2016/11/24

カメレオンの脳味噌  











幻聴にぶっ飛んだ俺は、ディナーの後のデザートにカメレオンの脳味噌を喰らう、それがどこかで食されているものなのかは知らない、寄生虫や、ヤバい菌があるのかどうかも知らない、とにかくカメレオンの脳天を掻っ捌いて千枚通しで穿孔し、ストローを突っ込んで啜りあげている、カメレオンの脳味噌は酸っぱい臭いがするが、食感はグミのようでまずまずだ、カメレオンの脳味噌はあっという間になくなってしまう、きっとそうだと思って2、3匹眠らせてある、でかい目の生きものが眠っているさまは限りなく死に近い光景のように感じる、それはこの俺が彼らの運命を終わらせてしまうせいなのかもしれない、脳天を穿孔して(カメレオンは一瞬だけ痙攣する)脳味噌を啜りあげる、それはやはり酸っぱい臭いがして、食感はグミに似ている、2匹目で少しもういいかという気分になりかけるが、といって生き残ったものを飼育する気などない、用意した分はすべて喰らおうと決める、満腹になるようなものでもないし…すべてをそうして食いつくした時、カメレオンの脳味噌は俺に語り掛けてくる、いや、俺の中でモノローグを始める、「色を変えることが出来る生きものは多い」「だが我々のような生態でそれが出来る生きものはあまり居ない」俺は話しかけてみるが返事はない、あくまで彼らは彼らの好きなように話しているだけなのだ、「変化が必要なのだ」と彼らは言う―変化か、と俺は思う、カメレオンの変化は俺たち人間に例えれば、態度のようなものだ、保護色の代わりにこびへつらいがあるのだ、俺はそんなことを考えた、「そうだ」とカメレオンの脳味噌は言った、俺の考えは彼らに届いていたのだ、「生きものを喰らうことは大事なことだよ」と彼らは続ける、「ある部族には遺族の身体を喰らうという風習がある、それは彼らの魂をより深く理解しようという気持ちの現れだ、我々は仲間を喰うことはあまりないが、基本的に生きているものを喰うか、生きているものに喰われるかだ、人間は生きているものをそのまま喰うことなんてあまりないだろう―喰ってもサカナとかそういうものぐらいだろう―そういうものでは駄目なんだ、どうしてかって?サカナと人間では身体の成り立ちがまるで違うじゃないか?似ているものを喰わないと駄目なんだ、そういう意味では我々もあまり完璧ではない、だが我々の成り立ちでは虫やなんかが精一杯なんだ―人間はもう少し頑張れるはずさ、さっきまで生きていたものを捌いて喰う、いまだって、そんなことをしている人間はたくさん居るだろう?そいつらはマーケットなんかで食料を買っているものたちよりももっとたくさんのことを知っているよ…そこに生きものの鼓動があるというのが大事なんだ、鼓動の残響を聴くとでもいうのかな、そういうことがさ」カメレオンの脳味噌はそこまで静かに語ると突然クスクスと笑い始める「しかしまあ、あんたは変ってるな」「我々も頭に穴を開けられて脳味噌を啜られたのは初めてだよ」「美味かったか?」そんなでもない、と俺は答える、美味いというよりは、面白かった、と―カメレオンの脳味噌は意味ありげに唸る、「そういうことだよ」「我々が保証する、あんたは我々の脳味噌についてはどの人間よりも詳しい」それって大事なことなのか?と俺は尋ねる、当たり前だ、と彼らは答える、「もちろん、これがすべてではないよ、あらゆることにこうした、少しずつの気づき、経験が存在する、その積み重ねみたいなものがきっと大事なことなんだ」「人間の寿命が凄く長くなったのは経験を蓄積するためさ」「人間の脳味噌が複雑なのはそうした経験から何かを導き出すためなんだ」「我々は遺伝子の中で知り得ることを調整して少しずつ進化していくことしか出来ない」「人間は生きている間にそれを何度も繰り返すことが出来る」カメレオンの脳味噌は少しの間沈黙して、また話し始める、声のトーンが少し重いものになる、「進化から逃げちゃ駄目だ」「いまあんたの中にある確信はいまを生きるためのものに過ぎない」「それはいまが過ぎれば何の意味もないものになる、いや、本当にそうなるんだ」「生きるのに確信は必要ない」「必要なのは変化を受け止める姿勢だけだ」そしてカメレオンの脳味噌は突然欠伸をする「そろそろお別れのようだ」「あんたと話すことが出来て楽しかったよ」「変わった喰らいかたをしてくれてありがとう―あの世で自慢出来るよ」そうしてカメレオンの脳味噌はいなくなる―現実に戻った俺はどうしようもない吐気に気付く、流しに駆け寄って嘔吐する、長く、長く―細い、赤茶けた液体が蛇口から溢れる水に巻かれて排水口へと流れ落ちていく、それがようやく収まった時、俺は口を濯ぎ、排水口に向かって詫びる

