2018/3/25

あの頃と同じように赤い  


















ほんのすこし長く
少年で居過ぎたのさ
膨大な時計の回転のなかで
上手くやるコツを見過ごしてしまった
高速鉄道の窓から見える景色に限りがあるように
自分の思うがままに走り過ぎたのさ
ごらんよ、手のひらのインクの汚れを
あたらしい仕事のために書きものをしていたんだろ
真夜中過ぎまで眠れなくなったのは
ほんとうはすべてのことを判ってるってことなのさ
青写真のほとんどを破り捨てざるを得なかったのに
今だって出来るつもりでいる
そして真夜中にワードを立ち上げている
おれはとても人目を引くよ
でもそれはだれも居ない廃屋の窓から差し込む光のような
空っぽで居続けているせいなんだ
明日と去年の違いが判らない、
そんな人生を
おれはこれからも生きようとしているんだ
そこにあるのは決して自分だけの世界ではないというのに
つけっぱなしのテレビで流れているのは盛大な宇宙戦争の映画さ
でもそんなものにはまるで興味を持っていない
いつからかそれはひとりごとのように画面だけを垂れ流している
その戦場ではだれも死んでいないことを
その映画を真剣に観ている連中よりはすこしだけよく知っている
おれの書いているものだってそれによく似ているからだ
おれの主人公は
レーザーガンをぶっ放したりはしないけれど
テレビを消して
めちゃくちゃな音楽を流す
ずっと悲鳴が響き続けているみたいな音楽さ
そうとも、おれの人生は
ずっとそんなようなものだったんだ
昔っから喋り過ぎるくせがあった
特典映像が本編よりも長い映画のDVDみたいに
綴った言葉よりも語った言葉のほうがずっと多かった
(もしかしたらそれは騙っていたのかもしれないね)
インスタントコーヒーを飲みたいと思ったけれどもう歯を磨いてしまった
だから苦々しいなにかを思い出そうとして
痴呆症の老人が障子を破るみたいにキーボードを鳴らしている
まだ買って数年あまりのそのノートパソコンのキーボードは
どういうわけか「A」のキーだけがほんのすこし浮いている
言葉はからになることがない
もう二十年以上こうして書き続けている
言葉はからになることがなかった
でもそこからなにかが生まれていくこともそんなにはなかった
友人が何人か出来たことは喜ばしいことだった
そいつらもみんな歳をとった
おそらくはみんな同じように、少年で居過ぎたようななりで
「大人になんかなるもんか」なんて、そんな歌が昔あったけれど
大人になれるやつはそんなことうたったりしないものさ
十代を塞ぎ込んだやつらは
ずっとそんな気分を持ち続けて生きるしかないものだ
おれは今そのことをとてもよく知っている
薄っぺらいヒットソングが夢を語っているのを
カナル型のヘッドホンを耳に突っ込んでよどんだ白目で歩いているやつらを横目で見ながら
おれはずっとそんな気分を持ち続けて生きてきた
変ったことと言えば音楽がデジタルデータになったことくらいさ
友人たちよ、おれはまだここに居る、ここに居て、悪あがきを続けている
もしもまだおれの声が届くところにいるなら
もしもおれの言っていることが理解出来るというのなら
きみのあたらしい言葉を
年老いた少年であるきみのあたらしい言葉を
果し状のようにおれに突きつけてはくれないか
案ずることはないよ、それは馴れ合いにはならない
おれたちはきっと大人になることなんかないからだ
道端で長々と天気の話をしたり
薄っぺらい政治批判をすることなんか一生ないからだ
おれたちはすべてをさらけ出して出会ったから
訳知り顔をしてみせる必要なんてどこにもないってことさ
ずっと悲鳴が響き続けているような音楽が好きなんだ
おれの人生も昔っからそんなようなものだったからさ















