2016/9/29

そうしてこれはまるで降り積もらない火山灰のように  











汚れた屋根に降りそそいだ雨が
酷い色になって窓をつたっている
音楽を聴く気分でもなく
本を開くのも億劫な


隣の空地に投げ込まれる空缶
明方には野良猫のおもちゃになる
雑草は果てしなく
土地と関係のない人間を遊ばせようとはしない


先週妙に張り切っていた夜回りのパトカーが捕まえた子供は
醜く高飛車にやつらに張り合っていた
半時間続いたところで俺は玄関を開けて
「夜中なんだから場所を変えてくれ」と言った


手前勝手な口をきくしか能がないうちは
どんな本気も届きはしないよ
あんたは
あんたを知らない誰かをうんざりさせるだけのいきものさ


ここのところ俺は
内側から窓を塞ぐための板を物色してばかりいる
やつらの声を締め出してやるのさ
わりと丁寧な細工を凝らしてね


部屋の中で聞く雨は
正確には雨ではない
それは雨音に過ぎない
些細なことではあるけれども


毎日これほども
不規則に雨が続いているのに
この窓の下をうろついてる連中は
不思議と傘を持とうとしない
悪趣味な色遣いの服をびしょびしょにして
酒で焼けた声を張り上げてる


誰かのやり方に
誰かの生きかたに
誰かの生活に
不要な栞を差し込もうとする、誰か


言い訳をしたり
他人の目盛りにおかしなト書きを加えたり
まったくお笑い草だぜ
寄道ばかりに精を出しやがる


雨がトタン壁で跳ねるから
リズムがおかしくなっちまう
だからポーズを押したままにしてるんだ
欲しいリズムでなければ意味はないからね
それならばノイズの方が
ノイズの方がずっと心地いいとしたもんだ


同じ山の夢を
今年のうちに二回見た
それは実家の裏にある山だが
サイズがまるで違っていた
二度とも真夜中で
あまりいい天気じゃなくって
俺は実家に遠い方の坂道からその山を上っていた
熱のない溶岩が
左官工によって薄く
引き伸ばされたような空の色だった
俺は上って、その山を上って
頂上付近にある施設に着いた
そこの二階部分の
広く設けられたベランダにある
清潔な白いシーツのベッドに寝転んで
側に来たものにこう話していた
「この坂をベッドで下って
実家に着く
そうすればそのまま眠れる」
シンプルだけど
的外れだった


残念ながら俺は
ベッドが坂道を滑り降りるところを
見ることは出来なかった
ベッドに寝転んだ時点で目が覚めたからだ
でも
根拠はないが
あのベッドはきっと
坂道を下ることはなかっただろう
なぜなら
俺は喋り倒して
いっこうに滑ろうとしていなかったからだ
(だいたい、どんな風に滑り出せばいいのだ?)


ただ俺はあの空の色を
あの殺風景な
木々もろくにないような山肌を
おそらくは現実的に理解していて
それを夢の中でそんな風に描いている
俺が見ている景色は
ずいぶん前から
ずっと
そういうものだった




