2018/1/28

そしてリビングには少しだけ埃が積りはじめている  





















欲望には名前がない、お前は、ガチガチに隆起した生臭い陰茎に幾重もの上等な理性の衣類をかぶせて、空咳みたいな微笑みを顔に張り付かせて表通りを闊歩している、慎重に計算された分だけ良く出来た嘘は真実より信じやすい、狡猾だと信じ切っているお前の手口は、巷の醜悪なファッション雑誌のバランスを欠いたコラージュみたいなクサレ○○○を釣り上げるには申し分のないシロモノさ、そう、キャンディを思う存分飲み込みたくて涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにしていたあの頃から、実際お前はなにひとつ進歩してはいないんだ、百科事典はどんなに頑張ったって枕にはなりっこない、夢の見方さえ満足に知らないままで、成りだけ大きくなっちまった、ご自慢のアイデンティティはすべて摘み食いで仕上がっただけのものさ、消化不良な生臭い本能が口を開くたびに漂ってくるぜ、気づいたことがないんだろ、お前のアドバンテージはいつだって、誰よりもエアコンのスイッチを入れるのが早いとか、そういった類のことばっかりさ、そんな小競り合いの数々で手に入れたトロフィーがそんなに誇らしいのか、リビングの飾り棚のいちばんおいしいところに、ピカピカに磨き上げて陳列したりなんかしちゃってさ、神棚よりも気を使ってるじゃないか、お前の信仰はきっと年端もいかないうちから、資本主義にカマ掘られてガバガバになっちまってるんだ、だからあっという間に排便が片付くんだな、いつでも若干詰まり気味の俺にはまったく羨ましい限りだよ、だからいつでもそんなに腹を減らしているんだな、なんでもいいからとにかく極限まで詰め込みたくてうずうずしてるくせに、浅ましいやつだと思われたくなくて、毎晩一流ホテルの展望レストランなんかに出かけていっちゃあ、運ばれてきた気取った盛り付けの料理を片っ端から吸い込んでいくんだ、味も判らないくせになるほどみたいな顔をしながら高い酒を飲んで、いかにも満足げな態度でクレジットカードを差し出すときには、軽いジョークなんか口にしちゃってさ、心配ないんだ、お前は知っているんだ、そういう場所では誰もお前の言うことを邪険になんかしないって、なあ、まるで、たいして腹も減ってないのに退屈しのぎに飯を食いに来たみたいだぜ、それで面子は保てたんだよな?さあ、それからどうする?外はもうすっかり暗くなっている、ネオンの下を進行する欲望の軍隊の中では、誰もお前のことなんかに注意を払ったりなんかしない、下らない女が伝線したストッキングを見せびらかしながら、時間幾らでお前を王様だと思わせてくれる店に入って、自分の名前も判らないほど前後不覚に陥って、気づいたときには窓のないホテルのじめついたベッドの上で、魔法が解け始めたシンデレラと大鼾をかいている、ああ、そのベッド、そのベッドには、不特定多数の絶頂がたっぷりと染み込んでいる、時計を見るともう午前様、女を起こしてシャワーを浴びて服を着て、嘘ばかりの個人情報を渡して腕を組んで部屋を出る、女を先にタクシーに乗せてやり、自分はどこかで捕まえて、妻と子供が待っている高級タワーマンションに帰ると、当然のごとく二人はもう眠っていて、軽い食事がキッチンのテーブルに並べられている、レンジにも入れずに素早くたいらげてシンクに置くと、その日することはもうなにもない、キッチンの明かりを落とし、洗面で歯を磨く、規則的なブラシの音を聞きながらこちらをじっと見ているうつろな目に気づくとき、お前は初めて少しだけ虚しい気分になる。


















