2014/7/20

堆積物たち  









古い記憶の欠片が堆積してモスグリーンの湿地帯となり、そこに棲むあらゆる生物たちはどこかしら駄目だ、あるものは上手く見ることが出来ないか、もしくは完全に目が潰れているか、機能として存在していた痕跡すら無い、あるものは鼻が駄目で、あるものは耳が駄目だ、あるものは口が使い物にならなくて、手がお飾りみたいに短くて指すら無かったり、あるいは脚がそうだったり、また見た目にはまともに見えても脳味噌が駄目だったり、肺のどちらかが駄目だったり、心臓がポンコツだったりした、胃や腸がろくに機能しなかったり…要するに欠損を宿命づけられた連中の溜り場で、そういう連中しか生まれてこないようになっていた、閉じ込められたまま捨てられも浄化されることも無い記憶というものは果てしなくそういうものを生み出し続けていくのだ、そしてそいつらが生まれてくる間隔というのは非常に短い、次から次へと、次から次へと、誕生を急くように生まれてくる、次から次へと、誕生を急くように、意味を成さない言葉の羅列のように場所という名のディスプレイの中に無意味とも思われるほどの速度で次から次へと産み落とされる、彼らは不完全な肉体をあちらこちらへ振り回す、空腹を満たすためだったり、自尊心を満たすためであったり、睡眠欲を満たすためであったり、性欲を満たすためであったり、そうして食い、眠り、生殖し、減り、増え、減り、増える、一見すると同じ景色が繰り返されているだけのように見える、実際ほぼそれは同じことの繰り返しなのだが、パラレルワールドを微々たる目盛に従って移動しているかのように、ほんの僅かどこかが違っている、それは例えば頭骨の形であったり、水晶体や網膜のバランスだったり、鼓膜の形状であったり、額関節の稼働領域であったり…数え上げたらキリが無いが、とにかくそんな風にほんの少しだけの違いを持って生まれてくる、それがどんな理由によるものかは判らない、こんな風に話すと、彼らがある種の整合性を求めてそんな増減を繰り返しているという印象を持つかもしれないが、そこには進化という名が似合うようなベクトルというものも存在しない、あくまで進化を基準として語るのであれば、それは進化であったり退化であったりするし、またそのどちらとも関係が無かったりする、ほんの少し色が違うだけだったり、ほんの少し捻じれているだけだったり、まるで意味の無いマイナーチェンジだったりするのだ、あるとき俺はそいつらの中のいくつかを摘みあげて細かく調べてみた、大半の連中は醜い声で鳴いたし、じめついた目つきでこちらを睨んだりした、でも俺はそれがどういう理由によるものかをある程度理解しているので、大して気にせずに思いのままにひっくり返したりかっさばいたりぶっ潰したりした、そうした状態からでも彼らは再生することが出来た、そういう状態から再生されたものたちは再生される前よりもずっと醜い姿で生まれ変わってきた、つまりそいつらの変化は状況によるものなのだ、この場所の空気が問題なのだ、その理由も俺はあらかた理解していた、だけどそれはそうしておくしかない代物だったし、それ以上どうするつもりもなかった、だから俺はある程度の調査を終えるとやつらを再び放りだした、たまに覗いてみると調査する前よりもいびつで混乱したものに変わっているような気がした、いつくかの新しいやつらが実に気に障る不快な鳴声で鳴いた、そいつらの声はこれまでに聞いたことが無いくらい大きなものだった、ともすれば俺の鼓膜を直接震わせているのではないかと思えることもあった、そいつらは一日中一晩中鳴き続けていた、そいつらが何かを考えているのか、あるいは本能のままに鳴いているのかそれは判らなかったが、そいつらの声には確実に悪意というものがあった、そのことだけははっきりと判った、あらゆる瞬間に彼らの声が脳内に滑り込んできた、日常は彼らの声に脅かされつつあった、駆除する必要があった、これからも世界に生存していくつもりなら…なにか強力な武器が必要だった、一瞬で彼らを駆除することが出来るなにか効果的なものが…俺は再び彼らを採取してあらゆる可能性を試してみたがなにひとつ絶対的なものは無かった、ある程度試したところで俺は腹をくくった、こいつらが居ることを認めながら生きていくしかない、それは一方的な同盟のようなものだった、はっきり言っちまえば、俺が彼らに屈したようなものだ、だけど俺には彼らの存在理由というものがある程度理解出来たし、そういう状態である以上それは仕方のないことだった、彼らは相変わらずほとんど変化の無い人生を生きていたが、認識された瞬間からどこかぼんやりしているように見えた、俺は今日もパーソナルコンピューターを起動させ、ワードの中に彼らの記憶を書き込む、彼らの記憶はほんの少しだけ色を変え、ほんの少しだけ理由を変えてディスプレイの中に存在している。