そう
こんな


むせかえる雨の夜の中に居たって









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2016/9/27

HOLE  













気まぐれでかたまりで買ったでかい肉を適当に切り開いて、塩胡椒ぶっかけて柄のガタついたフライパンでおよそこんぐらいだろうという程度に焼いたら皿に投げ落とし、適当に作ったソースでパクつくとまんざらでもなかった、高い肉だから当然だ、原始時代の人間にだって肉を焼くことぐらい出来るんだ―食える焼き方ならなんだっていい、一流ホテルのシェフだけが本当に美味いものを知っているわけじゃない…あいつらが作ってるのは料理さ、俺が作ってるのはくいもんなんだ、そういう違いさ―焼き方は良かったが焼く量を間違えた、半分も食わないうちに胃袋は軋み始めたが意地になって最後まで食った、そしたらなんだか腹に泥を詰め込んだような気分になった、なに、野生動物なら食えるときに限界まで食っておくものだ…そう、まさにライオンのように低く唸りながらベッドに横になって天井を見上げると、あの肉を買った店を思い出そうとしたが思い出せなかった、別にオカルティックな理由じゃない、本当にそれを思い出せなかったというだけのことで、その店はなにも異空間にある怪しい店なんかじゃない―どうして思い出せないんだろう、と俺は考える、あの肉を買ったときのこと、いや、買った日のことを頭から思い出そうとしてみたが、やはり出来なかった、どうして記憶が欠落しているのか…いくつかに分けて冷凍庫に入れてあったとはいえ、そんなに前のことじゃないはずだった、どうしてかって?―ここ最近肉を買ったのはその日だけだからさ―だったらなおさら印象深い日になったはずだろう、とあんたは言うだろう、そうなんだ、その通りなんだよな…だから俺はこうして必死になってその日のことを思い出そうとしているんだけど、不思議なことに全く思い出せないときたもんだ。いったいどういうわけだろうね?ほら、よくあるじゃないか、実はその日に自分の人生をがらりと変えてしまうような衝撃的な事件があって―そういうやつさ、たとえば、恋人が死んだとか、あるいは、殺したとかね―だけどもちろんそんなことはしちゃいないし、だいたい美味い肉を食おうってときに呼びつける相手も居ないんだから、そんな想像は間違っているとしたものだ、ではなぜ?考え方を変えてみよう…たとえば本当にその日になにかが起こったというのはどうだ?それは表面的には凄く些細なことなんだけど、どういうわけか俺の深層心理に深く作用して、記憶を捻じ曲げちまったんだ―それで思い出すためのきっかけみたいなものを根こそぎ頭の外に放り出してしまった―キース・リチャーズが窓からテレビを捨てるみたいに、げたげた笑いながらね―おかげで俺はこうしてベッドの上で、おそらく思い出す必要もないのだろうそんなことについて悶々としているってわけだ…悶々って表現はおかしいのかな?だけどそう、思い出せないものを思い出したいと思っているときっていうのは、性的に行き詰っているときとどこか似てるような気はしないか?例えば隣に覗き魔が住んでいたりなんかして、どうにもやりにくいなんてときにさ―いや、これは冗談、そんなことめったにあることじゃないもんね―そんな下品なのに行き当たるのはよっぽど運のない人間だろうさ、それはともかく―その日の朝のことからして全然思い出せないんだな、いつも通りコーヒーメーカーをセットして、コーヒーが出来上がる間にトーストを焼いて、ピーナッツバターをたっぷり塗りたくってさ―俺、子供のころからピーナッツバターが大好きなんだ、給食の時間なんかいらないやつから回収していくつものパッケージを机に忍ばせたものさ、それはともかく―そんな風に朝食をとって、いつものように散歩に出かけたはずなんだ、近頃俺のやっていることと言えばそんなことばかりでさ、それもこれも前の仕事ですっかり目を悪くしてしまって―まあそんなことはどうでもいいんだけど―きっと、本屋に行ったりCD屋に行ったりしてさ、ニュー・リリースのチェックとかしてたはずなんだよな…そうそう、飼ってる猫にはきちんと餌を与えてね―雨が多いよな?最近雨が多いはずなんだ、何回も靴を濡らしたからな、そう、だから…あの肉を買った日はどうだっただろうか?やはり雨が降っていたんだろうか?そんな日に自分がバカでかい肉を買う気になるとは思えないから、もしかしたら晴れていたのかもしれない…それが何日かくらいのことは思い出せればいいんだけどね、そしたらタブレットかなんかでその日の天気をチェックすることも出来るんだけどさ、そう、確か…そうだな、今月のことなのは間違いないんだけど―今月って何月だっけ?ああそう、そうなんだ、えっ?ってことはもうすぐ夏が終わってしまうってこと?おいおい、勘弁してよ、今年は数年ぶりに泳ぎに行くつもりだったのに…!結局一度も泳がないまま終わっちまうっていうのかい―ええと、最後に泳いだのはいつのことだったっけ―何年なんてもんじゃない、もう十年くらい前のことみたいに思える、ねえ、俺、今年幾つになるんだっけ…?

















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2016/9/17

ナイト・オブ・ザ・リビングデッド(温か過ぎるけれど)  