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2018/1/17

本当に凝固しているもの  

















俺は、まるでスープの出汁に使う魚の頭みたいにぶつ切りにされたいくつもの見知らぬ人間の死体と一緒に穴の中で横たわっていた、前後の記憶や感覚はまったく失われていて、自分がどうしてそこにそうしているのか、まったくわからなかった、身体は金縛りにでもかかっているみたいに指先ひとつ動かせず、かといって折れているとか、なにかしらの損傷があるとか、そんなこともまったく感じられなかった、損傷―欠損のようなもの、それはおそらくないだろう、と俺は感じていた、どうしてそう思ったのかはわからない、ただ、これはおそらく身体的な原因にまつわるものではないだろうという妙な確信があった、穴は土の―おそらく山中の林の中に掘られたもののようだった、仰向けに寝ていた俺には無数の木々の枝が闇夜に伸びているのが見えたし、十人ほどが横並びに眠れそうな規模の長方形の穴の壁からは、湿気たにおいと飛び出した木の根が見えた、においといえばこれから運命を共にするのかもしれない無数の人間のぶつ切りからはまるでどんなにおいも感じられなかった、もしかするとそれはよく出来た加工品なのかもしれないと思えなくもなかったが、背中に感じる彼らの感触は明らかにそれが本物の死体であることを告げていた、俺より高いところにある死体がひとつもないことを考えると、俺は彼らの蓋のような役目を担っているらしかった、そんなことのすべては俺にまともなことを考えさせてはくれなかった、生贄や、呪いや、そんなものに似たまじないの―自分がそんなものの道具になってしまったのだという結論にしか至らなかった、いや、だがもしかしたらそれは、これがまったく無意味な、たとえば精神異常者が引き起こしたなんの意味もない快楽的なだけの衝動の結果だというような選択肢を見たくなかっただけのことかもしれない、ともかく俺はそうして、どこかの山中に掘られた穴の中に無数の死体と共に横たわっていた、動くものがなにもなく、土や空気のにおいしかなく、当然のように話しかけてくるものも居なかった、これはいったいどういうわけなのか?考えても仕方がないことはとうにわかっていた、この状況に置かれてから(もしくは置かれていることに気づいてから)、数時間が経過していた、考えても仕方がないことはとうにわかっていたのだ…不思議なのは、あっさりとその状況を受け入れている自分自身だった、諦めや絶望、そんなものとはまるで違っていた、食卓に並んだお任せの献立をただ口に運ぶように、俺はその状況を受け入れていた、日常的に、なんて表現は馬鹿げているだろうか?でも俺にはそんなふうにしか例えようがなかった―時々、死刑執行人が我知らず漏らすため息のような風が吹いて、木の枝とそれにまとわりついている木の葉がコソコソとなにごとか話していた、たぶん俺に関係があることではなかった、なにも状況が変わらないので俺はそう思った、これは夢だ、と考えてみようか?でもそう決めたところでなんになる?それはこの状況を変えることが出来るのか?まるでどんな意味もなかった、だからこれがなんであるかについては考えないことにした、関心ごとはたったひとつだった、すなわちこれからどうなるのかという部分、それだけが俺が知りたいことであり、おそらくは知るべきことだった、寝返りを打ちたかった、誰かの顎が腰のあたりの脊髄を圧迫していて煩わしかった、でもやはり身体はぴくりとも動かなかった、動かし方を忘れてしまっているようだった…どういうわけだか知らないが、酷い話だな、と俺は思い、それからなにかをしようと思うことを止めた、木々の枝の間からわずかに星が見えた、小学校のときに習った星座のことを思い出そうとしたが、なにひとつ思い出せなかった、それはずっと俺にとって不必要な事柄だったのだ―俺は星の名を知らない、とりあえず俺はそう結論づけた、それきり星にはどんな興味も抱くことはなかった、気温が冷えてきている気がした、それに伴って、土のにおいが強くなっている気がした、やがて雨が降り始めた、でもそれは普通の雨粒とは少し違っていた、血だ、と俺は思った、血が降っているのだ…どこかから―すべての空から降っているのではなかった、それは明らかに、どこかある一点から…ふいに、なにかが整合性を失くす音がして、オイルが流れるようにのんびりと、新しい死体が穴の中に流れ込んできた、それは死体と呼ぶに相応しいにおいと質感を持っていた、長袖のシャツとデニムというシンプルな服装は、俺が好んで着るものにも似ていた、そう、そいつは俺であり―俺は自嘲的に考えた、あまりにも予定調和に思えたからだ―おそらくは俺のベッドと化しているこのぶつ切りの連中も、きっと……夜が白く変わりはじめようとしていた、すべてのものが太陽の光に晒されるとき、俺はどんな結論を目にすることになるのだろう―?











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