「悪いな―流れちまった」









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2016/11/19

Blood on Blood  










血管が最も交差するポイントで血流は行きあぐねていた、わだかまるものたちが新しい言葉を産み落とす、すんなりと流れないものだけが真実だ、俺は疲弊して仰向けに寝転びながら…その真実だけを認識していた、そのまま眠りたいのかそれとも起き上がりたいのか判らぬままに時間だけがカーレースのように走り抜けていく、俺はまるでヘアピンカーブのそばで打ち捨てられた擦り切れたタイヤのように、そのすべての現象を受け入れている、コンディション―ただ横たわるものの内奥で蠢くものを果たしてそう呼べるならだが―自己の奥深くに潜む確信に近づこうとする行為になんてそんなものは関係がないのだ、肉体が日常の中で摩耗していようともまるで昨夜の夢を突然思い出すみたいに脳裏に触れるものはあるのだ、そんなことは出来ないと断言するのは、きっと生身を信じ過ぎるものたちだろう…停滞する血は溜まり、血管を膨れさせ、その収縮に乗せて強烈な勢いで発射される、それは脈拍をおかしくするかもしれない、だけど、それはまさしくいくつもの分岐点で声なき叫びをあげる俺そのものだ、俺は脈動によって綴っている、そんなメカニズムが理解されようはずもない、他人の脈拍のリアリズムなど誰に理解出来るだろう?ではなぜこうして言葉は生まれていくのだろう?簡単なことさ、それは、共感や、理解や、共有や、知的欲求のために存在するものではないのだ、理屈抜きでそれを受け入れることの出来る連中のためにこうした文脈が存在する―俺は血を言葉にする―いいかい、これは例えば、俺の手首を切り落とした時に流れる血液と同じリズムだ、俺が自らの首を描き切った時に溢れてくるものと―同じリズムだ、それが自分の書いたものであれ、あるいは他の誰かが書いたものであれ、俺が求めているのはそういうものだ、それはきっと俺だけの欲望ではないはずさ…睡魔はその妨げにはなりはしない、現に俺はいま自分が何を書いているのか正しく理解してはいない、だけどそれは進行される、それは俺の意思とは関係がないものであるからだ、だがしかし、ある意味でそれは俺そのものに違いない―物理的な意味以外で通過しない感覚だ、俺が俺の魂を呼び起こして行う自動書記だ、俺のみの降霊術―俺は指先を動かすことだけに専念して、そこから何が生まれるのかということを今この時知ることは出来ない、それは決して同時進行しない、いや、ある意味でそれは…深層心理ですでに知っていることを掘り出しているだけなのかもしれないが―俺が知りたいことはいつでも俺の奥底にある、それが果てしなく生まれてくるからこうしてキーボードに立ち向かう、俺は俺の首根っこを引っ掴んで晒しだそうとしているのだ、もっとも奥深いところに居る俺を引きずり出さなければならないのだ、こうして書き始めてから、俺はずっとそうしてきた、そしてこれからもそうし続けるだろう、それ以外にこうしている意味などないのだ、夜が深くなるにしたがって欲望は鎌首をもたげる、俺はそれに突き動かされて―おそらくは自分に自覚出来ない自分に操られて―最初の一文字を打ち込む、それが最後の一文字とそれほど離れていないならそれで正解だ、俺はおそらく正しく物事を進行させている…俺の血流の速度が見えるかい、俺の血流の温度が判るかい、俺の血管は瞬時に膨れ上がる、そうら、また新しい思考が生み出される、言葉はここにある、言葉はここにある、何も嘘はつかない、だけどこれが本当かどうかは俺にだって判らない、正直さと真実とは実はまるで性格の違うものだ、極度に絡み合ったラインが限界を超えたときに一本に見えるみたいに―知らない、知らない、何も知らない、自分の知らないことを語らなければ意味がない、俺の現実、理性、感覚―あるいは痛覚かもしれない―そんなものをすべて超えたなにかでなければ、こうして弾き出す意味などまるでないのだ、なあ、これは俺だけのものかい、それとも俺以外の誰かにも理解出来るものかい、それはちょっとしたお楽しみでもある、俺のためだけに描かれるものが、誰かのために存在する理由になることがある、そういうのって判るかい、それは不自由な肉体を越えた先にあるものだ、俺はそういう思いを幾度も経験してきたよ―俺にとってこの衝動はこの時だけのために存在するものだ、日付変更線が来る前に片づけてしまわないといけない、一度目を閉じたらきっとまるで違うものに変貌してしまうぜ、一息で書き上げるんだ、なぁ、あんたになら判るだろう、俺に血が流れているってことをさ―。