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2014/7/15

マジックの種は天国の片隅に  





路面の亀裂に染み込んだ今朝の雨が、死せる魂のように空へ帰る頃、街角にはありふれたゴスペルが流れ、側溝には破り捨てられた誰かの診断書、飲み干されたBOSSの缶コーヒー、高いヒールで足首を挫いたらしい若い娘が、誰も訪れない公園に続く石段の二段目に座ってスマートフォンで誰かと話している、下品なイエローのスーツ、タイトなミニのスカートの奥の黒い下着が丸見えになっていて、昼飯帰りらしい土木作業員が見苦しい顔をしてその前を何度も通り過ぎている、廃品回収車のスピーカーが何処か遠くの方でお馴染みのコピーを繰り返している、雲行きはまだ不確かだけれどとりあえずはもう雨が降ることはなさそうだ、もちろんそんな認識の中には希望的観測というやつがナポリタンの上の粉チーズみたいにどっぷりとかかってはいるけれど
今年初めて耳にした蝉の声が小さくなっていくのと一緒に霞んで消えてしまいそうな嘘事じみた自分自身を余所事のように見つめている一日、心許ないものばかりが信じるに値するのだ、ねぇ、あれは本当のこと、あの蝉の鳴声は果たして本当のこと?教えてくれそうな見知らぬ誰かにそう尋ねることが出来たらどんなに気が楽だろう、すべては不確かなありのままで目の前を通り過ぎて行った、車の流れが途切れた僅かな時間に消えて行く雨を嗅いだ、思いもしなかった雨に濡れていた身体にはまだ降り続けていた、そんなあれこれが流れて行くのを眺めながらふと明方に見た夢のことを思い出す、不思議なほどに色の無い日常の中を生きていた、ああ、色、あの夢の中にあるはずだった色はいまどんな断層の中を彷徨っているのだろうか?それはあまり愉快な空想ではなかった、たとえそれが誰を傷つけるものでもなかったとしても
シアターの前で立ち止まって、上映中のポスターを長いこと眺めてみた、ポリス・アクション、ヒューマン・ドラマ、ゴースト・パニック、アニメーション…この中に例えばひとつくらい、絵に描いたようなマジックを秘めたものがあるだろうか?きっとそれはないだろうという気がした、映画がどうのこうのなんて講釈を垂れるつもりはまるでない、映画がどうのというよりはきっとこっちの問題なのだ、ポリス・アクション、ヒューマン・ドラマ、ゴースト・パニック、アニメーション、頭の中で繰り返しながらそこを離れた、転がり具合が気持ち良かった、気分とはまるで関係が無く、ちょうど何かの映画が終わって、シアターの入口は背伸びをするやつらでごった返していた、よう、ヒューマン・ビイング、少しは楽しかったかい、満足させてくれるものはスクリーンの中にあったかい、なるほどあんたは幸せだ、あんたはきっと幸せなんだろうさ
CDを売ってる店を覗いたらラモーンズが流れていた、ああそうか、逝っちまったもんな、ヒカゲが歌ってるのしか聞いたことなかったな、純粋なパンク・スピリッツってちょっと退屈なんだよ、遊んでくれない親みたいでさ、判るかいこういうの?イデーなんてない方がきっと幸せなんだろうな、パヴァロッティのベストが欲しかったけれど高かったので諦めた、電撃バップ、引き上げる頃だ、店を出ると喉の渇きを感じて、最初に目についた自動販売機でBOSSの缶コーヒーを買い、大きな公園のベンチに腰を下ろして時間をかけて飲み干した、最後の一滴を口の中に放り込んだ時、見上げた空は銀行員のような顔をしていた、空缶を捨てて帰る時が来たのだ。








