2015/10/24

性急な氷河のおもて、あるひとつの窪み  










重く沈みこむようなビートの羅列に休日の午後は侵食されていて、手持ち無沙汰になった心情の中には怠惰と、ほんの少しのいらだちのエッセンスが落された水が満たされていた、ついさっきまで表通りを歩いていた、こうして部屋の中で腰を下ろしているとまるで判らないが表通りはまだ強い太陽の光に照らされていて長く歩いていると少し汗が滲むほどだ、いまが何月なのか思わず忘れそうになる、カレンダーを見直す、そうだ、誕生月だ…日常は麻痺し続け、およそ生きていくための役には立たないもののために費やされている、大真面目にそんなことをしている連中に混じって阿呆のふりをしていると時々本当に阿呆になったような気分になるが、帰ってこられるのならそんな瞬間は決して問題にするべきではない、それはたとえば日中不意に訪れる睡魔のようなものだ、そんな瞬間なら一日に腐るほど訪れる―以前はそんな瞬間をプレッシャーに感じたこともあった、けれど時々うとうとするようなものだと気づいてからはそんな瞬間が訪れたことすら忘れてしまうことが多くなった、そう、たまに眠くなるようなものだ、うっかり眠ってしまったところで、ちゃんと目が覚めるのなら問題にするようなことはなにもない―眠ったまま目覚めることが出来ないのなら、どのみちそのまま死ぬしかやることはない…このところ住処の周辺ではずっと工事が行われていて、そこらじゅうの歩道が掘り返されてはなにかを埋め込まれ手舗装され直されている、重機やバイブレーターの振動がビートに茶々を入れる、それはまるで遠慮がちな爆弾のようだ―こう書くと無害なもののようだが、爆弾である限り人を殺すことは出来る、たとえば電源ケーブルを地中に埋めることになんの感想もない人間にとっては、ただただ地面が騒々しく掘り返されているに過ぎない、そこに雑多な人間の暮らしがある限り、美しい景観などは存在することは出来ない、そこにたとえば向上心があって、美しい建築物が次々と建てられるような発展が無い限りは―この街はずっとそんなふうに、台所のゴキブリのようにいちばん低い地面ばかりを這いながら延命装置に繋がれた植物人間のようにただただ遺伝子を繋ぎ続けてきた、「おまえも動くことは出来ない」続くものたちにそんなスローガンを押し付けながら…区切られた生命を生きてきた、汚れた路面はその集大成だ、とはいえ、そんな場所に生まれたからといってだれもがそんなふうに生きるわけではない、その証拠にこんな街にも生まれたとうたい続ける詩人がいたり、真夜中のアーケードでゲージの音を響かせるうたうたいもいる、だがそいつらのほとんどに希望は無く、そいつらもまたなにかしら窮屈なスローガンに支配されていて、挙句の果ては違う洗脳を行われただけ、なんていきものになってただ生きながらえるだけのものになってしまう…「どこにでも落ちている石に拾うべき価値はない」そんな単純な物事に気付かずにどうしておかしな夢ばかり見てしまうのか?古い映画のセリフにこんなものがあった、「パフォーマンスとは常識を超越して初めて成り立つものさ」それだけが真実だとも思わないけれど、それが正しい入り口であることは確かだ、真っ当な手段であれ騙し討ちのようなものであれ、風穴をひとつ開ける性格を持っていないものにはなんの価値もない、それはつまり、それを生み出したものがなにものにもとらわれていない、そうしたスタンスを証明しているということだ、語るべき場所で語ることだ、語るべき場所で語れずに、余計なテーブルで無駄口を叩いているような連中にはそのことが理解出来ない―それはもう何かを生み出そうとする理由にはならない、ひとつの縛りを外れたところで、もうひとつの縛りに自らとらわれにいくようなものならば…ビート、ビートだ、流れをひたすら追っかけていくことだ、着ているものや言葉遣いなんかにあれこれと考えをめぐらせる時間など作ることはない、乗るべき流れにきちんと乗っかっていくことだ、そのスタンスを証明して見せることだ、それは急げということではない、見極めろということだ、分析するのではなく、感覚を理解しろということだ、そんなことが様々な振動の中で浮かんでは消えていく、休日の午後は夜に向かって少しずつ流れていこうとしている、性急な氷河のように少しずつ少しずつ、ゆっくりと溶け出しながら。