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2016/11/15

neighbors  














おれの素晴らしき我家の隣には狂人が住んでいて、朝から晩までこちらの暮らしに聞き耳を立てている、頭を掻く音、鼻を掻く音、耳を掻く音、歯を磨く音、すべての音に文句を言って、それでまともだと思っている、おれのパーソナルコンピューターの画面をどういうわけか覗いていて、おれが閲覧しているものに猥褻な要素があると当然のように文句を言う、覗いている自分のことはなんとも思わないらしい、便所に入れば糞小便の音に耳を澄ませ、屁の音が五月蠅いだの、パンツを穿きなおすときに肘が壁に当たる音が五月蠅いだのと文句を言う、そしてそれを正しいことだと思っている、覗いている自分のことはなんとも思わないらしい、こうしてワードに向かってなにかと打ち込んでいると、タイプ音が五月蠅いと文句をつける、そしてそれをまともなことだと思っている、小腹が空いてコーンフレークに牛乳をかけて食べていると、コーンフレークを噛む音が五月蠅いと文句を言う、そしてそれをまともなことだと思っている、食い終わった食器をシンクに置けばその音に文句をつける、水を流せば文句をつける、何かしら不具合があってなかなか火がつかない給湯器を操作していると文句を言う、皿を洗うと当然文句を言う、風呂に入ると椅子を出す音に文句を言う、いつまで身体を洗っているんだと文句を言う、そしてそれをまともなことだと思っている、とにかくそうしてひがな一日、こちらが何をやっているのかと耳を澄ましている、そしてそれをまともなことだと思っている、携帯電話の着信音に文句をつける、当然電話の内容にも耳を澄ましている、おれの家より倍は広い家に住んでおきながら、つねにこちらの壁の近くにいる、夜には布団を敷く音に文句を言い、寝返りでシーツが擦れる音に文句を言い、寝息に文句を言い、小さな音で流している音楽に文句を言い、そんなことを朝までやっている、いったい、いつ寝ているんだろう?部屋の引き戸の音に文句をつける、猫が階段を下りる音に文句をつける、そしてセックスに聞き耳を立てている、そしてそれをまともだと思っている、シャツを一枚脱いでスクワットをしているとオナニーをしていると勘違いをして文句を言う、ストレッチの時に使う携帯のタイマーの音にも文句を言う、要するにまともな人間のまともな暮らしのすべてに聞き耳を立て、すべてに文句をつける、そうしてそんなことをしている自分がすでにまともではないことに未だ気づいていない、おれの素晴らしき我家の隣には狂人が住んでいる、どういうわけか他人の生活に首を突っ込む権利があると思い込んでいる、もちろんそんな権利のある人間などこの世には存在しない、普通の会話に耳を澄まし、掃除機の音に耳を澄まし、爪切りの音に耳を澄まし、爪やすりの音に耳を澄まし、そば殻枕のジャリ音に耳を澄まし、胡坐の脚を組み直す音に文句をつける、スナックを食べる音に耳を澄まし、ゲームのコントローラーの音に文句をつける、そしてそれをまともなことだと思っている、覗きをしている自分のことは気にならないらしい、そうしておれはおれのディスプレイを覗いている狂人のために、そいつをネタにしてやろうと考えてこれを書いている、この世界には他人を巻き込むことでしか自己主張出来ない、そんな哀れな連中が溢れている、そうしておかしな主張を(なんの進歩も発展もない主張を)少ない言葉でだらだらと繰り返すうち、自分自身がどんどん疎かになる、もはや常識など何の役にも立たない、誰か余った凶器をくれ、そいつで適当に始末をつけてやる。










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