2013/10/27

俺はこれを選んだ(含まれる代わりに)  







硬直した男根を吸い上げる炎にも似た女の表情が大写しになっているデスクトップ、唾液の滴る音まで聞こえてくるような絵面だった、バックグラウンドミュージックはずっと同じリズムをキープしていて、終ろうとしている夕暮れの先で欲望と共倒れようとしていた、閉ざされた窓の飾り硝子に刻まれていたのはずっと同じ文句で、縫い針の様に脳髄に混入していた、射出せよ、澱む人生―左の耳から右の耳まで静かに駆け抜ける一定のノイズ、もはや塗り潰すものが必要だとも思わなかった、身体は横たわりながらマントルの辺りまで落ちていくみたいで、限りなく近付きながら決して届くことの無い静寂の夢に焦がれていた、バーズ―誕生の瞬間―滅茶苦茶にセンテンスをぶちまける時、本能はそれを思い出している気がする、脈打つ妊婦の腹に手を当てて名前の無い鼓動を確かめているみたいに…静かにブロウしているマイルスデイヴィス、鈍色の血ですべては満たされていく…生存とは皮膚に残された無数の引っ掻き傷から動脈に至るまでの深度を持つものだけを選択して見せることに相違ない、沈みゆく夕日だけの灯りに照らされたこの部屋に横たわる肉体には名前は無かった、戸籍上のそれがどんなものであろうと―それは思考する死体だ、死人的な詩人だ―もしも肯定というものに幾つもの罠を仕込むのがそいつの目的であるのならば…ひとつの言葉をひとつの意志で済ませたくないだけ、ひとつの言葉をひとつの意志で済ませたくないだけ、ただそれだけさ、定義して見せることが答えの意味ではない―傷の様に受け止めてみせることだ、傷の様に受け止めてみせることだよ、無頓着に夢見がちな現実主義者どもよ、もしもお前が傷を負っているのならば、その血痕はお前の移動した範囲にしか残らないはずさ、傷の様に受け止めてみせることだよ、本当はお前にだって判っているんだろう…逃げるためにポリシーを築くな、それは無自覚でいることよりずっと恥ずかしいことだ、ほら、今日最後の太陽が色を無くし始めた…世界はもう美しく染められてはいない、だけどそれは当り前のことなんだぜ、だからみんな自分でなんらかの色を見つけようとするんだ、それは生半可なことじゃないし、構築された主義主張でどうにかなるようなことなんかじゃない、そんなことのために命まで裏切って見せるやつらが居る中で、生存する連中はどんなものを提示すればいい?夕暮が終われば灯りの無い部屋は深海と同じだ、思考だけが魚の様に漂っている…魂そのものが嘘なら、きっと本当のことなんかもう何も無い、もしもそれが現実なら、人生は捨てられた部屋に降り積もる埃だ―一日はあっという間に終わる、まるで一生を示唆しているみたいに、左の耳から右の耳まで静かに駆け抜ける一定のノイズ、どんなものも正解だなんて言うつもりはない、どんなものも嘘だなんて言うつもりはない…本当に必要なことはきっと、それが何を連れてくるのかって、それだけさ、もしもそれが食べ物なら、どんなものだって腹は膨れるはずだ、例え後で吐き出す羽目になったとしてもさ…スネアドラムの反響がなにかしらの残り時間を弾き飛ばしながら…ディスクは信号を進行する、静かにブロウしているマイルスデイヴィス、例えペットを下ろしていたってスピリットは途絶えたりしない、音楽がブレイクするとき心は何を求めている?それはきっとあれさ、男根を吸い上げる女の向こうの窓硝子に刻まれた文句さ―射出せよ、澱む人生―射出せよ、澱む人生さ―ハッハ、なあ、デジタルのポエジーは薄暗がりじゃ目を焼くぜ、いつまで見つめ続けていられるのか判らない、いつまで見つめ続けていられるのか判らないんだ、仰々しいお題目の為になんて別に生きるつもりじゃなかった、だけど気が付いたらそんなものに繋がる道の前に居たんだ、夕暮に導いて運命に気付いた欲望の様にさ、ただ気が付いたらそこに居たんだ、ただそれだけさ、俺はロマンチストじゃない、俺はリアリストじゃない、俺はポエットでもない、どんなリストにも含まれたくはない、しいて言えば、そんなコンテンツとは無関係なところに行きたい、ただそれだけだよ、ただそれだけなのさ、人生を這いずり廻って―自分以外の気配をどこかに感じているトカゲみたいに―人生を這いずり廻って、ただ知りたいだけなんだ、俺の中点をザワザワと騒がせるものの正体を…皮膚を剥ぎとる代わりに、肉をこそげ落とす代わりに、血を絞り出す代わりに、骨を叩き潰す代わりに、俺はこれを選んだ、ただそれだけだ、俺はこれを選んだ、脳漿をぶちまける代わりに―俺は思考する死体だ、死人的な詩人だ、俺は一定のノイズの中で生きている、灯りを点けるんだ、まだ何かを見るつもりなら。







