2013/9/29

赤黒い血飛沫のバラッド  










残酷な怠惰の中、識別出来ない羅列が羽虫の様に群がっては這い回り、必要の無い軌跡ばかりが脳髄に刻まれていく、高速回転の無意味、転送されていく空虚…根の緩んだ奥歯の揺らめきは危うくなった自己の概念そのままに、破片は鉄屑の様に散らばる…破片は鉄屑の様に散らばる―腐敗した涙腺のせいで眼球は回転する度に軋み、深夜、詩篇は叫びの様に断続的に執拗にばら撒かれていく、無数の切傷を指先に残しながら…青褪めた思春期の末路だ、網膜が何を捉えていてもよく出来た贋作を眺めているみたいで、その時に必要な真実をすべて先送る、思考が乗っかりベルトコンベアのの先には行きつくところがない、それは視界から消えたところで分断されていて、闇とも呼べないほどの認識され難いどこかへ果てしなく落下していく、それはまるでいつ作られたのか判らない深い井戸の秘密の様に…真夜中に真昼の月を思い出す、気紛れになにかを語りだしそうなあの真昼の月、雲はやつの為に周囲を開けてあった、それはまるで世界との接点の様に見えたよ、インプロビゼイション・ジャズがリピートされたままのプレイヤー、声にならないものを突き詰めるとたったひとつの言葉になる、それがどんな言葉なのかなんて決して口にはしないよ、それはリズムの振動や、ギターのひっ掻きと共に感じなければ少しもリアルじゃない…それがどんな言葉なのかなんて決して口にしたりなんかしない―闇雲に詰め込んだ食事が消化器官を圧迫している、苛立って腹を殴りつける、「腹にコンクリが詰まってる」、そんな映画の台詞を思い出す、モダン・ラブが素敵に流れてたあの映画…初めて見たのは二十年くらい前のことだったっけ?腹にコンクリが詰まってるんだ、そう思いながら腹を殴りつけて、それも映画の中であった仕草だったことに気付く、そして腹を殴るのは止めた、誰かがやっていることならもうやる必要はない―真夜中の台所で自分自身を断首したかった、後始末が楽なように思えたからだ、だけどそんな理想を実現出来る方法なんてなかった、それは十年くらい前のことだっただろうか?模索していた時点で終点を目指す気なんかなかったのだ、今になって思い返してみればはっきりとそう考えることが出来る、死亡する真夜中のヴィジョンはいつでも脳髄の中心で鮮度を維持している―だけどそれはくたばるための指針ではなくて、生を認識するための強力なヴィジョンであるということだ、ただそれだけのことだ…すっぱりと切り落とされた首の断面から吹きだす血の様な詩を綴ることが出来るだろうか?それはそのままひとつの死の記録になるのか?本物の心臓の代わりになる生贄として、正直な言葉の連なりというものは生まれてきたのだ、きっと…脆い窓は喧騒の侵入をいとも簡単に許してしまう、閉ざされた入口の前で悪態をつく郵便局員の声なんかも、痴話喧嘩で啜り泣きながら座り込む女の傲慢さも、半音フラットし続ける旋律をなぞる酔っぱらいの歌声なんかも―それは脳髄にで刻まれ続けるまるで必要の無い軌跡によく似ている、必ずすべては飽和するだろう…必ずすべては飽和してしまう、飽和して、はぐれてしまう、行先を失う、こんな小さな部屋に充満する空虚なんかよりもずっと酷い空っぽの中で、線が歪みかすれて言葉は死んでいく、晒されない死のためにあぶれた言葉たちが死んでいくのだ、それはどんな無意味なことよりもずっと無意味でずっと悲しいことだ、どうして受け取ることが出来ない?死の在り方を見つめなければきっと詩など生まれてこないだろう、生を長いトンネルとするならばその壁に必死で刻まれた言葉こそが詩だ、忘却された、廃棄された思考はどんな死体になるのだろう、それは腐臭を放つだろうか、それは見るもおぞましいものだろうか、それともあらゆる感情をも含んだ物静かな塊だろうか、どんなものであれ…どんなものであれ無意味なものが何かしらの意味を持つことはきっとそんなに悪いことじゃない、なにも描かれないよりは少しくらい描かれた方がずっといい―切り落とされた首の断面から吹き出す血の様なものを、勢いを無くして滴り落ちる血の様なものを…いつか途絶えて一滴も流れることが出来なくなる血の様なものを…見なよ、まんざらでもないようだったらそのまま少し眺めてみておくれ、他人の血はとても雄弁に語るものだから。










