2016/8/27

爆ぜているものは無数にあり、そのなにひとつとして伝言を残したりなどしない  










溶解する脳内の炉のなかで、失われてはならないものがあった、それは長く俺の中にとどまり続けたものだったが、思い出すことさえ出来なかった、脳下垂体の下部に据え付けられたそれは、終始俺の思考にきな臭いにおいを漂わせて…俺は首を垂れながら遅い夕飯を食べていた、どこかで買ってきたそれは悪い味じゃなかったが…呆然としていて現実の重みは感じなかった、だがそれはくいもののせいじゃない、それが判っているからこそ俺は呆然と顎を上下させている、咀嚼は祭典の空砲のように片っ端から浅はかなものを飲み込んで、胃袋は心許ないものでめいっぱい膨れ上がる、胡坐をかいて…こぼした米粒が組んだ脚の間でどこかへ消えて行くんだ、きっとそれは二度と戻ってこれないところで腐敗して…灰になって消えて行くに違いない―カーテンを引いていない窓には夜が張り付いている、それはゴムシートのようにずっしりと張り付いて窓枠を軋ませている、今日は暮れ時から雨が降って、それからずっとあたりには湿気が充満している、星もなく…といって星など見たいわけでもないんだが…食事を済ませて水を飲みほすと、そんなことは初めからなかったというような時間が始まる、そんなことは初めからなかったんだ、お前は食事などしなかった、本当の意味で食事などすることはなかったと、脳味噌の中のきな臭いにおいに紛れて囁きかけるものが居る、そういうことはもういいんだ、と俺はそいつに言う…「俺はそいつに言う」―そういうことってなんだ、とそいつは答える、初めからなかったとか、そういうことはどうでもいいんだよ、と俺は答える…もう俺は意味を求めて生きることはやめたんだ、と俺は少し話す気になって続ける―答えなんてものは、あると思うほど馬鹿になるものだ、それに気づいたから答えにこだわるのはやめたんだ、そんなものは、すべての現象を泳がせておくほうが時々おぼろげに見えるものさ、でも、それ以上追いかける必要はないんだ、そこで明確な答えを出したところで、それは通過駅のようなものなのだから…お前は答えが臨終の床にしかないと考えているのか、とそいつは笑い飛ばしながら言う、裏返すことを想定してそんな話をしかけているのだ―なあ、判らないやつだな、お前、と俺は言い返す、そういうことはもうどうでもいいんだって俺言っただろ…だいたい臨終の床のことなど今この時点でどうこう言えるものか…逃げるのかい、とにやにや笑いながらそいつは言う、いや、と俺は答える、そんな問答に何の意味もないって、俺は判っているのさ、だから関わらないんだ、と言ってやる、だがそいつはなんとかして俺にその話を続けさせようとする、でも、はっきり言って仕掛けが下手過ぎるんだ―下らない話を無視して下らない雑誌のページをめくる、下らない話に比べてそれなりのノウハウや技術というものがあるから、それは下らなくてもある程度タメになる、判るかな?ある種の流通物を、下らないと切り捨てるのは簡単なことだ、でも、それを拾い上げて学ぼうとすれば、何かしら受け取れるものはあるものだ…それを限定するものはつまり、頑固なわけでもストイックなわけでもクレバーなわけでもない、ただでかい面をしたいだけの馬鹿野郎さ…現象を限定してすべてのものが見えたつもりになるなんて、見当違いもほどほどだ、俺は明かりを消して眠ることにする、寝床に横たわり、死体の真似をするみたいに脱力してみる、そうして脱力していると決まって、長いあいだ忘れていたどうでもいい記憶を思い出す…思い出したところで特別感傷に浸るようなものでもない記憶だ、それはいつでもそうだ…思えば俺の中にはそういう記憶がたくさんある、誰にとっても、俺にとってさえ、まるで覚えている理由が判らない記憶だ―あるロッカーがインタビューでこんなことを言っていた…「忘れるというのは才能なんだ、忘れることが出来ない人間と言うのは、気が狂うんだ」なるほどねと思ったよ、だから俺はこんな時間にこんなものを書いているんだろうな―そう、だけど、そんなことやっぱりどうでもいいことなんだよ、だいたい正常だの異常だの…それって、誰基準なのかね―?俺は欠伸をする、そうすると脳内の溶解炉が稼働を止める、長い長い時間をかけて炉の中のそれは冷やされ、そうなるとしんとした静寂だけが残る、溶けるものは騒がしいのだ、俺は目を閉じる、瞼の裏側には溶けて行ったものたちが飛ばした飛沫が、ひどい火傷となって残っている…。









