2016/3/27

死体の頭を数えて、永らえた今日を。  













指の隙間で結晶化する高濃度の殺意を洗浄しようとしてすべてが化膿する記録されない洗礼の日、鋼鉄の悔恨はカルシウムの欠片のように胃袋の底でごろごろと感染を続けていた、嘔吐の予感は十二時間も脅かし続け、なのに、食い散らかしたものたちは体内のどこかで寝ぼけているらしく微動だにしなかった、真冬のように寒い午後の終わり、明日はすでに宣告された刑罰のようにうなだれていた、強烈な風と性急なエンジン、窓を振動させるユニゾン、忌々しい和音に舌打ちをすると、カーテンに隠れた羽虫がお終いを決意する、無音の羽ばたきの埃のような虫、俺の手の中で轢死して、ティッシュ・ペーパーの白い闇に埋葬される、墓碑の無い死は誰も悲しませることなんかない、お前は幸せだったんだよ、なんて、誰の死を背負ってそいつは形を無くしたのか、理由は俺の魂に魚の小骨のように食い込む、神経の苛立ちのようなささやかな一瞬の痛みと共に…


アルバムを失った回転盤はアームをたたんだまま回転を続ける、血と肉を失ってカタカタと揺れている頭蓋骨のように、微かにベルトが摩擦を奏でている、暗闇と、ベルトと、回転盤のトリオ、そいつらが奏でるのはレクイエムでしかない、そいつはレクイエムでしかありえない、潰えたものだけがそれを必要とするわけじゃない、どんな世代にだって子守歌は存在するものだ、綻びが酷く目立つソファーに包まってアンサンブルに耳を傾けている、照明はすでに落とされていて、再び灯される理由はどこにも無い、今夜もう俺は何を見るつもりもないからだ、少しだけ残されたミネラル・ウォーターのボトル、僅かな明かりを屈折させて適当にまき散らかす、それはいくつかの家具の上で葬儀のためのカレイドスコープのような陰影を浮かび上がらせる、カーテンは閉じられてはいるものの、草臥れたレールの隙間から月の夜が忍び込んでいる、それはまるで厳しさを持たない海底のように思える


眠るつもりでそこに横たわっているはずの見開かれた両の目はどんなものを得ようとしているのか?回遊魚のように中空を泳いでいるそんな問いに俺は答えることが出来ない、だけどその問いに答えられるのは多分俺以外には在り得ない、問題なのは、俺自身が本気でその答えを求めていないところにある、放り出して、そうして、行方知れずになったまま見えないところで骨になって転がってくれないかと、そんなことばかりを考えている、つまるところ、俺はおそらくもう何も必要とはしていない、どんなものをも求めてはいないし、どこの誰にも期待などしていない、ただそんな思いとは別のところで、ソファーの上に横たわって蓄積した埃が振動に舞い上がるのを見つめている、そんな夜の断片はずいぶん以前からこの部屋の中にあった、俺がまだすべてを信じていた時代から、ずっとだ、いままではそれはちょっとした気まぐれのようだった、たまに訪ねてくるやつみたいにいきなり来ては去っていった、そういう付き合いを得意にしている女のように


だがいまそいつはほとんど毎日のように俺の隣に居て、ある種の欲望を制限するみたいに寄り添っている、俺は即席の珈琲の粉をマグカップに適当に投げ込んで安易な解放の中を泳ぐ、一昨日、俺は、打ち捨てられた映画館の廃墟を見つけた、「立入禁止」と書かれた札の張り付いた小さな木の柵を乗り越えて、猫の額ほどの駐車場に入ると、二階部分の剥き出しになったロビー跡が見えた、客席やスクリーンはすでに無かった、崩落というよりはそこだけが壊されて持ち去られたようだった、どうしてそんな風に残してあるのか判らなかった、それはきっと、そんな風にした本人にすら判ることではないのだろう、上映されない映画館、ロビーの奥にきっと今もあるだろうソファーに腰を下ろして、色褪せた時代の亡霊たちはどんな夢を見るだろう?思えば俺はずっと前からそんなところが好きだった、打ち捨てられた場所、意味を持たなくなった場所、ただ外界と遮られただけの、昔は語るべきものがあったがらんどうの空間、子供のころに忍び込んだロープウェイの廃墟、そんな場所のことは長い間忘れていた、でもいま、そんな理由のすべてが明らかになって俺と共にソファーの上に存在している、俺はきっと、客席もスクリーンも取っ払われた映画館のロビーに腰を下ろして、存在しない自動販売機で存在しない飲み物を買い、次の上映スケジュールを待っている亡霊の仲間なのだ…