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2013/9/29

月夜の晩、私は、河原の葦になってクレーターをなぞり  









鋭利な刃物で削がれたみたいに二十三夜目の月は欠けて、煮詰め過ぎたジャガイモのようなどろんとした色をしていた、シャーマニズムに傾倒するアマンダは香の立ち込める薄暗い部屋で観念的な詩文を綴っている、時折もぞもぞと発音しながら…彼女の鼻濁音は内耳に針が刺さるみたいにセクシーに届く、俺は草臥れていてただどんよりとソファーに横たわり、すべての出来事が無関係に展開されてはたたまれていくのをただただ眺めている、数ページの小冊子があちらこちらでてんで勝手に開いては閉じられているみたいだ、渇いた口の中に混じる繊維の正体は何だろう?きっと数時間前に顔を洗ったときに顔を拭ったタオルのものだろう…今この時指先に触れないもののすべてが夢の中の出来事のようだ、夢なら俺自身には必要無いし、また向うの方でも俺のことを必要としたりなんかしない、アマンダは時々微笑んでいる、草臥れている俺のことが可笑しいのだ、時代遅れのコンポのトレイに乗っかってるのはジェファーソン・エアプレイン、テーブルで冷えたハーブティー、時々の窓の外で走り過ぎる車の音が聞こえる、セオリー通りで滑稽に感じるのだ、そこに精神性は存在するのだろうか?ある程度はあるかもしれない、シチュエーションにより引き出されるものは確かにあるだろう、だけどそれは言ってみれば受け売りのキャッチコピーみたいなもので、きっとそれ以上のどこかへ辿り着くことは出来ないだろう、アマンダは詩文を綴り続けている、そこに何が書いてあるかなんて読むまでもなく俺には理解出来るのだ、「月夜の晩、私は、河原の葦になってクレーターをなぞり…」俺は寝返りを打って天井を眺める、儀式はまだまだ続くみたいだ、アマンダ、そのうち魔法陣の書き方でも覚えるといいよ、手段は豊富にあって悪いなんてことは絶対にないんだ、君がもしも立派なお屋敷だと考えて御覧、開き戸はなるべくたくさんあった方がいいだろう?俺はそういうものをスピリチュアルって呼んでるんだよ…窓に目をやると月はもう高く上り、色褪せていた、まるで、改心して真人間になった犯罪者みたいだった、俺は月に向かって口笛を吹く、邪魔しないで、とアマンダが小さく俺をたしなめる、俺は判ったと言って寝返りを打つ、アマンダはどんなふうにしてあの、うっとりするような鼻濁音の使い方を覚えたのだろう?何度聞いても聞き飽きるということがない…このところ幼い頃に住んでいた家の夢をよく見る、親兄弟も皆、昔のまともな姿で出てくる、追いかけて捕まえると、もはや容認出来ないくらいの叫び声を上げる、オーケー、勝手にしなよ、眠くなり始めたのでリビングを出て自室にこもった、着替えて、のんびりしていると、あっという間に睡魔は襲ってきた、月の光がここに届いている間に、素敵な夢を見ながら眠ろうじゃないか。








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2013/9/22

夜明けまでの闇は果てしなく  







荒れ果てた夜を
隠された夜を
打ちのめされた夜を
くずおれた夜を


バラードがレクイエムのように
人気のない街角に流れて
霧に濡れた路上で
二度と開くことのない目を閉じる浮浪者


どぶ鼠はジャングルの兵士のように
夜の隙を駆け抜け
薄汚れたダイナーの
閉じた入口の脇に身を潜める
彼は確かに楽しんでいるように見える
自分の身の丈はそこだと確信しているのだ


