2015/9/21

スライドする時は気だるいタップを踏む  












あるはずの脈動は感じられなかった、おそらくはすべての感覚が薄いプレートのようなもので遮断されていて、ほんのわずかな隙間でしか機能していないのだ、コールド・スリープの最中に間違って目覚めてしまったかのように朦朧としている、そんな瞬間には不確かのもの以外にリアルなものなんて無い、見てごらん、壁にかけた時計が指し示す時刻がまったく納得がいかない有様だ、音楽は止まっていて、近くのガソリンスタンドで流れている流行歌が聞こえてきていた、ゴムボールをずっと壁に打ちつけているみたいなリズム・セクションだった、そんなものは―年寄りの決まり文句を口にしようとして黙り込む、こんな状態での定義など…!眠っていたか?横になっている、仰向けで―四肢には痺れたような痕跡がある、確かに眠っていたのだ、明かりも、なにもかも点けたままで…起きているための時間を眠って過ごしたわけだ、落度だぜ、でもだれに文句を言うことも出来ない、生活というものについての責任は―新しい詩や物語のアイデアが幾つも浮かんでいたのに、書き留める前に忘れてしまっていた、それはつまりそういう程度のものだったということだ―それに、そうしたものにはタイムラグがある、そんなことについて考えたことすらすっかり忘れたころに、思い出さないまま記されていることだろう、ほとんど、形は変えないままで…そうした驚きをこれまでにもたくさん見つけてきた、書いてから何日も経ってから思い出すことだってあった、きっとそれはずっと繰り返されるのだ、書く理由なんてきっとずっと同じものなのだから―このところ少し涼しい日が続いていたのに今夜はなんだか嵐の夜のように蒸し暑くて寝苦しい、九月のエアコンは消化試合のピッチャーのように見える、ヘイ、本気だしていこうぜ、と茶化してもすましている、眠れない夜、そんなうたがあった、子供のころにテレビでよく流れていた、寂しいくせにギラギラと尖っていて、とても魅力的な代物だった、そのころはまだそんな夜が自分にも訪れることを知らなかったからだ、文字通り、夢にも思わなかったというやつだ…アンビエント・ミュージックを流して、阿呆のように口を明けて聴いているうちに落とし穴に落ちるように眠ることが出来るかもしれない、だけど朦朧とした状態では思考に蓋をすることが出来ない、それは鉄砲水のようにとめどなく流れ出してしまう、それをある程度上手くとどめるには、上手く記録するには取るべき手段はただひとつ、出来るかぎり頭を使わずに思考することだ、どこか、脳味噌の果てしなく歪な空間の中で生まれだしてくるものを、そんな印象のまま書き出してしまうことだ―これまでにも何度もこんなことを書いた、でもこうしてまた改めて書いてしまうのは、それがきっとときどきあやふやな目的となってしまっていること(たとえばただのスタイルのようなものをどこかに感じ取ってしまうことがあるせいだ、そういうことじゃないぜ…いつでも知らないもののように書くことは難しい、だけどいつでも求められているものはそういうものなんだ、たとえばスタイルとしてでの完成ではなく、アティチュードとしての完成形とでもいうようなものだ…思考の隙間に夢が入り込んでくる、眠っているのか?いや違う、まだはっきりと目が覚めていないせいだ、きちんと眠るために一度しっかりと目を覚ましたいが、どうもそういうことは許されてはいないようだ、横になっている、縦横無尽な様々な楽器のフレージングが、芋虫のように身体に乗っかかって這いずり回っている、でもそれには名前をつけるほどの秩序はありはしない、だから名乗ることをやめてしまうのだろうか?名前になんてどんどん意味は無くなる、こんなところで呆けて天井を見ているとそんなことがしみじみと感じられる…眠りの中で、踊らされているようなものだと、そんなふうに感じることは無いか?いまのこの瞬間ではなく、生まれて死ぬまでの人生というそのものが、眠りの中で踊らされているようなものだと感じてしまうことは―?無理もない、無理もないよ、昔は判らなかった、そんなことについて本気で戸惑っていた、でもいまなら判る、いまなら少しは判る、人生について少し語るだけの時間は過ごしてきた、確かな瞬間なんてほんとうにほんとうに数えるほどしか人生の中には存在しないのだということ、そのことがはっきりと判っている、朦朧として…陰鬱なまどろみのような時間を、幾度となくやり過ごしてきただろう?だが驚くなかれ、他人様が日常と名づけているのはたいがいそんな状態のことだ―彼らは河のほとりで、その流れを見つめていることを成長と呼ぶのだ、こちらにはそんな気は毛頭ないというのに…!一度身体を起こすか?それとももう一度気だるい夢がだらだらと続く眠りの中へ潜り込むか?きちんと準備を整えてから眠ればもう少し大人しい景色が見られるかもしれない、でもどちらにしてもそんな誤差は、翌日の目覚めにどんな名残も残しはしない、瞬きの記憶のようにうしろへうしろへと流されていくだけだ、時の足音を聞け、視神経に強烈なショックを与えてくれるものがそこにはきっと隠れているはずだから―視神経にショックを与えるんだ、視神経にショックを与えるのさ、時には目を離してはならない瞬間が訪れることを忘れるな、無自覚で居ることはなによりも罪なことだ―。















