだ、無意味な混沌を欲しているのだ、それがあることでシンプルになる効果が内奥にある、そのことを知っているから放出せずにはいられないのだ、説明出来ないもののために言葉を使うから、説明出来ないもののために文章を使うから、意味の無いものこそが必要になるのだ、それ自体に意味があってはならない、意味を語るものは描かれたものじゃない、その中に隠れているほんの少しの空気のようなものが、本当の意味を語るのだ、こんなものに意味なんかあってはならない、少なくともそれは意図して作り出されたりなんかしてはいけない、予期しないところで意味が生まれるのを待っているのが本当なのだ、呼吸の真理を語るもの、肉体の真理を語るもの、食事の、性交の意味を語るもの、喜怒哀楽の真理を語るもの、どこで、なにが、なにを、すべての疑問は泳がせておけばいい、そんな疑問に答えが必要無いことはずいぶん昔から知っている、問いを発するということは必ずしも、答えを求めるということと対ではない、ただ問われるための問いというものが必ずある、それは単純であってはならないということなのだ、穏やかな湖面を掻き回して、まったく動いていない渦の中心を見つけるための手段だ、それを見つけられればとりあえず日常からこぼれ落ちることはない、ただあるだけのものになってはならない、有無だけを問うような真似もしてはならない、それがどんなふうに見定められてきたのか、それはいくつも時間を飛び越えた先に、きっと破れた紙片のように落ちていることだろう。






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2013/8/17

音の無い時間には血液の足音が聞こえる  







概念上の自動拳銃の引鉄が脳下垂体のなにがしかに風穴を開ける時、眼球はコントラストのバランスを僅かに淡くして、忘れられた観賞用水槽の中の、小魚の死体を含んだ腐った水のような白になる、ゼラチン質の感覚に沈み込んでいく惰眠のあとの曖昧なフォーカスの肉体、表に流れ出してこない血液がいつまでもうろついている、その足跡はいつまでも赤く、広い刷毛で塗りつけられた塗料のように強固で、そう、言うなれば、俺の体内はそんなアスファルトで執拗に舗装されている、音の無い時間には血液の足音が聞こえる、暗いワン・トーンのアルトサックスの音色のような…クロージング・タイムを迎えたままで誰も居なくなった裏通りの店の中で死んでいた女の話を聞いたかい?衣類はすべて剥ぎ取られていて、ナイフの刃先で全身に模様が刻まれていたそうだ、死ぬまでに相当な時間を必要としただろうって新聞で刑事が話していたよ、あの店には俺も何度か行ったことがあった、どうしてもやることが思いつかない時に何度か―確かに、明るい雰囲気じゃなかったさ、いつでも誰かの通夜が行われているような店だった、ジューク・ボックスはロカビリーばかりを大音量で鳴らし続けていたのに…「天国まであと3歩」なんて、いまとなっては笑い話にもなりゃあしないよな―カウンターの中には真っ直ぐな黒い髪を腰まで伸ばした女が、いつでもぼんやりした調子で腰掛けていた、注文を何度も繰り返さなけりゃいけないことがほとんどだったな、なにしろまわりのことになんかまるで注意を払っちゃいないんだ、機械仕掛けの人形みたいに数分置きにゆっくりと首を動かすくらいだった、注文をくり返す時ぐらいしか口を開かなかった、ああ、ラジオを消しておくべきだったよな、いつまでもあの店のことを思い出してしまう、ささやかながらやることをいくつか抱えているというのに…日々は狂ったように暑く、俺はいつでも水を飲んでいる、身体はどうしようもなく疲弊していて…時々現実は剥離して中空を漂っている、だがそれで何かが困難になるような複雑な日常は送っていない、あっちにあるものをこっちへとやるだけさ…まるで人体実験のようだ、当事者でありながら傍観者で、そしていつでも水を飲み続けている、そんな時の時間はぶっ壊れている、数字を剥がされて、全身を切り刻まれている、廃棄されて、薄暗い空間に転がされている、そいつの流した煤けた血に誘われて、きちがいみたいな太陽の匂いを嗅いでいる、まるで生命のカオスの中で行先を見失った野良犬だ、鼻を鳴らしてもなんの見当もつきはしない、気がつけば薄暮の中に居る、終わったんだよ、今日の日はなにもかも終わったんだ、終了して、鍵を掛けられたんだ、腹の膨らんだ蛾がけたたましい羽音を立てながらそう告げては飛び去っていく、なぜ彼らはいつもそんなことばかりを騒がしく話しかけていくのだろうか?シンプルな構造の生物たちの考えることは俺には判らない、思考は幾つもの線を同時に勝手に引き続けるようなものだ、そうでなければ人間なんて生物にはなんの意味もないはずだ、なあ、あの店の名前、思いだせるか?カウンターに居たあの女の名前は?ラジオのニュースで言ってなかったか?そのことを思い出せるか?俺は自問しながら水を飲む、渇いて掠れる身体がほんの少し確かな脈を打つ、ああ、と走る文明たちのヘッドライトの中を迷いながら、俺にはそれを思い出す理由などないことに気付く、なあ、理由など必要なのだろうか?記憶の蓋を開ける時に、そんなもの本当に必要なのだろうか?もしも確実に思いだせるとしたらどんな記憶がいい?カウンターの中の女の名前で構わない?まるで化粧っ気のない女だったけれど、指先だけはいつも赤く塗っていたっけな、動脈を流れる血液のような赤い色にさ、そう、まるで俺の体内に塗りつけられた血液の足跡みたいな…薄暗い照明の中で、あの赤色だけははっきりと見えたな、俺はあの指先に導かれていたのかもしれないな、放ったらかしても差し支えない示唆のように、あの赤色を見つめていたのかもしれない、どうして思いだせないんだろう?そんなことぐらいしか?…部屋の中には朝置き去りにされたままの散漫な自我が蓄積している、そいつらを押しどけてシャワーを浴びると、どんな理由なら動けるのかと、面倒臭い疑問が頭をもたげる、あの、そう、あの店の名前…女を誘う時、俺、口に出さなかったか?「…っていう潰れた店があるんだ、潜り込もうぜ、なあに、誰も来やしないよ…」どうして思いだせない?カウンターの女の赤く塗った指先のことぐらいしか……