日付変更線の丁度真上で一台の車がコントロールを失って路面電車の乗車口に激突した、近くの奴らがぞろぞろと表に現れて騒いでいる声が聞こえる、「これは駄目だ」「死んでいる」「まだ若いのに」俺は半分眠りの中に落ちながら鼻で笑う、何年生きていたかなんて運命とは何の関係も無い。














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2016/3/26

ランチの時間  









微細なノイズが連続する頭蓋の内壁で半端な崩落のまま凝固した自我が瓦礫の隙間で高笑いをする午前の一瞬、極限まで見開いても目視ままならぬ目と麻痺した鼻腔の捉える嘘、甲状腺の異常の懐かしい記憶がきちがいじみた心拍数のノッキングを脳髄で再生するとき、とろける現在で神経を逆走する微弱な電流を無意識に追いかけていた、残骸がしっかと生存しているので確信が呆けている、幼いころ高熱の中で見た幻影のようなリアル、もう解熱剤など何の役にも立たない、汗ばんだ寝床の辛気臭さと在り得ない曲線の羅列、起きているのに仰向けでぶっ倒れているような…時計を見ようとしていたことを思い出す、時間を認識したがっている、長針と短針と秒針の便宜的な定義、それは時とはなんの関係もないものだ、とっくに判っているのに未だに覗き込んでしまう、時計、時計だ、時計は何処にある、何処に置いた?疑問でしか進行しない、あやふやな固形物に弄ばれているような自室、連動する無数のギアが盤上に表示するものは結局認識出来ない、それは創作物のように忘れられてしまう…指針を無くしてしまうとそこにはまた、曖昧で鋭利な漠然とした概念だけがある、コーンポタージュ・スープの海の中でガラスの破片を踏むような概念、五感は時間のようにただ設えられた機能としてそこにあるだけの気の利いた装飾物だ、感覚が知覚する真実など所詮その程度のものだ―輪郭のないものを嚥下しなければならない、それから造形していく、胃袋の中で蠢くもののイメージ、神経が作り出す絵面を、正確に変換しなくてはならない、それは限定され過ぎない、それは曖昧になり過ぎない、語るべきものをきちんと語ったものでなければならない、五感以前の段階で認識されるものの旋律、細胞の核が奏でる無軌道な…肉体を維持したまま、肉体が不要な世界のことを…内奥を振り回されたまま便所で小便を垂れ流せば最新の記憶には色がつく、瞬時に定着される、現像技術は必要ない、そういう意味では網膜は優れている、立ち上がると空間はさらにゆがみ、揺らぐ、不調なタービンの遠心、回転数を散ばらせながら連続する―連続する微細なノイズ、それは何処から続いている、それは何時から続いている、こうして生身に翻弄されるたびに繰り返される同じ風景、同じ扉が蹴破られて、同じものが零れ落ちる、廃屋の壁が崩れ落ちて振動のたびに残留物が零れ落ちるように、何も失われたことなどないのに、そこには絶対的な死の感覚がある、まるで死んだことを覚えているような、そんな…太陽は照りつけながら、明日降るだろう雨の向こうに隠れることばかりを考えている、それはもうすぐ真昼の先端に到達しようとしている、空腹感は忘れられたまま、がらんどうの胃袋は生体組織を溶かし始める。