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2015/9/19

きみのそばで凍る純粋の季節  










すべての店が軒を下ろした
真夜中の薄明るい街路を
ゆっくりとした速度でぼくたちは歩いた
その夜は12月みたいに寒くて
耐えられなくなるたびに
自動販売機で温かい飲み物を買ったよね
デパートのデジタル時計の下で
話すべき思い出がすべてなくなったとき
ふたりして長い長いため息をついたっけ
それからきみが手洗いに行きたいと言って
でもそのあたりには小さな公園の
鍵の壊れた個室しかなくって
ぼくは勇敢な兵士のようにきみのとりでを守ったっけ
申しわけ程度の植え込みで
秋の虫たちがドサ廻りの楽団のように鳴いていて
きみを待ちながらその音を聞いていると
古い小説みたいな気持ちになったものだった
風が強かったせいなのか
いつもよりたくさんの星が見えて
そんなことはきっと
何度もあるようなことじゃないって
そんな印象の真ん中に
いまここに居るきみへの思いを
言葉にすることなくはめ込んだ
ほんとうにぼくたちは
純粋過ぎて無力だった
こんな局面に至っても
鍵の壊れた個室に
右往左往するのが関の山だった
どうしてあんなに
すべてが終わることをあっさりと受け入れられたのか
そうさせないための手段は
きっと無限にあったはずだった
ぼくたちはきっと
少し不純になって
少し勇敢になればよかった
ほんのわずかの間の戦士ではなく
永遠に戦う覚悟のある戦士になればよかった
寒さに
凍えたりせずに
凛として歩けばよかった
9月の終わりになるときみを思い出す
どこかで目にした美しい肖像画を思い出すみたいに
そのたびにあの頃の純粋さを
強く強く恨んでしまうんだ
ねえ、ぼくは随分と
意地汚い男になってしまった
だけど
ほんとうに欲しいものを手に入れ始めたのは
そうなる覚悟を決めてからだったよ












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2015/9/13

ある日の雨が終わる時のイメージ  









そうだ、あの雨の音が聞こえるうちに、反響する雨粒たちの木魂が消え失せてしまわぬうちに、おれは正解を忘れて行き止まりの路地へと迷い込もう、その路地の終わりを見れば少しは休もうという気にだってなれるかもしれないさ…導かれる、導かれる、雨の音はとても不確かで心許ないから、だから逆に信じてみようという気にもなれる、なにかを確信してる、そんな意思に従ったってどんな有意義な結果も得られたりすることはないー終わりの見えている道など歩かない、そんなところを歩くくらいなら、行き止まりの路地を馬鹿みたいに真剣に、壁にぶち当たるまで歩いた方がずっとマシさ、勘違いしないでくれ、これは別に反抗なんかじゃない、奇をてらっているわけでもない…そうしたひとつひとつの選択の仕方が、きっと自分に必要な何かを作り上げていくんだって…ずっとそうして生きてきて、それなりの手応えを得てきたから、これからもそうやって生きていくんだよっていう、ただそれだけのことさ、人生にはゲームのような単純さやセオリーはない、常に灯りのない洞窟の中に潜り込んで、そこになにがあるんだろうって目を凝らしてるようなものなんだ、もしもあんたがそう思わないって言うんなら、そうだな、きっと、すでに調査が入っている、通路が整備されてライトに照らされた歩きやすいところに潜り込んだんだろうな、あんたの確信はきっとはるか昔そこを歩いた誰かの残留思念さーおれはその先がどうなっているのか判らない道を歩くことの方が好きなんだ、なあ、雨はまだ降ってる?おれの内耳を叩いていた雨はまだ重力に色をつけるように降り続けているのかい?少し入り組んだところに入り込んでしまった、ここからはうまく聞くことが出来ないんだ、雨はまだ降っているのか…それとももう止んでしまって、そこいらのアスファルトからもやが立ち上っているのか?街灯に照らされながら…人生はまるで次第に暗くなる道のようだ、見えていると思っていたはずのものは往々にして勘違いだったりするから…タブレットを取り出してマップを広げてみたところで、そうさ、実際に歩いたことのないところなんかそんなに上手く把握出来たりするもんじゃない、地図がどうして生まれたか知っているか?誰かが以前にそこを歩いたからだよーぼんやりと考え事をしているうちにおれはいつしか雨の音を忘れ、また雨の方でもおれという人間の存在をー容姿や息遣いを忘れ、そして空は何事もなかったみたいに黙り込む、おれはまだなにも起こってないみたいな顔をして何処とも知れぬところを歩き続けている…腕時計が夜光塗料でぼんやりと時刻を浮かび上がらせる頃には、今日という地図がどんな形をしているのか判るのかもしれない、雨はきっと知らない間に止んでしまったんだ、おそらくは聞こえなくなったあの瞬間にーそうと認識出来なくなった時点で、出来事は死んで化石になっていく、おれのかかとから後ろは死に絶えた奴らの死体ばかりさ、だけどおれはそいつらを抱き起こして、大丈夫かなんて声をかけたりはしない、それをした時点できっとおれもその死の中に含まれてしまうに違いないのだから…時々はやっぱり判らなくなる、自分がどうしてそんなところを選んで歩いているのか…いや、その場所を理解したいと言うわけではない、その、根源的な理由とでもいうものを…そういうものが、たまらなく奇妙なものに思える瞬間があってー思うにおれは、そういった現実の認識の仕方というものが少し標準的でないものがあるのだろう、自動販売機で売ってる様々な飲料の、不特定多数の味覚を考慮したがための進化の限界みたいなものを、おれははるか昔から身震いするほどに嫌悪してきたのだから…どんな未知ならいい?どんな未知なら愛して進むことが出来る?おれは傾向といったものを嫌悪するようになってしまった、歩くなら本当にそれについてなにも知らない方がいい、風が吹き始めた、きっと本当に雨は止んでしまったのだろう、記憶の中にまだ鮮やかに残るそいつらのイメージが鮮烈なうちに、引っ張り出してそこらへ書き連ねた、けれど、それはおれではなく、とうに死んでしまった誰かの、書かれることのなかった遺言のようにおれには思えて仕方がなかったんだ。






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