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2013/10/25

にんげんに生まれなくてよかった  




にんげんに生まれなくてよかった
ありあわせの価値観や
なあなあの絆で
日々を適当に真面目にやる
にんげんに生まれなくてよかった


にんげんに生まれなくてよかった
産業音楽に涙をながし
旬な役者で固められるだけの
いつかと同じ週一のドラマを楽しみに待ち
SNSで顔も知らないともだちと盛り上がる
にんげんに生まれなくてよかった


おれは詩人だった
たぶん生まれたときから
おれはサイコーに詩人だった
今抱え込んでいる面倒事のすべてはおれの誕生のおかげで生みだされたものだ
おれは詩人なんだもの
さもありなん


にんげんに生まれなくてよかった
バーゲンに血相を変え
スマートフォンの発売日には行列に並ぶ
にんげんじゃなくて本当によかった
にんげんに生まれなくてよかった
夏の終わりには二四時間マラソンに齧りつき
まるで自分がいいことをしたような気分で
ぬくぬくと眠りについたりするような
にんげんじゃなくて本当によかった
寸法通りに鉄を加工したり
四六時中給仕に徹したり
ガリガリ道をこじ開けるユンボのそばで
旗を振って歩行者を安全に誘導したりするような
そんなことに大真面目になる
にんげんに生まれなくて本当によかった
すでにあるものに寄りそうと
すでにあるもの以上のものにはなれない
ありもののイデーはそりゃあ収まりはいいだろうし
既定のものを規定通りに出来るようになれば
なにかいっぱしのにんげんになったかのような
ゴキゲンな錯覚だって簡単に出来るだろう
緩慢な毎日の中で誇り高く言いなりになる
にんげんに生まれなくて本当によかった


今日
おれは昼休み
台風が近付くなかを
小さな傘をさして歩いていた
膝の裏まで雨でぐしょぐしょになりながら
京都弁で話しかけてくる自動販売機で温かい飲物を買って飲み
すぐそばの休憩所のトイレでひと息ついて
仕事場に戻る途中
小さなレストランの駐車場に
一台の車が止まり
一升瓶みたいな体型のじいさんが運転席から下りて
傘をさして反対側のドアを開け
同じような体型のばあさんが下りてくるとき
濡れないように傘をさし向けた
そしてふたりはなるべくたがいを濡らさぬよう
しっかりと腰に手を回しあって
静かに店の入口をくぐっていった
きっとふたりは生真面目な生真面目な人生の褒美として
そんな毎日を手に入れたのだ
おれは
小さな傘をさして
膝の裏までずぶ濡れになりながら
そんな光景をやり過ごした
おれはにんげんには生まれなかった
面倒事を抱え込んで生まれてきた詩人だった
台風が近づく十月の終盤
おれは傘をさして彼等とすれ違った
かれらはとても大人しく
おれはずぶ濡れてささくれ立っていた
にんげんに生まれなくてよかったが
おれは
きっとあのふたりのように老いることは出来ない
この詩を
書いているいまは夜で
激しい風の音も
トタン壁を叩く雨の音も
もう
しなくなった
ただ人の声がして
ただ車が行き過ぎている