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2016/8/14

穴開きの胃袋に極限まで詰め込む  









偽証されたような朝が破裂の熱と共にやって来て窓の外は核爆発のように発光している、カーテンを閉じたままのこの部屋はまるで真空のように現在から隔離されていて、俺はたいがいの部品を土踏まずの穴から落としてしまったからくり人形のようだ、足首、手首をすり抜けていく風がひゅうひゅうと鳴っている、目覚めはそのまま枕の上で凍結している、夏程度の温度ではそれは溶けることがない、空洞の体内に木霊する生は亡霊のようなものだろうか、風の音を聴いている、古い小説のように時代錯誤だ、だけど、そうだぜ、魂は変換出来ない、デジタルの信号には…データ化されたものを掻き集めても一生腹なんか張らない、判るだろ、食らう理由は、どんなに時が流れても古生代と変わらないものだ、俺がしきりに周囲をうたうのはそのことを知っているからさ―テーマなんか始めたときから死ぬまでずっと変わらない、俺はそのことを知っているのさ、頭で描いたものは人間の限界を超えやしないってな…人間とは概念の生物だ、人間が最も人間らしいのは、内訳だけの姿になった時さ―体躯を維持したまま、そんなものと何の関係も無いところへ突き抜けた瞬間さ―そんなの感じたことあるかい?ロックミュージックなんか必要ないさ、俺は指先だけでそういう場所へ行ける、脳味噌をアテにしないで…ただ閃きを並べていくんだ、古代の遺跡を造り上げるように…そうさ、描く理由なんてものもやっぱり、大昔から何も変わりはしないんだ、モアイ?ピラミッド?地上絵?作ったやつにだってもしかしたら、理由なんて判っちゃいないかもしれないぜ、だけどそれは、そいつには絶対必要なことだったんだ、その場所にそれらを残すことはさ…ゴッホが耳を削ぎ落とした理由は、そうすれば自分が残した絵となることが判っていたからかもしれないぜ―空洞のまま、凍結したまま寝床から起き上がる、何を恥じることがある、人は皆神に操られるままに動く人形だ、だけどそう、そいつらは自分で意思を発することが出来るのさ、俺はそれを言葉とは呼ばない、それは選択された手段に過ぎない、手段にこだわると大半のものは駄目になる、何故だか判るか?乗っかることだけがお題目になっちまうからさ…生き残ってる者たち、発し続けている者たち、彼らは表向き、何も変わっていないみたいに見える、求道的にたったひとつのことを延々とやり続けてきたみたいに見える、だけど、いいかい、彼らのその佇まいは、変わることを恐れなかったからなんだ―六十年近く歌い続けている者が、ずっと同じように歌っていると思うかい?そんなことを信じてるやつは十年も歌うことは出来ないさ…変わらずに続けようと思ったら、変わり続けることのほうが大事なんだ、手段に固執するやつは覚悟が足りないのさ…そういうやつらはやたらと覚悟を喋りたがるだろ、言いふらさなきゃ伝える自信がないからさ―自分で自分に尊大なコピーを貼り付けることにばかり躍起になっているんだ、そんなことをしているうちに何のために自分がそこに居たのかすら忘れちまう、無駄口を叩くだけの発声器になってしまうのさ…ルー・リードって男が昔こう言ったよ、「トランスフォーマー」ってアルバムを出した男さ、「変わらないのは変化だけだ」って、そんな風に言ったんだ、何とも素敵なフレーズだと思わないか、あのおっさんにはきっといろんなことが判ってたんだ、それ以上知る必要が無くなったから死んじまったのかもしれないな…「ロックは死んだ」ってどこぞのカッコつけが宣言してから何十年もあとの話だぜ―キャッチコピーが真理を語れるならマーケットのチラシは聖書のごとき輝きを放つだろうな―使い込まれない真実なんかみんな嘘さ、本当に価値のあるたったひとつは、百万の穴を掘らなくちゃ見つけられないものだ、宝探しを想像するといい、すぐに見つけられる宝になんてろくな価値はないだろう?もうひとつ言えば、宝探しをするときに、それがどんな宝なのかなんてことはどうだっていいことだ、それはたまたま見つからないでいるだけで、ただの宝に違いないんだからさ…宝に価値があるのは、血眼になってそれを探すからだ、注ぎ込んだ金と労力はお宝の価値を超えるかもしれない、だからこそそれは世界中に散らばっているんだ、さあ、起き上がるぜ、何も決まっていなくても、何も見つからなくても、どんなふうにすれば判ってさえいれば、少なくとも今日を生き延びるための何かは掘り出すことが出来るだろう…。





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