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2016/3/19

放り出された世界の中で着地点を見つけたとき  















無数の刃は君を切り刻むが、程なく飽きて君を放り出してしまうだろう
君は致命傷こそ受けてはいないが、失血死の危険にさらされている、そのとき
無数の医者が現れて君に様々な治療を施すだろう、君は死の危険を免れるが
彼らもやはり君に飽きて君を放り出すだろう
幾日も経つと包帯は汚れ一度は消毒された幹部も膿んでくるだろう
その時無数の献身的な女たちが表れて君の身体を丁寧に洗浄するだろう
ついでにその香りに勃起してしまった君の陰茎も丁寧に処理されるだろう
彼女らは君の包帯を変える必要が無くなるまでは何かと世話を焼いてくれるだろう
でも君の傷が癒えて何もすることが無くなるとやはり君に飽きて
さよならの言葉も言わずにちりぢりにどこかへ消えてしまうだろう
そうして君はしばらくぶりに一人になるのだが
一人の時にどうしていたのかを長い間思い出すことが出来ないだろう
ようやく一人でいることが気楽に思えるようになったころに
たくさんの子供たちが君に遊ぶことをせがみにやって来るだろう
袖やら裾やらあちこちを彼らに引っ張られて着ているものがすっかり駄目になると
君は我知らずものすごく怖い顔になって子供たちを見つめるだろう
怖い顔で見つめられた子供たちはすっかり震えあがってしまって
君から視線を外さないままじりじりと後ずさってやがて逃げ出してしまうだろう
君があちこち伸びた洋服を着てウンザリしていると
無数の洋服屋が表れて君にたくさんの服をあてがうだろう
彼らは勝手に君に似合うというものを置いて
君が何かを口にする前にとっとと居なくなってしまうだろう
君の口座からたくさんの洋服代がいっぺんに引き落とされて
君の持ち金はたちまちマイナスになるだろう
空っぽになった財布を逆さにして振っていると無数の金貸しがやってきて
たくさんの書類にサインをさせた挙句たくさんの金を置いて居なくなるだろう
君はあっという間にたくさんの借金を抱えてついでに頭も抱えてしまうが
無数のセレブな有閑マダムが自衛隊のトラックの荷台に乗ってやって来て
サラサラとたくさんの小切手で君を地獄の淵から救い上げるだろう
そして獣のように君の身体を隅々まで貪るだろう
君の精子がもう一滴も出なくなって陰茎がピクリともしなくなると
また自衛隊のトラックの荷台に乗って居なくなってしまうだろう
君はしばらくの間たった一人でそこに横たわって
心と身体が癒えるのをじっと待つだろう、そのあいだは
どんなものも君のもとを訪れはしないだろう
やがて君がすっかり体力を取り戻し問題なく勃起出来るようになったころ
一人の特別目立つものも何もない女が君のもとに現れるだろう
君はどういうわけかその女のことを凄く気に入って
(いつまでも彼女がここに居てくれればいい)と心から願うだろう
君と彼女は程なくとても内容の濃い性交をするだろう
その行為のいっさいは君をとても安らかな場所へ連れていくだろう
あれだけのことがあったにも関わらず君は初めて女を抱いたような気持になるだろう
そうしているうちに彼女の身体には新しい命が宿るだろう
そうすると君はいままでを過ごしたその地を離れて
もっと大きなものを目にしたくなるだろう
一人の人間としてとてもたくさんのことを考え始めるだろう
君はじりじりしながら子供が生まれるのを待ちながら自分で性欲を処理するだろう
その間幾人かの女が君のことを誘惑するけれど
どういうわけか君は彼女らには性欲を感じないだろう
彼女らは君を不能呼ばわりしていずこかへ去っていくだろう
そうして長い時が過ぎて子供が狭い産道を潜り抜けてきたとき
君はこれまで見知って来た世界の色が激しく濃度を増すのを感じるだろう
脆く、けたたましく眩しい命がその腕に感じられるとき
君はこれまでの雑多な経験がたったひとつの塊になったことを知るだろう

















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