2015/2/21

欲望のドア  





高熱が疼く脳髄のバグに苛立ち殺すものを探した
凡庸な騒然の繁華街で罰当たりな夢を見る?
誰の肉体を損傷したところでどんな快楽も在りはしない
そんな寄道をしてるのはてめえの内奥を疎かにしてるやつら
ガード下の薄暗さで概念的な金切声を小便にして垂れ流す
明日の朝まで残っていたら拍手もんだ
一日の終わりは眩暈のあなぐらで足元を確かめて
小銭入れをあらためるように正気を掻き集める
ありものの価値観をそのまま受け入れて
踊ってるような間抜けにはなりたくないだけさ
箱庭の中の冒険者たち
一度も使ったことのない剣が鞘の中で干乾びている
年老いて動かなくなったものの変わりに
のべつ幕なし喋り続けてすましているのさ
堅牢な壁を外側から突き崩されたら
やつらに出来ることはもうなにも無いわけさ
自動販売機で購入出来る欲望に負けて下らない脳味噌の遊びをやめる
実体を求めないものはどんなに巧妙でも
壁に焼きついた過去に生きていた何かのようなものだ
本当に欲しいものがあるときは見つかるまでそこらじゅうを搔き回すべきさ
欲望に忠実じゃない詩人の声は掠れるだけだ


真夜中、明かりをつけることなしに、窓を開け放ち、冷たい風に震えながら、人気のなくなった路上を、フクロウのように眺めている、夜目の効かない俺が、暗い路の上になにを見る?それはそのときどきの事情であり、そのときどきの動機でもある、真夜中は俺の邪魔をしない、賢い女のように放っておいてくれる…一日の最後のインスタントコーヒーはいつも、考え事のあとで水の温度に戻ってから飲む羽目になる、スマートフォンで受信しているラジオは、フォクシー・レディ、出来過ぎだ、出来過ぎの欲望だよ、俺のエクスペリエンス、俺のジプシー…ワンダーリング、彷徨い続けるのさ、ふらついて、迷い続けるんだ、確信なんて得るのは恥さらしのすることさ、終わらないものにこそ挑む価値はあるはずじゃないか…


悪癖に過ぎる指先は今夜も
見るもおぞましいフレーズを模索する
出来事はすべてネタに過ぎない
そこには俺自身の思いなんて隠れちゃ居ないんだぜ
暖かい昼と冷たい夜の繰り返しで腹を壊す
悪いが少し便所に篭ってくるよ
その間に面白いことを思いついたなら
途中で尻を拭いて飛び出してくるかもな
アルキメデスのようにさ!
意志など殊更に主張しなくても
日常の端々に自然に在るものだ
唾を飛ばすくらいならキーボードを叩けば
いい
チャンネルの切替は必要ない
俺はいつだってそこだけが起動している
俺を大人しくさせられるのはそれだけだから
いつだってそこだけが起動している
そのためだけのチャンネルだけがある
冷たい夜の路上に目を凝らして
思惑よりも早く訪れるものを待ち続けている
静寂は稀に見るビート
稀に見るノイズさ
あるべきもののことをさりげなく教えてくれる


完全な自由のように静寂は残酷だ、だからこそ俺は安堵することが出来る、安堵して、そして、新しいテーマを手にする、俺のエクスペリエンス…考えもしなかった方角から聞こえてくる声、鼓膜はいつでも新鮮な振動を求めている、「変わらないものは変化だけだ」って、去年死んだロッカーが言っていた、もう前世紀の話だ…特別誰もそんな発言に反応したわけじゃないけれど、雑誌のインタビューのほんのワンフレーズだったんだけど、それは俺を激しく興奮させたよ、だってそいつは一見一本気に、自分のスタイルを守り続けてきた男に見えるからね…ルー・リードっていうやつなんだけど、知ってるかな―振り幅を設けるのはコアを理解するためさ、パフォーマンスってのはそのために存在するんだ、ほら、よく言うじゃないか、「深く沈みこんだ分だけ跳躍は高さを増すものだ」って、高さならより高く、距離ならより長く…パフォーマンスとは知性によって言語化された野性だ、貪欲であり過ぎて不自然なことなどなにもない、だってそれは一日でも長く生きるための欲求なのだから…


