2014/4/7

かくも愛すべき水底の。  







恋人たちが爆死するサマー・ボリディ、灯台から灯台へと渡されたタイト・ロープの上で呑み過ぎた予言者が呂律の回らぬ口を開く…「そこら中が地雷原だ」と。フルーツ・フレーバーの歯磨き粉はセサミ・ストリートに胸躍らせた幼い日を連想させる、ロックンロールの流れるラジオ、六十年代のままに…スーパー・ボールみたいなビートをサッと捕まえて自分のものにしたかった、それはほんとのことだ。ゴブリンは窓枠で、ランプシェードが黒をかぶるまでお行儀よく待っている、どんな世界にも待つべきことはある、丁寧に挽かれ淹れられたコーヒーを飲み干すと確かな息吹がその中には潜んでいる―純粋であり続けるには途方もない才能が必要だ、そいつは間違いない。純粋なだけの純粋さは首吊り自殺で終わるのがオチさ…汚れて見せることだって必要だ、周囲の人間を戸惑わせて、眉をしかめさせることが必要なのさ。そうさ…誰かが認めてくれたのかい、その噎せ返るようなピュアネスはいつだってお前の胸元で蜘蛛の巣に捕われた蝶のようにもがいているだけじゃないか?本当に周囲を巻き込もうと思ったら、戦略は必ず必要になるものさ、小狡さとか図太さの話をしているんじゃない、コントラストを極端に強くしてみせるのさ、指先を自慢したければ手の平を徹底的に汚してみせることだ。誰かがあるとき俺にこんなことを言ったよ、「お前の書くものはどれも似過ぎていて陰鬱で救いが無い」って。それは違うよと俺は思った。でも何も言わなかった。説明してしまえばそれはイデオロギーに過ぎないからだ。「その陰鬱さが僅かな救いをうたう為にあるんだよ」なんて言わなかった、そんなこと、文脈から外れたところで話したって何の意味も無いんだ。読めたらオンの字、読めなかったら残念でした、それ以上のことは小細工に過ぎないよ。おい!と恋人たちの死体が飛散した砂浜で誰かが叫んだ、「予言者の姿が無いぞ!」ああ、なんて馬鹿な…なんて馬鹿な野郎なんだ…あいつはきっとなにか、それ以上のことを声高に叫ぼうとしたのだ、そしてバランスを崩してしまった、喋りたいことに気を取られて、足元に注意を払うことを忘れたのだ、ただでさえ呑み過ぎていたというのに…何人かの人間が海に飛び込んだ、駄目だよ、と俺は呟いた、まずは水面を照らさなくちゃ…当たりをつけて、それから目指さなくちゃ…!闇雲に泳いだところで見つかりっこないさ、見つけたとしても引き上げられないさ、だいたい、落ちた時点で手遅れかもしれないじゃないか。アルコールやら高揚感やらのせいで、心臓麻痺を起こして即効沈んじまってるかもしれないんだぜ…沈んでしまったのなら潜水士を呼ばなくちゃ。手段をたくさん持たなくちゃ駄目だよ、イデオロギーだけじゃ掴めないものなんてこの世には山ほどあるんだぜ…五人飛び込んだうちの二人が溺れた、あいつらを助けるためにあと何人が飛び込むのだろう?ホリディ、サマー・ホリディ、浮かれた愚かしさがやらなくてもいい葬式を手配させる、参列者は上手く泣くことすら出来やしないだろう。沢山の人間が居て、沢山の年代があり、沢山の種類があり、いくつかの性別があり、いくつかの聡明さと、いくつかの愚直さと、いくつかの愚劣さが転移した癌細胞みたいにぼこぼこして息づいている、だけど、いいかい―俺の言うことよく聞いておくんだよ、これはすごく大事なことだぜ―その中の誰でもいい、群れの中から引っ張り出してきて、お前の純粋について懇々と話してみるんだ、いいかい―言葉を尽くすことで理解し合えることなんて、たぶん一度だって無いだろうさ…だから、タイトロープを渡るつもりなら呑み過ぎちゃ駄目だぜ、なあ。





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2014/4/5

血人(ちびと)  