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2015/10/21

いまだ降る光のレイン  







夕月が
悲鳴をあげているような赤
骨の色に似た電柱の上で
闇のようなカラスが羽を休める
よどんだ、生温い空気の
送り主を忘れた鎮魂歌のような始まり


血液は半睡の眼と同じ温度で
ぼろ雑巾の肉体を
つなぎとめるべく駆け巡る
逡巡、という言葉が時折よぎるけれど
命はイズムとはべつのところで生きている
手首を握り締めて生を思い出した


悪い知らせなら明日のポストの中に
ひとつかふたつくらいは届くだろう
良い知らせならこちらがそれを忘れるまで待って
騙し討ちのように着信するだろう
不用意でなければ示唆も無い
馴れてしまったなら首を掻っ切れば良い


三十八度のシャワーが容赦なく降り注ぐ浴室で
肉体という幻想を
肉体という幻想を洗い流す
習慣的な筋肉の収縮は
それでもまだ掴むべき何かを探している
知っているものはもう知る必要は無い…そりゃ、生きてるあいだに考えだって変わるけれど
それは知っているものが変化しただけのことだ
浴室の換気はままならず
黒く変色した天井のボードは支えをなくして落ちかかっている
天井裏を覗くと
湿気て朽ちた枠木が噛み千切られたような傷跡を晒している
馴れるとはつまりそういうことだ


便所には過去がこびりついている
流すたびに感じる違和感はきっとそいつのせいだ
消化されない出来事が
消化されない感情が
消化されない記憶が
水溜りみたいな便器の底のたまりに投影されている
芳香剤の効果は
体裁ばかりが整った下手な詩人の朗読のようだ


冷え始める時刻
飲み込んだカフェインに踊らされて
心は火のように焼ける
炙られる感触をなだめられず
放牧地に駆け出す馬のように
野性は肉体をこじ開ける
走り出せ
強く地に下ろす脚の戦慄きを誓え


蝙蝠の羽が闇を叩いているので
いつもより騒々しい窓辺だ
眠りが翻るので夢身が悪い
いつしか枕を投げ出してしまう
眠らないと身体に悪いといろいろな人に教わった
でもそいつらの半分は早いうちに死んでしまった
もう半分も片足棺桶の中だ
「そういうものだ」という事柄は
ただひとつの認識という程度のもので
すべてをその枠に収める力など無い
定義に縛られる人間は
殺風景な部屋に住むことをストイックと呼ぶ


ベイビー
すべての事柄が終了した
幕間の暗転のようなこの時間に
野生の馬は目を見開き
鼻息を荒くして
半月に嘶いている
本能的な力をありありと感じるとき
大抵の人間は不幸な気分になるしかない
ベイビー
俺はいままさにそんな気分なのさ


数時間後に眩しい光の中で
まやかしのような希望を感じながら目を開くとき
こんな夜のことはすべて安易な忘却の中に閉じ込められる
鍵の無い引き出しのようなそこは
同じような夜のときに勝手に開いてしまう
「いつか解放されるだろう」って歌った
あの男は自分で死んでしまった
ラスト・ワルツの残響に薄笑いを浮かべながら


生きれば生きるほど
時間の概念はあやふやになる
確かな時間など無く
確かな現実など無く
確かな夢など無い
ただただ
景色の中に浮遊するような鼓動があるだけ
寝返りの数を重ねながら
ハードディスクとデジタルウォッチのわずかな明かりに照らされた部屋の中を
臨終のような空っぽの目つきで
尻軽な睡魔が再びやってくるのを待っている
砂漠でカラカラに渇きながら
年に数度の雨を待つ
見つけてもらえない死体みたいに
(ハゲタカに啄まれないだけマシってものか?)