赤いワインが煌びやかな床に散らばって薔薇の花弁に擬態する乱痴気騒ぎの挙句、飲み過ぎた女は吐瀉物を喉に詰まらせてストレッチャーの上で冷たくなった、天国への階段は上れない、地獄の穴へ真っ逆さまさ―それから少しの間は皆正気に戻ったけれどそれもあっという間だった、そのうち酒なんかで騒いでたからいけないんだと誰かが言い始め、白い粉があちこちで啜られた、奇声が上がり―便所じゃ嬌声が上がり―誰かがロシアン・ルーレットやろうぜと叫んでオートマチック銃を手に取り、こめかみに当てた、あっという間で、周りの連中もすでにポンコツだったから止めようがなかった、それはまだ二十歳そこそこの淡いブロンドの男で、なぜどうして自分がこうして死んでいるのか判らないというような表情を浮かべていた、スティーブ・ジョーンズの妙に生真面目なロックン・ロールがフロアーに鳴り響いて…銃声すら誰かの放屁かと思われて終わりだった、皆面倒臭がってもう通報なんてしなかった、「窓から放り出しておけばいいじゃない!」と無能なシンディ・ローパーみたいななりの女が叫んで、そいつはいいアイデアだと皆が乗っかった。フロアーの窓は少し高いところにあったけれど、皆で力を合わせて―その夜はなんせ週末で沢山の人間で溢れそうだったから、バタバタしたけれど最終的にはなんとかなった、窓の外は薄汚い川が流れていて、淡いブロンドの男が着水する音がちょうど曲と曲の間に聞こえるとみんなニューイヤー・パーティーみたいに盛り上がった、すぐに次の曲が流れ、あっという間に皆そんなことは忘れた、トイレでことに励んでいた薄汚い配管工と誰でも構わないそばかすの女は、二人してオーバー・ドーズで悶え苦しんでいたが、たまたま小便に立ち寄ったやつらも誰も彼らの危険に気付くことが出来なかった、ひとつだけ鍵のかかる個室で男と女がぜえぜえ言ってりゃ致し方ないことだ―俺は自分をここに引きずり込んだ幼馴染の姿が見えないのでウンザリしながらジャックダニエルをストレートで流し込みエアロスミスに合わせて身体を揺らしていた、量を心得てる数人だけがフロアーで確かなダンスを踊り、他の連中は皆前衛舞踏さながらのたうち回っていた、今夜は特別上等なやつが入るからって、連中のテンションはハナからぶっ飛んでいた、俺の幼馴染も今頃どこかで転がっているはずだった―かわいい女の子と一足お先に天国に行ってなければ―そんなところでたったひとり小さなテーブルに飲物をあずけて音楽を聞いていると世界でただひとりの人種になった気がして、でもこんな連中の輪の中に入るくらいならそんな孤独は心地いいくらいだった、音楽はツェッペリンに変わり、ロバート・プラントの声を受けつけない俺は顔をしかめた、フロアーは盛り上がっていたけれど…こんなところで踊っている連中が上物なんか入れるべきじゃないんだ、どんなことにも分というものがある、見極めが利かないやつらはどんなところでもこうして暢気な絶望のように転がるだけだ―と、冷めたふうを決め込んでいる俺も飲み過ぎていた、なんせ飲んでいるしかやることがないのだ、グラスをカウンターに返して店を出ることにした、どうせ連れは前後不覚だ、俺は今日たまたまあいつに捕まっただけで別にあいつの世話係じゃない、粋がりたいだけの金持ちのおぼっちゃんなんか相手にしてたって仕方がない―グラスを返すとバーテンがなにか言った、ジミー・ペイジが調子に乗っているところだったので俺にはまるで聞こえなかった、肩をすくめて聞き返さずにそこをあとにした、店の重いドアを開けるとむっとする空気がブランケットのように身体にまとわりついた、雨は上がっていたが雨雲はまだこの街に未練を残していた、いま何時くらいなのか、この街の夜じゃ時間を知ることも困難だった、少なくとも午前にはさしかかっているだろう、あの店に潜り込んだのは確か二十三時を過ぎていたから―どこかのダイナーにでも入ってコーヒーを飲んで壁に掛けてある時計が正確かどうかに賭けてみるしかない、別に時間なんかそんなに知りたいわけでもなかったけれど、いま気になることがあるとしたらそれ以外にはなかった、選択肢が少ないのならそれを選ぶしかない、少し歩いたところに昔からやってる店がある―入ったことは一、二度しかないけれど―あそこの小人みたいな爺さんなら、少なくとも時計を合わせていることだけは期待出来る、俺はダイナーを目指して歩いた、途中で小さな橋を渡るとき、川底にさっきのロシアン・ルーレットの成れの果てがうつぶせで沈んでいるのが見えた、腐敗する前に朝になって、引き上げてもらえるさ、俺はなんとなくそう話しかけた、やつがそれをどう思うかはまた別の話で―夜明け前の街は人生をまぼろしだと感じるにはいい時間、報われない連中が夜をうろつくわけは、きっとそんなまぼろしを心から信じたいと、どこかでそう願ってるせいなんだ。










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