2014/4/29

On The Road Again ( new classics )  








ぼくら、たがいに言葉もなく
薄っすらと曇った空のした
だだっ広い荒野を切り裂くような
一本の道を歩き続けた
おんぼろの靴がいつまでもつかと心配だったけど
気にしたところでどうしようもないことだった
時々しか電波をキャッチ出来ないポータブル・ラジオからは
倒れそうなブライアン・ウィルソンが聞こえていた
「ねえ、いま何時かしら」ときみが言うので
ぼくはポケットの懐中時計を開いて時間を見た
「一時半を回ったとこだ」ぼくがそう言うときみは鼻を鳴らした
「お腹が空くわけだわ」
どういうわけかぼくはそんなふうには感じなかった、でもきみの機嫌を損ねるのは避けたかったので
そうだねと言って休憩を取ることにした、道を外れて荒地を歩き、テーブルみたいな巨大な岩に飛び乗った
ふう、ときみは息をついた
「あなたって、少し歩くの速すぎるわよね」
「そうかな」「そうよ」
「女の子を連れて歩いてるんだってこと忘れないで欲しいわ」
ごめん、とぼくは詫びた
いいのよ、ときみは言った
「これから気をつけてくれるなら」
それから簡単な食事をとった、食パンにも飽きたわね、ときみがつぶやいた
「でも、贅沢は言えないわ」ぼくたちは微笑んだ、そうとも、その通りだ
「次のモーテルまでどのくらい?」ぼくは地図を開いた
「あと三時間は歩くね」きみは首を横にふった「でも歩かなくちゃね」
「歩きはじめればすぐさ」とぼくは言った「いままでだってそうだった」「そうね」「これからもそうさ」
そうしてまた道にもどった


二時間ぐらい歩くと、雲が切れて西日になりはじめた「ねえ」しばらくぶりにきみが口を開けた「このくらいの時間帯好きだわ」
そうなんだ、とぼくは答えた、暑いなと思いながら
「お日様がムキになる感じがして…言うの初めてだっけ、これ?」
うん、とぼくは答えた「初めて聞くよ」
「ぼくはてっきりこういうのはきみの趣味じゃないだろうと思っていた」
「こういうのって?」「こんな毎日さ、歩きはじめてからの…すべてさ」
「あら」ときみはにやりと笑いながら言った「どうせお部屋でわがままばっかり言ってる手のかかるお嬢様だと思っていたんでしょう」
ぼくは苦笑した、たしかにその通りだった
「考えてみなさいよ」ときみは追い打ちをかけた「そんなお嬢様だったらこんな旅にのこのこ着いてくるはずないでしょう」
たしかにそうだ、とぼくは思った「たしかにそうだ」と認めるしかなかった
ふふん、ときみは勝ち誇った、そして、ビーチボーイズをハミングした、アルバム一枚分くらいでその日の宿に着いた


スティーブ・オースチンみたいな宿の主人は、フロントのカウンターで目を丸くした「この宿は十五年くらい営業してるが」
「歩いてやってきた客は初めてだ」
ぼくらはなぜか勝ち誇った
「どこから来たんだ?」ぼくは街の名を言った、はぁー、と男は変な声をあげた
「若さかね」「ケルアックもビックリだ」
ケルアックってだれよ、ときみが聞くと、男は少し傷ついた顔をした「昔のひとさ」「ふうん」それからぼくらは金を払い、男は部屋の鍵をくれた
「ひとつ、確認しとかないといけない」「家出とかじゃないな?」
違うよ、とぼくは答えた、でも詳しい話をする気はなかった
「それならいい」と男は言った、かれにも詳しく聞く気はないようだった
「面倒が起きないならいいんだ」ぼくは笑顔でその心配はない、と答えた
「食事はどうする?」「七時」
ぼくらは三つのメニューからピザを選んだ、「いいチョイスだ」
「おれは昔ピザ屋をやってたんだ」男は胸を張った、「潰れたの?」ときみが聞いた、いいや、と男は首をふった
「閉めたんだ」「どうして?」こほん、と男は咳ばらい「テレビを見る暇がないからさ」ぼくたちは笑った
「自由ってそういうもんだぜ」
「賛成」ときみが言った
ピザは文句なしに美味しかった
ぼくたちは満足してよく眠った