明日はひさしぶりに晴れ間も覗くらしい







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2013/10/19

食卓に散乱した過去の血が詩篇の様に示唆している未来  








雨上がりの朝、快晴の路上で渇いている君の瞬間の思想は、枯れた蒲公英のように末期だ、種はすべて失われてしまった、理由を残していながらもう形骸化している、あとはチョークみたいに安直に折れるだけ、秋風に煽られて…細かくちぎれて居なくなってしまう、微かな傷口から零れた血のようにポツポツと残された欠片には、もう存在しないという力だけがありありと刻まれている、緑色の虫がそのそばで腹を見せて死んでいる、はるか頭上、はるかはるか頭上では雲が、空のフィールドを追い出されるかのように気忙しく流れている、十月の特記されぬある日、そんな風に飛散してしまう瞬間の思考について、爪を噛みながら俺はずっと考えている、ずいぶんと気温は下がり、日が陰る時々なんかは震えが来るほどで、怖いんじゃないね、なんて、古い歌を思い出してみたり…そんな緩慢とした時間の流れの中に居ると、カンバスに分厚く塗られた絵具の中で生存しているみたいな気分になって、どんな絵筆ならそれを綿密に解きほぐすことが出来るのかと…そんなプロセスは希望のようであるし猜疑心のようでもある、もっともその二つがもともと異なるものなのかどうか俺には断言出来ない、テーブルに思いつく限りの単語を並べて…テーブルに思いつく限りの単語を並べて、どうにか辻褄が合う形でまとめ上げられないか?放置された寝床の上では、明方の夢の続きが雑草のように繁殖している、遊技場の廃墟の中で戯れに無秩序に並べられたボーリングのピンのようにそいつには意味がない、まったくのゼロだ、まったくのゼロなのに繁殖している、手遅れのように…いっそストライクでも狙ってみるかい…?君の、俺の、特記されることの無いある日、君と俺の時間軸は同一の線を辿るだろうか?答えはノーだ、そんなこと絶対に有り得ない、俺と君が例えば取って代わることが出来る命でもない限りだ―朝と夜が同時に存在することがないように―個体である理由とは何だろうか?君にはそれが解明出来るか?俺には出来ない、そしてたぶん君にだってそうだろう、俺たちは同一線上に存在するためにこの世に弾き出された生物ではない、ただ一定の時間、互いが互いを必要とする間、限り無く近しい線上に存在しようとし続ける、そんな境界の上に成り立っているのさ、雨の日のフロントガラスのように時々虚ろに歪む視界に辟易しながらね…詩文が必要だと誰かが言う、音楽が必要だと誰かが言う、絵画が必要だと誰かが言う、そして、そのどれもまったく意味の無いものだと言う誰かも居る―真っ白な口笛がおそらくは自転車に乗っている誰かの口元から聞こえる、不十分なハイ・トーンを歌うスクーターの誰か、北から南へ歩いてゆく陽気な酔っぱらい、通過してゆく、通過してゆく、通過してゆく、通過してゆく、夜に跳弾する、夜に跳弾する彼らの覚束ない存在、食卓の上で凍りついた歌をただただ数えている…その歌を乗せた皿の側に愚かな群集のように飛び散った血は誰のものだ?もしも俺のものであるのなら俺がそうと気づかないはずがない、そこには必ず俺の臭いというものがあるからだ―血―俺は過去に流れた血というものを想像する、過去に流れた血というイマジネーションに捕われる、イマジネーション、インスピレーション、それはどこからか俺の脳内に入り込んでくる、マジシャンが思い通りの場所にカードを差し込むみたいにそれは忍び込んでくる、過去の血、それが過去のものなら臭いを持つはずがない、臭いを持たないのならそれが誰のものなのか判るはずもない、食卓の椅子に腰を下ろし、過去の血と語り合う、俺の家の食卓にこの血はあるのだから、余程の奇妙な事情出ない限りこれは俺の血に違いないだろう、だけどなんだ?