血の海に、沈み
まといつく生体という粘りを
掻いて
己の意味を知る
人が嘘をつくようになったのは
言葉と、血を
切り離したせい


息を継ぐたびに
錆の味がする
生温かさは
すなわち厳しさだ
もう少し先へ行け
もう少し先へ行け
何のためにそうあろうとするのか
真理は
諦めさせてくれない


身体は軋み始める、泳ぐほどに
果てしなさばかりが明らかになる
一秒を背にし、一秒が通過し
一秒の、未来がある
すべての生業に、それらがまといつく
まといつく
生体という粘り


泳ぎ着かれると浮かぶ
仰向けになり
背骨をあるべき形にすれば
身体は、沈むことはない
漬かりながら、揺れながら
もはや追うことをやめた、理由について考える
答えを出すための思考ではない
焦りを取り去るための、遊びのようなものだ


たとえばおれがあなたに、そのことについて伝えようとすれば
一日二日じゃ足りないだろう、たとえばそれが千夜一夜でも
語り尽くすことなど出来はしないだろう、しかも
それは空のように日々変化していて、昨日と同じ言葉では語れはしないのだ
修正しながらほんの少しの変わらないものについて
語り続けようとする試み、執拗に続く念押し
たとえばあなたがそのことについてまったく理解出来ないとしても
おれは全然かまいはしない、おれは
おれは何らかの手段としてこれをやっているわけではないのだ


血にまみれていると母親を思い出すだろう
その中を泳いでいると父親を思い出すだろう
血まみれの世界で懸命に泳ぎ続けていると
おれであることを思い出すだろう
おれは常に忘れ去られようとする
おれそのものと日常はリンクすることはないからだ
朦朧とした肉体が移動するあいだ
おれそのものは嵐に耐えるようにどこかにしがみついている
一度はぐれたら終りだ、一度はぐれたらそれでお終いだぜ
そこに残された肉体はおれがもっとも忌嫌うものでしかなくなる
おれはしがみついている、懸命に
懸命に血の海を泳ぎ続けるために


そう、あえて理由というものがそこにあるとすれば
それはおれそのもののようなものだ
生存しているという事実が求めるもののところへ懸命にたどり着こうとする
それ以上の能書きはもう何も必要ないだろう
おれは語り尽くしはしないのだ、語り尽くせるものでもないし
語ることそれ自体にもきっと意味などはないものなのだから
答えを出すための生業ではない
むしろそこが答えになってしまわないように
懸命に結論であることを拒否するのだ
一度はぐれたら終りだ、一度はぐれたらそれでお終いなんだぜ
一秒を背にし一秒が通過し一秒の未来がある
おそらくはそれが一秒のままであることを感じ続けるために


出し惜しみするなよ、どうせすべてなど夢のまた夢だ
いま語れることはすべてさらしておかなけりゃ
明日にはきっとどこか信用の置けない代物になっちまう
おれやあなたにどんな確信があろうとなかろうと
それだけが語るわけではないのだから
血の海を泳ぎながら
もう少し先へ、もう少し先へ
おれやあなたのままでありながら
いま話せることのすべてを言葉にしておくのだ
一秒一秒に遺言を残すのだ
一秒と同じように、背に、そこに、未来に存在する遺言を
少なくともそのことだけは、おれは信じ続けていくだろう
たとえばそれが嘘だろうと本当だろうと
そのことだけは信じ続けていくだろう


血の海に浮かびながらときどきは夢を見る
たとえばそれは結論でありながら進行し続けているおれであったりする
それはたぶんおれが望んでいるもののかたちのひとつなのだろう
泳ぎながら望んでいるものの、かたちのひとつなのだろう
生温かさは確かな厳しさだ
最後まで生体である為のパスポートだ
血の温度と匂いの中で成就するもの
おれそのものであることを忘れてはならない





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2014/4/2

Blood Blood Blood  









お前の脳天に沈み込んだ金槌の先端はゲラゲラ
真っ黒な鉄なのに真っ赤になって恥しがってゲラゲラ
色白な可愛い娘だったのにグチャグチャになってゲラゲラ


あれは年表に載せるほどのこともないある日のことでございました
マリはその日も鞠をつきながら家路への道を急いでいたのです
マリというのは本当の名前ではなくいつも鞠をついていたせいであるのですが
いつもどこでも誰からもマリと呼ばれるものだから親ですら本当の名を忘れてしまい
なんとなく俗世間的にもうマリでいいかという雰囲気になっていたのです
世情というのはいたってそういうものです
マリは鞠をつきながら家路への道を急いでいたのですが
同じく仕事を終えて事務所への道を急いでいたオート三輪にこれでもかとばかりにぶちかまされてマリでも何でもなくなってしまいました
しいて言うなら肉でした
しいて言う必要もないことですが
お葬式のときに本名を思い出せなくて親が悩んでいると棺の中で肉が起き上がって「ミチヨだってば」なんて言ったとか言ってないとかいうお話もありますがそんなお話は今回の話とは余り関係がないことで
関係がないといやこの話自体
関係があるのかないのかよく判りはしないのですが