誰かは美術館に入りたがり
またある誰かは偶像化されたがり
またある誰かは権威になりたがる
そのどいつの胸にも勲章など輝いてはおらず
主張するしかないさまは枯れたのに形をとどめたままでいる百日草のようだ
残したものは確かなまぼろしみたいな価値しかないが
そこに込められたものでしか語ることは出来ない
やり過ぎていけないことなんてなにもないのだ
目の前の誰かが
そのすべてに目を通すわけではないんだから
騒いで人目を引いて
その上で納得させられなけりゃ
責任は棚にやられて
自称してりゃいいだけのものになっちまう
一般的な羞恥心さえあれば
そんな場所になんか一秒だって居たくないと思うさ
成してないのなら同じことだ
どんな顔してたってそれだけのことだ


遊歩道のある森に入って木の幹にかけてある看板を読んで無数の木々に関する知識を得たところでそいつは所詮お定まりの記録ってやつだ、未舗装の道に飛び込んで迷いながら少しずつ知りえたものとは雲泥の差がある、言葉を言葉からしか産み出せないやつら、万物を言葉でしか知りえないやつら、覚えておきなよ、血肉に触れるものはデフォルトで設定されたラインなんかじゃない、それはほんの目安に過ぎない、最も判りやすい特徴、あるいは欠陥でしかない、迷いの森の中で自分だけの足跡を作れ、自分だけしか歩いてこなかった道を誇りに思え、それは憧れを超えるということだ、覚えたことを超えるということだ、知り得てきたものの先に行くということだ、迷いの森の中で目にする同じような景色を延々と、延々と通過しながら、ほんの僅かな違いを心に刻み込んでいくんだ、ずっと歩いているとそうした見極めは自然に出来るようになる、同じような景色だけど歩いたことのない場所だとか、見たことのない景色に見えるけれどまだ歩いていない場所だとか、そういうことが判るようになる、それは言ってみれば空気に馴染むというようなものだ、周辺に漂うもののすべてが自分にとって正しいものを教えてくれる、迷う必要はない、そこは思考の及ぶ場所ではない、本能が誘われた場所で、そんなもの何の意味も成さない…一番大事なことは反復することだ、同じことを少しずつ少しずつ、違う角度で飲み込んでいくことだ、理解は重要ではない、それは身体のどこかで勝手に整理されていくものだから…飲み込んだものは少しずつ、途方もない時間をかけながら血肉に変わっていく、それが、身体で覚える知識というものだ、有体に言ってしまえば成長というものだ、そうさ、全身で知るんだ、本能で、脈動で知るんだ、机の上なんかでは覚えられないぜ、噛みついて飲み込むんだ、それは進化した本能なのだから…


まだ窓は開いている
まだ俺は街路を見つめている
夜が朝に変わろうとする間の一時間は
不思議と誰もそこを通ることがない
きっとその時間は
姿の見えぬなにものかのための時間なのだ
そいつらがそこら中を闊歩しているのだ
俺にだってそいつらの姿なんか見えはしない
だけどそれを感じることは出来る
俺は街路にたいしてどんな
先入観も抱いてはいないからだ
そこをどんなものが通ろうと構わないと
そう思っているからだ
夜が朝に変わろうとする間の一時間
見慣れぬ気配は俺の頬を撫でていく
彼らに目的があるのかないのか
それについてはよく判らない
そこには意志というものはあまり感じられない
とても淡々としている
姿の見えないゾンビの行列のようなものだ