この例えようもない違和感は?―所詮リアルとは、進行形の時間の中にしか存在しないものなのだろうか?この血は、この血は俺のことを語らない、俺から流れる血のように俺のことを語らない、例えるなら俺の死体が、おそらくはほとんど俺のことを語ることがないのと同じように、ただただ渇いてこびりついている―ただただ渇いてこびりついている…一瞬窓から迷い込む鋭い灯り、あれはトチ狂った車のヘッドライトだろうか、サーチライトのように―まるで俺を誰かが捕らえようとしているみたいに―一瞬窓から迷い込む鋭い灯り、でもそれはそれ以上どんなところも照らすことはない、少なくともここに関係する場所は―時は、時はリアルと殺し合う、時が過ぎた場所にはリアルの死体が積み上げられている、リアルの死体は腐臭すらあげはしない、リアルの死に方は速過ぎる、リアルの死に方はとても速過ぎる、リアルの死に方はうんざりするくらいに速過ぎるんだ、俺は食卓を離れる、これ以上問いかけてもしかたがない、これ以上問いかけてもしかたがないんだ、すでに失われてしまったものに―スピードの中で死んでいく奴らの中に首を突っ込んではならない、それは自分の首が飛んでしまう結果になる、速度を見極めようとしてはならない、その中にどんなものがあるのかということだけ気にかけるべきだ―また入れ代った、朝だ、舞台装置が反転するように景色が、空気が、光がすり変わる、スピードの中で俺は置き去られている、人柱のように主観的な時間の中に杭打ちされて、そこを軸にして世界は動いているのだ、主導権を握っているのは誰だ、主導権を握っているのはいったい誰なんだ?人生の中心にありながら―傍観者だ、眼球が何かを捉えようとして躍起になっている、スピードの中に首を突っ込んではならない、首を撥ね飛ばされたくなんかない…撥ねられた俺の首はきっとどこまでも転がってゆくだろう、「オーメン」のあのシーンのようにさ、狂った朝、狂った昼、狂った夜、スピードは狂わせる、スピードはすべてのものを狂わせる、だけど、ただ立ち止まっているだけじゃ知ることの無い快楽がそこにあるのも確かさ…狂気の中で、狂気の渦の中で、どれほどの正気を得るのか、そいつは、自分自身のメーターの見極め次第、それだけさ、どこまでならOKなのか、そいつを見極めることが何よりも大事だぜ…しかも、それは一度間違えたらやり直しが効かないんだ、二度と、二度とやり直せないんだぜ、狂気の渦に飲み込まれて、自分じゃ何も考えられない阿呆になってしまう、あらゆる世界で「日常」と呼ばれているもののことさ、その中には思っても居ないスピードが隠れていて、それが思考を怠慢にしてしまう、進むことも戻ることもしないものをたくさん生みだして、しかもなにひとつ拾い上げることは出来ないんだ、スピードの中に顔を突っ込んではならない、またたく間に首を撥ねられて意志の無いものになってしまうぜ、見極めるんだ、それが一番大切なことだぜ―流れに乗ることが美しいことだって皆が信じてしまう、流れ?そんなものたったひとつの心に何の関係があるというんだ、たったひとつのものを信じろ、たったひとつのもので在り続けるために…無自覚に流れに乗るような真似だけは絶対にしちゃいけないぜ、すっかり暗くなったせいでガラス窓には部屋の中で立ちすくむ俺が映っている、まるで亡霊だ、と俺は思う、まるで亡霊のようだ、生きているから、生きているからこそだ、自覚的でいるからこそ―存在についてそんな印象を持つのだ、俺はガラス窓の世界に存在するたったひとりの俺と向かい合った、やつはにやにやと笑いながら、生身の俺のことを見つめていた、この夜もまた次の夜も、俺は確かな朝だけを待ち続けるだろう、そしてそれは、すでに死んだはずの食卓の血痕に、鼻を摘まずにはいられないような新しい臭いをもたらして俺を辟易させるはずさ…。








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