氷屋がギャギーンと店先で馬鹿でかい氷をカットしておりましたらば
お調子もののまさる君が切られる振りをしてドッカンドッカン笑わせようと目論んだ挙句タイミングを誤って本当に切られてしまい
どうにも笑いごっちゃない事態に陥ってしまいました
まさる君の幼馴染でお隣に住んでいたアミちゃんだけはおしっこを漏らしながらおかしな笑いを浮かべていたそうですが
頭を抱えたのは氷屋さんのおじさんです
警察やら病院やらに電話をかけながら
真面目一徹で何十年もこれでいいんだと言い聞かせてただひたすらに氷ばかりを切り続けてきたのに
まさかそんなことが子供を一人殺してしまう羽目になるなんて
子供たちやそこらをうろついていたご近所の奥様連中がここぞとばかりに証言をしてくれたお陰で罪に問われることはありませんでしたが
おじさんはもう氷を切ることが出来なくなってお店をたたんでしまいました
長い間有難う御座いましたと書かれた貼紙を下ろしたシャッターに貼り付けたとき
こんなことはもうこおりごおりだと呟いたとかなんとか
ああそうそう
アミちゃんは治らない阿呆になってしまって出られない病院に行ったそうです


バスルームでゲラゲラ
コンパクトにおまえをゲラゲラ
お前は華奢で可愛かったけれど
流石にこんな時でも都合のいいサイズとはいかなかったな


工事現場で遊んでいたゆきひろ君はコンクリートミキサーに巻き込まれて壁になりました
棺の中にはコンクリートの塊を入れざるを得なかったので
彼のご両親は棺を担いでくれる力自慢を何人も雇わなければならず
息子の死と余計な出費で首が回らなくなり
ある朝梁に縄をかけて死んでいたそうです
そこにたまたまゆきひろ君に貸しっぱなしになっていたお人形さんを返してもらいにきたユリちゃんが
二人の姿を見てひっとなってしまい
少しの間気を失っていましたが
目を覚ましてからはそれはもう興味津々で
お父さんの着物を解いて死後硬直で大きくなった陰茎をつぶさに観察したり
お母さんが漏らしたものの臭いをイヌのように嗅いだりして楽しみました
死ぬとはどういうことだろう
ユリちゃんはそれが知りたくて仕方がありませんでしたが
それよりもゆきひろ君に貸した人形のことが気になって仕方なく
一時間ほどあたりを探してようやく見つけて持ち帰りました
後に彼らの死体が発見されたとき
部屋に荒らされたあとがあったことから
すわ殺人事件かと騒然となりましたが
すぐに「自殺で間違いない」との結論に至りました
ちなみに力自慢たちはきちんとお給金を貰っていたそうです
ユリちゃんは大きくなってから病院の地下で死体をホルマリンに漬ける仕事に就き
僅か十年で一等地に豪邸を建てたそうです

地下にはなんだか怪しい臭いがする部屋があったとかなかったとか


ホラ、ホラ
お前はまるで分解されたお人形さんのようだ
発泡のケースに小分けにされて入れられて
これから土の中に埋められるんだよ
ゲラゲラ


ナツミは近所で有名な美少女でしたが
変質者にさらわれて乱暴された挙句殺されそうになり
何でこんな目にあわなくちゃならないのと嘆いているうちにムカムカしてやってしまいました
当然正当防衛でした
「後悔はしていない」と晴れやかによく語っていました
対価が必要なのです
受けた傷にはそれに見合うだけの対価が
ナツミは一時期精神病院に通っていましたが
数年後には完治して就職しました
大手銀行の行員だそうです
とてもよい仕事をすると皆に気に入られているという話でした


ああ
働いたあとのビールは美味いなぁ
なにが言いたいのかって?


マリ、まさる、アミ、ゆきひろ、ユリ、ナツミ
みんな
おれの





血族さ







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