翌朝、きみはぼくより早く目を覚ましていた、それはこれまでで初めてのことだった「ねぇ」とぼくが身体を起こすなりきみは話しはじめた
「あたし、ここにするわ」
いいんじゃない、とぼくは答えた「かれは断らなさそうだし」「でしょ?」
それでぼくらは朝食のときにかれに話してみた
「おれはかまわねえけど」と、やっぱり男は答えた「だけどあんたたちはそれでいいのかい?」
もともとそういう旅なんだ、とぼくは答えた、たまたま落ち着く先を探してた二人が、たまたま一緒に旅をするようになっただけだと
「なるほど」と男は何度かうなずいた「それならなんの問題もない、正直おれは怠け癖があってね、手伝いが居てくれたほうがありがたい、仕事は簡単だしね、部屋は一番離れを使ってくれりゃあいい、そんなに儲かるわけじゃないがひとり雇うくらいなら楽勝だ」しゃあ、ときみは言った「よろしく」「あぁ」


そういうわけでぼくだけが旅支度をして昼ごろそこを離れた、二人は道まで出て来て見送ってくれた「元気でね」ときみは言った「落ち着く先が決まったら手紙を頂戴」ここの住所だ、と男が一枚のカードをくれた、ぼくはそれをリュックの外ポケットにしまった
「あなたと歩くの、結構好きだったわ」ときみは言った「すごく静かに、真面目に歩くもの」
意外だな、とぼくは言った「きみはそういう歩き方は嫌いだと思っていた」もちろん冗談だった、ぼくたちはひとしきり笑った
じゃあ、とぼくが言って、そこからはすごく真面目に別れた、二人はぼくがすごく離れるまでずっと見送ってくれた


ぼくが落ち着く先を見つけるのにはそれから二年かかった
ある小さな街のアパートの五階の一部屋がぼくの住処になった、仕事はザ・バンドばかりが流れるあるビルの地下にあるバーの見習いバーテンだった、ぼくはそのことを書いてきみのいるモーテルへと手紙を送った
返事はすぐに帰ってきた、お腹が大きくなったきみの写真といっしょに
ワーオ、とぼくは言った、そしてこころからおめでとうと言った


それからまた二年が過ぎた、ぼくは休みを取って、記憶を辿りながらきみのいるモーテルへと車を走らせている、後部座席にはベビー用品と、ジャック・ケルアックの本を乗せている、もしかしたらあのモーテルにはそれはあるかもしれないけれど…






クソ真面目に歩いてきた道を、イカしたエンジンで遠慮なくぶっ飛ばす、それがぼくらが手に入れた自分の居場所なんだ





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2014/4/26

赤い血だ、へんなの  









いつかすべての花が閉じるときに
できることならそれは夜明けがいい
未定の連鎖を勝手に感じさせる
できることならそれは夜明けがいい


かすみ草の花束のなかに
プラスティック爆弾を隠して
ひとりの少女が街路のくぼみになった
「神様のため」と諭されて
すんなりと頷いた
彼女にすればそれは当たり前のことで
いつか自分もそんなことができたらと考えていた
彼女はサニーという名の
小麦色の肌の愛くるしい娘だった
その年十になったばかりだった
本をよく読む子で
とても物覚えが良かった