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2013/8/15

おまえのためのものじゃない  






おまえのためのものじゃない、その
激しいギターのうねりも
おまえのためのものじゃない、その
強烈な言葉の羅列も
おまえのためのものじゃない
世界を振動させるリズム
おまえのためのものじゃない
おまえのためのものじゃない

世間知らずのころ、労働者の歌を
鼻で笑っていたおまえ、どこいった?
牙を剥き、声を荒げて
すぐに拳を固めていたおまえ、どこへいった?
自分の信じていたものがすべてただの若さだったなんて
誤魔化そうとしてるわけじゃないだろう
他人を見下すことの出来たおまえ
いまじゃ誰を見下している?
おまえのためのものじゃない

繁華街の交番前の掲示板に貼られていた交通事故の死亡者数と
TVニュースで見た自殺者数の激しいデッド・ヒート
そこら中で報われないやつらが投げ出されて横たわっている
彼らの死体を見下ろしながらおまえはクールに
至極クールにタイム・カードを刻印機に投げ込むのさ

おまえのためのものじゃない、この世に溢れるすべての衝動
おまえのためのものじゃない、ポエトリー、ムーヴィー、ロックンロール
ほら、共通のイデオロギーを押しつけられて
雇用契約書に黙ってサインしてるおまえのためのものじゃない
反逆はヴォリュームじゃない
反逆は否定じゃない
反逆は
偏屈な暴力癖なんかじゃない
おまえ自身の魂がおまえ自身として生きるための理由
誰にも阻まれることの無い
強くしなやかな意思が新しい草のように伸びるとき
すべてはおまえのもとに集まって来るだろう
そしてすべてはおまえのものになるだろう
激しいギターのうねり、強烈な言葉の羅列
人混みの中、一直線に見えるラインが必ずある
そこを走り抜けることが出来たら、きっと


すべてはおまえのものになって
そして新しい何かにおまえはまた
激しく混乱して頭を抱えるだろう






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