立ち並ぶ二、三階建ての住居や店舗の間をフォクシー・レディのイントロみたいに朝陽が滑り込んでくる、まるで予言のような光景だ、透明なゾンビの行列は掻き消え、始発の電車がレールを軋ませる音が聞こえてくる、それに呼応するようにあちこちの電線や屋根の上で休息していた鳥たちが騒ぎ出す、目に見えるすべてのものは太陽と共に動き始める、太陽と共に動き始めるんだ、俺は太陽のいない時間から、そいつが始まるのを眺め続けている―まるで目に見えるゾンビのようにその窓辺で生きている―夜に乗じる獰猛な獣のような車は何処かへ去り、システムに則ったスマートな車列が信号待ちに並ぶ、どこかの店舗のシャッターが開く…散歩に連れられた計算高い犬が、けして届かない距離で野良犬を威嚇している、朝錬の学生たちが大声で話しながら自転車で飛び去っていく、俺は欠伸をしながらそのすべてを見下ろしている…





欲望のドアを開けるには、たくさんの出来事が必要になる。







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2015/2/11

流星群  








あそこに星が、と
きみのさししめす指があわれで
ぼくはこころで百万粒ほども涙をながす
なにもかもまっしろなこの部屋で
きみはそうしてはるかかなたを眺めているのか


生きるために必要ななにかを
きみに送りこんでいる透明な細い管
セロファン紙のような肌に穴をあけてそいつを繋がなければ
きみはきっと明日の目覚めさえむかえることは出来ない
精密に調整された室温の中に居ても
きみはまるで氷の上で凍えているみたいだった
「それはすでになくなってしまった光なのだよ」と
ぼくは言おうとしたが
きみがきっとそれを知っているのだと思って
ひとつ
うなずいただけにした


時刻は午前1時をすこし過ぎたところで、そう
その日は特別にそんな時間まで起きていたのだ
どこかからやって来る流星群が
その夜いちばんたくさん見えるってはなしだったから
「まだかな」「まだだよ」
「2時を回るって言ってたよ」「そうなんだ」
起きていられるかな、ときみは不安げに
寝てるといい、とぼくは笑いかける
「かならず起こしてあげる」
「あなたがかならずって約束したときは決まってしてくれないのよ」と
きみは意地悪に言って笑う
なんど、こんな会話をしただろう、そして
あとなんど、こんなふうに出来るのだろう
流星群を待っているのに
来なければいいと思っていた
きみのために流星群を待っているのに


空が曇りがちだったから、きみは不安そうだった
「明日は遅くから雨って言ってたわ」
大丈夫、とぼくは保証する
「ぼくの見た天気予報じゃ流星群は見られるって言ってた」
きみはクスクス笑って
「あなたはいつだって朝の予報しか見てないじゃない」
天気予報なんて、とぼくは異議をとなえる
「そんなに大きく違ったりはしないものだよ」
きみがまたなにかを言おうとして、小さく叫んだ
「見て」
流星群が正面の空に見えた
かぐや姫のおむかえみたいだった
あの、光を見たかぐや姫の年老いた育ての親たちは
どんな思いであんな光を見つめていたのだろうか?
いつものようにそんな疑問を口にしようとして
あわてて口をむすんでいたんだ、ぼくはあのとき