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2014/7/12

ガラスの銃創  







「何故」と「どうして」が泳いでる部屋の中、一日はまたなに一つ進行せずに過ぎてゆく、仰向けに横たわった俺はまるで、生きながら土葬された哀れな亡骸のようだ、ソリッドなギターロックが鳴り響いている部屋の中、俺の細胞まで切り刻んではくれないかPJハーヴェイ、ロックンロールが流れている時、人はそこにはないものだけを耳にしている、そしてリストは全て終わった、サイレントは心中だけを増幅して振り回す、部屋の中に居ながらさながら深海のように全てのものに手が届かない、圧迫されて息苦しい、圧迫されて息苦しいんだ、一度叫び声を上げてしまったらもうお終いだ、そのことは理解しているさ、だからいつでも水際で堪えてきたんだ、こうして目を見開いてさ、正気を繋ぎ止めるためだけの部品を並べてきた、サイレント、事態は進展しない、俺は深海に突っ伏して新しい知らせを待っている、あの高揚した気持ちは本当のことだったのか、俺を恍惚とさせたあの興奮は…何もかも嘘だったような気がする、あんなに確かだったのに…リアルなんていつでも手に届くところにしかないんだ、時が過ぎてしまえば全てはあやふやなものになっちまう、そうしていつの間にか本当のことだったのかすら…振り子の揺れが激し過ぎる、例えようのない喜びと、胸がムカつくような苦しみが交互に身体を蝕んでいく、どちらから始まったのか?どちらかだけなら良かったのか?どんなことをすればそいつにケリをつけられる?瞬間を信じるしかない、瞬間にあがき、瞬間に怯え、瞬間に震えるしかない、瞬間に生まれ、瞬間に死ぬ無数の人生の繰り返しだ、記憶なんてすべてはまやかしさ、生き易くする為に整頓して並べたふりをしているだけさ、人生なんてまるで無意味な一日の繰り返しだって言いきることだって出来るんだ、誰にそれを否定出来る?どんなに素晴らしい勲章を胸元に張り付けていようとだ、すべての瞬間が栄光のような輝きを持っているわけじゃない、顔をしかめて詰まり気味の糞を無理矢理押し出しているときだってあるさ、あんただって、俺だってな…誰かをメッタクソに殺す夢を見ている瞬間だってあるだろう、人間だって生身だ、どんなモラルや規律を盛り込んで飲み込んで実践して見せたところで、愚かで艶めかしい野性を消し去ることなんて出来ない、俺にだってぶっ殺したい人間の一人や二人居るさ、生物としちゃそれが自然ってもんなんだ、俺は嘘はつかないぜ、ただ真実の話し方が少し違うだけなのさ、俺はすべてを同時に話そうとする、そうするのが一番自然だからさ、どれかひとつをピック・アップした時点で真実は嘘になる、どんなに綺麗に飾ってもそれは生花と同じさ、土から離れた、殺された花だ、たいていのやつらは真実のように飾られた嘘を語るのが好きだ、ピック・アップされたひとつだけを話すのが好きだ、俺はそんなものには興味は無い、土に根を張った、雨風にもがれそうな花のように描くのが好きだ、どんなものだってそうだ、どんなものだってそうだぜ、生モノとして語られなければどこにも繋がらないじゃないか、所詮は紙の上のものだ、ディスプレイに表示されるだけの代物だ、あんたはそう思うかもしれない、それならそれでいいさ、俺は誰にも何にも強制したりしない、ただ俺はそれを信じ、それを受け止め、瞬間の真実を生き、記録していくというだけの話なのさ、狂っても悟ってももがいても浄化されても、それはただその時のことに過ぎないんだ、すべてのものを無駄にしながら高速で回転していく時の中で、まるで深海に居るように魂が沈殿している、どんなものにも手が届かないような気がする、だからって大したことじゃないさ、おかしな扉に手をかけなければな、見失わなければ…もう一度歌ってくれ、もう一度掻き鳴らしてくれPJハーヴェイ、無数のガラスの破片を弾丸にして撃ち込むようなロックンロールを、サイレントが俺の喉笛を描き切ろうとしている、この水底が俺の動脈からの血液で染まってしまう前に―ディスクが回転し始める、いつか心を震わせたものはすべて嘘だった、だけど嘘じゃなかったという保証だって無い。









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