それが行われる前夜、彼女の前にはご馳走が並んだ
「この国から悪魔を追い出すために」と
年長者であるサニーの祖母が乾杯の音頭をとった
「おまえは私たちの誇りだ」と父親がサニーの頭を撫でると、彼女は照れ臭そうに微笑んだ
みんなが笑顔だった、母親はサニーに頷いた、あなたなら上手くやるわ、きっと大丈夫、そんな風に
食事の終わりに皆がサニーを抱きしめ、サニーは彼らの体温をしっかりと覚えた


その夜サニーは早くに眠りについた
長い長い夢を見た
家族や友人たちが美しい草原の泉のほとりで
楽器を演奏したり歌ったりしている夢だった
サニーは微笑んで座っていた
とてもとても満たされた気持ちだった
ひとりの娘がサニーに話しかけた
「久しぶり」
二年前、悪魔の爆弾で吹き飛ばされたアミだった
二人は親友だった
「わたし明日神様のために燃える花束を持つのよ」
サニーがそう言うとアミはまあ、と言って瞳を輝かせた
「すごいわ、とうとう選ばれたのね」
おめでとう、サニー、とアミは言った、ありがとう、とサニーは答えた
それから二人はずっと寄り添って座っていた、朝の光がサニーの部屋の窓辺を照らすまで


当日、サニーは一番のお気に入りのドレスを着せてもらった、うっすらとだけどお化粧もしてもらった
「可愛いわ、サニー」と母親が言った
うふふ、とサニーは笑った
そうして父親の運転する車に乗って、舞台となる街へ向かった


街に着いたのは昼前で、たくさん人が集まる時間だった、サニーを車に残して、父親はどこかへ行った、十分ほどで戻る、と言って
その間サニーはずっと、賑わう通りを歩く人たちを見ていた
この人たちはみんな悪魔なのね、と思いながら
やがて父親が戻って来た、かすみ草の花束を持って
彼は後部座席のドアを開けてサニーの横に座り、花束の根元にある小さな膨らみを見せた
「あの時計の下に行ったらここを押すんだ、悪魔が吹き飛ばされて、神様がお喜びになる」
「判ったわ、パパ」
父親は頷いた「行きなさい」
「はい、パパ」


サニーは車を降りて、転ばないようにゆっくりと歩いた、白いドレスをまとった小麦色の肌の彼女は、人目を引いた
父親は真剣な眼差してサニーの後ろ姿を見ていた、祈りの言葉をつぶやきながら…サニーは落ち着いていた、しずかな足取りで時計を目指していた、なんだかデートに行くみたいだわ、と思ってちょっとおかしな気持ちになったけど、軽く首を振ってそれからまた、真面目くさって歩いた、やがて彼女はそこにたどり着いた、時計を見上げて、そしてそれに背中を向けた、青い空が美しかった、遠くに父親の車が見えた、教えられた通りに花束の根元と膨らみを押した、そのとき一羽の白い鳩が、彼女の足元に舞い降りた


あっ
鳩だ


それが
彼女が最後に思ったことだった
すべてを見届けた父親は、車を走らせて来た道を戻って行った


サニーの魂は少しの間ぼんやりと漂って、自分がいた場所を眺めていた、たくさんのものが壊れ、たくさんの悪魔が倒れて苦しんでいた




赤い血だ
へんなの







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2014/4/21

Gass(中毒なんて視点で語るならたぶん)  