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2018/3/18

朝陽のあとで  


















路地裏の、闇雲に積み上げられたコカ・コーラのマークのケースの一番上の段からは内臓に疾患を抱えてそうな誰かの小便のにおいがした、睡魔で朦朧とした頭を手のひらの根元でがつがつと二度小突いて、ノーブランドの腕時計を確認すると午前二時だった、一昨日の雨のにおいが微かに感じられるのはろくに日が当たらないからなのか?そういう道を好んで歩いている俺もまた…あまりに八十年代的なセンスに苦笑しながら、そしてほんの少しだけ忌々しく思いながら、舗装されているはずなのに砂利道のような音を立てる路面を踏みしめていく、どこかのコンビニエンスストアの明かりが道の出口を急な斜角で照らして、そのあたりだけシネマティックな様相だ、「ブルックリン最終出口」でしょっちゅう出てきたあの景色さ、あれはあんまりいい映画じゃなかったけどな…だけど、もしかしたら小説よりもいい話ではあるかもな―表通りを吹き過ぎる風が夜明け前の湿度を運んでくる、この街のミストは俺にろくなことを思い出させはしない―飲み過ぎたのかって?いいや、信じてもらえないかもしれないけれど、酒なんかここしばらく一滴も飲んじゃいないんだ、こんな時間にこんなところを歩いている人間の中にも、素面なやつが居るってことだよ、覚えておいた方がいい、こんなリトル・ワールドにだって、想像のつかない出来事なんていうのはごまんとあるんだ…フランク・シナトラの古いナンバーをハミングしながら、つま先の少し先だけを眺めて歩いた、砂利のような音をさせていたのは、割れた瓶の欠片ってわけさ、判るだろう、午前二時に表を歩いていると目に入るのはそんなものばかりさ、もう少し早い時間なら、ギターを抱えて歌っている傷のない連中を目にすることだって出来るけどね…なあ、信じられるか?自分の人生にそんな過去があるってこと、十年前、二十年前…そんな昔が自分のなかにだってあるってことがさ―長いこと生きれば、そんなことには慣れると思っていた、でもそんなことはない、いつだって驚いてばかりさ、もしかしたら俺にはそれだけの時間を生きたっていう自覚がいつだって足りないのかもしれないね、妙に全速力のタクシーが走り去るのが見えた、あれはきっと早く帰りたいのだ、それとももしかしたら、幽霊でも見たのかな?いまやこの街じゃ幽霊なんて怖いものでもないけれどね…どいつもこいつも華やかなりしころの夢を見てぼんやり歩いているばかりなんだから―真昼間から幽霊だらけさ、ゾンビなんてそんなアグレッシブなもんじゃない、幽霊、浮遊霊ってやつさ、澱んだ目をしてフラフラしている幽霊だらけだぜ―そう、この俺はいまだになんにも成しとげちゃいないけれど、確かに歩いているという自負だけは持っているのさ、ただ毎日をなぞるだけの連中に比べればね…だけどそんな自負がなんになるって言うんだろう?俺はいつだってそんなふうに考えるんだ、そんな自負になんの意味があるんだろうって…当然、そんな疑問に答えなんかあるわけもない、答えなんかあるわけもないけれど、だけどね、そんなふうに考えるのは大事なことなんだ、そこには確かにその先があるからさ、確かにその先へ向かうなにかが隠れているからなんだ、答えを出すことなんかまるで重要なことなんかじゃないんだ、重要なことは、答えを求めようとする行為なのさ―その繰り返しが新しい道を歩くためのノウハウになるんだ、こんな路地裏じゃなくてね…いや、ことわっておきたいんだけども、こんな時間にこんなところを歩いているのはこの話とはまるで関係がないことなんだ、これはなんていうか、眠れぬ夜のただの時間潰しさ…知ってるかい、歩いた日と歩いていない日では、眠りの深さがまるで違うんだぜ、本当さ―歩いた日には、ユニバーサル映画なみの長編大作な夢だって見ることが出来る…と、ここで俺は表通りへと躍り出る、そう―ゾンビのようにね、アグレッシブに…突然表通りに出ると、自分が場違いな生きものになったような気分になる、ほんの少しの間だけどね、そういうのって、判る?俺はいつだってそういう気分で人生を歩いている、それはなんていうか、俺があまりこの街の現実ってやつをあんまり気にしていないせいなんだろうな、それが大事じゃないなんて言うつもりはないけれど、俺にはなんだかつまらなくってさ、おまけにこの田舎町じゃそういった現実をしつこいぐらいに押し付けてくるやつが必ず居て、俺はしょっちゅうウンザリしてしまう…俺はなんていうか、指針を人に貰うような人間じゃないんだよね、既存のお題目が無けりゃ口も開けない人間とはちょっと違うんだ…それが良いこととも悪いこととも俺は思わないけれどね、だってそうさ、人間にはそれぞれの役割ってもんがあるんだろうから…表通りに出てどうするのかって?家に帰るのかって?まだだ、まだだよ、まだ家に帰るには早いんだ、眠れずに歩き出したこんな夜には、街の外れで夜明けを見てから帰るのさ、そうさ、どんなささやかな夜にだってご褒美はほしいものじゃないか…?

















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2018/3/16

Fallin  










クラクションはたった一度だった
きみはそれ以上
もうどんな歌をうたうことも出来なかった
雨はうらみごとのように降り
夜は馬鹿みたいに目かくしをした

なにもかも手遅れの明けがたに
残されたナンバーに呼び出しをかける
「いまこの番号は誰も使用していない」と
抑揚のない声が繰り返して教えてくれた
時計を見てはじめて
寝床に入っていないことを思い出す

ソファーで見た短い夢の中身は
おぞましい模様の熱帯魚の水槽の中をゆっくりと沈んでいく
土の色をした餌をどこかから見つめているというものだった
エアーポンプの神経質な泡がひっきりなしに邪魔をして
しまいにはいらだって大きな声を出したけれど
それは妙に生体感のある膜に阻まれておがくずに吸い込まれるように消えた
眠りの五線譜の采配はいつだって出鱈目だ

(なのに不思議と忌々しい的には命中させてみせる)

ねえ晴れるって言ってた、たしかにあの夜は
日中夜間ともにおだやかな天気となるでしょうって
あれはなにかの冗談だったのか
それともきみの運命が強引に軌道を修正したのか
ターンアウトスイッチを切り替えるみたいに
嘘みたいに星が見える空のまま
スコールのようにひととき雨は降り続けた

インスタントコーヒーのカフェインなんか役に立たないし
ラジオで流れてるヒットチャートも耳たぶにぶつかってどこかへ行ってしまう
窓を開けて風を入れても
病み上がりみたいな疲労感に包まれただけだった
壁掛け時計は神経症の作家みたいに
送信局の電波とディスカッションを繰り返していた
正確な表示は安心を与えてくれるけれど

(針の音を聞きたいと思う瞬間だって一度ではなかった)

雑誌をめくったって読書のまねごとになるだけだし
散歩に出るような気分でもない
シャワーでも浴びれば少しはましかもしれないけれど
きみのことを裏切るような気がしてまだ動けない

どしゃぶりの雨の中で旅に出たきみは
びしょ濡れの駅に着くのだろうか
神様は白い太陽のイラストが描かれたこうもり傘を広げて
きみをしかるべきところへ案内するだろうか


なにも思いつかないときひとはたいてい水を飲んでみるものだ
そして喉を落ちていくそれは理不尽な運命のように感じられるだろう












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