もよおして公衆便所に入ったら
絵に描いたようなホモが激しく抱き合っていた
なので女子トイレの方を使ったら
年端もいかない金髪のショートボブの娘が
右目と左目でまるで違う方角を見ながら座り込んでいた
木のうろのように空いた口のはしから
カフェ・オレみたいな色の液体を垂らしていた
俺が小便を済ませて個室から出てくると
俺のことをぼんやりと見ながら
「あたし間違えちゃったかしら?」と言うので
何も間違ってない、と俺は言ってやった
「隣がちょっと使い辛い状況なもんでね。やむなくこっちを借りたんだ。」
あー、と娘は訳知り顔で頷いた
「あいつら毎日ここに来てするのよ。本当に気持ちが悪いわ。」
てことは、君も毎日ここに来てるわけか
「あたし?あたしは、住んでるの。暮らしてるのよ、ここで。」
「トイレで?」
「トイレでよ。一番ゴーリテキなのよ、それが。ねぇところであなた持ってない?そろそろ戻っちゃいそうなのよ…」
持ってない、と俺は答えた
「そう…またね。」
「ああ。」


そして俺は公衆便所を出た
ホモたちはもうコトを済ませていて
肩を寄せ合って麻薬煙草を吸っていた
二人は俺の存在に気付いたが
綺麗な空虚を映した目でぼんやりとこちらを見ているだけだった
俺は顔をしかめてそこを離れた
二人から漂ってくる臭いに我慢が出来なかった


河を
東西に街を横切る河の側を
東へと向かって歩いた
名前を思い出せない星座を見上げながら
なんだか判らない吐気に襲われて
堤防を下りて河原で吐いた
長いこと吐いた
河に引きずり込まれて流れていく吐瀉物と
河原にうずくまる慣れた身体の
どちらが俺なのかよく判らなかった
「ねえ、あなた、大丈夫?」と
女の声がした
俺は仰向けに寝っ転がった
80年ごろのフォーク・シンガーみたいなロングのストレートの
トレーニング・ウェア姿の細身の女が俺を見下ろしていた
「飲み過ぎたの?」と女は言った
飲んでない、と俺は答えた
「持病でもあるの?」
「ないよ」
「救急車呼んだ方がいい?」
「いや…たいしたことない、たぶん。ほっといてくれていいよ。」
そう言って俺はうつ伏せになって丸まった
そうしているのが一番楽だったからだ
女はしばらく側に佇んでいたが
やがて西の方へ走り去っていった
ききわけのいいヤツで助かったな


次に目を開けると朝になっていて
俺は清潔な病院のベッドの上だった
フォーク・シンガーが俺を覗きこんだ
「胃潰瘍だって。もう少しで血管を破くところだったそうよ。」
「君は…帰ったんじゃなかったのか?」
違うわ、と女は微笑んだ
「走るべき距離を先に走っただけよ。戻ってきてもあなたまるで動いていなかったから、これは車を呼ぶべきだと思って。」
「俺、胃カメラ飲んだの?」
「覚えてないの?すっごい苦しそうだったわよ。」
覚えてなくて幸いだ、と俺は言った
「大嫌いなんだ、あれ。」
よかったね、と女は笑った


医者は
ベッドの空きが無いから家で静養してくれ、と言って薬をくれた
女は家まで寄り添ってくれた
「それじゃあね、ちゃんと安静にしてなくちゃ駄目よ。」
ありがとう、と俺は言った
名前も聞いてなかったことに気がついたのは
それから自分のベッドでひと眠りしてからだった
そして名前を聞く機会は二度と訪れなかった


三日後、ローカル新聞の片隅に彼女の写真を見つけた
ジョギング中の女性が乱暴されて殺された
そう書いてあった
現場は俺の住んでいるところからそう離れていなかった
よかったね、と笑う女の顔を思い出した
あんたは俺のことなんか助けてる場合じゃなかったな


ラジオをつけるとニルヴァーナが流れていた
もう本当に気分が悪くなって消した
あの日、街角で流れていたバラードのタイトルを
思い出そうとしてしばらく躍起になったけど
はじめの文字さえ思い出すことは出来なかった
そして俺はまた夜に目覚めて
穏やかに呪われた街の中を彷徨うのだ








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