排水パイプの中で沈殿した昨日が嫌なにおいを立てる生温い春の、腐った血液のような時間の行進だ、おれは目玉をぐるぐると回しながらなんとか収まりのいいチャンネルを見つけようとして夜明け前から躍起になっていたがとうとうどうしようもなくなってすべてを投げ出した、軽い、乾いた音を立ててゴミ箱に落ちていく今日、朝までの雨のせいで執拗な湿気だ、夜のうちに二度目のシャワーを浴びておこうかと悩みながら、けれどもきっとそのまま寝床にもぐりこむだろう、絶対にやらなければならないことなどないのだ、必然とはなにかしら有意義なことをしていると思い込みたい馬鹿どものまじないだ、春の陽気にのぼせて馬鹿になった脳味噌があるだけさ、時々、時々だけど、決定権なんてきっとおれたちにはひとつも持たされていないのだと…そんな風に考えることがあるよ、結論というのはたとえば地図の、自分が歩いた道だけを塗り潰してみせるようなものだ、そういうことをしないと安心出来ない連中が作り出した妄想に過ぎないのさ、鼓舞するための魔法の言葉とでも言えば聞こえが言いかね?ともかくそんなものにはなんの意味もない…指の長さや、ケツの穴のサイズと同じで、個人差というものが大きな意味を持つんだ、そうだろ?誰かの定義に合わせてそれでOKなんてそんな間抜けな話は願い下げだ―マーケットで安く買ってきたパックの微糖コーヒーを一息に飲み干すと、いつも騙されておこうという気分になる、そうしたラインの上にいろいろなものを置きすぎる癖がついた、だけど実際、そういうところにおいとくしか仕方のないものばかりが世間様にゃ溢れかえっているんだ…天気予報をついさっき見ていたはずなのにまるで覚えていない、きっとなにか他のことに気を取られて見過ごしてしまったのだ、だけどそれもやはり、どうしても見ておきたかったというようなものではない―ポータルサイトを適当にクリックすりゃすぐに判ることだしね…突然決まった朗読会の日程が近付いていて、毎日時間の中から抜き取られた自分の過去と睨めっこをしている、おれの過去はどいつもこいつもみな似たような顔をしているよ、おれが書き綴りたいことはずっと昔からひとつしかないからさ…そのせいだ、水はおのずと自分の流れていく道を決めるものだ、あれこれ手を加えても流れが悪くなるだけさ…大事なのは流れていく先をじっと見つめていること、ここで流れを止めようなんて考えないこと…言葉を水に例えるとき、それが流れていく先とはいったいどこなのだろう?海ではない、海ではないよな、それは余り広いところを求めているわけじゃないような気がする、そう、どちらかというと、脳味噌の風通しをよくするために垂れ流すのだ、排水ポンプから生活用水が流れていくみたいにね…コックを捻って、新鮮なものと入れ替えるのだ、黙って、なにもしないで居るとそれは頭蓋骨の中でどんどん腐っていくから…新しい言葉と新しい音楽、芸術の定義なんてそれだけで結構だ、それは常に、瞬時に構築されていくべきものなのだろうから…ベランダではキジバトが古くなったパンを啄ばんでいる、今朝のうちに撒いておいたのだ、どういうわけかここにはよく彼らのような生物が飛んでくるから…奴等の食物に短い詩を書いておけば、飲み込んだ瞬間に空を飛ぶことについて語り始めるだろうか?ふん、くだらんね、どうも…湿度はどんどん上がっていく、湿度はどんどん上昇していく、ああ、忌々しい…天気予報はなんと言っていただろうか?どうしておれはそれを見ていなかったんだろう?過去は絶対に取り戻せないからこそそう呼ばれるのだ、そうしておれたちは、取り戻せないことについてあれこれと唇を尖らせるしかやることがない―詩人はアジテイターじゃない、詩人は無頼漢ではない、詩人はインテリじゃない、詩人はただの傍観者だ、おのれの流れを傍観して記していくのだ、そしてそれを馬鹿みたいに読み返すのだ、そうさ、過去を現在に再生する手段があるとしたら、それは観念的なものとして記録しておくことに違いない、俺は音楽を聞きながら今日を記している、それはいつかこれを読み返すときに、鮮やかな過去として脳髄を突っつくだろう、生きる理由はここにある、生きる価値はここにある、正常な時間軸の中で自分をぶん回して…吐瀉物のようにあふれ出した言葉たち、排水ポンプの中で沈殿した昨日が嫌なにおいを立てる生温い春、おれはディスプレイに突っ伏して首を吊る夢を見ていた。








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