星なんて見えなかった、そんなものよりもっとずっとたくさんの悲しみが
ぼくのこころには降りそそいでいたのだから




あの日とおなじ流星群が
今夜、ぼくの窓辺にやってきて
深海みたいな空をぐちゃぐちゃに濡らす
まるで引っ掻いた硝子みたいで
ぼくは


自分のこころが割れないように身じろぎもしない






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2015/2/6

いまのところは  





衝突の挙句こぼれたガソリンに火がついて、薄汚れた街角はあちこちでウンザリするような昼間、警官や消防隊員たちの怒号と野次馬どもの罵声が下手なモブシーンみたいに飛び交って絡み合って、真夜中は破裂している、通りに面したあるアパートメントの六階の一室では、そんな景色を横目で見ながらひとりの売春婦がいままさに首を吊らんとしているところ、起動しているノートパソコンに取り付けられたウェブカメラで、その一部始終は配信される―予定―彼女はにっこりと観客に笑いかけながら、内心カメラが表の騒ぎを拾っていないかと心配になっていた、もしも、表の騒ぎのせいでこの場所に目星をつけたどこかのお節介が、警察に通報するか自分で飛び込んできたりなんかしたら―困るのだ、助けて欲しいという気持ちすらなくなってしまったから、わたしは死ぬのだから…こんなことなら、窓が映るようなアングルにしなければよかった、と彼女は後悔した、少しくらいロマンチックに見えるような、そんな考えがアダとならなければいいのだけれど―最後の最後、本当にお終いの馬鹿な女の馬鹿な後悔―自嘲的に笑って、天井から吊るしたロープを確かめる、大丈夫―値段の割りに頑丈に出来ているのが気に入って借りた部屋だもの、これだけは失敗するわけがない―大成功、決まってる―カメラに手を振り、運命の円環に首を突っ込んで、椅子を―そのとき、階下が騒がしくなっていることに気づく、どうしたんだろう―?たくさんの足音がする、階段を駆け上がってくる―誰かが自分のしていることを警察に通報したのだろうか?いや、それはない、早過ぎる―配信はさっき始めたばかりなんだもの―足音はバラバラに分かれて、部屋という部屋のドアを叩いている―彼女の居るその部屋もだ―「誰か居ますか?」「火事です、避難してください」「火が燃え移りました、避難が必要です」―ああ!どうしてこんなときに…!こんなときまで…!彼女は思わず涙をこぼしそうになる、だが、こらえる―笑って死ぬって決めたんだから―ノックの音は激しくなる、居ないと思ってくれないだろうか?灯りがついているから難しいかもしれない―返事をしないで居たら行ってくれるだろうか?ああ、どうしたらいいだろう…うろたえているうちにドアは蹴破られる、駆け込んできた消防隊員は彼女の状況を見て一瞬ぽかんとする、が、一刻を争うのだ、彼女の首からロープを外し、抱きかかえる―「どうやら、いろいろ間に合ったようだ」―女は唖然としてかかえられたまま、昔何かで読んだ言葉を思い出す―「本当の悲劇とは、いつもどこか滑稽なものさ」―あれは確か、エドワード・バンカーの最初の小説じゃなかったかしら…?


火は早いうちに消し止められ、不幸中の幸い、彼女の部屋はほとんど被害を被らずに済んだ、ただひとつ、ショートしてしまったのかまったく反応を示さなくなったノートパソコンを除いては…彼女はそのパソコンを見ながらぽろぽろと泣いた、どうしていつも、こんなことになるのだろう?こうしようと決めたこと、こうしたいと思ったことは、いつもなにかのせいで駄目になる―悔しくて仕方がなかった、どんなに泣いても涙は止まらなかった、しゃくりあげながら彼女は舞台へ向かった、観客はもう居なかったし、彼女のメイクは最悪だった、せめてと精一杯考えたアングルもロケーションも、すべてが駄目になった―だからこそ、このまま幕を引かなければならない、笑って死にたいとか、きれいに死にたいとか、もうそんな気持ちなんてない、わたしが、わたしらしく死ぬだけだ―それが、彼女の出した結論だった、椅子に上がり、輪っかに首を突っ込み、まっくらなノートパソコンの画面に向かって、「お待たせしたわね」と言った、ようやくそれだけ言った、そして、無理矢理に笑って、手を振った


まっくらなノートパソコンの画面に、頑丈な天井からぶら下がって、打ち上げられた魚のようにびくんびくんと痙攣している彼女の姿が、うっすらと映っていた



避難したひとたちの中に彼女の姿がないことに気づいた隊員が息を切らしながら再びそのドアを開けたときには、もう手遅れだった、彼女は手のかかるシャンデリアのように、硬直してぶら下がっていた


隊員は彼女に背を向け、携帯電話で近くに居る仲間に連絡した、「そこにいる警官をだれか連れてきてくれ」



騒ぎは終息しつつあった、被害者は衝突した車の双方の運転手と、天井からぶら下がっている女がひとりだけだった―





いまのところは。






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