そしてすべての音が無くなり
すべての景色が無くなる
すべての意識が無くなって
世界という舞台の幕間の転換が始まる
どこで目を覚ませばいいのかは残酷なスポットライトが教えてくれる
脚本が貰えない役者たちは
アドリブを存分にぶちかますか
口を開くことを拒否するか
そんなことでしか意思表示が出来ない
ベイビー
この世は薄っぺらいもので出来ている
ガッチリと固めることが出来るコンクリートよりも
そのとき動かなければいいテープが評価される
アクセスは速さを売物にし
その速度の中で落していくものには頓着しない




どこかの鶏が悲鳴をあげる
そのせいで目が覚める
カーテンの向こうで命が急かされている


そら見ろ




朝だ








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2015/10/12

まぼろしの結晶  









肩口に齧りついた過去
背中に張り付いた
名前の無い鎮魂歌の譜面
真夜中過ぎ、脳天をカチ割るような
レイトショーに踊らされて
死んだ叫び声が内臓を蝕んでいく


時は
少ない水に溶ける絵具のようだ
どろりとしていて
まるで
着色という運命から逃れようとしているように
巨大なパレットの上で不定形に固執している
その色を舌の上で味わうと
まるで
運命のすべてを先に教えられたような気分になることだろう


身体中の風穴から
観念的な血液が吹き出す
心臓はいつでもオーバーヒートの夢を見ていて
頻繁に握り潰されるような伸縮を繰り返す
本当に恐ろしいものは
わざわざおぞましい顔をしてやってきたりなんかしない
感じるのはおまえだ
感じるのはいつだっておまえなのさ


口腔に広がる
粘ついた唾液のわけを
泥のような眠りを断ち切る
漠然とした慢性的な予感のことを
真夜中に踊る漆黒の妖精たち
あらゆる理由が炙られてできた鱗粉をばら撒く
同じ希望と
同じいらだちが繰り返される
リピート設定されて放置された
プレーヤーのなかのディスクのような気分になる


ハロー、昨日の夜
だれもおまえのことなんか欲しがってはいない
そのドアから出て行ってくれ
新しい眠りが入ってこれるように
邪魔しないでくれ
貪欲な女のように
何度も囁くのはやめてくれ
満足したりなんかしない
こんな夜の中で投げつけられる材料でしつらえられたまぼろしなんかで


滑り出す?
引き千切られる?
失われる?
再生される?
忘れられる?
思い出せる?
質問には答えが無い
そうした問いばかりを選んで生きてきた
こんな夜が何度訪れても
こんな時間が何度喉を絞めつけても


刃はいつでも食い込んでいる
致命傷にはならないが、深い
運命は境界線を意識させることに慣れている
そこを越えるためのパスポートはまだ持ち合わせてはいない
そこは徹底的に防衛されていて
身勝手に通過することはできない
もしそうしようとすれば
完璧な崩壊を目の当たりにするだろう


呼吸に集中して、なにも聞こえなくなる
世界は肉体の内側だけに存在するものになる
生命の不確実な伸縮が
それでも確かに脈動するための何かを懸命に探している
見るためではなく
そのほかの何かのために見開かれた眼球が見つめるものは
きっと解読されていない古代文字のようなかたちをしているだろう
不在のように転がることが
存在を確実に知ることだってある


頭蓋骨は分解され
意識ははるかな世界をのぞむ
存在はみな
未知の信号をキャッチするアンテナだ
だれもがそこから人生を始める
ハロー、昨日の夜
おまえには日付なんてなんの意味も無いことだったんだね
本当は、そう
区切られないものが生まれ続けているだけなのだもの









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